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2011年1月の記事

2011年1月26日 (水)

”ラウンドアップ”は大豆の栽培に使えないのか?

 先日、遺伝子組換えダイズにまつわるエトセトラ2 #GMOj というエントリーに次のように書きました。

 これらの状況証拠と"食の安全情報blog"でも指摘されている、ラウンドアップなど非選択性除草剤がダイズの生育期用の除草剤として認可されていないことを勘案すると、私にはこれらの企業が日本の農業者を遺伝子組換えダイズの品種を売り込む市場と考えている可能性は、非常に低いとしか思えません。

 twitter等でいくつかご指摘をいただいたので、大豆と”ラウンドアップ”の関係について調べてみると色々なことがわかってきました。ついては、古い知識に基づいたこの記述についての訂正を兼ねて、大豆と”ラウンドアップ”の最近の関係について改めて述べようと思います。

 以下、要旨です、

  • 「グリホサート」を含む除草剤の有効成分には、グリホサートのイソプロピルアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩といったバリエーションがあり、適用場所に畑地を含まないものも製剤の種類は89種類に及ぶ(平成23年1月)。中には、ダイズの生育期間中に畦間処理で使用できるものが含まれる。
  • 製剤の名称に「ラウンドアップ」を含む除草剤のうち平成15年以降に登録された新しい製剤では、ダイズの生育期間中に畦間処理で使用できるものがある(ラウンドアップハイロード、ラウンドアップマックスロードなど)。
  • 製剤の名称が「ラウンドアップ」そのもの、あるいは「モンサントラウンドアップ」と言う除草剤では、ダイズの生育期間中の畦間処理は使用時期に含まれない。

 そう、製剤の名称に”ラウンドアップ”という言葉を含むものが複数あるので、どのラウンドアップの話なのかきちんと区別しないと混乱するばかりです。しかも、大豆の生育期間中に使用できるものと、使用できないものがあります。初期に登録された旧いタイプの無印”ラウンドアップ”が、大豆の生育期間中には使用できないという古い知識のままだと、色々誤解を生むことがありますので、「広い意味での”ラウンドアップ”は既に大豆の生育期間中に畦間処理できる」、と訂正させていただきます。

 その帰結として、”グリホサートがダイズに使用できない”と言う表現は適切ではなく、”「グリホサート」あるいは「ラウンドアップ」は日本ではダイズの生産に使用できないので、除草剤とセットでメリットを発揮する遺伝子組換え除草剤耐性ダイズを日本で栽培する意義は薄い。”という主張の根拠は、この点に限って言えば、今日では薄いと言わざるを得ません。

以下、誤解の発端とその後の調査について書きます。
-その発端は平成16年の衆議院での質問注意書-

Q. 遺伝子組み換え大豆(GM大豆)の生産に関する質問主意書

A. 平成十六年十二月七日受領 答弁第四〇号
別々のページに記載されていて読みにくいので、関連する部分をまとめると次の通りです。

Q1 現在登録のあるグリホサート系除草剤は、大豆への適用は可能だが、芽が出てから撒くと当然のことながら大豆も枯れるので、その使用時期は、播種前一〇 日以前とか播種後出芽前として、登録されている。米化学企業「モンサント」の開発した「ラウンドアップレディ大豆」は、同社開発のグリホサート系除草剤 「ラウンドアップ」でも枯れない遺伝子組み換え大豆である。この大豆を栽培する場合、大豆の発芽後、雑草が生えそろった時点で、「ラウンドアップ」を散布 することとなる。このような登録申請されていない内容での農薬使用は、農薬取締法(二〇〇三年三月改正)による農薬使用基準違反であり、使用者には懲役三年以下又は罰金三〇万円以下の罰則が科せられるものと考えるが、政府のご認識は如何

A1 農薬取締法(昭和二十三年法律第八十二号)第十二条第三項及び農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(平成十五年農林水産省・環境省令第五号)第二条第一項の規定により、農薬を使用する者は、同法に基づく登録に係る使用方法として表示される使用時期以外の時期に当該農薬を使用してはならないことと されており、同法第十二条第三項の規定に違反した場合には、同法第十七条の規定により、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされている。
※ 具体的事例についての使用基準や使用方法については言及していないので、個別案件についての回答にはなっていない。

Q2 除草剤耐性GM大豆の生産に必要となる農薬使用基準の登録内容の変更について、「ラウンドアップ」耐性GM大豆を一般圃場で栽培した場合の環境影響に関するモニタリング試験を行っている研究機関はあるか、否か。

