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2010/05/31

酪酸の経皮毒性は結構馬鹿にならない

ノルマル酪酸の毒性は実は結構強い。

「酪酸は無害と説明を受けた」公判で元船長

 南極海で調査捕鯨をしていた捕鯨船団の監視船「第2昭南丸」に侵入したなどとして、艦船侵入や傷害など五つの罪に問われた反捕鯨団体「シー・シェパード」の元船長、ピーター・ベスーン被告(45)の第3回公判が31日、東京地裁(多和田隆史裁判長)であった。

 ベスーン被告は弁護側の被告人質問で、昭南丸に酪酸入りのガラス瓶を発射して乗組員にけがを負わせたとされる点について、「シー・シェパード側から『酪酸は人体に無害だ』との説明を受けており、けがを負わせるつもりはなかった」と述べ、改めて傷害罪について無罪を主張した。

 多和田裁判長は冒頭、ベスーン被告に「団体の主義主張を述べたり、調査捕鯨を討議したりする場ではない。裁判に関係ないことを述べれば、供述を制限することがある」と宣告した。

(2010年5月31日14時56分  読売新聞)
安全衛生情報センターの公表しているデータシートによれば、ノルマル酪酸の急性毒性は次の通り。
急性毒性
経口ラットのLD50の報告が3件あり (2000, 2940, 8790 mg/kg)、いずれも2000mg/kg以上(PATTY (5th, 2001))によりJIS分類基準の区分外(国連GHSの区分5)とした。
経皮ウサギのLD50の報告が2件あり、危険性の高い方のデータ 530 mg/kg (PATTY (5th, 2001))を採用し、区分3とした。
吸入吸入(ガス): GHSの定義における液体である。
 吸入(蒸気): ラットを飽和蒸気(25℃で2170ppm)に8時間(4時間換算3069ppm)吸入ばく露しても死亡例なし(PATTY (5th, 2001))との報告があるが、LC50値が不明であり、区分が特定できないことから分類できない。
 吸入(ミスト): データなし
皮膚腐食性・刺激性List 1 (PATTY (5th, 2001))にウサギの試験でsevere irritant、 List 2 (IUCLID (2000)にウサギの試験((OECD Guide-line 404)でcorrosiveの報告がある。EUはR34に分類している。
眼に対する重篤な損傷・刺激性ウサギの試験で severe corneal burns (PATTY (5th, 2001))の報告があり、皮膚腐食性/刺激性で区分1に分類している。

 経皮毒性の区分3というのは半数致死量が、200 mg/kg以上1000 mg/kgの範囲にあるものを指す。ノルマル酪酸の場合はすでにウサギのデータが示されており、530 mg/kgとのこと。おとなのウサギの体重を約3.5 kgとすると、一頭あたり1.86 gの投与量で半数が死に至る。ノルマル酪酸の比重は約0.959とのことなのでほぼ水と一緒。

 つまり、わずか2mlの投与でウサギ1頭の死ぬ確率はほぼ50%である。単純な構造の有機酸ではあるけれど、この毒性は軽視できない。ヒトに対する急性毒性の程度や作用機序は分からないが、もし同程度であれば体重60 kgのヒトに対しては32 mlでLD50に達する可能性はある。
 また、皮膚腐食性や刺激性もあるので、目に入った場合も無事では済まない。こちらは種差は小さいのでウサギのデータをそのまま適用して良いだろう。

 どの程度の濃度のノルマル酪酸が使用されたのかは分からないが、無害だと信じていたとしても、他人に対して意図的に使用して、その結果傷害を負わせたのであれば危害を与えた結果責任を免れないと見た方がよい。

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