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2009年1月4日 - 2009年1月10日の記事

2009年1月 9日 (金)

銘牛死して体細胞を残す

毎日新聞より。

クローン牛:飛騨牛元祖の死後13年の凍結細胞から作成

 死後13年間凍結されていた牛の生きた細胞からクローン牛を作ることに、岐阜県畜産研究所と近畿大の研究チームが成功した。長期凍結保存した細胞による哺乳(ほにゅう)類のクローン作成は、理化学研究所がマウス(16年間冷凍)で成功している。牛でも可能なことを示し、死んだ名馬や名牛の復活につながる成果として注目される。8日発行の米科学誌プロスワンに掲載される。

 使用したのは、飛騨牛の元祖といわれる名牛「安福(やすふく)号」(1980~93年)の凍結細胞。冷凍していた精巣から細胞を取り出し、これまでにクローン牛4頭が誕生。うち3頭が現在も生きているという。

 安福号は兵庫県で生まれ、岐阜県が購入した。死ぬまで安福号の精子で約4万頭が誕生した。優れた肉質を残し、飛騨牛のブランド化に大きく貢献した。

 体細胞クローン技術を使うと、優れた肉質の牛や乳量の多い牛をコピー生産できる。国内では昨年9月末までに557頭の体細胞クローン牛が誕生し た。しかし、農林水産省は消費者の不安を考慮し、研究機関に出荷の自粛を要請しているため、市場に流通していない。現在、内閣府食品安全委員会がその肉や乳などの安全性の評価を進めており、近く結論を出すとみられる。

 今回の成果について、マウスの死骸(しがい)からクローンマウスを作った理化学研究所の若山照彦チームリーダーは「生きた細胞が凍結していた牛から見つかった点がまず驚きだ。スーパーで売られている冷凍のおいしい牛肉から、クローン牛を作ることも可能になった」と話す。

オリジナルの論文はこちら
論文の要点

  • 特別な保護剤を使用していないウシの凍結組織(13年もの、-80度保存)から細胞培養に成功した。
  • 分裂活性のある細胞の核移植で体細胞クローンウシを得た。
  • 核移植をした16個の卵から、最終的に4頭の産仔を得た。

以前の理研の冷凍マウスの場合(16年もの、-20度保存)は凍結組織から核のみを取り出して細胞に移植していたので、技術的には理研の方が高度。しかし、特別な処理をしていない-80度保存の組織から「生きた細胞」を培養することに成功した点では岐阜県畜産研究所の仕事は画期的(若山さんのコメントの通りですね)。

記事にも、「死後13年間凍結されていた牛の生きた細胞から」と書いてある。この記事では非常に残念なことに、この研究は「生きた細胞」が残っていることを実証したことが画期的なのに(マウスの場合は死んだ細胞から取り出した核であった)、「死後13年間・・・」の後に「牛でも可能なことを示し、・・・」と書いてある故に、その重要性が帳消しにされて理研のマウスと同工異曲の研究で、経済的な重要性しかないように読める。経済的にもインパクトが大きな研究であることには違いないのだけれど。

以前も書いたかも知れないが、クローン家畜の真の価値は単に「優れた肉質の牛や乳量の多い牛をコピー生産」して流通させることではない。

肉牛の場合、肉質の最終的な評価は牛を殺して肉を見るまでは分からない。これまでは、殺してしまうと同じ遺伝子型の牛は二度と手に入らないため、あらかじめ繁殖させた子孫の肉質を検定するしかなかった。この場合、子孫の肉質には父方と母方の両方の遺伝子の影響があるため、種牛自体の評価を定めるのが難しかった。しかし、クローン牛であれば全く同じ遺伝子型の牛で肉質の検定ができる。

また、安福号のように優秀な種牛であれば、そのクローンは正常に成長したことを見極めてから繁殖用に使えば良いのであって、手間をかけて一頭ずつ作成したクローン牛をつぶして肉にする必要はないのだ。普通に交配した方がずっと安上がりなのだ。

ちなみに国内で生産されたクローン牛に関する統計(H20.12.22付)はこちら(農林水産省 農林水産技術会議まとめ)。参考として各地の畜産試験場のデータが添付されているが、残念なことにこの資料では今回の論文に関わるデータは岐阜県畜産研究所の欄にも近畿大学の欄にも記載されていない様子だ。

---

 

昨年はモデル動物としてのネズミ、今年は産業動物としてのウシの体細胞クローンが日本で誕生した。ほ乳動物の体細胞クローン技術の進歩には目を見張るものがある。この研究領域の将来を展望すると一つの法則性が浮かび上がる。それに基づいて一つの大胆な予想を行うと、来年はおそらく絶滅危惧種に指定されている剥製のアムールトラから核移植によって体細胞クローンが誕生するだろう。

