玄米のサイズの簡単な測り方
いつものように、まず忙しい人のためのサマリー。
今回は忙しい人に有益な情報はありません。忙しい人は帰った帰った。
では、夏休みの自由研究っぽいネタを一つ。
お米、玄米の大きさは品種ごとに違っています。遺伝資源としての特性を調べる場合も、米粒の長さと幅を調べて記録しています。玄米にも様々な形があって、たとえば、黒くて長いこんなの(アクセション番号、JP 84584)や、
良く見慣れた感じのこんなの(JP 9587)、
農業生物資源研究所のジーンバンクで公開されているデータによると、玄米の大きさの全体的な分布は、長さ(単位はmm)、
幅は、
こんな感じです。データとしては、長さは最小値: 2 / 最大値: 15.3 / 平均値: 5.54 / 中間値: 5.4、幅は最小値: 1.3 / 最大値: 8 / 平均値: 2.83 / 中間値: 2.9(単位はmm)。(XYプロットの方が見やすいけど、面倒なのでご免なさい。)
これらのデータの測定の方法は、農業生物資源研究所のジーンバンクで公開されているマニュアルの測定方法によると「投影機又はダイアルゲージ等により測定した玄米の長さ」とあります。まあ、どちらの方法も結構マニアックな特殊な装置でもって一粒ずつ測る訳です。でも、これってめんどくさくないですか?正直に言うと私はめんどくさいです。できれば、もっと楽をしたいのが人情というものです。そこで、もう一度マニュアルの測定方法を見ると「投影機又はダイアルゲージ等により」とあるんですね。”等”、というのが素晴らしい。他の方法でも良い訳です。
そこで、「画像解析ソフトウエア」の力を借りることにしました。「画像解析ソフトウエア」といっても、別に高価なものではありません。元々はアメリカのNIHで開発され公開された画像解析用のフリーウエアに"NIH Image"というのがあります。最近は、Javaで動かせる"Image J"というバージョンが公開されているので、それを使うことにしましょう(インストールの仕方はググってね)。
ためしに測定してみるのに、既に撮影済みの玄米の写真を使わせて頂くとしましょう。またまた、農業生物資源研究所のジーンバンクのデータベースのご厄介になります。こちらでスケール(物差し)と一緒に撮影した米や籾の画像が公開されています。これをダウンロードしてきて、次のような手順で玄米の大きさを測ります(正確に言うと、これは”測定”というよりは”推定”なんですけどね)。
---
Image Jの"Analyze Particles"機能を利用して玄米のシルエットを楕円に近似して長径、短径を測定する。
1.ダウンロードした、JP 8987、カマリワセの画像をImage Jで開く。
※ 今時の家庭用のデジカメでも、二万円以下の製品でこのくらいの倍率の画像は苦もなく撮れてしまいます。凄い時代になったものです。
2.[モノクロ化]Imageメニューを開き、Image type を8-bitに変換。こんな感じ。
3.[反転]Editメニューでinvertして画像を反転する。
4.[二値化] ProcessメニューでBinary→Make Binary(他の方法もあるけれどMacroに入れるにはこれが良いかも)。
5.[穴埋め]ProcessメニューでBinary→Fill Holes(計測時に穴埋めするので無くても良いかも)。
6.[輪郭抽出]ProcessメニューでBinary→Outline。
※ ここまではマニュアルで操作する部分はほとんどないので、大量処理の際にはMacroに組んでしまうと良いでしょう。
7.[スケール取得]直線スケールアイコンで物差しを20または30 mm分選択。AnalyzeメニューでSet Scale。1ピクセルあたりのmmを指定する。
8.Analyzeメニュー→Set Measurementsで、Fit ellipseにチェック(楕円のパラメータを取得する)
9.Analyzeメニュー→Analyze Particles。 (include holesにチェック、Sizeの範囲は、100-Infinityとして、ゴミを除外。)
10.楕円に近似した推定結果は次の通り。単位はmm。(Majr=長軸、Minor=短軸、Angle=楕円の傾き)
No. Major Minor Angle
1 5.110 2.948 110.295
2 5.149 2.887 63.639
3 5.478 2.987 21.950
4 5.417 3.181 0.711
5 5.671 3.241 104.457
6 5.249 3.065 120.643
7 5.301 3.019 36.187
8 5.204 3.056 99.484
9 4.755 2.869 56.361
10 5.382 3.042 177.739
11 5.176 2.909 104.931
12 5.364 3.235 128.090
13 5.361 2.964 45.436
14 5.567 2.865 22.693
15 4.872 3.059 51.738
平均値をとると、楕円の長径(玄米の長さ) x 楕円の短径(玄米の幅) = 5.27 x 3.02 mm
11.もとの画像とのずれを確認 (別の方法で測定済みのサンプルで校正できると言うことはないのだけれど、おためしなのでこのくらいでご勘弁。まあまあ大体のところは合っているかな~という感じ)。
もともとの測定法では、調査粒数が5粒なので、適当な数のサンプルを一気に測定するこちらの方法の方が真の値に近いかもしれません。従来の方法で測定した玄米の大きさのデータは、農業生物資源研究所のジーンバンクで公開されている「植物遺伝資源の検索(特性)」データベースで見ることができます。たとえば、例に挙げたJP 8987、カマリワセであれば”JP番号”の窓に8987と入力すると特性データが出てきます。この系統の玄米の大きさは、長さx幅=5.7 x 3.1 mm(2009年、茨城)、3.8 x 2.2 mm(1998年、茨城)とありますので、この方法で測定した値、長さx幅=5.3 x 3.0 mmは従来の測定値の範囲に収まっています。一長一短はありますが、画像データを取りながら手軽に測定できる割に、そこそこの値が出るのならまずまずの方法ではないでしょうか。
なお、この測定方法は玄米の大きさの数値化の前に、画像化のプロセスが入っているのでどうしても撮影レンズによる画像のわずかなゆがみや、照明むらや米粒によってできる影の影響を受けます。もし、より測定精度を高めたいのであれば、撮影にあたってリングライトで光をあてる、玄米を無反射ガラス板や低反射アクリル板に載せて背景に玄米の影がおちないように工夫する、画像のゆがみの少ないマクロレンズである程度被写体から距離を取って形のゆがみが出にくくするなど、画像解析の入り口で、測定の目的にあわせた撮影方法を工夫する必要があります。
さて、以上がご家庭でもできる手軽な玄米の大きさの測定法講座でした。
ちなみに、この方法は断面の形状が楕円に近い種子であれば、大抵のものに使えます。ただし、アズキやササゲは、輪郭が四角すぎてどうもうまくいませんでした。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント