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2009年2月の記事

2009年2月27日 (金)

一種、遺伝子治療でもある?

iPS細胞要らずの治療法。毎日新聞より。

インスリン:膵臓の分泌細胞、マウスで増殖に成功 血糖値4カ月で正常に--慈恵医大

 糖尿病のマウスの膵臓(すいぞう)に特定の遺伝子を導入し、血糖値を調節するホルモン「インスリン」を分泌するベータ細胞を大幅に増殖させること に、東京慈恵会医科大が成功した。マウスの血糖値は約4カ月で正常値に戻り、寿命も健康なマウスと変わらなかった。研究チームは「ベータ細胞が少しでも 残っている糖尿病患者の有効な治療法につながる可能性が高い」と話している。3月5日から東京都内で開かれる日本再生医療学会で発表する。

 研究チームは、細胞分裂の周期を早める働きを持つ遺伝子を組み込んだウイルスを、生後10週の糖尿病マウスの膵臓に直接注射した。注射前に1デシ リットル当たり約400ミリグラムあった血糖値が、16週間後には約200ミリグラムと、マウスの正常値近くまで下がった。ベータ細胞の数を調べたとこ ろ、注射前の2・5倍に増えていた。

 実験で使ったウイルスは、遺伝子導入時にだけ働くタイプ。使った遺伝子もベータ細胞でしか働かないことが確認され、ウイルスや導入した遺伝子により、がんになる心配は少ないという。

 糖尿病は、ベータ細胞の数が減ったり働きが落ち、インスリンの分泌量が少なくなり、血糖値が高い状態が続くようになる。東京慈恵会医科大の佐々木 敬教授(糖尿病・代謝・内分泌内科)は「遺伝子導入という手法を使うが、極めて高い効率でベータ細胞が再生された。臨床応用を目指したい」と話している。 【永山悦子】

再生医療というか、遺伝子治療と言うか、微妙な線ですね。

ベクターはアデノウイルスベクターでしょうか。導入した遺伝子は”細胞分裂の周期を早める働きを持つ遺伝子”と言うことは、何らかの転写因子でしょうか。また、マウスの個体にウイルスを接種しているようですが、β細胞に特異的に感染するウイルスなんでしょうか。その辺の情報が全然ないとなんだかすっきりしない記事です。

2型糖尿病のモデルマウス?での治療モデルなのかもしれませんが、自己免疫疾患なので、一時β細胞が増殖しても、また免疫担当細胞に攻撃されてしまわないのでしょうか。

実験の設定が分からないので何も判断できません。困ったものです。

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2009年2月26日 (木)

”減量はカロリー次第”って、当たり前ではないのか

何だか当たり前のようなニュース。

減量はカロリー次第、炭水化物や脂肪はOK…米研究所

 【ワシントン=増満浩志】米国立衛生研究所(NIH)の研究チームが、「豊富な食物繊維など心臓に良い食事ならば、体重の減量は摂取カロリー次第 で、炭水化物が多くても脂肪が多くても変わらない」という実験結果を、26日付の米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表し た。

Click here to find out more! 研究チームは、30~70歳の男女の肥満者811人に、4種類の減量法のいずれかを試してもらった。4種類は、脂肪、たんぱく質、炭水化物の3大栄養素の割合を変えたもの。どれも食物繊維が多く、心臓に悪い飽和脂肪酸とコレステロールが少ない。

 摂取カロリーや運動の目標を各自設けて取り組んだ結果、2年間にわたって平均4キロ・グラムの減量効果を持続できた。効果は3要素の割合には関係なく、カロリーの摂取量と消費量の差に左右された。

 別のチームが一昨年、女性に様々な減量法を1年間比較して、「炭水化物を減らすのが最も効果的」という結果を発表していた。

(2009年2月26日11時56分  読売新聞)

減量のために一日に使い切る以下のエネルギー量(基礎代謝+活動エネルギー)しか摂取しないのであれば、原理的に体重は減る。逆を言えば、このニュースから分かることは、人体は所要量のエネルギーを確保するためには脂肪であれ炭水化物であれ同じように効率よく使い切るようにできている、ということだ。

しかし、”肥満者”の減量が目的なのに、”2年間にわたって平均4キロ・グラムの減量効果を持続”というのは控えめにすぎるような気もする。

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2009年2月25日 (水)

日本脳炎の新しいワクチン

数日前のネタ。読売新聞より。

日本脳炎の新ワクチン承認、従来より副作用少なく

 厚生労働省は23日、阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)が開発した日本脳炎ワクチン「ジェービック5」を正式に承認した。

 原材料にマウスの脳を使用した旧ワクチンより、副作用が少ないとされる手法で製造されている。今夏の流行シーズンを前に、5月に発売を開始する見通し。

 日本脳炎ワクチンは定期接種の対象。しかし、重い副作用が出たとして、同省は2005年に、旧ワクチン接種の積極的勧奨を控えるよう各市町村に勧告。そのため、全国的に乳幼児の接種率が低下、現在年間10例にも満たない日本脳炎患者の増加が懸念されていた。

 比較的副作用が低い新ワクチンによる定期予防接種の勧奨を再開するか、厚労省は26日開かれる会合で検討する。しかし、積極的な定期接種を実施した場合、生産量が限られていることから供給量不足も予想されている。

(2009年2月23日20時37分  読売新聞)

従来の日本脳炎ワクチンは、日本脳炎ウイルスに感染したマウスの脳を原材料に使用している。原材料そのものが哺乳動物の体組織であり、抗原の精製の度合いが下がると、現在の技術水準では検出限界以下のマウスの脳由来のタンパク質などが抗原として混入してくるリスクがある(関連資料はこちら)。