 そして再来年はウサギ、その先はタツ・・・? ここまで真面目に読んでしまった方には申し訳ない・・・だってネズミもウシも干支なんだ(体細胞クローンイヌは戌年ではないし、ドリーも丑年だったけどね)。

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2009年1月 8日 (木)

島津製作所から微量測定用の分光光度計

石英セル不要で微量の核酸水溶液の濃度を測る分光光度計では、NanoDropNanoVueが先行しているが島津製作所からも同様の機能を持った分光光度計が発売された。
BioSpec-nanoというもので、定価ベースで130万円位とのこと(競合製品よりも30-40万くらいお買い得です)。

競合するNanoVueは本体だけで計測できるPC要らずのところが良い(PCがないので当然、起動も速い)。NanoDropは設置スペースが極小なところがよい。ただ、どちらも石英セル+ホルダーに相当する部分が可動式なので光路長の安定性は大丈夫なのか?という機構になっている。

BioSpecは光路長を決める石英セル+ホルダーに相当する試料導入部位が可動式なのは他の製品と一緒なのだが、他の製品ではそこが手動なのに対して機械式になっている(・・・ので反復精度は高いかも)。設置場所のフットプリントはPC外付けなので、他のものより大きい。

PCとの接続方式は不明。USBなら格安のネットブックでも制御できるので導入コストも安上がり(今時、RS-232CだのGP-IBの如き化石のようなインターフェースは勘弁していただきたい)。ただし、ソフトによってはディスプレーの解像度が低いと操作メニューが画面からはみ出すことがあるので購入時には要確認。

BioSpec-nanoのもう一つのウリは、”自動拭き取り機構”らしい。測定終了後に液滴を自動的にぬぐってくれる。後片付けの手間が要らないので"measure and forget"と言う案配だ。ありがたい機構なのだが・・・なんなく横着。

個人的には、可動部分が多い機械は壊れやすいと信じているので、このメカはオプションにしてもう少し安くした方が良かったのではないかと思う。光源がキセノンフラッシュランプと言うところはGood(NanoDropもそうだけど)。十数年前までは、UVとVISの光源が別々で、UV用は水銀ランプというものが多かったのを思えば時代を感じる。水銀ランプと違ってほとんど劣化しないし。

ちなみに、スペックは、

  • スペクトルバンド幅は3 nmなので分光光度計としての性能を追求した製品ではない(NanoDropと一緒。NanoVueは5 nm。核酸専用と考えれば十分なスペックだが)。
  • 光路長0.2mm:1~75 OD (50~3,700 ng/μL)
  • 光路長0.7mm:0.3~21 OD (15~1,000 ng/μL)

とのこと。

このスペックを見て思ったのだが、数十ng/μLの濃度のDNAを計る必要がある場合は、LEDを光源にした簡易型の蛍光光度計(InvitrogenのQubit)の方が高感度(100 pg/µL-1µg/µL)。二本鎖DNA特異的な蛍光色素を使えばプライマーやヌクレオチド・モノマーの影響を受けずに定量できるし、本体価格も安いので消耗品扱いで買える(ピペットマン3本分くらい)。

ほとんどおもちゃのようにチャチな製品なのだが、実際に使ってみると測定精度はなかなか侮れない。十分実用に耐える水準だ。

Qubitの場合、バッファー、蛍光色素に測定用チューブがサンプルごとに必要な消耗品だ。二本鎖DNAを計る測定レンジの広いキットの場合、定価ベースで1サンプルあたり\72の消耗品が必要。18,055サンプル測定するとBioSpec-nanoの本体価格と同じ約130万円になる。

これは年間900サンプルの測定で20年分以上にあたる(ちなみに、私は1年間で100サンプル用のキットは使い切ったが、300サンプルまで計っていない)。それ以下のサンプル数しか計らないのであれば、130万円の装置を買う価はあまりない様に思う(20年以上使うのであれば話は違いますが)。

# あれれ、分光光度計の紹介のつもりだったのだが・・・。

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2009年1月 7日 (水)

二次方程式って高等数学なのか?

