遺伝子組換え

2013/04/04

「新しい植物育種の技術」について

「新しい植物育種の技術」とは"New plant Breeding Techniques"(NBT)の直訳で、言葉の通り作物(あるいは植物)の品種改良(育種)に取り入れられ始めた新しい技術のことを言います。

NBTとして用いられる技術の内容は概ね以下のようなものです。
  1. RNAウイルスベクターを利用した一過性発現(例えば、果樹の花を一年で咲かせる。DNAを持たないので核ゲノムには組み込まれない。)
  2. 人工ヌクレアーゼによるゲノムの編集(例えば、不良形質に関わる遺伝子の特異的除去。Zinc Finger NucleaseやTALE Nucleaseで核ゲノムを"編集"する。)
  3. ジーンターゲティング(例えば、 Oligonucleotide directed mutagenesis:ODMや部位特異的相同組換えなど、放射線育種に代わる位置特異的な突然変異の誘発)
  4. エピジェネティック変異の制御(例えば、 RNA dependent DNA methylation:RdDMなど不良形質に関わる遺伝子の発現抑制)
  5. 遺伝子組換え台木を利用した接ぎ木(例えば、台木に耐病性やセンチュウ耐性を持たせる)
  6. Reverse breeding(例えばF1品種後代のF2個体の配偶子から、減数分裂を制御して望ましいF2個体と同じヘテロ接合型の後代を再現できる遺伝子型を選抜する技術)
  7. Seed Production Technology(SPT)プロセス(詳細は、http://domon.air-nifty.com/dog_years_blues_/2011/07/f1--intermezzo-.html
  8. その他

どの技術も基本的にはそれぞれの研究領域で発展してきたものが、作物育種に応用され始めているというものです。ですから、NBTの"New"とは「作物育種の技術としては新顔」という意味合いです。(何時までも"New"を冠して呼ぶ訳にもいかないので、"ニューミュージック"のようにいずれ呼び方が変わるかもしれませんし、あるいは"ニューヨーク"や"新大阪"のように変わらないかもしれません。)

どの技術も基本的には遺伝子の構造あるいは機能を制御する技術ですが、これらを利用した場合でも、収穫物には(やり方によっては、外来遺伝子を導入できますが)遺伝子組換え技術に由来する外来の遺伝子や異種タンパク質が残らない点は、いわゆるGMOと呼ばれる遺伝子組換え作物とは異なります。つまり、農産物 の「製造プロセス」においては、遺伝子組換え技術を利用しますが、収穫される農産物「そのもの」は、遺伝子組換え作物ではなく、従来の農作物と変わらないようにできるということです。

これは、議論の構造について言えば、生産される農産物「そのもの」は従来の農作物と変わらないという点と、「製造プロセス」に注目している点において、慣行農法で栽培した作物と、化成品の農薬や肥料を使わずに栽培する有機農法で収穫した作物の関係と似ているかもしれません。

こうした作物・農産物を行政的にどう扱うべきか?EUや合衆国でも2007年ころから検討が始まっており、日本の食品安全委員会や厚生労働省の食品衛生分 科会新開発食品調査部会審議会でも議論が始まったところと聞いていますが、これは難問です。なぜならば、科学的には従来の作物・農産物と同じであるならば、食品衛生法やカルタヘナ法で組換え作物の安全性を審査する際の”物差し”である実質的同等性の考え方を持ち込むと、結論は常に「従来の作物と同等の安全性である」とならざるを得ないから。つまり、安全性の確保という観点では審査する意味がないのです。一方、有機JASのように生産プロセスベースで審査するべきかというと、その観点は食品衛生法やカルタヘナ法を運用してきた従来の行政的な枠組みには収まらないのでどうしたものか。

決まり文句のようで恐縮ですが「今後の議論の成り行きを注意深く見守りたい」と思います。


(NBTに関わるコミュニケーション)
(NBTに関連した日本語のレビュー)
(Reverse breedingに関わる論文)
(SPTに関する議論)「2013年1月21日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会議事録」

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2013/03/21

除草剤感受性イネ -あるいは転んでもただでは起きない研究者達-

 大抵の植物を枯らす非選択性除草剤を使える除草剤耐性の遺伝子組換え作物を除けば、特定の作物にはそれに適した除草剤の組合せがある。例えば、イネに使われる除草剤はイネ以外の除草剤を枯らすことができるが、「大抵のイネ」には作用しない。
 ここで、「大抵の」と書いたのは、希にイネ用の除草剤を散布すると枯れてしまう困ったイネがあるからだ。例えば、これ。

 

ポイント

  • 飼料用イネなど、新規需要米向けの水稲品種の中に、特定の除草剤成分に極めて弱いもののあることが分かりました。
  • 水稲品種「ハバタキ」「タカナリ」「モミロマン」「ミズホチカラ」「ルリアオバ」「おどろきもち」「兵庫牛若丸」を栽培するときには、ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオンのいずれかの成分を含む除草剤を使用しないよう十分注意してください。

 育成に使われたイネの遺伝資源の中に、「ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオン」といった除草剤に感受性の遺伝子をもったものがあって、その性質が後代に残ったためにこうした現象がおきるのだろう。品種と除草剤の組合せに注意すれば、間違ってイネを全部枯らしてしまうような不幸な事故には至らないとは思うが、できればこうした除草剤感受性はないに越したことはない。薬剤の方が品種よりあとで出来たのではあるけれど、育成の問題か、除草剤の開発の問題かはさておき、ある意味これは失敗である。

 しかし、その一方でこの現象に、これはこれで「使える!」と目をつけた研究者もいる。WIPOのサイトで次の情報を見つけることが出来た(なぜか私は国内特許の検索サイトでは上手く見つけられなかったのだけれど)。

 

(WO2012090950) PLANT HAVING IMPROVED RESISTIVITY OR SENSITIVITY TO 4-HPPD INHIBITOR
本発明は、4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性を植物に付与するための薬剤、4-HPPD阻害 剤に対する抵抗性又は感受性が高められた植物体を再生しうる形質転換植物細胞、その細胞から再生された植物体、並びにそれらの製造方法に関する。また本発 明は、植物における4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性を判定する方法、及び該判定を利用した4-HPPD阻害剤に対する抵抗性又は感受性が高め られた植物の育種方法に関する。