従来の日本脳炎ワクチンでは、ごく希に急性散在性脳脊髄炎(Acute disseminated encephalomyelitis: ADEM)という致死的な副作用をおこすことが知られており、マウスの脳由来の物質が抗原となり、一種の自己免疫のようなアレルギー反応が起こっているのではないかと疑われている。実際の所、症例が少ないので(これ自体はありがたいことだが、)あまり詳しくは分かっていない。

阪大微研で開発された新しいワクチンはVero細胞という、アフリカミドリザルの腎組織由来の株化培養細胞を使用して、ウイルスを増殖させているらしい。仮に、夾雑物が抗原になったとしても、脳神経系に対する障害は起こりにくいと期待されるが、何分、霊長類の細胞なので他のリスク備えておくべきだろう(関連資料はこちら)。

その点、ニワトリ受精卵でウイルスを増やすインフルエンザ・ワクチンは卵アレルギーの人以外に対してはアレルギーのリスクは小さいし、自己免疫はおこさない。そのかわり、有精卵の確保など他の問題点はある。

将来は、UMNファーマのように遺伝子組換え技術を使って、昆虫培養細胞でコンポーネントワクチンを作ってしまった方が良いのではないだろうか。
# 新型インフルエンザ対策では既にそういう取組もあるし。

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2009年2月24日 (火)

体細胞クローン家畜のリスク評価

本日は覚書のみ。体細胞クローン牛、クローン豚の食品安全性に関するリスク評価が終了した。読売新聞より。

クローン牛・豚は「食品として安全」

 内閣府食品安全委員会の専門調査会は24日、クローン牛や豚の食品としての安全性について、「通常の繁殖技術で生まれた牛や豚と同等の安全性がある」とする評価書案を了承した。

Click here to find out more! 3月中にも同委員会で正式決定し、国民から意見を募ったうえで、最終的な評価結果を厚生労働省に報告する。実際の流通については、厚労省と農林水産省が判断する。

 クローン牛・豚は、皮膚や卵管の細胞などの体細胞から作られる。しかし、死産と産後の死亡率が人工授精など従来の繁殖技術の5倍にあたる31%と高いことから、その安全性には懸念が示されていた。

 評価書案では、こうした死亡率の高さはクローン技術の完成度の問題とし、「6か月を超えると、健常に発育する」と指摘。通常の家畜と同じ遺伝情報を持ち、肉や乳の栄養成分、アレルギー誘発性なども変わらないとして、食用としての安全性に「差がない」と結論づけた。その子孫についても、「従来の繁殖技術による牛、豚と差異は認められない」としている。

 国内では昨年9月末までに、クローン牛557頭、クローン豚335頭が生まれている。しかし、農水省は消費者の混乱を避けるため、食用としての出荷は自粛を要請している。欧米でも流通を自粛しているため、国内では輸入品も含めて流通していないが、欧米の食品安全機関が最近相次いで「安全宣言」を出したため、流通の可能性が高まっている。

(2009年2月24日13時03分  読売新聞)
「体細胞」クローンだとちゃんと書いて欲しいものだ。作成方法が新規だというのが評価を行なった主な理由なのだろうから。今後は規制のルールがどうなるかに焦点が移ることだろう。

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2009年2月20日 (金)

不作為による危害に責任はないのか?

2011年にゴールデンライスをリリースする予定というレポートはこちら

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私は不勉強にしてヴァンダナ・シヴァという人物やその主張を良く知らない。

こちらの”Where Angels Fear To Send Trackbacks ”によれば、緑の革命への反対運動等を通じて有名になった”環境活動家”らしい。本人の著書を読めばよいのだろうが、私はもと育種家として、近代的な品種を攻撃する人物に間接的にせよ活動資金を供給する気にはなれないので、読むとしても図書館で借りて読むことになるだろう。

いずれにしても、品種そのものや育成技術と、それを社会に調和させるスキームとを混同して、多収品種そのものが貧困の原因になったとするような議論はいただけない。多収品種は近代的な営農スタイルの一つの構成要素に過ぎないし、その普及を止めたところで、それ以前と比べてだれも幸福にはなれない。

昨今の遺伝子組換え作物に対する反対運動を見ていると、具体的な危害に対する批判や、リスクに対する市民の恐れよりも、アンチ・テクノロジーという一種のイデオロギーを間接的な原動力にしているように思える。直接的な原動力はもちろんカネだろう。

反対の対象が何であれ、反対運動で生計を立てているプロフェッショナルの活動を純粋に金銭的な収支から見てみると良い。著名な活動家はどうやって生計を立てているだろうか?NPOなどの団体からのカンパや義援金に著書の印税、弁護士であれば訴訟の際に原告から支払われた弁護士費用もあるだろう。それが得られなければ、多くの時間を反対運動に費やすプロフェッショナルとしては生きていけない。

今年もISAAAのリポートが公表された。全世界の遺伝子組換え作物の作付面積は、昨年に引き続き、10%台の成長率を維持している。現実の農業生産に対して、遺伝子組換え作物に対する反対運動は、マスコミに露出して市民を惑わす以上の成果を挙げていないように思える。しかし、プロフェッショナルの活動家にとってもこれは好都合である。”仮想敵”が強大であるほど活動の意義は強調されるからだ。仮想敵は強大なほど良い。政府、モンサント、マイクロソフト、コカコーラなどの大企業、グローバリゼーション、地球温暖化、環境ホルモンにナノ粒子(ちょっと小さいか)、どれもなかなか手ごわそうだ。NPOがちょっと反対したくらいでめげてしまうような”仮想敵”が相手ではライフワークとして活動を継続できないのだから。

社会問題に対して百家争鳴の議論がある時、一方の極にプロフェッショナルの活動家が居れば、反対の極には何らかの研究者が専門家として存在する。つまり、ある意味では、我々のように技術開発を行なう分野の研究者のおかれている立場も、プロフェッショナルの活動家と相通じる点がある。それは、研究対象が解決しようとする問題が大きいほど研究の重要性を主張しやすい点だ。すぐに解決できる問題では研究が継続できないし、瑣末な問題では研究費がなかなかとれない。問題の重要性を社会や行政官にアピールして、長期的な取組みができるように説明することは、我々研究者にとっても重要だ。下世話な言い方をすれば、問題の解決が難しいほど長くメシの種になる。

しかし、プロフェッショナルの研究者とプロフェッショナルの活動家の間には決定的な違いがある。活動家はどこかに行って喋るか、本を書くだけでよいのだが、技術開発を行なう分野の研究者は最終的には問題を解決しなければならない宿命を負っていることだ。

本当にヴァンダナ・シヴァがゴールデンライスを批判する際に「そんなものはいらない。リンゴひとつ食べればビタミンは補えるもの」と言ったかどうかはわからない。リンゴでビタミンAを補給できないことは家庭科を学習した大抵の日本人知っていることだろう。全く黒影さんご指摘の通りだ。

単純な事実として、途上国では貧困から来るビタミンAの不足から、少なからぬ乳児が死亡し、人々が失明している(学齢前の子供の死亡率を23%押し上げているという推計もある)。WHOで取組んでいるビタミン欠乏に対する対策の筆頭がビタミンAであることからも、その重要性は伺える(たとえばこちら)。ブータンやネパールには国のビタミンA補給プログラムがあるというし、日本だって国民の栄養状態が悪かった時期には、給食で肝油が配られた時期がある。しかし、工業的に合成されたビタミンAを継続的に供給し続ける場合にさえも、それなりの社会的なコストがかかるのだ。

遺伝子組換えイネの良いところは、F1品種が主流のトウモロコシとは違って自家採取できることだ。ゴールデンライスの開発者は知的所有権を主張しないと言っている。もしそうであれば、ゴールデンライスが一般農家に普及すれば、工業的に生産されて供給されるビタミンAを部分的に代替することで供給コストを下げることができるし、場合によっては通常の米と同等のコストでビタミンAの所要量全量をまかなえる可能性だってある。

ヴァンダナ・シヴァが、途上国でビタミンA欠乏の影響を受けている2億5千4百万人の人々 の為にどんな対策をとっているのか私は知らない。しかし、もし本当に「そんなものはいらない。リンゴひとつ食べればビタミンは補えるもの」と言ったのであれば、彼女はビタミンA欠乏についてどれほどの知識を持っているのか非常に疑わしい。

そして、もし仮に、その心もとない根拠と、今だ実証されていない遺伝子組換え作物のリスクを盾にゴールデンライスの開発に水を注している一方で、ビタミンA供給プログラムを積極的に支援していないのであれば、実際にビタミンA欠乏に苦しむ人々に対して、不作為による危害を加えているのだということを知るべきだ。仮想的な未だ発生していないリスクと、現実に発生している危害に対する重み付けのバランスが著しく不適切なのだと。

# Golde riceの開発で寄付金を募ってないのだろうか。探してみよう。そして、定額給付金を寄付しよう・・・ま、政府の趣旨には沿わないが、途上国の支援にはなるだろう。

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2009年2月19日 (木)

煙がタネに浸みる?

”煙”といえばこの曲を思い出す。Smoke gets in your eyes. 邦題では「煙が目にしみる」というのだけれど、"Smoke gets in my eyes"ではない。かといって、「煙がおまえの目にしみる」では、何だか演歌風だし。

今日のお題はこの曲とはあまり関係ないのだが”Karrikins”(カリッキンと発音するのだろうか)という植物ホルモン。なんでも”煙”から発見された物質で、植物の種子に発芽シグナルとして作用するという。

オーストラリアの研究グループによる仕事がこちら。

David C. Nelson et al., “Karrikins Discovered in Smoke Trigger Arabidopsis Seed Germination by a Mechanism Requiring Gibberellic Acid Synthesis and Light,” Plant Physiol. 149, no. 2 (February 1, 2009): 863-873, doi:10.1104/pp.108.131516. 

折しもというか、南部オーストラリアは最近有史以来最大規模の森林火災に見舞われている。数百人が落命し、生涯で築き上げてきた資産をわずか数分で失われた方々も少なくない。被災された方々には心からお見舞い申し上げる。この災厄のちょっと前にこの仕事がオーストラリアの研究グループから報告されたことは何とも奇遇だ(大学は西オーストラリアだけどね)。

アブストラクトを”超訳”するとこんな感じ。
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Karrikinsは、火事の後一斉に発芽する植物などで働くことが知られていた一種の植物ホルモンなのだが、その作用機序をこの論文で初めて明らかにした。意外なことに、というか幸運にも、この物質はアラビドプシスの発芽を促進する。従って、このシグナル分子は、被子植物では思ったより重要なものらしい。Karrikinsはアラビドプシスの休眠種子に対して、既知の植物ホルモンや構造が似たストリゴラクトン GR-24より効果的に発芽を引き起こす。Karrikinsと総称される物質の一つにKAR1があるのだが、その発芽促進作用は、遺伝学的多様性や休眠の深さに左右される。植物ホルモンに関する変異体の発芽試験によって、アブシジン酸でKAR1の反応は抑制され、ジベレリン生合成の能力は必要とされる。sleepy1 変異体は発芽率が低いのだが、KAR1によって部分的には回復する。これは、Karrikinsによる発芽促進が部分的にはDELLA依存性であることを示唆している。KAR1は、外来のジベレリンに対する感受性に対しては作用が弱く、種子の吸水の際に、ジベレリン合成遺伝子であるGA3ox1GA3ox2の発現を促進する。発芽に至るまでの明らかな違いはないにもかかわらず、種子の内生アブシジン酸とジベレリンのレベルはいずれも、小根出芽前のKAR1処理によってかなり影響される。暗黒下でGA3ox1の誘導は限定的に起きるものの、アラビドプシスの発芽へのKAR1の刺激は光依存性で、近赤外光で可逆的に反応する。この光要求性とジベレリン生合成の要求性の発見は、Karrikinsの作用の仕方にかかわる初めての洞察をもたらす。
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山火事の後は、それまで休眠していた植物の種子が一斉に芽吹く。現象としては古くから知られており、樹木が繁茂している状態とは違って、林床に光が差し込む様になっているので、それはそれでとても適応的である。しかし、どうやって光が差し込まない地中に埋もれた種子が火事を知るのかは長らく謎だった。

