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2010/05/24

ブロッコリには普通、黄色い花が咲く

 家庭菜園用のブロッコリの種子をどのように入手したのか興味が持たれる記事。読売新聞より。

遺伝子組み換えナタネ、伊勢湾周辺に自生・交雑

 国内では栽培されていない遺伝子組み換えナタネ(GMナタネ)が、愛知県知多市から三重県松阪市にかけて、伊勢湾を取り囲むように自生していることが、「遺伝子組み換え食品を考える中部の会」の調査で分かった。

 名古屋、四日市港に輸入され、トラックで運ばれる途中にこぼれ落ちて発芽したとみられる。在来種との交雑種も見つかっており、同会は「交雑によって生態系がかく乱される危険性が高い」と指摘している。遺伝子組み換え植物の生態系への影響は、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)でも話し合われる。

 同会は2004年からGMナタネの調査をしており、三重県四日市市から松阪市にかけて国道23号などの沿線に点々と自生しているのを確認した。今年4月に調査範囲を愛知県にも広げたところ、知多市から飛島村までの国道、県道沿いで数十メートルおきに数株ずつ生えているのを見つけた。

 GMナタネは除草剤に耐性があり、カナダを中心に外国では主流。財務省貿易統計によると、昨年、植物油の原料として輸入されたナタネは約207万トン。名古屋、四日市港には計33万トンが運びこまれた。

 同会や国立環境研究所の調査では、ナタネと同じアブラナ科のカラシナやブロッコリーなどとの交雑種も見つかった。津市内では家庭菜園のブロッコリーにナタネのような黄色い花が咲き、遺伝子検査でGMナタネと同じ除草剤耐性を持つことが分かった。

 同会は河川敷などに繁殖しているセイヨウカラシナとの交雑を懸念する。すでに愛知県内で交雑のセイヨウカラシナが見つかっており、GMナタネを調査、研究している四日市大非常勤講師の河田昌東さんは、「生命力の強いセイヨウカラシナが交雑で除草剤耐性を持てば、一気に広がって在来の植物を駆逐してしまう。GMナタネの抜き取りなど、行政が対策を取る必要がある」と指摘する。

 同会は22日、名古屋市中村区の愛知県産業労働センターで調査結果を公表し、シンポジウムを実施する。

(2010年5月23日13時21分  読売新聞)
 日本に搾油用原料として輸入される遺伝子組換えナタネは、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)に基づき、農林水産省と環境省の合同の生物多様性影響評価検討会によって、生物多様性への影響が評価されています。開発者から提供された科学的な情報に基づいて、日本の生態系に遺伝子組換え生物が定着した場合であっても、生物多様性のレベルでは生態系への影響が無いと推定された遺伝子組換え生物のみが輸入を許可される制度になっています。

 遺伝子組換えナタネについては、こちらでどのような評価が行われてきたのかが概観できます。組換えセイヨウナタネと近縁種との交雑の可能性や、交雑後代が優先的に繁殖して他の野生植物を駆逐する可能性についての開発者の評価に対する専門家の意見も、こちらの文書で公表されております。

 そして、評価結果を公表する際には、毎回必ずパブリックコメントの募集が行われており、誰でも評価結果に対して意見を述べることができます。もちろん、意見募集の結果も公表されますので、自分たちの述べた意見に対する官庁の対応も見ることができます。

 また、国立環境研究所では毎年、遺伝子組換えナタネの自生に関するモニタリング調査を実施しており、こちらで調査結果を公表しております。例えば昨年度の報告書はこちら。この報告書によると、遺伝子組換えセイヨウナタネがいわゆる雑草として日本に定着していると考えられますが、それは評価の段階で既に予想されたことです。ともあれ、報告書は一つの結論として次のように述べています。

除草剤耐性ナタネの商業栽培が盛んなカナダでは、栽培地の周辺等の自然条件において、西洋ナタネ由来の除草剤耐性遺伝子が在来ナタネに流動することが既に報告されている9)。今回、我が国での除草剤耐性遺伝子の在来ナタネへの流動が示唆される結果が得られたことから、今後は、雑種の生じる頻度や雑種の定着可能性などにも留意して調査・分析を行っていくこととする。なお、在来ナタネは、西洋ナタネより古くから日本で栽培されてきたナタネで、ヨーロッパ、ロシア、中央アジア及び中近東に自生し、ヨーロッパが起源の1つといわれている外来植物であり(OECD Consensus Document,1997)、日本産の野生植物ではない。

 すこし視野を広げてみると、国連の生物多様性条約事務局のカナダでは、遺伝子組換えナタネの大規模栽培が行われており、「西洋ナタネ由来の除草剤耐性遺伝子が在来ナタネに流動することが既に報告されている」とのことなので、もし市民団体の懸念する通りであれば、カナダではすでに「一気に広がって在来の植物を駆逐して」いても良さそうなものですが、カナダ政府も生物多様性条約事務局も特段、あわてている様子はありません。

 遺伝子組換え作物が交雑すると言うことと、在来の植物を駆逐するということは一緒ではありません。規制当局の判断としては、交雑による外来遺伝子の拡散があっても、それが大規模な生物多様性影響につながるものでなければ、遺伝子組換え作物を上手く利用して産業振興した方が国民の利益にかなうと考えるのが合理的なのですから。

 ともあれ、「家庭菜園のブロッコリーにナタネのような黄色い花が」・・・という一節には何の意味があるのでしょうか。ブロッコリには普通、ナタネと同じような黄色い花が咲くものですがね。

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