とある。

 読んでみると、上記の除草剤感受性の遺伝子を単離して、遺伝子組換えの際の選抜マーカーに利用する技術と、それを利用した植物に関する特許である。この特許明細では、上記の除草剤感受性、つまり4-HPPD阻害剤に対する耐性/感受性遺伝子はHIS1遺伝子と名付けられている。出願人の筆頭は上記のイネを育成した農研機構であり、発明者にはイネ育種研究分野のみなさんと稲遺伝子利用技術プロジェクトの皆さんが勢揃い。流石、転んでもただでは起きないというか・・・。

 この特許明細(特願2010-293451)自体が読んでいてとても面白いのだけれど、そのうち論文も出るのではないかと期待しましょう。

※ このOs06g0176700/Os06g0178500の変異は、インド型イネにはよくあるタイプらしいので、ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオンのいずれかの成分を含む除草剤は、他のインド型イネにも使わない方が良さそうだ。

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2011/07/11

遺伝子組換え技術を応用したF1の採種 -Intermezzo-

 育成者権の確保に関連した話題は一休み。今日はDuPontの開発した新しいF1品種の採種システムについて。

 F1品種の採種効率は種苗会社の収益を向上する上で非常に重要な問題であるばかりではなく、自殖種子の混入を避け製品の品質を維持する上でも重要である。

 Seed Production Technologyと呼ばれるこの新技術は、仕組みがちょっと入り組んでいるので、以下のPDFの参考資料を見て欲しい。

  1.  核支配の雄性不稔系統に遺伝子組換え技術で稔性回復遺伝子を導入。
  2.  同じ発現カセットに35S-DsRedと、花粉特異的に発現するデンプン粒移行ペプチド融合アミラーゼ発現カセットを持たせる。
  3.  この発現カセットを持つ花粉は不稔になる
  4.  この発現カセットを持たない配偶子同士の自殖個体は雄性不稔になる。→雌親
  5.  雌性配偶子由来でこの発現カセットを持つ自殖種子はヘテロ型になり、DsRedを発現するのでカラーソーターで機械的に分離できる。→ 維持系統

と言う具合に、導入遺伝子についてはヘテロ型を維持しながら、核遺伝子支配の雄性不稔雌親も安定に増殖できる技術である。この技術には、他にも特徴がある。つまり、

  • 遺伝子組換えの親植物に由来する子孫であるにもかかわらず、外来遺伝子を持たない非組み換え種子が生産できる。
  • 生産された種子は、外来遺伝子を持たないので、農家は種苗会社の特許技術の使用者にはならない。(シュマイザー事件の再来はない)
  • 生産された外来遺伝子を持たない非組換え種子は科学的・技術的にも遺伝子組換え技術を使用していないものと区別が付かないので、”原理的には”カルタヘナ法の規制対象にはならない。

という特徴がある。
 ただ、開発企業のDuPontとPioneer Hi-bredは、念のため食品安全性の評価を受けている。恐らく、事故などで親系統が混入した場合の製品回収リスクをヘッジするためだろう。

まだ実験段階ではあるが、各種の規制を着実にクリアしていることがわかる。誰だって、これまで訴訟になったり反対派団体から指摘されてきたような面倒な問題は、わざわざ起こしたくはないのである。種苗会社も例外ではなく、そういった問題を避けるような技術開発を行っているということだ。

# 企業は悪の秘密結社ではないのだよ。

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2011/01/26

”ラウンドアップ”は大豆の栽培に使えないのか?

 先日、遺伝子組換えダイズにまつわるエトセトラ2 #GMOj というエントリーに次のように書きました。

 これらの状況証拠と"食の安全情報blog"でも指摘されている、ラウンドアップなど非選択性除草剤がダイズの生育期用の除草剤として認可されていないことを勘案すると、私にはこれらの企業が日本の農業者を遺伝子組換えダイズの品種を売り込む市場と考えている可能性は、非常に低いとしか思えません。

 twitter等でいくつかご指摘をいただいたので、大豆と”ラウンドアップ”の関係について調べてみると色々なことがわかってきました。ついては、古い知識に基づいたこの記述についての訂正を兼ねて、大豆と”ラウンドアップ”の最近の関係について改めて述べようと思います。

 以下、要旨です、

  • 「グリホサート」を含む除草剤の有効成分には、グリホサートのイソプロピルアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩といったバリエーションがあり、適用場所に畑地を含まないものも製剤の種類は89種類に及ぶ(平成23年1月)。中には、ダイズの生育期間中に畦間処理で使用できるものが含まれる。
  • 製剤の名称に「ラウンドアップ」を含む除草剤のうち平成15年以降に登録された新しい製剤では、ダイズの生育期間中に畦間処理で使用できるものがある(ラウンドアップハイロード、ラウンドアップマックスロードなど)。
  • 製剤の名称が「ラウンドアップ」そのもの、あるいは「モンサントラウンドアップ」と言う除草剤では、ダイズの生育期間中の畦間処理は使用時期に含まれない。

 そう、製剤の名称に”ラウンドアップ”という言葉を含むものが複数あるので、どのラウンドアップの話なのかきちんと区別しないと混乱するばかりです。しかも、大豆の生育期間中に使用できるものと、使用できないものがあります。初期に登録された旧いタイプの無印”ラウンドアップ”が、大豆の生育期間中には使用できないという古い知識のままだと、色々誤解を生むことがありますので、「広い意味での”ラウンドアップ”は既に大豆の生育期間中に畦間処理できる」、と訂正させていただきます。

 その帰結として、”グリホサートがダイズに使用できない”と言う表現は適切ではなく、”「グリホサート」あるいは「ラウンドアップ」は日本ではダイズの生産に使用できないので、除草剤とセットでメリットを発揮する遺伝子組換え除草剤耐性ダイズを日本で栽培する意義は薄い。”という主張の根拠は、この点に限って言えば、今日では薄いと言わざるを得ません。

以下、誤解の発端とその後の調査について書きます。
-その発端は平成16年の衆議院での質問注意書-

Q. 遺伝子組み換え大豆(GM大豆)の生産に関する質問主意書

A. 平成十六年十二月七日受領 答弁第四〇号
別々のページに記載されていて読みにくいので、関連する部分をまとめると次の通りです。

Q1 現在登録のあるグリホサート系除草剤は、大豆への適用は可能だが、芽が出てから撒くと当然のことながら大豆も枯れるので、その使用時期は、播種前一〇 日以前とか播種後出芽前として、登録されている。米化学企業「モンサント」の開発した「ラウンドアップレディ大豆」は、同社開発のグリホサート系除草剤 「ラウンドアップ」でも枯れない遺伝子組み換え大豆である。この大豆を栽培する場合、大豆の発芽後、雑草が生えそろった時点で、「ラウンドアップ」を散布 することとなる。このような登録申請されていない内容での農薬使用は、農薬取締法(二〇〇三年三月改正)による農薬使用基準違反であり、使用者には懲役三年以下又は罰金三〇万円以下の罰則が科せられるものと考えるが、政府のご認識は如何

A1 農薬取締法(昭和二十三年法律第八十二号)第十二条第三項及び農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(平成十五年農林水産省・環境省令第五号)第二条第一項の規定により、農薬を使用する者は、同法に基づく登録に係る使用方法として表示される使用時期以外の時期に当該農薬を使用してはならないことと されており、同法第十二条第三項の規定に違反した場合には、同法第十七条の規定により、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされている。
※ 具体的事例についての使用基準や使用方法については言及していないので、個別案件についての回答にはなっていない。

Q2 除草剤耐性GM大豆の生産に必要となる農薬使用基準の登録内容の変更について、「ラウンドアップ」耐性GM大豆を一般圃場で栽培した場合の環境影響に関するモニタリング試験を行っている研究機関はあるか、否か。

A2 御指摘の遺伝子組換え大豆(以下「本遺伝子組換え大豆」という。)の栽培に使用される除草剤であるラウンドアップの使用方法に関する農薬取締法に基づく登録の内容の変更を目的とした試験は、現在は行われていないと承知している。

 結局、このやりとりでは平成16年の時点で「ラウンドアップ」がダイズの”雑草生育期:畦間処理”に使えたのかどうか今ひとつはっきりしませんでしたので、このまま、”ラウンドアップ”は「播種前一〇日以前とか播種後出芽前として、登録されている」のですね、と思い込んでいました。
 そこであらためて、農林水産消費安全技術センターの農薬登録情報提供システムで、名称に"ラウンドアップ"を含む製剤を調べてみました。

 該当製剤は10件ありました。
登録番号登録年月日有効期限農薬の種類農薬の名称用途申請社(者)名登録更新予定
昭和55年09月22日
平成25年09月21日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成8年03月26日
平成23年03月25日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成8年10月24日
平成23年10月23日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成10年03月09日
平成25年03月08日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成10年12月11日
平成25年12月10日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成15年02月12日
平成24年02月11日
除草剤
日本モンサント㈱
有効
平成15年02月12日
平成24年02月11日
除草剤
日本モンサント㈱
有効
平成18年09月06日
平成24年09月05日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成18年09月06日
平成24年09月05日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成22年08月04日
平成25年08月03日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
 このうち平成16年現在に使用されていた可能性があるものは、日産化学工業(株)のものが次の5種類、ラウンドアップ(第14360号)、ラウンドアップ除草スプレー(第19168号)、ラウンドアップドライ(第19351号)、ラウンドアップライトロード(第19928号)、ラウンドアップハイロード(第20109号)、日本モンサント(株)のものが次の2種類、モンサントラウンドアップ(第21013号)、モンサントラウンドアップハイロード(第21014号)。

 さらに、このうち畑にダイズが植えられている状態で適用できる除草剤を調べてみると、使用時期が収穫前日まで(畦間処理)(雑草生育期)とされているラウンドアップハイロード第20109号)とモンサントラウンドアップハイロード第21014号)のみ。従って、前述の質問注意書で平成16年時点でダイズに使われていた「ラウンドアップ」がこれらの製品であって、処理方法が畦間処理であり、その他の使用条件も守られていたのであれば特に問題はなかったと考えられます。

 また、平成18年以降に登録された新タイプのラウンドアップマックスロードは「収穫前日まで(畦間処理)(雑草生育期)」の条件で大豆に使用できます。
 次に、「ラウンドアップ」の有効成分はグリホサートであることが知られていますが、これも成分を見るとイソプロピルアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩といったバリエーションがります。そこで有効成分の方から製剤を見ると、グリホサートを含む製剤は様々な会社から89種類が登録されています。つまり、”「ラウンドアップ」が成育中のダイズの除草に使用できるか?”という問題に対しては、たかだか10種類の製剤について調べれば済むことだけれど、”有効成分「グリホサート」が成育中のダイズの除草に使用できるか?”という問題になると網羅的に調べる手間が全然違います。仕事でもなければそんなことはしたくないし、私も休日は有意義に過ごしたいので止めておきます。取りあえずここまででわかった範囲では、”「グリホサート」を有効成分とする除草剤の中には、成育中のダイズに畦間処理で使用できる製剤がある。ただし、それらには”ラウンドアップ”と”モンサントラウンドアップ”は含まれていない”と言えます。

 つまり、”ラウンドアップ”が生育期の大豆に使えるか?という問題では、その”ラウンドアップ”の意味する範囲によって法的に問題なく使用できたりできなかったり、ということになります。また、”グリホサートがダイズに使用できない”と言う表現は適切ではなく、”「グリホサート」あるいは「ラウンドアップ」は日本ではダイズの生産に使用できないので、除草剤とセットでメリットを発揮する遺伝子組換え除草剤耐性ダイズを日本で栽培する意義は薄い。”という主張は今日では根拠が薄いと言わざるを得ません。

 最近は、ブームスプレーヤーの性能も良くなってきているので、そのうち近隣の畑へのドリフトを抑えつつ大豆の生育時期に非選択性除草剤を使うことができるようになるのかもしれません。

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2011/01/18

遺伝子組換えダイズにまつわるエトセトラ2 #GMOj

 "食の安全情報blog"の"遺伝子組換えダイズのパブリックコメントへ意見を出す前に"というエントリーに次のような記述があります。

輸入された遺伝子組換え大豆は国内で栽培されるか?

 話は変わって、それでは認可された遺伝子組換え大豆は国内で栽培されるのか?ということになると、そういうわけではありません。一般ほ場での認可をとってしまえば、カルタヘナ法上は栽培可能ですが、各都道府県が条例や指針によって遺伝子組換え作物の栽培を制限しているケースがあります。そういう場合には栽培できません。また、非常に重要なことなのですが、国内で大豆を栽培する際にグリホサートなどの除草剤を使用することはできません。除草剤耐性の遺伝子組換え大豆は除草剤とセットでなければそのメリットが生かせません。それなのにわざわざ割高な種を国内の農家が買うでしょうか?また、売れもしないものを種苗会社が売るでしょうか?