英国の有力紙、The guardianに見事なまでに愚劣な論説が掲載されている。一読あれ。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/jun/06/maths.alevels

筆者Mr. Simon Jenkinsは数学は時間の無駄遣いだと主張。16歳まで高等数学を学んだとのこと。記事の表題は”Maths? I breakfasted on quadratic equations, but it was a waste of time”(数学?二次方程式を解きながら朝飯を食べたけど、時間の無駄だったね。)とある。高校生が解く二次方程式を高等数学と言うかどうかを論じる気は無いが、数学を時間の無駄と切って捨てる姿勢はいただけない。

数学を否定すれば、統計学も否定せざるを得ない。ノイズとシグナルの区別もつかないので、誤差なのか有意な違いなのか区別できないという恐ろしい事態になる。数学を科学を否定するのは、それを強力なツールとしている科学全般を否定するのと変わらない。

# 工学も計量経済学も、行動科学も言語学も認めないということだね。

大英帝国は産業革命の発祥の地である。しかし、同時にラッダイト運動の発祥の地でもあることを思い出さずにはいられない。

ちなみに、この論説には自由にコメントが書き込めるようになっており、概ね否定的なコメントが寄せられているところに若干の救いを感じる。一方、ジャーナリストがしばしば歪んだリスク報道をしがちなのか理解する鍵がここにある・・・のかもしれない。

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2009年1月 6日 (火)

体細胞クローン牛の安全性評価

1/6 読売新聞より。

クローン牛・豚、食肉解禁認める方向…食品安全委・部会

 クローン牛やクローン豚について検討している内閣府食品安全委員会の作業部会が、食品としての安全性を認める見通しになった。

Click here to find out more! 専門家による部会の小グループが「(従来の牛、豚と比べ)差異のない健全性を有する」と結論づけたのを受けた。食品安全委が最終的に認めれば、クローン牛の市場への流通に道を開くことになる。

 体細胞クローン牛や豚については、従来の家畜より死産や出産後の死亡率が高いこともあり、安全性が不安視されていた。

 小グループは国内外の文献を調査。その結果、「誕生から6か月を超えると、健常に発育する」と結論づけた。また、クローン牛や豚の子孫についても、「従来の繁殖技術による牛、豚と差異は認められない」としている。

 作業部会は月内にも結論をまとめ、専門調査会に報告。さらに食品安全委員会が報告書をまとめ、年内にも厚生労働省に答申し、その後に国が最終判断 する。体細胞クローン動物を巡っては、混乱を避けるため、クローン牛を誕生させた各研究機関が、農水省の要請で出荷を自粛している。

(2009年1月6日13時55分  読売新聞)

 これまで出荷の自粛要請(つまり、お願い)で、国内では出荷されていなかっただけのこと。輸入牛肉に入っていなかったかどうかはわかりません。そもそも区別できませんから。

 なので、「解禁認める」という言い方が適切かどうか。論理的にいえば、禁止されていないものを解禁することができるのだろうか?

 食安委の判断としては、まぁ、そうだろうなと言う結論。正常に育たなかった産仔が出荷されることはないので、そこの安全性がどうのと言う議論は、出荷される製品の安全性を論じるという議論の目的を考えれば、前提からして間違っている。

 体細胞クローン家畜の科学的な安全性の問題については、今後、作業部会から委員会へ座敷が変わるだろうが、議論に瑕疵がない限り結論が大きく変わることはないだろう。また、これをうけて今後各種の団体から根拠のない不安を訴える声や反対声明が聞かれるのだろうな。

  一方、表示の問題では、既に流通が認められている受精卵クローンについては「受精卵クローン牛」あるいは「Cビーフ」(このセンスはどうなのかね)と言う 任意表示となっている。体細胞クローンについても、安全性については科学的に何等問題ないのであれば、表示することができるという任意表示にとどめておい ていただきたいものだ。

# 体細胞クローン=somatic cloneなので、SCビーフ?

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# 先ほどランキングを見たら19位でした。そんなに見る人がいるなんてどうかしています。

2009年1月 5日 (月)

Pandemic influenza

今月公開予定の映画、「感染列島」。謎のウイルスが人類を襲うというテーマですが、この種のパンデミックものの古典といえば、やはり小松左京の「復活の日」か、昨年11月に亡くなったマイケル・クライトンの書いた「アンドロメダ病原体」が白眉でしょうか。

公開時期をインフルエンザがもっとも流行りそうな時期にぶつけてくるというのはちょっとブラックユーモアが過ぎるのでは、と思うのは考えすぎでしょうか。この映画を見に行く方はマスクをしていった方が良いかもしれません。人の集まる映画館ではインフルエンザ感染のリスクが高いと考えられますので。

以下、12/31の毎日新聞より。

スペインかぜ:原因遺伝子特定 新型インフル治療薬に道

 1918年に流行し全世界で約4000万人が死亡したとされる「スペインかぜ」のウイルスが強毒性になった原因遺伝子を、東京大と米ウィスコンシ ン大が特定した。発生が予想される新型インフルエンザの治療薬開発に役立つという。米国科学アカデミー紀要(電子版)で発表した。

