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2011年7月 5日 (火)

植物の「品種」という状態

忙しい方のためサマリー。

農作物の「品種」とは、遺伝学・分類学的な線引きが出来るものではなく、大雑把に言えば外見上の特徴で他のものと区別できる植物の集団を言う。

 農作物の「品種」とは何だろうか?「品種」と言う言葉で括られる”もの”には実は科学的な実体は無い。より正確に言えば、遺伝学的には次のような様々な状態を一括りにしている。 -一つの品種がクローンである場合(果樹、イチゴ)、純系である場合(大抵のイネ、ムギ)、準同質遺伝子系統のセットである場合(コシヒカリBL)、自家不和合性のソバのように稔性に関する遺伝子以外がほぼ均一な場合、雑種第一代(F1、トウモロコシや多くの野菜)、遺伝的に必ずしも固定していない集団(多くの作物の在来品種)-
 従って、品種とはどのようなものか科学的に輪郭線が引けない以上、法的に(無理矢理)輪郭線を描き出して他のものと区別することになる。日本の種苗法、アメリカのPlant Variety Protection Act(PVPA)、植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV)では、それぞれどのように定義されているか見てみよう。

1.種苗法 (平成十年五月二十九日法律第八十三号)
(定義等) 第二条 
2  この法律において「品種」とは、重要な形質に係る特性(以下単に「特性」という。)の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいう。

2.Plant Variety Protection Act(PVPA) 
TITLE 7 > CHAPTER 57 > SUBCHAPTER II > Part D > § 2401 (a) Definitions 
(9) Variety The term “variety” means a plant grouping within a single botanical taxon of the lowest known rank, that, without regard to whether the conditions for plant variety protection are fully met, can be defined by the expression of the characteristics resulting from a given genotype or combination of genotypes, distinguished from any other plant grouping by the expression of at least one characteristic and considered as a unit with regard to the suitability of the plant grouping for being propagated unchanged. A variety may be represented by seed, transplants, plants, tubers, tissue culture plantlets, and other matter.

3.The International Union for the Protection of New Varieties of Plants (UPOV) 
(vi)  "variety" means a plant grouping within a single botanical taxon of the lowest known rank, which grouping, irrespective of whether the conditions for the grant of a breeder's right are fully met, can be
- defined by the expression of the characteristics resulting from a given genotype or combination of genotypes,
- distinguished from any other plant grouping by the expression of at least one of the said characteristics and
- considered as a unit with regard to its suitability for being propagated unchanged;

  共通点を抽出すると、植物の品種とは、植物の集合体であり

  1. 表現型によって特徴を定義できる
  2. 他の植物の集合体と、その表現型の特徴によって区別できる
  3. 形質を保持させたまま安定に繁殖させることができる

という特性を備えたもの、あるいは状態であると言うことが出来るだろう。

 こうして比較してみると、PVPAとUPOVの表現はほぼ一緒(1994年合衆国がUPOVに加盟する際にPVPAは改正されているので統一したのかもしれない)。種苗法では、表現型の基礎となる遺伝子型については特に言及していないが、PVPAとUPOVでは表現型の由来する” a given genotype or combination of genotypes”(あるの遺伝子型、あるいは遺伝子型の組合せ)として、種苗法よりも踏み込んだ表現になっている。つまり、これらの法的な枠組みにおいて、品種とは“他の植物集団と(遺伝子型に由来する)安定な表現型で区別できる植物集団”と言えるだろう※ 。
 このように、表現型で定義される品種ではあるけれども、増殖を繰り返しても世代によらず表現型が安定的に再現される背景には特定の遺伝子型があることは近代の遺伝学の教えるところである(F1の場合の安定性は、特定の両親の交配で生産される雑種の表現型の再現性、均一性を言う)。だからこそ、一部の品種ではDNAフィーンガー・プリンティングによる品種保護が可能になっている。
 農家が生産物として販売する農産物の品質を決定する要因として、作物の品種は非常に重要である。それは、特定の品種名(ブランド)の種苗は、種苗の育成者が生産者に対して特定の品種の性能を保証することで支えられている。そのため、日本では農家における生産資材としての品種の名称が、そのまま流通過程における農産物のブランド(銘柄)になっていることもめずらしくない。個々の農産物の品質は生産者の管理技術や、産地や生産年の気象条件、流通中の鮮度保持によっても左右される。管理技術や生産環境が優れていれば、品種の持っている潜在的な能力を最大限に引き出すことができるだろう。しかし、それによって遺伝的に規定されている能力の上限を超えることが出来るわけではないし、栽培技術によって品種の遺伝的な組成が改良されるわけでもない。

(この項、次回へ続く)

---

※ ちなみに、UPOVの定義には更に特徴的な表現があって、(既知の植物分類の最小単位内の植物集団であって)という表現があり、単一の植物種、という若干自然科学寄りの表現が見られるが、これはこれで栽培イチゴやコーヒーのアラビカ種のように全体が種間雑種集団であるものや、ユリのHybridのような場合は捕捉しきれていない。実際は実情に即して大雑把に運用しているので困ることはないのだけれど。

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