改良普及員さんに”ケシ”の鑑別を依頼するべきではありません
色々な間違いが重なった結果がこれですね。毎日新聞より。神奈川県職員の方も、このblogを見ているかもしれませんが、あへん法規制対象のケシの栽培は毎年のようにあちこちで起きているので採り上げます。
ケシ栽培:神奈川県が「問題なし」と誤指導 藤沢の農家に
あへん法で無許可栽培が禁じられているケシについて、神奈川県農業技術センターが藤沢市の農家に「栽培に問題はない」と誤った指導をしていたこと が分かった。県が26日明らかにした。この農家は観賞用に722株を栽培し、うち約400株を7都県に出荷したという。県や厚生労働省などが回収と調査を 進めている。
県によると、農家はセンターに栽培が可能か相談。普及指導員が葉の形などから「栽培できないケシではない」と判断。しかし東京都から「花が法に抵触する可能性が高い」との情報が寄せられ、ソムニフェルム種と判明した。【木村健二】
記事の書きぶりは別として、本質的には以下のような問題点だろうと思います。
- まず、アヘン原料になるケシの栽培についての規制は、厚生労働大臣所管の”あへん法”で行われているので、栽培に問題ないかどうか農家が照会するべき窓口は保健所。農業技術センターに問い合わせたのは間違い。
- 次に、普及員も、規制法がある植物なので(その確認のために農家は照会した)、県の担当部署に自らつなぐのが筋。県職員も処理する責任能力を持たない分野について独断で対応してはいけない。
- その上、種の同定をし損なった。どの種か判断できない場合は率直に”わからない”と言うべき。科学的には、情報が足りなくて判断できない場合や自分の判断する能力に確信が持てない場合には、結論を保留するべき。
他社の報道によれば、対応した県職員は「厚生労働省ホームページを参考にした」とのことなので、1.,2.の間違いは避けられたはずなのですが・・・。今後公表されるであろう神奈川県の再発防止策に期待しましょう。
なお、報道各社から、職員が栽培を禁止されているケシだと見抜けなかったとか、県が判断を誤って指導したという論調のニュースが報道されています。ですが、普通の改良普及員はケシの種の同定はできません。そのためのトレーニングを積んでいないのですから当たり前です。また、農学や植物科学系の研究者でも普通はケシの種の同定はできませんし、その鑑別結果に責任を負える立場でもありません。
また、NHKニュースによれば、
けし栽培 再発防止策を検討へ
神奈川県の農業技術センターが農家に誤った指導を行い、麻薬の原料になるとして栽培が禁止されているけしを農家が栽培して出荷していた問題で、神奈川県は、大学の研究者などの専門家に違法なけしがどうかチェックしてもらうなどの再発防止策を検討することになりました。
え?保健所で判断するんじゃないの?「大学の研究者などの専門家」って農学系ではなく、薬学系だよね?専門家の意見を参考にするのは良いけれど、最終的な判断は県の責任で行うんだよね?・・・等々疑問山積。
ともあれ、今回の件も種の同定がどうの、と言う視点よりは、「あへんの成分を含むケシ」の種子が各国では規制対象とされずにヨーロッパを中心に世界中で普通に流通しているという現状をどう考えるか?と言うところから発想した方が良いように思います。私は、あへんが入手できるように誰でも自由にケシを栽培できるようにするべきだとは決して思いません。しかし、もしかすると、日本では世界的なケシの栽培規制と比べて、あへん法の規制するケシの範囲を幅広くとりすぎているのではないだろうか?という疑問はあります。
植物から薬効成分を抽出する場合、最終製品の価格を考えると、原材料となる植物に含まれる成分の含有量がある程度高くなければ抽出・精製のコストがまかなえません。ケシの場合は、最終製品はあへん(阿片)かモルヒネですが、悪用される恐れがあるのはあへんかモルヒネの加工品であるヘロインでしょう。あへんは、ケシの実(ケシ坊主)の表面に傷をつけて出てきた滲出液を風乾しただけのものなので、精製のコストはかかりませんから、そこに含まれるモルヒネ含有量が低水準でも採算がとれてしまう恐れはなきにしもあらず。
でも、規制対象となっている園芸種についても、本当に問題とされるほど高品位のモルヒネが含まれているのでしょうか?法律で規制されているケシを栽培してはいけないという点には私は全面的に同意します。しかし、規制対象の選定の基準を種で限定するのが科学的に妥当かどうか、という点については少々疑問があります。
もっと、繊維製品の原材料になるアサ=大麻の場合、陶酔成分を含まない品種であっても、その栽培はそれ以外の品種と同様に大麻取締法で規制されています(許可制)ので、麻薬成分を含む可能性が排除できないケシについてはデフォルトで規制対象とするのが行政的には妥当なのでしょうね、多分。
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