 スペインかぜはインフルエンザの一種。毎年流行するインフルエンザウイルスは鼻やのどで増えるが、スペインかぜウイルスは肺で増え、死者の多くがウイルス性肺炎だった。

 米ウィスコンシン大の渡辺登喜子研究員らは、インフルエンザウイルスを人工的に合成する技術を利用。8種類あるスペインかぜウイルスの遺伝子の組 み合わせを変え、通常のインフルエンザウイルスに組み込み10種類のウイルスを作った。実験動物のフェレットに感染させ増殖の違いを比べた。

 ほとんどのウイルスは鼻でしか効率的に増えなかった。これに対し、「RNAポリメラーゼ」という酵素を作る4種類の遺伝子がスペインかぜのものを 使ったウイルスは、フェレットの気管と肺でも増殖。完全なスペインかぜウイルスと同じように強毒性を持っており、この4種の遺伝子が強い毒性にかかわって いることを突き止めた。

 研究チームの河岡義裕・東京大医科学研究所教授(ウイルス学)は「4種の遺伝子が作るたんぱく質の働きを抑える薬を開発することが、新型インフルエンザ対策に重要だ」と話している。【関東晋慈】

オリジナルの論文はこちら。インフルエンザ・ウイルスのRNAポリメラーゼのサブユニットはPA, PB1, PB2の3種類なので、この記事で言う4種類というのはどういうことかいな?と思って論文を見ると、Nucleoprotein (NP)も入れて4種類と言ってるんですね。

インフルエンザ・ウイルスのRNAポリメラーゼ自体はPA, PB1, PB2だけで活性を持つというのが現在の定説と考えると、”「RNAポリメラーゼ」という酵素を作る4種類の遺伝子”というこの記事の表現は誤り。この論文でもそんな表現はしていません。

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さて、

Watanabe, T. et al. Viral RNA polymerase complex promotes optimal growth of 1918 virus in the lower respiratory tract of ferrets. Proc Natl Acad Sci U S A  (2008).doi:10.1073/pnas.0806959106

ですが、この論文では、1918年に流行したスペイン風邪のインフルエンザ・ウイルス(現在入手可能なおそらく 唯一のパンデミック・インフルエンザ・ウイルス; 1918)とA/Kawasaki/173/2001株(K173)のゲノムのモザイク(reassortant)を人工的に作成しています。その際に、 PA,PB1,PB2,NPの4種類の遺伝子については1918あるいはK173、それ以外の遺伝子はK173となるような組合せで10種類のreassortantを作成しています。

結果として提示されているデータはFigureが二つ、Tableは一つで、極めてシンプルな論文です。まず培養細胞(MDCK cell)でreassortantの増殖活性を確認し(Fig.1)、フェレット(イタチですね)に経鼻接種して、気管と肺でのウイルスの増殖を見てい ます(Table 1、ウイルスのタイトレーションの方法は、素人なのでわかりません)。そして、ウイルスの感染後の肺の組織の病理学的検査を行っています。

培養細胞でのウイルス増殖は野生型の1918にほぼ匹敵するものが幾つかあるようです(グラフが小さくて・・・)。RNAポリメラーゼ全体とNPを1918に置換した1918(3P+NP)/K173は、他の株の折れ線グラフに紛れています。しかし、フェレットに感染させた試験結果では気管と肺の両方について供試したフェレット3頭全てからウイルスが検出されたのは野生型の1918と1918(3P+NP)/K173のみでした。また、病理学的検査の結果では、RNAポリメラーゼとNPを1918型に置換したreassortantでは1918同様に気管支とその周辺に重度の炎症が見られ、免疫染色でウイル スの抗原が検出されています(Fig. 2)。

このことから、1918株のRNAポリメラーゼとNPがウイルスの増殖と、その結果としての重症化に深く関与していると考えられます。
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ウイルス感染症が重症化する場合、
 1. 細胞への感染 → 2. 細胞内での増殖 → 3. 細胞からの放出 → 1. へ
というサイクルが体内で起きています。その際に、細胞が破壊されて組織がダメージを受け、そこに細菌が感染することでさらにダメージが増幅するケースや、ウイルス感染自体が炎症を起こす引き金になって、細胞が炎症を誘導する物質を放出し、さらに炎症や発熱が重症化するケースがあります(サイトカイン・ストームと言う奴ですね)。

