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2010/05/17

腸内で抗肥満遺伝子組換えビフィズス菌を飼育しようかという研究

 医療目的でペプチドを経口投与しようとすると、GMPグレードの合成ペプチドは単価がめちゃくちゃ高いとか、有効成分を腸で作用させようとすると、胃で分解させないようにDDSを工夫する必要があるとか、色々面倒な問題が生じます。

 そこで、遺伝子組換えビフィズス菌の登場です。腸内に定住する細菌にペプチドを合成させるので、ペプチドの単価がどうのと言うケチくさい問題は発生しません。また、腸内で細菌がペプチドを合成するので、投与経路の途中で分解するんじゃないかという心配もありません。

R T Long et al., “Bifidobacterium as an oral delivery carrier of oxyntomodulin for obesity therapy: inhibitory effects on food intake and body weight in overweight mice,” Int J Obes 34, no. 4 (April 2010): 712-719.    

 新しい論文なので、Abstractまでしか無料で公開されていないのですが、アラビノースで誘導のかかる発現ベクターにヒトOxyntomodulin遺伝子をつないで形質転換した組換えビフィズス菌をマウスに経口投与しています。Oxyntomodulinというのは食後に消化管から分泌されて小腸で作用し、食欲を抑制するホルモン。37アミノ酸残基とペプチドホルモンとしては小さな分子(消化管ホルモンとしては普通)で注射でも食欲が抑制されるそうです。

 で、実験の結果、肥満気味のマウスの食欲を抑えて、体重と中性脂肪も抑制できたとのこと。組換えビフィズス菌自体が新しいタイプの抗肥満薬という訳ですね。

 面白いのは、アラビノース誘導型のベクターを使って、食事とは別にアラビノースを与えてOxyntomodulinの発現を誘導しているところ。この種の組換え微生物が腸内で勝手にはびこってペプチドを合成しまくると投与量のコントロールが全然効きません。その点、誘導型ベクターだと薬が効きすぎて食欲が全然無いようなら、発現誘導を止めてやればよいのである程度は投与量のコントロールができます(製品としてそれで良いのかどうかは疑問ですが)。

 まあ、もともと消化管で分泌されるホルモンなので、消化酵素で分解される心配は要らないのでしょうから、ビフィズス菌でなくても良さそうなものですけど。

 それから、この種の天然物と同等の薬効成分(特にヒトのタンパク質そのもの)は、物質特許では保護されないので、おそらく製薬会社としてはうまみがないでしょう。組換えビフィズス菌のヨーグルトを食べてダイエットという夢のある(・・・そうなのか?)製品につながる研究なのですが、現実味はちょっと薄いところ。

# スギ花粉抗原でも同じ手法が使えるかもね。

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