A2 御指摘の遺伝子組換え大豆(以下「本遺伝子組換え大豆」という。)の栽培に使用される除草剤であるラウンドアップの使用方法に関する農薬取締法に基づく登録の内容の変更を目的とした試験は、現在は行われていないと承知している。

 結局、このやりとりでは平成16年の時点で「ラウンドアップ」がダイズの”雑草生育期:畦間処理”に使えたのかどうか今ひとつはっきりしませんでしたので、このまま、”ラウンドアップ”は「播種前一〇日以前とか播種後出芽前として、登録されている」のですね、と思い込んでいました。
 そこであらためて、農林水産消費安全技術センターの農薬登録情報提供システムで、名称に"ラウンドアップ"を含む製剤を調べてみました。

 該当製剤は10件ありました。
登録番号登録年月日有効期限農薬の種類農薬の名称用途申請社(者)名登録更新予定
昭和55年09月22日
平成25年09月21日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成8年03月26日
平成23年03月25日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成8年10月24日
平成23年10月23日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成10年03月09日
平成25年03月08日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成10年12月11日
平成25年12月10日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成15年02月12日
平成24年02月11日
除草剤
日本モンサント㈱
有効
平成15年02月12日
平成24年02月11日
除草剤
日本モンサント㈱
有効
平成18年09月06日
平成24年09月05日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成18年09月06日
平成24年09月05日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
平成22年08月04日
平成25年08月03日
除草剤
日産化学工業㈱
有効
 このうち平成16年現在に使用されていた可能性があるものは、日産化学工業(株)のものが次の5種類、ラウンドアップ(第14360号)、ラウンドアップ除草スプレー(第19168号)、ラウンドアップドライ(第19351号)、ラウンドアップライトロード(第19928号)、ラウンドアップハイロード(第20109号)、日本モンサント(株)のものが次の2種類、モンサントラウンドアップ(第21013号)、モンサントラウンドアップハイロード(第21014号)。

 さらに、このうち畑にダイズが植えられている状態で適用できる除草剤を調べてみると、使用時期が収穫前日まで(畦間処理)(雑草生育期)とされているラウンドアップハイロード第20109号)とモンサントラウンドアップハイロード第21014号)のみ。従って、前述の質問注意書で平成16年時点でダイズに使われていた「ラウンドアップ」がこれらの製品であって、処理方法が畦間処理であり、その他の使用条件も守られていたのであれば特に問題はなかったと考えられます。

 また、平成18年以降に登録された新タイプのラウンドアップマックスロードは「収穫前日まで(畦間処理)(雑草生育期)」の条件で大豆に使用できます。
 次に、「ラウンドアップ」の有効成分はグリホサートであることが知られていますが、これも成分を見るとイソプロピルアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩といったバリエーションがります。そこで有効成分の方から製剤を見ると、グリホサートを含む製剤は様々な会社から89種類が登録されています。つまり、”「ラウンドアップ」が成育中のダイズの除草に使用できるか?”という問題に対しては、たかだか10種類の製剤について調べれば済むことだけれど、”有効成分「グリホサート」が成育中のダイズの除草に使用できるか?”という問題になると網羅的に調べる手間が全然違います。仕事でもなければそんなことはしたくないし、私も休日は有意義に過ごしたいので止めておきます。取りあえずここまででわかった範囲では、”「グリホサート」を有効成分とする除草剤の中には、成育中のダイズに畦間処理で使用できる製剤がある。ただし、それらには”ラウンドアップ”と”モンサントラウンドアップ”は含まれていない”と言えます。

 つまり、”ラウンドアップ”が生育期の大豆に使えるか?という問題では、その”ラウンドアップ”の意味する範囲によって法的に問題なく使用できたりできなかったり、ということになります。また、”グリホサートがダイズに使用できない”と言う表現は適切ではなく、”「グリホサート」あるいは「ラウンドアップ」は日本ではダイズの生産に使用できないので、除草剤とセットでメリットを発揮する遺伝子組換え除草剤耐性ダイズを日本で栽培する意義は薄い。”という主張は今日では根拠が薄いと言わざるを得ません。

 最近は、ブームスプレーヤーの性能も良くなってきているので、そのうち近隣の畑へのドリフトを抑えつつ大豆の生育時期に非選択性除草剤を使うことができるようになるのかもしれません。

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2011年1月18日 (火)

遺伝子組換えダイズにまつわるエトセトラ2 #GMOj

 "食の安全情報blog"の"遺伝子組換えダイズのパブリックコメントへ意見を出す前に"というエントリーに次のような記述があります。

輸入された遺伝子組換え大豆は国内で栽培されるか?

 話は変わって、それでは認可された遺伝子組換え大豆は国内で栽培されるのか?ということになると、そういうわけではありません。一般ほ場での認可をとってしまえば、カルタヘナ法上は栽培可能ですが、各都道府県が条例や指針によって遺伝子組換え作物の栽培を制限しているケースがあります。そういう場合には栽培できません。また、非常に重要なことなのですが、国内で大豆を栽培する際にグリホサートなどの除草剤を使用することはできません。除草剤耐性の遺伝子組換え大豆は除草剤とセットでなければそのメリットが生かせません。それなのにわざわざ割高な種を国内の農家が買うでしょうか?また、売れもしないものを種苗会社が売るでしょうか?

 また、先ほど確認したように国内の農地は世界的に見ると猫の額ほどの広さしかありません。仮に遺伝子組換え作物が栽培できるとしても日本は栽培用の種の市場としては魅力がありません。しかし、穀物の市場としては魅力的な国です。ですから、きちんと手続きをとって遺伝子組換え作物を輸入してもらおうとしているのです。

※ boldは筆者。

 これは少し見方を変えると、「モンサント、バイエル・クロップサイエンス、BASF、シンジェンタなど、除草剤耐性ダイズを開発している海外の企業は、除草剤耐性ダイズの種子を日本で販売する気があるのだろうか?」という問いになるでしょう。

 日本では、シダやキノコを含む農林水産植物の種苗には、種苗法という法律で"育成者権"という知的財産権が設定されています。法律の主な目的は、育成者が種苗を開発する際の投資を回収させ農業を振興することにあります。

 種苗法やそれに類する法律は多くの国にあって、国際的には”植物の新品種の保護に関する国際条約”(UPOV条約)という条約の下に、植物新品種保護国際同盟(UPOV)という国際機関が設けられ、加盟国(同盟国)は一定のルールの下で、相互に他の同盟国で開発された新品種についての育成者権を保護するようになっています。現在、68カ国が加盟しており、日本やアメリカも1991年にこの条約に加盟しています。

 UPOV条約では、加盟国Aの国民あるいは法人は、他の加盟国Bにおいても、そのB国の国民と同様に育成者権を保護されます。ただし、A国で品種が当局に登録され、育成者権が保護される状況であっても、B国で自動的にその権利が保障される訳ではなく、育成者はB国でも品種を当局に登録をしなければなりません。

 この仕組みは特許権や著作権の保護の仕組みと似ていて、育成者は発明家や作家、作曲家と同じように、生活のための”業”として行った創意工夫の努力が報われるようになっています。

 さて、ここまでが長い前置きです。日本では国内で種苗法で保護されている品種はデータベースに登録され、誰が開発した品種が登録されているか、誰でも調べられるようになっています。もし、モンサント、バイエル・クロップサイエンス、BASF、シンジェンタなどの外国の企業が日本で除草剤耐性ダイズを種苗として販売するつもりがあるのであれば、大抵は、品種登録をするはずです。

 品種登録を調べることのできるデータベースは、農林水産省生産局知的財産課が運用しています。リンク先はこちら(品種登録データ検索をクリック)

 このデータベースで、品種登録のボタンをチェックして、例えば”農林水産植物の種類”に”大豆”(漢字で!)を入力すると141品種(2011/01/18現在)が登録され、育成者(育成者権者)が誰かも一覧表として表示されます。

 今のところ、モンサント、バイエル・クロップサイエンス、BASF、シンジェンタはダイズの品種を登録していません。だからと言って、今後ともこれらの会社が遺伝子組換えダイズの品種登録をしない、という根拠には必ずしもならないのですが、もう一つ知っていていただきたいことがあります。

 それは、日本モンサントが第1世代のグリホサート耐性大豆 40-3-2系統の栽培・輸入許可を取得した時期です。現在、遺伝子組換え生物の使用を規制しているカルタヘナ法は2004年の施行ですが、40-3-2系統の栽培・輸入許可はそれ以前の1996年、今から15年も前です(参考、日本モンサント)。以来、モンサントは、2005年、2008年にカルタヘナ法に基づくダイズの栽培・輸入の許可を取得していますが、品種登録はしていません