 また、先ほど確認したように国内の農地は世界的に見ると猫の額ほどの広さしかありません。仮に遺伝子組換え作物が栽培できるとしても日本は栽培用の種の市場としては魅力がありません。しかし、穀物の市場としては魅力的な国です。ですから、きちんと手続きをとって遺伝子組換え作物を輸入してもらおうとしているのです。

※ boldは筆者。

 これは少し見方を変えると、「モンサント、バイエル・クロップサイエンス、BASF、シンジェンタなど、除草剤耐性ダイズを開発している海外の企業は、除草剤耐性ダイズの種子を日本で販売する気があるのだろうか?」という問いになるでしょう。

 日本では、シダやキノコを含む農林水産植物の種苗には、種苗法という法律で"育成者権"という知的財産権が設定されています。法律の主な目的は、育成者が種苗を開発する際の投資を回収させ農業を振興することにあります。

 種苗法やそれに類する法律は多くの国にあって、国際的には”植物の新品種の保護に関する国際条約”(UPOV条約)という条約の下に、植物新品種保護国際同盟(UPOV)という国際機関が設けられ、加盟国(同盟国)は一定のルールの下で、相互に他の同盟国で開発された新品種についての育成者権を保護するようになっています。現在、68カ国が加盟しており、日本やアメリカも1991年にこの条約に加盟しています。

 UPOV条約では、加盟国Aの国民あるいは法人は、他の加盟国Bにおいても、そのB国の国民と同様に育成者権を保護されます。ただし、A国で品種が当局に登録され、育成者権が保護される状況であっても、B国で自動的にその権利が保障される訳ではなく、育成者はB国でも品種を当局に登録をしなければなりません。

 この仕組みは特許権や著作権の保護の仕組みと似ていて、育成者は発明家や作家、作曲家と同じように、生活のための”業”として行った創意工夫の努力が報われるようになっています。

 さて、ここまでが長い前置きです。日本では国内で種苗法で保護されている品種はデータベースに登録され、誰が開発した品種が登録されているか、誰でも調べられるようになっています。もし、モンサント、バイエル・クロップサイエンス、BASF、シンジェンタなどの外国の企業が日本で除草剤耐性ダイズを種苗として販売するつもりがあるのであれば、大抵は、品種登録をするはずです。

 品種登録を調べることのできるデータベースは、農林水産省生産局知的財産課が運用しています。リンク先はこちら(品種登録データ検索をクリック)

 このデータベースで、品種登録のボタンをチェックして、例えば”農林水産植物の種類”に”大豆”(漢字で!)を入力すると141品種(2011/01/18現在)が登録され、育成者(育成者権者)が誰かも一覧表として表示されます。

 今のところ、モンサント、バイエル・クロップサイエンス、BASF、シンジェンタはダイズの品種を登録していません。だからと言って、今後ともこれらの会社が遺伝子組換えダイズの品種登録をしない、という根拠には必ずしもならないのですが、もう一つ知っていていただきたいことがあります。

 それは、日本モンサントが第1世代のグリホサート耐性大豆 40-3-2系統の栽培・輸入許可を取得した時期です。現在、遺伝子組換え生物の使用を規制しているカルタヘナ法は2004年の施行ですが、40-3-2系統の栽培・輸入許可はそれ以前の1996年、今から15年も前です(参考、日本モンサント)。以来、モンサントは、2005年、2008年にカルタヘナ法に基づくダイズの栽培・輸入の許可を取得していますが、品種登録はしていません

 これらの状況証拠と"食の安全情報blog"でも指摘されている、ラウンドアップなど非選択性除草剤がダイズの生育期用の除草剤(注)として認可されていないことを勘案すると(注2)、私にはこれらの企業が日本の農業者を遺伝子組換えダイズの品種を売り込む市場と考えている可能性は、非常に低いとしか思えません。

 一方、種苗法による育成者権の確保とは別に、モンサントがアメリカやカナダで一部の農家に対して行っているように、導入した遺伝子の権利を特許法で確保する方法もあることはありますが、そのためにはそれなりの組織も必要になり、コストがかさみます。人件費が高く、耕地面積の小さな日本で、そこまでして種子を売り込む意味が果たしてあるのでしょうか。

 私は、頭書の問いに対するクリアカットな答えは出せませんが、皆さんはどう思いますか?

(注) グリホサートは比較的分解が早いので、ダイズの播種前、播種後の除草剤としては認可されています。ただし、生育期には・・・ラウンドアップ耐性ダイズでなければ枯れちゃいますので、この用途には登録されていません。

(注2) 平成16年時点での国会での質問注意書がこちらにあります。回答はこちら。では、現在ダイズの生育期間にグリホサートが全く使えないのかというとさんご指摘のように「収穫前日まで(雑草生育期:畦間処理)」という処理方法であれば使えます。この辺の記述を整理・改訂します。

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2011/01/13

遺伝子組換えダイズにまつわるエトセトラ #GMOj

 今日は2011年の一発目のエントリーは、”iBOLとAPG IIIの微妙な距離感”にしたかったのだけれど、残念ながら生臭い話題になってしまった。

 1/22までの間、農水省がカルタヘナ法に基づく遺伝子組換えダイズの第一種使用等承認申請について、いつものようにパブコメを行っている。これについて、PARCというNPO法人が一種の反対キャンペーンを行っている(リンク先はこちら)。

 世の中には色々な主義主張がある。何にでも反対意見があるのは健全なことなので、それはそれで結構なのだ。

 けれども、今回意見募集の対象となっている生物多様性影響評価書の内容についての情報はこのNPOからは一切提供されていないし、このNPOの用意した、意見を書き込むフォームのあるページからは、農水省が情報を提供している意見募集のページ(こちら)へリンクされてはいるが、その先の資料を読まないときちんとコメントできないところまではなかなかわからない。これでは、意見募集がされている特定の遺伝子組換え作物についての十分な情報を持たない一般市民が、なにがしかの意見を言おうとしても、その前提となる判断に必要な情報にたどり着けないのではないか。

 その結果が、こちらの書き込まれた意見のページに見られるように、案の定、特定の対象に対する意見募集に対しては全くピントのはずれた意見になってしまっている。意見募集の関係資料についてどう考えるかを問われているのに、それを見せずに意見を言えというのだから無理もない。
# これはパブコメを試験に例えれば、試験問題を見せずに回答を迫るのに等しい。

 基本的にパブコメという手続きは「特定の案件」についての国民の意見を募る行政手続きである。従って、意見募集の対象は常に限定されており、そこから外れたトピックについての意見は検討の対象にはならない。
 従って、困ったことに、このNPO法人の用意したフォーム越しでは、行政の意図した意見募集の前提となる関連資料にはなかなか辿り着くことができないので、通常、パブコメで官庁のホームページから意見を寄せる際に普通に行うように、「資料を見てから判断する」というあたりまえのことができないようになっている。

 私は、このフォームから意見を寄せようという市民は、真面目に物事を考え、意見を述べようという気概のある方々であると思う。そういう市民から、的確な判断を行うための情報を得る機会を奪い、あまつさえ意見募集の状況をミスリードさせて、折角の意見を無駄にしてしまうこのNPOのやり方には怒りを感じる。
 これが不注意ならば、既に意見を寄せた方に情報不足をお詫びするべきであるだろうし、意図的であるならば、市民を巻き添えにする悪質な手口とも考えられなくもなく、応募件数が非常に多くなれば、一般市民に威力業務妨害の片棒を担がせることになるのかも知れない。

 仕事の合間にダイズの生産と消費の年次変動と、日本と遺伝子組換えダイズとの関係について、パワーポイントで作った資料の一部をPDFにしたのでこちらに置いておこう。これは私の休日労働の所産です。フルセットになるとストーリーがあるのだけれど、それは勤務時間に作った資料なので公開できません。あしからず。

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2010/11/10

名古屋・クアラルンプール補足議定書で何が決められたのか?

 2ヶ月もblogの更新を中断してしまいました。その間あった出来事を思い起こせば、・・・いや、色々なことどもが脳裏をよぎりますが思い出したくないので止めておきましょう。

 さて、先月は生物多様性条約(CBD)の第10回締約国会議(COP10)が2010年10月18日(月曜日)~29日(金曜日)の日程で、愛知県名古屋市にて開催され、179の締約国、関連国際機関、NGO等から13,000人以上が参加しました。
 それに先だって、10月11日から15日まで「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」第5回締約国会議(COP-MOP5)が開催されました。商売柄、こちらの方に関心があるのですが、国際会議開催前・開催中のマスコミや市民団体のお祭り騒ぎは一体何だったのかと思わせるほど、会議が終わったらほとんど何の音沙汰もなし。この種の国際会議で一番肝心なのは「何が決まったのか」なんですけどね。と思っていたら、MOP5のサマリーが農業環境技術研究所のホームページで公開されたので、興味がある方はまずそちらをどうぞ。会議の結果と残された課題分かりやすくサマライズされています。

 とはいえ、議定書の詳しい内容はオリジナルの文章を良く読まないと分からないものだし、外務省版の名古屋・クアラルンプール議定書の仮訳が公表されるまでにはもう少し時間がかかりそう。ということで、私家版の翻訳をしてみました。外交文書特有の言い回しやら、多義的な解釈を許す書きぶりなど、論文の英語とは随分と違う言葉なので誤訳もあろうけれども、それでも何かの参考にはなるかもしれませんので以下に置いておきます。なお、英文のオリジナルはこちらです。

UNEP/CBD/BS/COP-MOP/5/11 11 October 2010 より

Nagoya-Kuala Lumpur議定書への道のり

1. COP-MOP20042月にマレーシアのクアラルンプールでカルタヘナ議定書27条専門家によるワーキンググループを発足させた。ワーキンググループの報告書は2008年ドイツのボンで開催されたMOP4に報告された。

2. 報告を見直した結果、"責任と救済"に関する国際規則作りの更なる合意形成のための権限を持つ共同議長国フレンズ会合を設立することが決定された。

3. 共同議長国フレンズ会合は20092月(メキシコシティー)から201010月(名古屋)まで5回開催された。

4. この文書は"責任と救済"に関する共同議長国フレンズ会合の最終報告書である。

5. 1回会合では、 "COP-MOP4BS-IV/12の付属文書に含まれる作業文書に基づいて責任と救済についての国際規則と手続きについて協議した。グループは、最終的な決定は、議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議によって行われることを理解した上で、補足議定書の形で法的拘束力のある文書に向けて努力することで合意した。

6. 2回会合の結論として、グループは事務局長にCDB28条の3に則り、COP-MOP56ヶ月前に提案された補足議定書の文章を加盟国に連絡することを要求した。従って、201046日に発行された通知によって、提案された補足議定書の文書案を議定書の締約国に伝えた。

7. グループはまた、未解決の問題を完成させるために、さらに会議を持つことで合意した。従って、第三回会合においては、引き続き責任と救済に関する補足議定書の草案について交渉を継続した。グループは、第二回会合の最後にグループの要求にしたがって共同議長が作成した民事責任のガイドライン案を検討した。民事責任のガイドライン原案の連結テキストには、グループとオブザーバーによるコメントや提案が取り入れられた。第三回会合の終わりにグループは、今後の交渉を必要とする未解決の問題があることに気づいた。

議定書の締約国の第5回会合の決定書草案を含むこれらの未解決の問題に取り組むため、締約国の第5回会合の直前に第4回会議を開催することで合意した。

8. グループの4番目と最後の会議は名古屋でのCOP-MOP5直前に開催された。グループは首尾良く交渉に合意した。それは、決定BS-IV/12のパラグラフ1(h)に一致して、必要に応じてこの報告書に附属するカルタヘナ議定書の責任と救済に関する補足議定書のテキストを検討のためにCOP-MOP5に提出することに合意した。結論としてグループはCOP-MOP5で以下のことを推奨する。

(i) 補足議定書原案の採択。

(ii) COP-MOP5期間中に補足議定書の文章の法的整合性、正確性を国連の6公用言語について調査する法的起草グループの可能な限り速やかな設立。

(iii) 現行の議題の下の第5回会合の報告に次の文章を加えること:

補足議定書の交渉の過程でカルタヘナ議定書加盟国による改変された生物由来の加工品への議定書第27条の適用について、異なる理解をしている問題が明らかになった。一つの理解によれば、加盟国は損害と、問題となっている改変された生物との因果関係を確立できれば、そのような加工製品によって引き起こされた損害に補足議定書を適用出来るかもしれない。

9. 責任と救済に関する共同議長国フレンズ会合の各会議の報告書の全文は以下のリンクから事務局のWebサイトからアクセスすることができる:

1回会合: http://www.cbd.int/doc/?meeting=BSGFLR-01

2回会合: http://www.cbd.int/doc/?meeting=BSGFLR-02

3回会合: http://www.cbd.int/doc/?meeting=BSGFLR-03

4回会合: http://www.cbd.int/doc/?meeting=BSGFLR-04

---

付属書

A. バイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書の責任と救済に関する名古屋-クアラルンプール補足議定書(UNEP/CBD/BS/COP-MOP/5/11, Page 5より) 

第1条 目的

この補足議定書は、改変された生物に関連する責任と救済の分野で国際的な規則や手順を提供することにより、人間の健康へのリスクも考慮に入れた生物多様性の保全と持続可能な利用に寄与することを目的とする。

2条 用語

1. 条約第2条及び議定書の第3条で使用される用語は、この補足議定書にも適用される。

2. それに加えて、この補足議定書の目的のために、

(a) 「議定書締約国の会合としての役割を果たす締約国会議」(“Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Protocol”、COP-MOPのこと)とは、バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の締約国の会合としての役割を果たす生物の多様性に関する条約の締約国会議を意味する。

(b) 「条約」とは、生物多様性に関する条約(CBD)を意味する。

(c) 「損害」とは、人間の健康へのリスクも考慮した上での、生物多様性の保全と持続可能な利用に及ぼす悪影響を意味し、

(i) 権限のある当局によって認められた科学的に確立され、どこでも利用可能な、他の人為的変化と自然変動を勘案したベースラインを考慮に入れた上で、測定可能なあるいは認識可能なものを指す。

(ii) 以下のパラグラフ3に規定する重大なものを指す。

(d) 「オペレーター」とは、改変された生物を直接的または間接的なコントロールする任意の者をいう。それは、必要に応じて国内法によって規定され、とりわけ、許可を得た者、改変された生物を上市した者、開発者、生産者、通知した者、輸出業者、輸入業者、運送事業者又は供給者を指す。

(e) 「議定書」とは生物多様性条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書を指す。

(f) 「対応措置」とは、次の合理的な対応を指す。

(i) 必要に応じた、損害の防止、最小化、封じ込め、緩和あるいは損害の予防 註) "fear"を排除した妥協点だと思うが、これは実に微妙

(ii) 次の優先順位で実施されるべき活動を通じた生物多様性の復元

a. 損害の発生の以前に存在していた状態までの生物多様性の回復、あるいは権限のある当局が、それが不可能であると判断した場合は、ほぼ相当する生物多様性の回復。

b. 利用形態が同じかあるいは異なるタイプの生物多様性の要素によって、損害の生じた同じ場所か必要に応じて別の場所、あるいは両方同時に行う生物多様性の損失の代替による回復。

3. 「重大」な悪影響とは、次のような、要因に基づいて決定される

(a) 合理的な期間内に自然な回復によって是正されないであろう変化と理解される、長期的または永続的な変化

(b) 生物多様性の構成要素に悪影響を与える質的または量的変化の程度

(c) 商品やサービスの提供する生物多様性構成要素の能力の減少

(d) 議定書の文脈における人間の健康への何らかの悪影響の程度

 

3条 適用範囲

1. この補足議定書は、その起源が国境を越える移動に見られる遺伝子組換え生物等による損害に適用される。ここで言う遺伝子組換え生物等とは以下のものである:

(a) 食品や飼料として直接使用する目的のもの、または加工するためのもの;

(b) 封じ込め利用を意図したもの;

(c) 環境への意図的な導入を意図したもの

2. 意図的な国境を越える移動に関しては、この補足議定書は、上記第1項に掲げる遺伝子組換え生物等のあらゆる認可された使用に起因する損害に適用される。

3. この補足議定書はまた第17条に掲げる非意図的な国境を越える移動から生じる損害はもとより、議定書の第25条に規定する非合法な国境を越える移動に起因する損害にも適用される。

4. この補足議定書は、締約国の国内管轄権の範囲内の領域で発生した損害に適用される。

5. 締約国は、自国の管轄の範囲内で発生する損害に対処するために、国内法で定められた基準を使用することができる。

6. この補足議定書を実施する国内法は、非締約国からの遺伝子組換え生物等の国境を越える移動から生じる損害にも準用される。

7. この補足議定書は、この補足議定書の発効後に、遺伝子組換え生物等の締約国の国境を越える移動から生じる損害に適用される。

 

4条 因果関係

因果関係は、国内法に一致するよう、損害と問題となっている改変された生物の間で確立されなければならない。

 

5条 対応措置

1. 締約国は損害発生時に、適切なオペレーター(単数あるいは複数)に対し権限のある当局の次に示すあらゆる指示に従うよう要求できる。

(a) 権限のある当局への速やかな報告

(b) 損害の評価

(c) 適切な応答措置をとること

2. 権限のある当局は、

(a) 損害を与えたオペレーターを特定する

(b) 損害を評価しオペレーターが執るべき対応措置を決定する

3. 利用可能な科学的情報あるいはバイオセイフティ・クリアリングハウスで入手可能な情報を含む適切な情報が、もし時期を得た対応措置がとられない場合に損害が発生する十分な可能性があることを示している場合、オペレーターはそのような損害を避けるための適切な対応措置を執るよう要求されるものとする。

4. 権限のある当局は、オペレーターが失敗したときを含む特定の場合に、適切な対応措置を実施することができる。

5. 権限のある当局は、損害の評価と適切な対応措置の実施にかかわる費用をオペレーターから徴収する権利を持つ。締約国は国内法において、他の状況ではオペレーターが費用および経費を請求されない可能性のある場合を定めることができる。

6. オペレーターに対応措置を要求する権限のある当局の決定は説明されなければならない。このような決定は、オペレーターに通告する必要がある。国内法は、管理者または司法審査によるこのような決定の検討の機会を含む救済を提供しなければならない。

7. この条項を実施するに当たって、権限のある当局に要求されるか執られる特定の対応措置を定義する観点から、締約国は必要に応じて民事責任についての国内法で解決できるかどうかを評価することができる。

8. 対応措置は、国内法に基づいて実施されなければならない。

 

6 免責

1. 締約国は国内法によって、次の免責を設定することができる:

(a) 不可抗力

(b) 戦争や内乱

2. 締約国は、適当と判断されるならば、他の免除または緩和を国内法で設定することができる。

 

7 時間的制限

締約国は国内法で、以下を設定することができる:

(a) 対応措置に関連する行動の相対的および/または絶対的時間制限、及び

(b) 時間制限の適用される期間の開始時間

 

8 金銭的制限

締約国は、対応措置に関連する回復のためのコストや経費の責任限度額は、国内法で設定することができる。

 

9 請求権

この補足議定書は、オペレーターが他者に対して持つ可能性のある損害賠償の請求権を制限するものではない。

 

