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2010/04/12

ヒトのCNVsは一般的な疾病に関連しないだろう

 ヒトでは遺伝子のコピー数の変異(Copy Number Variants; CNVs)と遺伝的な要因のある疾病リスクとの関連が推定されてきたのだが、大規模な調査からそれを覆す結果が得られてきた。良くデザインされた研究で、しかもあまりに大規模なので、向こう10年以上はこれを上回る規模の研究は出ないんじゃないだろうか・・・出てきたら多分経費の無駄だなぁ、と言う研究。

 特製のタイリングアレイでヒトゲノム中の500 bp以上のCNVsのうち3,432箇所(一般的に見られるCNVsの50%以内)を、約19,000人に渡ってサーベイした。ゲノムワイドなアソシエーション解析の結果、CNVsとクローン病、リューマチ、I型糖尿病、II型糖尿病など8つの疾病との関連が認められたが、これらの遺伝子座と疾病の関連は以前からSNPsの解析で知られていたものだったし、この研究で調査したCNVsはSNPsでタグされたものなので、間接的にSNPsを調べていたのだろう。そして結論。

" We conclude that common CNVs that can be typed on existing platforms are unlikely to contribute greatly to the genetic basis of common human diseases."

 一般的な研究手法で検出されるCNVsは、ヒトの一般的な疾病に対する遺伝的な効果はそう大きくはないだろう・・・。これはある意味、壮大な、しかも盤石な基礎を持ったネガティブ・データである。

 ちなみに著者は、"The Wellcome Trust Case Control Consortium"とある。通称WTCCC。個々の研究者の所属は69機関。人数は、217名(PubMedではそうなっている。私が数えたわけではない)。

 スケールに圧倒されます。
 そうかとおもえば、こんな新聞記事も。

アジア人の遺伝子コピー数多型地図、国内研究陣が完成

4月5日15時22分配信 聯合ニュース
【ソウル5日聯合ニュース】 ヒトの全遺伝情報(ゲノム)のうち、特定領域が一度に過度に抜けたり複製されることで発生する疾病を予測し、治療する上で役立つ「遺伝子コピー数多型 (CNV:Copy Number Variation)」地図が、国内研究チームによって製作された。
 ソウル大学医学部・ゲノム医学研究所の徐廷ソン(ソ・ジョンソン)教授チームは5日、韓国人・日本人・中国人各10人を対象にした「アジア人超高解像度遺伝子コピー数多型地図」を完成させたと明らかにした。
 研究チームによると、ヒトは1つの細胞に2コピーの遺伝子を有すると考えられているが、まったくなかったり1コピーしかない場合、3コピー以上存在する場 合があり、これをコピー数多型と呼ぶ。言い換えれば、30億個の塩基対で構成されるヒトのゲノムが、数百~1000個以上の単位で一度に抜けたり、増える ケースを指す。
 この情報は今後、個人間、人種間の遺伝的な差に基づく医学のカスタマイズを実現するのに役立つと、科学者らはみている。
 徐教授チームは今回の研究で、次世代シーケンシング技術(Next Generation Sequencing Technology)に、独自開発し た超高密度DNAチップを加える方式で、これまで発見できなかったアジア人固有の遺伝子コピー数多型約3500個を新たに発見したと説明した。アジア人にだけ抜けていたり、増えた遺伝子部分が3500個に達することになる。
 研究チームは、アジア人を対象にした超高解像度遺伝子コピー数多型地図が初めて製作され、コピー数多型と疾病の関連性を本格的に研究する基盤を築いたことに意味があると評価している。
 今回の研究結果は、英科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」電子版に5日付で掲載された。

 なんだかなぁ。人数は30人と少ないが、5,177のCNVsからなる極めて高精細の地図ができたことは間違いない。アソシエーション解析はこれからなのだが、WTCCCが一般的な解析プラットホームでのCNVsの解析はほぼ無意味と結論したからには、アジア人特異的CNVs用タイリングアレイでも作らないと、この後インパクトの大きな仕事に仕上げるのは大変だ。論文はこちら。

  • Hansoo Park et al., “Discovery of common Asian copy number variants using integrated high-resolution array CGH and massively parallel DNA sequencing,” Nat Genet advance online publication (April 4, 2010), http://dx.doi.org/10.1038/ng.555

 ともあれ、人種横断的な解析ではCNVsと疾病の関連が見られなかったのだが、母集団をアジア人に絞り込むと、はたして、より偽のアソシエーションの少ない精密な解析ができるようになるものかどうか・・・。CNVsと疾病との関係の検出の可能性については、WTCCCとは異なる結論に対する期待がある一方、もうダメなんじゃないかという不安もあり。

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