このサイクルの中で、通常は”3. → 1.”の間に、ウイルスの外被タンパク質が宿主や、感染した細菌のプロテアーゼで部分分解を受けるステップがありますが、培養細胞ではその部分が生体とは違っていて、きちんと部分分解されないため外部からプロテアーゼ(トリプシン)を加えてやります。しかし、それでは生体で起きる感染サイクルを正確に再現できないため、動物実験がどうしても必要になる、ということのようです。もっとも、フェレットがヒトのモデルとしてどのくらい近似できるか難しいところですが、倫理的にも経済的にも、やたらと霊長類を使うわけにも行きません。悩ましいところでしょうか。

これまで開発された抗ウイルス薬であるタミフルやリレンザは、ノイラミニダーゼ(NA)を標的にした阻害剤で、3.の細胞からの放出をピンポイントで止めます。なので、あまり細胞外のウイルスが増えてしまってから薬を投与しても感染の拡大を止めることはできません。また、NAもウイルス外被タンパク質なので、比較的変異が起こりやすく耐性ウイルスが出現しやすいのも泣き所と言われています。

RNAポリメラーゼは、NAよりも比較的保守的である(変異しにくい)と考えられているので創薬のターゲットにしやすいことが予想さ れます。また、1918株のように重症化するインフルエンザに特異的な、広い範囲の細胞で増殖する能力がRNAポリメラーゼ自体によって与えられるのであれば、その働きを薬で止めることができれば重症化は避けられるかも知れないという希望が持てます。

一方、こんな論文も出ています。

Morens, D.M., Taubenberger, J.K. & Fauci, A.S. Predominant role of bacterial pneumonia as a cause of death in pandemic influenza: implications for pandemic influenza preparedness. J Infect Dis 198, 962-70(2008).  

一言で言ってしまえば、「スペイン風邪の死者の大半は細菌の二次感染による肺炎だった。」という論文です。もし、そうであれば現在の医療の水準を持ってすれば、感染爆発(パンデミック)は起きても、それによる死者はかつてよりも大幅に少なくすることができるはずだ。

いずれにしても、現状でもインフルエンザ・ウイルスに感染した場合の対策は、とりあえず軽症で済ませるために水分と栄養の摂取と解熱剤、それに二次感染を抑 える抗生物質くらいしかありません。それに加えて特に高齢者は、肺炎双球菌に対するワクチン接種もした方が良いかも知れません。結局、パンデミックの場合もそうでない場合も、備えるべきは一緒だったということかもしれません。

# 同じ備蓄するなら、タミフルよりも抗生物質の方が良いかも?

 

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2009年1月 4日 (日)

安全と安心と

安全と安心
よく混同される 言葉だ。安全かどうかは客観的に評価できるが安心はアンケートでもとらないと評価できない、とか制度で担保できるのは安全であって安心ではないという区別がある。

最近、こういう混同はいかんなぁと思ったのは以下の記事。12/25の日本経済新聞より。

地域医療強化へ対策会議初会合開く

 政府は26日午前、「地域医療の機能強化に関する関係閣僚会議」の初会合を首相官邸で開いた。医師不足問題への対応や医学部の定員増など地域医療に関する各省の取り組みについて意見交換。各省の連携を強化することを確認した。

 会議には麻生太郎首相のほか、河村建夫官房長官、舛添要一厚生労働相、塩谷立文部科学相、鳩山邦夫総務相らが出席。首相は「救急患者の受け入れができな いなど地域医療は深刻な状況になっている。地域における医療の確保は国民の安心の基盤中の基盤だ」とあいさつした。(13:06)

これは記事を起こす際の書き間違いではない。私はこの会合冒頭の総理の談話をNKHのニュース映像で見てがっかりした。私思うに、この文脈で総理大臣が言うべきことは「地域における医療の確保は国民の”生命の安全”の基盤中の基盤だ」ではないかと。地域医療の強化は、数値目標に照らして達成度を評価すべき種類の政策課題であって、国民が安心できればそれでいいというものではない。

ちなみに、日本国憲法では、

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

となっている。

生命(略)に対する国民の権利」は公共の福祉に反しない限り、最大限尊重することが規定されているが、少なくとも憲法は我々に安心を保証される権利を規定していない(逆を言えば政府は国民の安心を保証する義務を、憲法上は負っていない)。安心できなければ幸福ではないと言うのであれば、強いて読ませれば「幸福追求に対する国民の権利」だろうか。

優先順位を考えれば、政府が対応するべきは、まずは国民の生命の安全であって、安心は後回しで良い。実質的な安全を伴わない根拠のない安心の方が、根拠のある不安よりもよほどたちが悪いのだから。

# 総理の漢字の読み間違いよりは、こういう勘違いの方が問題だと思うがマスコミは食いつかないね。考えるのが苦手なんだろうか。

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