オーストラリアは南部は、古くから絶えず小規模な野火にさらされており、そこに自生する植物のライフサイクルには、火事は織り”込み済み”になっていようだ。焼け跡に新芽が一斉に芽吹くのであれば、それはまるで植物が火事を繁殖のチャンスとみなしている様にさえ思える。この論文は、火事のあとで様々な植物が一斉に芽吹く、その”仕掛け”の一端に迫るものだ。

その点、人間は火事にはめっぽう弱い。焼け出されたオーストラリアの市民にも、その土地の植物のように頑張って再生していただきたいものだ。

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2009年2月18日 (水)

カルタヘナ法施行5年目

遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多の様性の確保に関する法律(略称はジュゲム法・・・ではなく、カルタヘナ法)は2004年2月19日より施行されている。

今年の2月19日で、施行から丁度5年目を迎える。関係各省では当然ご存知だろうが、カルタヘナ法の附則には次の規程がある。

(検討)
第七条
 政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

検討の結果、特段の措置が必要ないのであればそれでも良いが、その前に検討の状況はどうなっているのだろう。「所要の措置」は検討の結果を踏まえて対応することになっているので、今後、関係各省で検討が始められることだろう。注意深く見守っていきたい。

# 当事者として参加はしたくない。

この5年間、遺伝子組換え作物の第一種使用については、農林水産省で、38回の生物多様性影響評価検討会(総合検討会)が開催されており(H21,1,21現在)、その下準備のために各総合検討会ごとに2回程度の農作物分科会が行われている。

遺伝子組換え作物の評価の観点は、生物多様性の保全に必要な要件について、遺伝子組換え生物(LMO)の特性+その使用方法を総合して、科学的観点から遺伝子組換え生物の特性を評価できるように定式化されており、評価過程のものの見方が大きくぶれないようになっている(カルタヘナ法施行後の評価済み作物はこちら)。

LMO自体の評価のポイントは、

1. 競合における優位性
2. 有害物質の産生性
3. 交雑性
4. その他の性質

である。

 これらの観点は、基本的にカルタヘナ法施行以前(1997〜2004年)に輸入されきたLMOに関する評価とそう異なるものではない。また、多くの遺伝子組換え作物の場合、

  1. もともとの作物が競合に弱いので野生動植物を駆逐することはない。
  2. 有害物質をほとんど生産しない(ナタネのエルシン酸など一部の例外はあるが、食用作物が有害物質を産生することはあまりない)。
  3. 日本在来の野生植物とは交雑しない(ダイズは例外。ただし交雑はするが、極めて希にしか発生しない。西洋ナタネと交雑する野生植物は知られていない)。
  4. その他の性質については、特に該当するものはない。

という評価であり、作物種としてはトウモロコシ、ダイズ、ナタネ。導入された遺伝子としては、Btトキシン(殺虫タンパク質)、EPSPS(除草剤耐性)、bar(除草剤耐性)。これらの組合せでは、上記の1.-4.については、今後も基本的な科学的評価結果が大きく変わることは余りないと予想される。

---

 カルタヘナ法の施行から5年、それ以前の使用実績とあわせると、10年間以上に亘って科学的な観点から遺伝子組換え作物についての個別の評価を行ってきたのだから、そろそろこれまでの事例を鳥瞰的に評価してみる時期ではないだろうか。”シンクタンク(事務局) + 評価委員の先生(大学や独法)”で、いわゆるメタ・アナリシスを行い、流通と、一般ほ場での栽培について”特定の作物+遺伝子”の組合せについて包括的評価書をまとめてはどうだろうか。もっとも、隔離ほ場栽培に関しては、もう少し簡略な評価方法も可能だとは思うのだが、研究開発段階では色々な組換え体が作成されることから、今後とも個別評価が妥当だろう。

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2009年2月17日 (火)

Quantile Normalization

今週は9年ぶりくらいにマイクロアレイを使った実験をしている(昔の仕事。今では主成分分析は当たり前になっていますが、実に原始的ですなぁ)。

今回は、複数の処理間の比較を相互にしたいので一色法(One color)で実験した。

実験は生物研のマイクロアレイラボでさせていただいた。ハードもソフトも初期のものから見ると比較にならないほど進歩している。実際に異なるスライドグラス間で3反復したデータを見比べてみると、r2=0.995位の再現性がある。いやはや大した進歩です。

データ解析も然り。AgilentのアレイはOne colorの実験ではQuantile normalizationによるスケール調整を推奨している。手順は次の通り。

  1. シグナル強度を対数変換(底は2)する
  2. 75%点のシグナル強度の対数値でシグナル強度の対数変換した強度を割る
  3. 個々のプローブの価をアレイ間で中央値が0になるようにシフト

