あれから10年経った。そして新しい問題が追加された。
古いblogのエントリーは以下。
「「生物資源」だったり「遺伝資源」だったり」(2012/07/30)
これは11年前の記事になる。
要約すると、「実体として有体物である生物は、人がそれを利用する状況または取り扱いの方法に応じて”生物資源"や”遺伝素材"になる場合もあれば、"遺伝資源"になる場合もある。」という、やや面倒な話に具体例を交えて解説した。
さて、10年経って状況が整理されたか?というと、問題はかえって複雑さの度合いを深めている。
2016年にメキシコのカンクンで開催された生物多様性条約(CBD)の第13回締約国会議(COP-13)において、途上国側からデジタル塩基配列情報(DSI)の利用から得られる利益の配分が問題提起さた。それ以降、約4年間にわたって、DSIを「遺伝資源と同等のもの」あるいは「遺伝資源そのもの」として扱うべきとする途上国側の主張と、DSIは情報であって有体物(モノ)ではないのでCDBのスコープで扱うべきでないという先進国側の主張の対立状態が続いてきた。
DSIの利用から得られる利益の配分の議論に関する専門的な解説については幾つもの論説が出版されているのでここでは触れないが(例えば、 町田ら2021、Kobayashi et al. 2020)、これまでCBDの場では有体物とその利用の問題と捉えられてきた遺伝資源の「アクセスと利益配分」(ABS)の問題が継続的に議論されてきた中に、新たにDSIという新規事項の議論が追加された状況にある。
新規事項が出現すると条約の会議では、用語の定義から条約で取組む課題かどうか、取組むとしたらどのような手順で議論を進めるかという形式論や手続き論が議論される一方で、一刻も早く金銭的な利益配分が欲しいグループによる具体的な取り組みに向けた資金計画の提案もなされて、明確な合意目標が立てられないままに、結局、4年に一度の会議が空転した。
2019年に勃発したコロナ禍の影響もあって、2021-22年に延期され、中国の昆明(2021年10月)とカナダのモントリオール(2022年12月)で二部構成に分散開催されたCOP-15では、国際的に合意された条約の目標である愛知ターゲットが2020年に終了したことを受けて、後継の目標の枠組み(post-2020 global biodiversity framework)が合意され、その中で CBDとして DSIについて取組むことが書き込まれた。
これが2022年12月までの大まかな経緯。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント