CISGENIC 再考
昨日、とある会議で、とある方から「”cisgenic”という言葉は(R)が付いていたので、登録商標になっているらしいけどホント?」と聞かれた。
いや、初耳ですね。ということで調べてみた。Googleで”CISGENIC trademark”で検索すると、とあるプレゼン資料にヒットした。それにはこうある。
"Genetic modification Cisgenicis now a registered trademark of Pastoral Genomics, NZ"
だが、これで納得してはいけない。一次情報は必ず確認すべし。
商標登録はどこの国に登録するかでも意味が違うので、まず"Pastoral Genomics, NZ"のホームページを調べる。
"Pastoral Genomics, NZ"は会社というは、そのホームページによれば”Pastoral Genomics is a New Zealand research consortium・・・”とある。会社じゃないよね。
Googleで、”cisgenic site:pastoralgenomics.com”を調べるもヒット無し。仕方がないので、アメリカの登録商標データベースをあたる。そこで、"CISGENIC"と"CISGENESIS"を調べてみる。
検索条件で、Live/Dead Indicator(有効/無効の指標)をLIVEに設定して検索すると、
CISGENICは
Owner: ViaLactia Biosciences (NZ) Limited CORPORATION NEW ZEALAND P.O. Box 109-185 Newmarket, Auckland NEW ZEALAND
ということがわかった。たしかに登録されている。しかし、こういう登録には無効請求が付きものなので、"TTABVUE. Trademark Trial and Appeal Board Inquiry System"のリンクを見ると、無効請求が出ていて状況は"PENDING, INSTITUTED "とある。
私は、アメリカに限らず商標登録の制度はよく知らないのだが、とりあえずLIVEな状態であるということは、無効請求も成立してはいないのだろう。一応の結論として、現在"CISGENIC"は登録商標であると言える。なお、"CISGENESIS"の登録はない。
そうなると、ともにニュージーランドの"ViaLactia Biosciences"と"Pastoral Genomics"の関係が気になる。
"Pastoral Genomics"のサイトによれば、"ViaLactia Biosciences"はパートナー企業らしい(その親会社はFonterra)。"Pastoral Genomics"も"ViaLactia Biosciences"も、マーカー開発とゲノミックスを受託する企業らしい。
この関連から、ニュージーランドの乳業会社 (Fonterra)傘下の、バイオテクノロジー企業(ViaLactia Biosciences)がコンソーシアム(Pastoral Genomics)を組んで、マーカー開発やCISGENIC技術による飼料作物の改良を目指している構図が何となく見えてくる。
トウモロコシなど濃厚飼料ではアメリカ=モンサントの覇権は動かし難いが、酪農を支える基盤である粗飼料についてはアメリカやヨーロッパとは違う第三極として独自の取組で知的財産権の確保に努めているいるということだろうか。
ちなみに"CISGENESIS"に関しては、こういうホームページがあった。
・・・まんまです。Contact先がWageningen大学の人々なので、cisgenicをtransgenicから除外すべしという一連の動きと関連したページだろう。EUの規制ルールが変更されればこのページに必ず載るだろう。EU域内のルール変更は、次にはカルタヘナ議定書締約国にも何らかの形で波及する。おそらく食品・飼料安全性にも関係するので時折見ておこう。
各種の遺伝子組換え技術の名称についての提案が以下のペーパーにある。
(Nielsen KM. 2003)
核酸供与体が近縁である順に、Intragenic(同種の生物) → Famigenic(同科の生物) → Linegenic(同系統?の生物) → Transgenic (類縁関係のない異種の生物)→ Xenogenic (人工的なDNA配列)という分類だ。
となると、人工的なエピトープ等が組み込まれた”スギ花粉症緩和米”は、"Xenogenic Rice"ということになる。TG-RiceではなくXG-Riceとでも言うのだろうか。
概念的には分かりやすい。分かりやすいのだが、実際問題としては、
- 供与核酸がコドンの最適化で、もとの配列と相当に違う場合だとか、
- genomic cloneではなくcDNA cloneなので、イントロン内のリプレッサー結合領域がなくなっていて発現の抑制が効かない場合だとか、
- プロモーターも構造遺伝子もイネ由来だけれど、本来とは全然違う組合せで転写因子を異所的に発現させているため、最小限の遺伝子操作であるにもかかわらず遺伝子発現パターンが大幅に変わっている場合
など、こんな頭でっかちな定義では縛りきれないものが、少なからずできてしまうだろう。一部は今でも既に論文発表されている。
こういう小手先のルール変更で”CISGENICはGM作物ではありません”と言っても、だからといって科学的に安全とまでは言いきれないし、transgenic ではないので情報開示する必要はないと言うのであれば、市民の安心にもつながらない。もうちょっと世人のとらえ方を考えた方が良いだろう。
人気blogランキングへ←このエントリーの情報はお役に立ちましたか?
クリックしていただけると筆者が喜びます!
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント