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2013年4月 4日 (木)

「新しい植物育種の技術」について

「新しい植物育種の技術」とは"New plant Breeding Techniques"(NBT)の直訳で、言葉の通り作物(あるいは植物)の品種改良(育種)に取り入れられ始めた新しい技術のことを言います。

NBTとして用いられる技術の内容は概ね以下のようなものです。
  1. RNAウイルスベクターを利用した一過性発現(例えば、果樹の花を一年で咲かせる。DNAを持たないので核ゲノムには組み込まれない。)
  2. 人工ヌクレアーゼによるゲノムの編集(例えば、不良形質に関わる遺伝子の特異的除去。Zinc Finger NucleaseやTALE Nucleaseで核ゲノムを"編集"する。)
  3. ジーンターゲティング(例えば、 Oligonucleotide directed mutagenesis:ODMや部位特異的相同組換えなど、放射線育種に代わる位置特異的な突然変異の誘発)
  4. エピジェネティック変異の制御(例えば、 RNA dependent DNA methylation:RdDMなど不良形質に関わる遺伝子の発現抑制)
  5. 遺伝子組換え台木を利用した接ぎ木(例えば、台木に耐病性やセンチュウ耐性を持たせる)
  6. Reverse breeding(例えばF1品種後代のF2個体の配偶子から、減数分裂を制御して望ましいF2個体と同じヘテロ接合型の後代を再現できる遺伝子型を選抜する技術)
  7. Seed Production Technology(SPT)プロセス(詳細は、http://domon.air-nifty.com/dog_years_blues_/2011/07/f1--intermezzo-.html
  8. その他

どの技術も基本的にはそれぞれの研究領域で発展してきたものが、作物育種に応用され始めているというものです。ですから、NBTの"New"とは「作物育種の技術としては新顔」という意味合いです。(何時までも"New"を冠して呼ぶ訳にもいかないので、"ニューミュージック"のようにいずれ呼び方が変わるかもしれませんし、あるいは"ニューヨーク"や"新大阪"のように変わらないかもしれません。)

どの技術も基本的には遺伝子の構造あるいは機能を制御する技術ですが、これらを利用した場合でも、収穫物には(やり方によっては、外来遺伝子を導入できますが)遺伝子組換え技術に由来する外来の遺伝子や異種タンパク質が残らない点は、いわゆるGMOと呼ばれる遺伝子組換え作物とは異なります。つまり、農産物 の「製造プロセス」においては、遺伝子組換え技術を利用しますが、収穫される農産物「そのもの」は、遺伝子組換え作物ではなく、従来の農作物と変わらないようにできるということです。

これは、議論の構造について言えば、生産される農産物「そのもの」は従来の農作物と変わらないという点と、「製造プロセス」に注目している点において、慣行農法で栽培した作物と、化成品の農薬や肥料を使わずに栽培する有機農法で収穫した作物の関係と似ているかもしれません。

こうした作物・農産物を行政的にどう扱うべきか?EUや合衆国でも2007年ころから検討が始まっており、日本の食品安全委員会や厚生労働省の食品衛生分 科会新開発食品調査部会審議会でも議論が始まったところと聞いていますが、これは難問です。なぜならば、科学的には従来の作物・農産物と同じであるならば、食品衛生法やカルタヘナ法で組換え作物の安全性を審査する際の”物差し”である実質的同等性の考え方を持ち込むと、結論は常に「従来の作物と同等の安全性である」とならざるを得ないから。つまり、安全性の確保という観点では審査する意味がないのです。一方、有機JASのように生産プロセスベースで審査するべきかというと、その観点は食品衛生法やカルタヘナ法を運用してきた従来の行政的な枠組みには収まらないのでどうしたものか。

決まり文句のようで恐縮ですが「今後の議論の成り行きを注意深く見守りたい」と思います。


(NBTに関わるコミュニケーション)
(NBTに関連した日本語のレビュー)
(Reverse breedingに関わる論文)
(SPTに関する議論)「2013年1月21日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会議事録」

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