Gene springでこれを一気にやって頂いたのだが、12組のデータセットのうち3組は全く同じサンプルで反復をとったので、3.のステップでは若干バイアスがかかってしまう。

そこで、研究室に戻ってからSASインスティチュートのJMP7を生のシグナル強度から再計算させた。

アジレントの推奨するQuantile normalizationは、75%点のシグナル強度の対数値で、対数変換した個々のシグナル強度を割る。算術的には、処理Xの個々のSignal強度をSxとすると、Normalizeしたシグナル強度Sxnは次の通り。

Sxn = Log2(Sx)/Log2(Col Quantile(Sx, 0.75))

”Col Quantile(Sx, 0.75)”というのはJMPの関数で、カラムの分位点を返す。この場合は0.75を指定する。これって、結局

Sxn = Log(Col Quantile(Sx, 0.75))Sx

75%点のシグナル強度を底にした対数変換と同じことだ。が、JMPの関数では対数の底は10かeしか選べないので、計算上はLog10で処理する。プログラム上の数式は実はけっこう面倒くさい。こんな案配になる。

Sxn = (Log10(Sx)/Log102)/(Log10(Col Quantile(Sx, 0.75))/Log102)

簡略化すれば、

Sxn = Log10(Sx)/Log10(Col Quantile(Sx, 0.75))

Log10(Col Quantile(Sx, 0.75))は定数なので、結構マシではある。

ともあれ、底がシグナル強度の実測値に依存した任意の価だと、比べたいシグナル強度の比がわかりにくい。こういう変換は良いような悪いような・・・。結局、生のシグナル強度に返ってt検定やANOVAをする場合には、Sxnから逆変換をしておかないといけないのだな。

シグナル強度のヒストグラムを見ると、Z変換じゃいかんだろうにというデータを無理矢理正規化している論文も時折見る。が、どう見たって正規分布に近似できないものを、何も考えないで正規分布にねじ込むのは宜しくない。

このQuantile normalizationが妥当かどうか・・・もう少し考えてみないとわからない。

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2009年2月16日 (月)

同一種?

両極の海洋生物で、235種は共通していたというニュース。朝日新聞より。

北極にも? 南極にも? なぜか235種の同一生物生息

2009年2月16日11時10分

 【ワシントン=勝田敏彦】海洋生物の分布を地球規模で調べる「海洋生物センサス(国勢調査)」を進める国際グループが15日、北極と南極の海に235種もの同一とみられる生物が生息していたと発表した。長距離の移動ができない生物も含まれており「なぜ1万キロ以上も離れたところにいるのか」と研究者を驚かせている。

 海洋生物センサスは、日本など80カ国以上の数千人の研究者が携わり、2010年の調査結果公表に向けて調査を進めている。

 両極の調査もその一環で、07~08年、南極の海で確認した7500種、北極の海で確認した5500種のうち、少なくとも235種が同一種らしいと判明。長距離の移動ができるクジラや渡り鳥もあるが、数センチの節足動物(エビやカニなどの仲間)や軟体動物(巻き貝などの仲間)もいた。今後、DNA分析で同一種の確認をとり、なぜ同じ生物が二つの極地に分かれたのか、その起源に迫る。

 同じ極地でもホッキョクグマは主に北極域に、ペンギンは主に南極域にすんでいる。

 また今回、冷たい水を好む海の生物が極域に向けて移動していることもわかった。グループは、地球温暖化に伴う海水温の上昇の影響と考えている。

ものによっては卵や幼生の状態で、渡り鳥の足にでも付いて両極を移動するものがいないとも限らないが、それでも結構な個体数がいなければ繁殖して集団をいじすることは難しい。深層流のような海流で流されてきたというシナリオの方がまだ納得できる。

クジラ等は、たしかに長距離を移動するが、繁殖地を中心に分布を見ると地域集団に分化しているケースもある。プランクトンやベントスのように遊泳能力が低いものについても、今回の調査のように、両極にいたと言うだけでなく、もう一歩踏み出して両極の集団がどのくらい分化しているかを比べてみれば、移動のシナリオに目鼻が付くのではないだろうか。

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2009年2月14日 (土)

風邪のウイルスの全ゲノム解析

Human rhinovirus (HRVs), 99株の全ゲノムの塩基配列が解明された。HRVsは、普通の風邪の原因ウイルス。

Ann C. Palmenberg et al., “Sequencing and Analyses of All Known Human Rhinovirus Genomes Reveals Structure and Evolution,” Science (February 12, 2009): 1165557, doi:10.1126/science.1165557. 

時事通信より。

風邪ウイルスのゲノム解読=新薬・ワクチン開発に期待-米大学など

  風邪をもたらすヒトライノウイルス(HRV)について、血清型(セロタイプ)の違いによる99株の全遺伝情報(ゲノム)を解読し、進化系統を明らかにした と、米国のメリーランド大やJ・クレイグ・ベンター研究所などの研究チームが13日、米科学誌サイエンス電子版に発表した。
 風邪はインフルエンザと違って軽視されがちだが、ぜんそくの一因となり、幼児や高齢者は重くなる場合もある。解読成果は、発熱やせきなどの症状を抑えるのではなく、直接退治する抗ウイルス剤やワクチンの開発に役立つと期待される。(2009/02/13-15:17)

昔から、風邪の予防薬ができればノーベル賞ものと言われてきた。しかし、これまでワクチンが作れなかったのには理由がある。今回、全ゲノムが解析されたHRVsは99株だが、実際はそれ以上ある。

変異型が多いほどワクチンは作りにくい。通常、ワクチンは抗原のタイプごとに作成する。接種の際には複数の抗原を混合することもある(3種混合予防接種など)。混合できる抗原の種類は数種類に限られているが、ウイルスのタイプはそれよりもはるかに多いのが問題だ。

HRVsではないが、最近、感染研を中心にインフルエンザウイルス株間での変異が少ないタンパク質を標的にした、いわゆる”万能ワクチン”の開発が行なわれている。HRVsでも同様の戦略がとれれば風邪の予防ワクチンも夢ではないかもしれない。

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2009年2月13日 (金)

後ろ暗い感情を可視化する

朝のニュースで聞いて驚いた。朝日新聞より。

「他人の不幸喜ぶ」「ねたむ」脳の場所特定 放射線医研

2009年2月13日8時1分

  人をねたむ感情と人の不幸を喜ぶ感情をつかさどる脳の場所がそれぞれ特定され、二つの感情は密接に関係していた――。物語を読ませて被験者の感情を引き起 こし、機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)で調べた。放射線医学総合研究所などのグループが、13日付の米科学誌サイエンスに発表する。

 高橋英彦主任研究員らは、大学4年の男女19人に感情を引き起こす物語を読んでもらった。物語には、被験者に加え、ABCという3人の学生が登場 する。被験者と同性のAは、進路や人生の目標がほぼ一緒のライバルだが、成績優秀で裕福、異性にもてる。Bは異性で優秀だが、進路や目標は重なっていな い。Cは異性で普通の成績で進路は関係ないという設定だ。

 物語を読んだ後に、学生ABCに対するねたみの感情を6段階で答えてもらい、脳の血流の変化をみた。ねたみの感情はA、B、Cの順に高く、身体的な痛みや葛藤(かっとう)などを処理する脳の前部帯状回が働いていることがわかった。

 次に、最もねたましいAとねたましくないCに、不幸が起こる続編を提示。Cには起きなかったうれしい気持ちがAには中程度示された。このとき、脳の線条体が活発に動いた。この領域は、社会的、金銭的な報酬を得たときに活動することがわかっている。

 また、ねたみにかかわる脳の領域の活動が高い人ほど、他人の不幸を喜ぶ領域で反応が強く出た。

 柿木隆介・生理学研究所教授は「ねたみと他人の不幸に対する自己満足は、深い関係があることを示した興味深い結果だ」と話している。(佐藤久恵)

放医研の設立趣旨・ミッションに合った仕事かどうかは判断できないが、面白い研究だ。ただ、文章を読んだときに引き起こされる「ねたみ」が現実のそれと同じ性質かどうかちょっと疑問ではある。

ねたみとは「不公平」に関わる感情なのだとしたら、ヒトやオオカミのように、集団で生活して社会を構成する生き物が資源を公平に配分するのに役立ってきたのかもしれない。イヌにも不公平を感じ取る能力はあるらしいので。

だが、「他人の不幸を喜ぶ」と言う感情はどのように進化してきたのだろう。そして、その感情は何の役に立ってきたのだろう。謎だ。

こんな風に感情とそれを引き起こす脳の活動部位の関連が明らかになってくると、そのうち、歓喜の部位、カッとしたときの怒りの部位と義憤の部位、悲しみの部位に驚愕の部位など色々なことが分かってくるに違いない。

横になってfMRIでスキャンされながら怒っている被験者を想像すると、それ自体、結構喜劇的な有様だ。

# おそらく「エッチな妄想」をしているときに活性化する機能部位というのもあるんだろうな。論文になるのかどうか疑わしいが、PLoS ONEで発表されるかも。

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2009年2月 9日 (月)

動物工場で医薬品を製造

朝日新聞より。

動物工場製品、米で承認 組み換えヤギで血液凝固防止剤

2009年2月9日12時30分

  【ワシントン=勝田敏彦】米食品医薬品局(FDA)は6日、ヒトの遺伝子を組み込んだ「遺伝子組み換えヤギ」の乳から作った血液凝固防止剤を承認したと発表した。組み換え技術を使って有用物質を動物に大量に作らせる「動物工場」の開発は各国で行われているが、FDAが組み換え動物を使った製品を承認したのは初めて。

 この薬はアトリンといい、GTCバイオセラピューティックス社(マサチューセッツ州)などが開発した。

 ヒトには、血液を固まりにくくする働きがあるアンチトロンビン(AT)と呼ばれるたんぱく質がある。このたんぱく質の設計図に当たる遺伝子を、ヤギの受精卵に組み込んだ。ヤギ乳に含まれるたんぱく質の遺伝子のところに組み込まれた受精卵を使うと、生まれたヤギは設計図に従いヒトATを作る。組み換えヤギの乳の中にはヒトATが高い濃度で含まれ、これを集めて精製し、薬にした。

 この薬は先天的にATができない重い病気のため、手術や出産時に肺血栓などが起きやすい患者の治療に使う。

 FDAは昨年9月、動物工場や食用を想定した遺伝子組み換え動物の産業利用に道を開く指針案を公表。GTC社のこの薬は、欧米とカナダで臨床試験 が行われ、欧州ですでに承認されていた。米国では、今年1月の指針の最終決定を受けて承認された。GTC社は「今年4月以降に出荷する」としている。

 FDA指針では、人体や環境への安全性の証明などが生産者に義務づけられるが、環境団体などからは懸念の声も上がっていた。

 組み換え技術はすでにトウモロコシや大豆といった作物では実用化されている。

 医薬品としては、大腸菌やハムスターの細胞に人間の血液成分などを作らせて薬にした血液凝固剤や糖尿病薬などが実用化されている。だが、菌の培養などが必要でコストが高い。動物工場なら医薬品の大量生産が見込め、コストダウンにつながるという。日本でも研究が進んでいる。