10 財務保証

1. 締約国は、国内法で財務保証を提供する権利を保持する。

2. 締約国は、議定書の序文の最後の第3項を考慮して、国際法の下での権利と義務に一致した方法で第1項で言及した権利を行使するべきである。

3. 補足議定書が発効した後、最初に開かれる議定書の締約国会合は、とりわけ以下の問題に取り組む包括的研究を行うよう事務局に求める:

(a) 財務保証メカニズムの様態;

(b) 特に開発途上国に対するそのような仕組みによる環境的、経済的、社会的インパクトの評価、および

(c) 財務保証を提供する適切な機関の特定

 

11 国際違法行為に対する国家責任

国際違法行為に対する国家責任については一般的な国際法の規則の下にあり、国の権利と義務にはこの補足議定書は影響しないものとする。

 

12 遂行と民事責任との関係

1. 締約国は、その損害に対処する規則と手続きに対する国内法を規定する。この義務を遂行するために、締約国はこの補足議定書に従って対応措置を定めなければならない。必要に応じて次のような可能性がある:

(a) 既存の国内法を適用する。該当する場合は民事責任の一般的な規則と手順を含む;

(b) 特別にこの目的のために、具体的に民事責任規則と手順を適用するか作成する。

(c) その両方の組合せを適用するか作成する。

 

2. 締約国は第2条第2(c) で定義されるような物的または人的な損害について、民事責任に関する国内法の適切な規則や手順を整備する目的で以下のことを行う:

(a) 民事責任について既存の一般的な法律の適用を継続する。

(b) その目的のために具体的に民事責任法の適用を継続するか、または新たに作成して適用する

(c) 新たな作成と適用の継続をするか、またはその両方の組み合わせを適用する

 

3. 締約国は上記第1項または第2(b),(c)で言及されるような民事責任法を作成する場合、必要に応じてとりわけ以下の要素に対処する。:

(a) 損害;

(b) 厳格責任あるいは過失責任に基づく責任の基準

(c) 適切な場合の責任の交絡

(d) 提訴権

 

13 評価と見直し

この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この議定書の効力発生の五年後に及びその後は少なくとも五年ごとに、この議定書の有効性についての評価を行う。締約国はこのような評価に必要な情報を提供する。その見直しは、この補足議定書の締約国によって決定される場合を除いてカルタヘナ議定書第35条に基づく評価と見直しの文脈で行われる。最初の見直しは、第10条と第12条の有効性の評価を含む。

14 この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議

1. 生物多様性条約第322項に従い、議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この補足議定書の締約国の会合としての役割を果たす。

2. 議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この補足議定書の実施状況を定期的に見直さなければならない。議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、その権限の範囲内でその効果的な実施の促進に必要な決定を行う。議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この補足議定書とカルタヘナ議定書第29条パラグラフ4(a)(f)の準用によって与えられる任務を遂行する。 

15条 事務局

 条約第24条の規定によって設置された事務局は、この補足議定書の事務局としての役割を果たす。

16条 条約及び議定書との関係

1. この補足議定書は、カルタヘナ議定書を補完するものであって、変更も改正もしない。

2. この補足議定書は、生物多様性条約とカルタヘナ議定書の下でのこの補足議定書の締約国の権利と義務に影響を及ぼさないものとする。

3. この補足議定書で提供される場合を除き、生物多様性条約とカルタヘナ議定書の規定がこの補足議定書に準用される。

4. 上記第3項の適用を妨げることなく、この補足議定書は国際法の下で締約国の権利と義務に影響するとは見なさない。

 

17 署名

この補足議定書は201137日から201236日までニューヨークの国連本部で議定書の締約国にる署名のために開放しておく。

18 効力発生

1. この補足議定書は、カルタヘナ議定書を締約した、国及び地域的な経済統合のための機関による40番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の日の90日目の日に効力を生ずる。

2. この補足議定書はカルタヘナ規定書を批准し、受諾し若しくは承認した、あるいは上記の第1項に定める条件が満たされた際に加盟する批准国及び地域的な経済統合のための機関に対し、国及び地域的な経済統合のための機関が批准書、受諾書、承認書若しくは加入書を寄託した日の90日後、あるいはその国及び地域的な経済統合のための機関のために議定書が発効した日のいずれか遅い日に効力を生ずる。(※ 議定書発効後に批准した国に対しては、その国の批准後に有効になるということ)

3. 地域的な経済統合のための機関によって寄託される文書は、1及び2の規定の適用上、当該機関の構成国によって寄託されたものに追加して数えてはならない

19条 留保

この補足議定書には、いかなる留保も付することができない。

20条 脱退

1.補足議定書が締約国に対して効力を生じた二年を経過した後いつでも、締約国は寄託者に対して書面による通告を行うことにより、この補足議定書から脱退することができる。

2. 1の脱退は、寄託者が脱退の通告を受領した日の後一年を経過した日又はそれよりも遅い日であって脱退の通告において指定される日に効力を生ずる。

3.議定書の第39条に基づいて議定書から脱退する加盟国もこの補足議定書から脱退したものとみなす。

21 正文

アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの議定書の原本は、国際連合事務総長に寄託する。

以上の証拠として、署名者は、正当に委任を受けてこの補足議定書に署名した。 

20101015日に名古屋で作成した。

 この補足議定書の親議定書にあたるカルタヘナ議定書もそうなのですが、国際条約に実効性を持たせるものは締約国の国内法です。主権国家がその責任において強制力を持たせない限り、条約はただのの言葉の羅列に過ぎません。この度、補足議定書が成立したことは確かに一歩前進なのですが、この議定書で担保する損害賠償をうけるためには、当事国の政府当局はLMOと損害との間に、国際的にも通用する水準の科学的な評価に従って因果関係が成立することを示せなくてはいけません。
 親議定書であるカルタヘナ議定書の定めるLMOの輸入手続きに従うのであれば、当事国の政府当局はまずLMOのリスク評価を行い、政府の責任において特段の危険性はないと判断した場合に輸入を許可する仕組みになっています。その際の科学的リスク評価がきちんと機能するのであれば、そもそも生物多様性への損害はそう簡単に生じるわけはなく、逆に政府当局がきちんとリスク評価が出来ない状態であれば、LMOと損害との間に科学的な評価に従って因果関係を成立させることも非常に難しいでしょう。
 そう言う意味では、この議定書の先に広がる未来は極めて混沌としたものにならざるを得ないでしょう。

 久しぶりに書いたらもの凄く長いエントリーになってしまった。

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2010/06/21

可動的生態系としてのヒト

以前、ヒトの体表の細菌叢には性差があるらしいと言うエントリーを書いた際に論文を紹介し損なっていたので改めて紹介します。

Noah Fierer et al., “The influence of sex, handedness, and washing on the diversity of hand surface bacteria,” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105, no. 46 (November 18, 2008): 17994-17999.   

 この論文では「体表」の細菌叢を、rRNA遺伝子の塩基配列を手がかりに分析していましたが、今日のトピックスは手法的にはもっとUp to dateです。

The Human Microbiome Jumpstart Reference Strains Consortium, “A Catalog of Reference Genomes from the Human Microbiome,” Science 328, no. 5981 (May 21, 2010): 994-999.

 これはNIHのファンドでウイルスや真核生物も含めた"human microbes"のゲノム全体対象にしたメタゲノム解析。Roscheの454とIlluminaのSolexaを使用しています。標準的な微生物腫は178種(547,968ポリペプチド相当)とのこと。

 一方、腸内細菌に特化した研究も。

Junjie Qin et al., “A human gut microbial gene catalogue established by metagenomic sequencing,” Nature 464, no. 7285 (March 4, 2010): 59-65.

 サンプルはヒト(ヨーロッパ人)の排泄物、124人分。576.7 Gbpを解読。解析プラットホームは454とIllumina GA。ヒト全体に標準的なバクテリアは160種程度。バクテリアの種類全部では1,000-1,150種に上ると見られる。
 どんどん大規模化してますね。こうなると次のターゲットは、アジア人、アフリカ人を含めたヒト集団でしょう。日本人の腸内細菌には、アガロース分解酵素を持ってる変わり種もいる様ですので今後の展開が楽しみ。とはいえ、これまでの研究から言えば、160種程度の代表的な微生物は、あらゆるヒトに共通の・・・というかヒトという生態系を構成するメンバーといっても良いのでしょう。

 風邪をひいて抗生物質を処方されたりすると、細菌叢が大きく変わったりしないんだろうか。その方が遺伝子組換え食品由来のBtトキシン遺伝子やCP4 EPSPSが水平移動するよりも、よほど生態系を破壊することになる様な気もするのだけれど。

 こんな論文を斜め読みしていると、今時なら「堆肥のメタゲノミックス」や「有機農産物のメタゲノミックス」なんかがうけるのかなぁ、という邪な考えが頭をよぎってしまう。

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2010/06/17

Google booksでアメリカの教科書を覗き見

 昨日、とある図版を探していてGoogle booksで"Plant breeding"(植物育種)を検索してみました(育種という言葉にはなじみのない方もいらっしゃるでしょうから説明しますと、”品種改良”のことを農学分野では昔から育種(breeding)と呼んできました)。

 農学分野の大学や大学院には育種学研究室があるところも多いし、日本育種学会という学会もあります。私も、育種学が専攻で仕事として作物の育種をしていた時期もありますし、現在の仕事も広い意味では育種の一部といえるものです。

 様々な工業製品がモデルチェンジを繰り返して白熱電球が電球型蛍光灯に進化し、それがLED電球に変わっていくように、実は農業生産に使われている作物もモデルチェンジをしています。植物育種学はそのモデルチェンジを支える裏方仕事と言うところです。

 さて、Google booksで見た"Plant breeding"に関する本ですが、結構凄まじいものが出版されています。

 アメリカのトウモロコシ育種の大御所Arnel R. Hallauerの名前を冠した国際シンポジウムの要旨集ですが、過去、現在、未来のPlant breedingとは何かに答えるべくまとめられた野心的な一冊です。Google booksのpreviewで多くの部分が読めますが中でも、p.20では一般的な新規の遺伝子組換え作物開発のスキーム(育成過程の何年目あたりから各種の規制のクリアに取りかかるか)が示されていたり、p.31では、allozyme, RFLP, RAPD, STR, SNPの効率と利用の経過が示されていたり、日本の植物育種関係の出版物ではなかなかお目にかかれない先進的なテーマが扱われています。
 植物の育種に携わる人口が日米では大きく違うので、その人材供給に関わるアカデミアの層の厚さも当然違っています。なおかつ育種分野における産学の距離も両国では大きく違うので、そのあたりの事情がこういうところにも反映されているのかもしれません。
 あと、教科書ですね。

 Future of plant breeding in society (将来における植物育種の社会的位置づけ)というセクションの最初にこうあります。

The technology for using plants as bioreactors to produce pharmaceuticals will advance; this technology has been around for over a decade. Strategies are being perfected for use of plants to generate pharmaceutical antibodies, engineering antibody-mediated pathogen resistance, and altering plant phenotypes by immunomodulation.

 私たちが現在挑戦している仕事は、アメリカの育種の教科書の描く未来像でもあるんですね。こうでなくては研究開発は挑む価値がありません。・・・あまり未来だと困るんですけどね。

 ともあれ、Previewとはいえ、こういう教科書を只で読めるなんて、今時の学生は幸せです。

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2010/06/05

今日は遺伝子組換え実験安全研修会に参加

 全国大学等遺伝子研究支援施設連絡協議会主催の「遺伝子組換え実験安全研修会」に参加してきました。

 全体として、既に私のアンテナに補足されていた話題が多かったので、さして目新しい情報はありませんでした。今年から企業や独法など大学以外の参加者にも開放と言うことで、参加者は多数。

 遺伝子組換え生物の”展示”をしたいのだけれど、その場合の拡散防止措置をどう考えるかという議論がありました。まあ、結構古いテーマでもあるのですが。
 二種省令では使用等の種類としては、実験、運搬、保管のみ。では、展示のあいだの拡散防止措置はどれ?という問題なのですが、これは考えようで、実は使用等の種類と、拡散防止措置が必ずしも一致している必要は無いんですね。とりあえず運搬中の拡散防止措置の条件を守ってさえいれば、容器による拡散防止措置はとれていることになるので、不審者に持ち去られたりしないような管理下にあれば展示は可能。

 また、部屋がたとえばP1等の実験中の拡散防止措置がとれる構造であれば、その場にいる人が実験の内容を知ってさえいれば、「実験の内容を知らない者が、みだりに実験室に立ち入らないための措置を講ずること」という条件はクリアできます。その他、飲食禁止や手洗いなどの管理のための条件を学習していただければそれもよし。実験中の拡散防止措置が成立します。

# ただ、実際は不活化という操作を目的としていながら、屋外のオートクレーブで運搬中の拡散防止措置を執りつつ不活化するのはかまわない、という解釈には賛同しかねます。装置が故障したらどうするの?

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