 これらの状況証拠と"食の安全情報blog"でも指摘されている、ラウンドアップなど非選択性除草剤がダイズの生育期用の除草剤(注)として認可されていないことを勘案すると(注2)、私にはこれらの企業が日本の農業者を遺伝子組換えダイズの品種を売り込む市場と考えている可能性は、非常に低いとしか思えません。

 一方、種苗法による育成者権の確保とは別に、モンサントがアメリカやカナダで一部の農家に対して行っているように、導入した遺伝子の権利を特許法で確保する方法もあることはありますが、そのためにはそれなりの組織も必要になり、コストがかさみます。人件費が高く、耕地面積の小さな日本で、そこまでして種子を売り込む意味が果たしてあるのでしょうか。

 私は、頭書の問いに対するクリアカットな答えは出せませんが、皆さんはどう思いますか?

(注) グリホサートは比較的分解が早いので、ダイズの播種前、播種後の除草剤としては認可されています。ただし、生育期には・・・ラウンドアップ耐性ダイズでなければ枯れちゃいますので、この用途には登録されていません。

(注2) 平成16年時点での国会での質問注意書がこちらにあります。回答はこちら。では、現在ダイズの生育期間にグリホサートが全く使えないのかというとさんご指摘のように「収穫前日まで(雑草生育期:畦間処理)」という処理方法であれば使えます。この辺の記述を整理・改訂します。

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2011年1月13日 (木)

遺伝子組換えダイズにまつわるエトセトラ #GMOj

 今日は2011年の一発目のエントリーは、”iBOLとAPG IIIの微妙な距離感”にしたかったのだけれど、残念ながら生臭い話題になってしまった。

 1/22までの間、農水省がカルタヘナ法に基づく遺伝子組換えダイズの第一種使用等承認申請について、いつものようにパブコメを行っている。これについて、PARCというNPO法人が一種の反対キャンペーンを行っている(リンク先はこちら)。

 世の中には色々な主義主張がある。何にでも反対意見があるのは健全なことなので、それはそれで結構なのだ。

 けれども、今回意見募集の対象となっている生物多様性影響評価書の内容についての情報はこのNPOからは一切提供されていないし、このNPOの用意した、意見を書き込むフォームのあるページからは、農水省が情報を提供している意見募集のページ(こちら)へリンクされてはいるが、その先の資料を読まないときちんとコメントできないところまではなかなかわからない。これでは、意見募集がされている特定の遺伝子組換え作物についての十分な情報を持たない一般市民が、なにがしかの意見を言おうとしても、その前提となる判断に必要な情報にたどり着けないのではないか。

 その結果が、こちらの書き込まれた意見のページに見られるように、案の定、特定の対象に対する意見募集に対しては全くピントのはずれた意見になってしまっている。意見募集の関係資料についてどう考えるかを問われているのに、それを見せずに意見を言えというのだから無理もない。
# これはパブコメを試験に例えれば、試験問題を見せずに回答を迫るのに等しい。

 基本的にパブコメという手続きは「特定の案件」についての国民の意見を募る行政手続きである。従って、意見募集の対象は常に限定されており、そこから外れたトピックについての意見は検討の対象にはならない。
 従って、困ったことに、このNPO法人の用意したフォーム越しでは、行政の意図した意見募集の前提となる関連資料にはなかなか辿り着くことができないので、通常、パブコメで官庁のホームページから意見を寄せる際に普通に行うように、「資料を見てから判断する」というあたりまえのことができないようになっている。

 私は、このフォームから意見を寄せようという市民は、真面目に物事を考え、意見を述べようという気概のある方々であると思う。そういう市民から、的確な判断を行うための情報を得る機会を奪い、あまつさえ意見募集の状況をミスリードさせて、折角の意見を無駄にしてしまうこのNPOのやり方には怒りを感じる。
 これが不注意ならば、既に意見を寄せた方に情報不足をお詫びするべきであるだろうし、意図的であるならば、市民を巻き添えにする悪質な手口とも考えられなくもなく、応募件数が非常に多くなれば、一般市民に威力業務妨害の片棒を担がせることになるのかも知れない。

 仕事の合間にダイズの生産と消費の年次変動と、日本と遺伝子組換えダイズとの関係について、パワーポイントで作った資料の一部をPDFにしたのでこちらに置いておこう。これは私の休日労働の所産です。フルセットになるとストーリーがあるのだけれど、それは勤務時間に作った資料なので公開できません。あしからず。

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