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2010年5月12日 (水)

「生物多様性損失」の新聞記事に思う。

 今年は生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開かれることもあり、国際生物多様性年でもあり、新聞各紙で生物多様性がニュースになっている。読売新聞より。

生物の多様性損失は人類の危機…国連報告書

 【ナイロビ=安田幸一】10月に名古屋で開催される生物多様性条約締約国会議に向けた専門家会合が10日、ケニア・ナイロビの国連環境計画(UNEP)本部で開幕し、条約事務局は生物多様性の現状を評価した報告書「地球規模生物多様性概況第3版」を正式に発表した。

 多くの絶滅危惧(きぐ)種で絶滅のリスクがさらに増え、生物多様性の損失が続いていると指摘、「効果的な対策を打たなければ人類の未来は危うい」と警告している。

 報告書は生息地の破壊などで、地球上の両生類の3分の1、鳥類の7分の1が、絶滅または絶滅の危機にあると指摘、地球全体の絶滅危惧種の状況は悪化したと評価した。

 元々いなかった生物種が在来の生物を脅かす外来種の問題も深刻化し、大量生産に向いた特定種の普及で、家畜や農作物の遺伝的多様性も失われたとしている。

 保護地域の指定範囲や、生物多様性を守るための政府開発援助(ODA)などは好転したと評価したが、8年前に定められた「2010年までに生物多様性の損失速度を著しく減少させる」との世界目標は達成できなかったと判断した。

 報告書は国際的な合意に基づいて、重要な生態系や種を保護する明確な目標が必要と指摘。

 アフメッド・ジョグラフ条約事務局長は「目標が達成できなかったのは、各国政府が生物多様性を最優先課題と認識していなかったことが原因。名古屋会議では実効性のある新しい目標づくりが重要になる」と日本のリーダーシップに期待を表明した。

(2010年5月10日23時27分  読売新聞)

 折角なので国連生物多様性条約事務局のホームページと、話題の報告書(Global Biodiversity Outlook 3= GBO3)にもリンクを張っておきましょう。報告書とりまとめにあたって日本の資金援助があったことも述べられています。しかし、このGBO3のPDFファイル、たいへん美しい報告書に仕上がっているのですが、引用文献リストが付いていません。どうやって科学的な信頼性を担保するのか、IPCCの報告書のように出所の怪しい情報もあるのでは?・・・と一瞬思ったのですが、リファレンス付きのバージョン(MS-word形式)も用意されていました。玄人さんにはこちらをお勧めします。

 さて、新聞記事ではおもに地球上の”どこで”種の喪失が起きているのかという視点が無く、「大量生産に向いた特定種の普及で、家畜や農作物の遺伝的多様性も失われたとしている。」というところがずいぶん強調されているように思います。オリジナルの報告書ではさほど大きな扱いでは無いのですが。

 かつて育種を生業としてきた者から見ると、野生生物の種の多様性と作物の遺伝的多様性を同じ次元でで論じるのはかなり奇妙な議論に思えます。なぜなら、作物というものはそもそもが、10,000年以上の歳月をかけてヒトが手塩にかけて野生植物の遺伝的多様性を切り捨てながら自分たちに都合の良いように栽培環境に合わせた遺伝子のセットを作り上げてきた成果なので、これからも人為的な改良が続けられる限り、ある程度の遺伝的多様性の喪失は一種の宿命だと考えられるからです。それに対して、あるがままにあるのをよしとされる野生生物とは、歴史的にも経済的にもヒトとの関わり方が相当に違います。とはいえ、そのような混沌とした議論が今日のglobal standardなのでしょう。

 GBO3では、この作物の遺伝的多様性の喪失を次のように表現しています。

Crop and livestock genetic diversity continues to decline in agricultural systems.

 その根拠として、作物については根拠として引用している文献は次の通り。

Xu, H., Tang. X., Liu, J., Ding, H., Wu, J., Zhand, M. Yang, Q., Cai, L., Zhao, H., & Liu, Y. (2009). China’s Progress Toward the Significant Reduction of the Rate of Biodiversity Loss. Bioscience, 59(10), 843-852. http://www.bioone.org/doi/abs/10.1525/bio.2009.59.10.6?journalCode=bisi.

Secretariat of the Convention on Biological Diversity (2009) The Convention on Biological Diversity Plant Conservation Report: A Review of Progress in Implementing the Global Strategy of Plant Conservation (GSPC). http://www.cbd.int/doc/publications/plant-conservation-report-en.pdf

  •   
  •  最初の方は中国の事例に関する報告で、後の方は生物多様性条約事務局とりまとめの報告書。この後者のとりまとめにあってはFAOは直接関与していない風だし、CGIARやそのセンターであるIPGRIは名前も出てこない、という様相を見ると、なんだかな・・・農業(開発) vs 環境(保全)という対立構造が国連内部にもあるのだろうか。

     色々批判もあろうけれども、私個人は多収品種の普及を”悪”と決めつける気にはどうしてもなれない。大抵の農民は少しでも多くの収入を得て自力で貧困から自由になりたいと考えているだろうから。だから、作物の原産地(や多様性センター)に近い地域の人々に対して、"人類が将来にわたって遺伝資源の持続的な利用を可能にするために、あなた方は多収品種を利用してはならない"と宣告することが作物の遺伝的多様性を確保するためにそれほど良いやり方だとは思えないのだ。作物の近縁野生種であれば、in situ conservation という方法もあろうけれど、地域の農村社会ぐるみの在来品種の保全には何か別の社会的モデルが必要になるだろう。たとえば、EU型デカップリングに近い一部所得保障する方法とか(それはそれで、もの凄い財政支出の上で新たなねたみの種を播くことになりかねないのだけれど)。

     開発と保全の両立に万能の処方箋はないものだな。

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