12年目の解答 - 欧州におけるNGT規制のパラダイムシフト (編集にあたってGoogle Geminiを使ってみたw)
あれから12年の月日が流れた。
かつて本ブログで「新しい植物育種の技術(NBT)」について触れ、その行政的な扱いの難しさについて指摘した。2013年のことだ。
http://domon.air-nifty.com/dog_years_blues_/2013/04/post-3396.html
当時、私はこう書いた。
「科学的には従来の作物と同じであるならば、実質的同等性の考え方を持ち込むと、結論は常に『同等の安全性である』とならざるを得ない。つまり、安全性の確保という観点では審査する意味がない」
このパラドックスに対し、欧州委員会(European Commission)がついに一つの「解」を出そうとしている。先日、欧州議会とEU理事会の間で暫定合意に達した、新しいゲノム技術(NGT: New Genomic Techniques)に関する規制案だ。
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2912
かつてNBTと呼ばれた技術群は、今やNGTという呼称で法的な枠組みに収められようとしている。
カテゴリー1と2:「プロセス」と「プロダクト」の落とし所
今回の合意の肝は、NGT作物をその性質に応じて明確に「2つのカテゴリー」に分類した点にある。
1. カテゴリー1 NGT植物(Category 1 NGT plants)
自然界で起こりうる、あるいは従来の育種技術でも作出可能なもの。これらは検証手続きを経れば、従来の植物と同様に扱われ、GMO規制の対象外(免除)となる。
2. カテゴリー2 NGT植物(Category 2 NGT plants)
カテゴリー1の要件を満たさないもの。これらは従来通りGMOとして扱われ、厳格なリスク評価、認可、トレーサビリティ、表示義務が課される。
これは、長年議論されてきた「製造プロセス(Process)ベース」か「最終産物(Product)ベース」かという二項対立に対する、欧州流の極めて実務的な折衷案と言える。基本的にはプロセスベースの規制体系(GMO指令)を維持しつつ、カテゴリー1という「特例」を設けることで、実質的にプロダクトベースの運用を取り入れたわけだ。
「審査」から「確認」への転換
ここで重要なのは、カテゴリー1に分類されるための「検証手続き(verification procedure)」の存在だ。
事業者は好き勝手に「これは従来の育種と同じだ」と主張して販売できるわけではない。当局によるチェックは入る。
しかし、この検証手続きは、従来のリスク評価(安全性審査)とは質が異なる。
かつて私が指摘した「安全なことが分かっているのに、安全性を審査する」という矛盾を回避するため、ここでは「安全か否か」ではなく、「カテゴリー1の定義(自然界や従来育種で起こり得る範囲)に合致しているか」という**適合性確認(Compliance Check)**が行われる。
毒性データやアレルギー性試験の結果を積み上げるのではなく、「どのような変異が、どれだけ導入されたか」という分子レベルの事実を確認し、それが「従来の育種の延長線上にある」と行政がお墨付きを与える。これによって、科学的な矛盾を解消しつつ、行政的なコントロールを手放さない仕組みを構築した。
遅れてきた夜明け、あるいは
この規則は、正式採択を経て2026年に官報掲載、適用開始はその2年後(2028年頃)となる見込みだ。
私が記事を書いてから実に15年近い歳月を要することになる。バイオテクノロジーの進化速度に対して、法整備の時計の針はいかにも遅い。
しかし、「従来の作物と変わらないものは、従来通り扱う」という当たり前の理屈が、ようやく法的な形を伴って社会実装されようとしている。
EUがこの舵を切ったことで、世界の種子開発競争、そして日本の規制議論にも少なからぬ影響があるかもしれない。
さて、まだ規制が実際に動き出したわけではないので、かつての結びと同じ言葉で締めくくらざるを得ないが、このあまりに遅く、しかし大きな一歩の行方を、今後も注意深く見守りたい。

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