 動物工場を増やし、生産力を高めるには最終的には体細胞クローン技術を使うと考えられている。

 ソースはこちら(FDA)。

 アトリン(ATryn)の成分はヒト・アンチトロンビン(Antithrombin III)、稀な先天性疾患先天性アンチトロンビン欠損症(HD:hereditary antithrombin deficiency)の患者の、出産や手術の際の血栓の防止に使われる。患者数が少なくその上、出産や手術の際にしか使われないことから、医薬品の生産にあたってのスケールメリットを生かすことができない。いわゆるオーファンドラッグである。動物工場であれば、生産コストを引き下げられると期待される。

 しかし、この記事の「組み換え技術はすでにトウモロコシや大豆といった作物では実用化されている。 」というコメントは何なんだろう。遺伝子組換え技術を使用した医薬品はそれほど珍しくはない。たとえば、ヒト成長ホルモン、B型肝炎の予防ワクチン、C型肝炎の治療薬であるインターフェロン、糖尿病で使われるインスリン、近く承認見込みの日本脳炎ワクチンに、新型インフルエンザ・ワクチンetc.。B型肝炎のワクチンなど20年以上前から実用化されている。医薬品製造に良く使われる普及技術の説明に、何で作物を引合いに出さなければならないのか記事の意図がわからない。

 医薬品の許認可は、安全性、効能、安定性は勿論、副作用のリスクを上回ることが見込まれるベネフィットがなくてはならない。その際に、先行して実用化されている医薬品が比較の基準となる訳だが、オーファンドラッグの場合は先行する医薬品が存在しないケースさえあるだろう。そういう意味では、難病の治療薬という切り口は、遺伝子組換え動物や遺伝子組換え植物を利用した、新しい製造プロセスで生産される医薬品にとっては良い開発ターゲットかもしれない。

 ちなみに、ヤギの乳からタンパク質を精製することのメリットは、記事にあるように「だが、菌の培養などが必要でコストが高い。動物工場なら医薬品の大量生産が見込め、コストダウンにつながるという。」というだけではない。大腸菌は一部の株には病原性がある。そうでない株であっても、菌体の成分が人体に入ると悪影響が及ぶ場合がある。それに対してヤギの乳は、それ自体が食品であり成分事態の安全性は高い。

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2009年2月 5日 (木)

中華转基因種子三昧

ちょっと故あって、中国の遺伝子組換え品種の開発状況を横目で眺めている。

参考にしたニュースソースは、
中国生物安全網”: 農業分野で利用されている遺伝子組換作物の栽培に関する許認可の状況等が記載されている。

中国種子網”: 作物種子の総合ポータルサイト。日本にはないかな?トップページのかなり目立つところに”转基因広告”(遺伝子組換えの広告)という欄があり、国内の遺伝子組換え作物に関する情報が色々記載されている。

ちなみに、"基因"(jīyīn)は遺伝子のこと。音がジーインという風に聞こえる。geneに近い。"转基因"(zhuǎnjīyīn)はトランスジェニック(遺伝子組換え)である。

“转基因棉花技术工程中心”落户天津滨海新区」という見出しのニュースが2月3日付で出ている。字面から判断すると「遺伝子組換え綿花の技術開発センターが、天津の沿岸部の新しく開発中の地域に落成」ということらしい。これを見てみると、

中国では土壌病害である綿花の黄萎病(綿花癌症)が問題になっており、天津地区では栽培面積の80%で被害が見られ、そのため10%内外の減収になっている。中国が知的財産権を有するAt7遺伝子による黄萎病抵抗性や雄性不稔を利用した交配制御技術など多くの国際的にも先進的な技術によって、まもなく新しい品種が提供できるだろう。計画では、2015年までに、センターが3-5の知的財産権を持つ病害抵抗性の遺伝子組換え綿の種子を使って、10万ムー(面積)の種子生産基地を作り、その生産能力は1000万公斤に及ぶ。それによる農家の栽培面積は、1000万ムー、増収は30億元である。

大体こんなことが書いてある。面積と金額がピンと来ないのでGoogleの翻訳機能を使うと、1公斤=1キログラム(種子生産で1万トン)、1ムー()=6.67アール(1000万ムー=6,667km2)、1人民元=13.14円(30億元=39,426,994,348.8円。年間で約400億円の増収ですな)。

翻訳すると、2015年には、1万トンの綿の種子を6,667平方キロメートル(東京都の3倍強、茨城県の110%ほど)の面積に蒔いて、年間400億円の増収を狙うという壮大な話である。それが全部、独自技術で開発された遺伝子組換え棉花だという。

ちなみに商業栽培の許可状況を”中国生物安全網”で見てみると、許可されているのは概ね棉花(抗虫棉)ばかり。国策として、工業製品原料から実用化を進めるということなのだろう。食糧輸出国でもあることだし、混入による回収騒動が起こると経済的なダメージが非常に大きいことから、その点のリスクも考えているのかも知れない。

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さてさて。我が国も今のところ、技術では決して負けてはいませんが、実用化段階では完全に遅れをとっております。まあ、彼の国とはGDPに占める農業の位置づけが全く違いますから、比較してもせんないことですが。

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2009年2月 4日 (水)

ソメイさんの悲しい身の上

2/4 朝日新聞、天声人語より

あらかじめ言っておく。ソメイヨシノを勝手に「ソメイ」と略すな!
以下、このエントリーでは天声人語を”人語”と呼ぶことにする。

▼しかし手放しでは喜べない。人が植えたソメイの花粉で、近くの野生桜が交雑する「遺伝子汚染」が報告されている。環境省の研究班がヤマザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなどの種子を調べたら、13%からソメイの遺伝子が見つかったという▼生物は地域ごとに進化し、それぞれの環境に適した最良の遺伝子を受け継ぐ。遺伝子が混じると、病気や気候への適応力が弱まりかねない。花見のとばっちりだ

朝日新聞の方々は生態学的な思考が苦手なのではないかと懸念される。

「環境省の研究班がヤマザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなどの種子を調べたら、13%からソメイの遺伝子が見つかったという」

これは、

「環境省の研究班がヤマザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなどの種子を調べたら、87%から野生のサクラの遺伝子のみが見つかったという」

ということだ。

この実生がそのまま若木になれば、87%は自然界でよく見られる遺伝子の交流の産物ということになる。もし、”そのまま若木になる”と言う前提が崩れるとしたら、それはどういう場合か?仮に、人語にいう様に「病気や気候への適応力が弱ま」れば、その木はきちんと成木まで育たないだろう。従って、ソメイヨシノの遺伝子が受け継がれていく確率は高く見積もっても13%、環境適応性が低くなればそれよりも下がることが見込まれる。

山林にはサクラが自生している所は随所にある。そういうサクラは実生で繁殖する。しかし、山林がサクラだらけになることはないのはなぜか?毎年生産される実生が、他の植物との競争や環境からのストレスに負けて死んでいくからだ。

野生のサクラ集団に、たかだか1割少々の確率でソメイヨシノの遺伝子が紛れ込んだとして、しかもそれが「病気や気候への適応力が弱まる」のであれば、それよりも環境への適応性に勝る、残りの9割の実生がそれらのか弱い雑種に取って代わると考えるのが妥当ではないか?それとも、野生のサクラは種子生産の能力が非常に低いという事実があって、1割程度の虚弱な実生が生じると次世代を再生産できなくなる懸念があると言うことなのだろうか。

”交雑種子ができる”ということと、”その種子由来の実生が育って集団の遺伝子型が変化する”、ということの間に必然的な関係はない。集団の遺伝子型が大きく入れ替わるのは、雑種の適応能力が非常に高い場合か、遺伝子頻度の機会的浮動(random genetic drift)が起こった場合、あるいは生育環境が大きく変化した場合だけだろう。

もっとも、”人語”では「生物は地域ごとに進化し、それぞれの環境に適した最良の遺伝子を受け継ぐ。」との妄言を恥ずかしげもなく書いていることから、論理を展開する上で、遺伝子頻度の機会的浮動を考慮していることはないだろう。ある生物の集団の保持している遺伝子というものは、遺伝子を交換できる生物の集団のなかで、ある程度の多様性を保ちながら維持されている。遺伝子に生じた死なない程度のそこそこの突然変異であれば、多少の不都合があっても親から子へと引き継がれていく。決して「最良の遺伝子」が受け継がれる仕組みにはなっていない。もし、最良の遺伝子しか残らないのであれば、その生物集団では種内の遺伝的多様性は急速に失われてゆき、生育環境が大きく変動した場合には速やかに死滅するかもしれない。

いずれにしても、実際に何が起こっているかは、数十年前にソメイヨシノが移植された地域の山林において、世代交代した野生のサクラの成木にどの程度の頻度でソメイヨシノの遺伝子が入り込んでいるかを調べるまでは分からないことだ。

「雑種を移植したのがいけない」という偏頗な理屈でカタの付く問題ではない。なぜならば、ソメイヨシノというクローンはおそらくは雑種だが、遺伝子自体は基本的に”混じり合う”ことはないので、個々の遺伝子はオオシマザクラ由来の遺伝子かエドヒガン由来の遺伝子のどちらかであり、雑種だからどうのと言う特異な問題は生じない(もの凄く微視的に見ると、遺伝子レベルの分子内組換えと言う現象があるので”基本的に”とただし書きを付けておく)。

ちなみに、”人語”や記事に引用された生態学会の発表要旨はこちら

これも、ソメイヨシノに由来するエドヒガンやオオシマザクラの遺伝子の拡散がいけないと言う論旨であれば、その親である、もともと分布域の狭いオオシマザクラは、本来の分布域ではないどこに持っていっても”遺伝子攪乱”をおこすので、”いけない”ということになりはしないか?その場合、種間雑種ができること自体が問題なのだろう。

以前、朝日新聞ではホシザクラという”新種”のサクラについての記事が掲載されていた。記事によれば、このホシザクラもエドヒガンとマメザクラの雑種らしい。現状で100個体ほどが自生しているが、個体数が減ってきているとのこと。

朝日新聞によれば、こちらのエドヒガンの遺伝子を持つ雑種は保護するべき対象で、他方、各地に移植されているソメイヨシノは”遺伝子汚染”の元凶らしい。”人語”では、ソメイヨシノが「人が植えた」”雑種”だからという理由で不当に貶められている様な気がする。馬鹿馬鹿しい限りである。

私はむしろ、南は北緯35度の九州から北は北緯43度の北海道まで、単一のクローンが移植されているのにもかかわらず、そこそこ生育している様子を健気にさえ感じるのだが。観賞用の樹木の品種としては実に優秀ではないか(どこに行っても一緒のサクラというのは、お米のコシヒカリと似て、いささか面白味に欠けるところではあるが)。

こざかしい人間の議論を余所に、今年も様々なサクラが日本の春を彩ることだろう。

※ Prunusと言う属は分類単位としては結構雑駁な集合である様に思う。そもそも、分布域が地理的に隔離している以外の基準では、別種と言えるかどうか微妙な”種”同士の交雑後代を、わざわざ雑種と定義したり、新種と定義したり・・・。自然環境のの有り様から見ればどうでもいい話で研究者の飯の種以上の意味はないだろう。

 たとえば、イネだってOryza sativaという栽培植物の集団のなかにjaponicaタイプとindicaタイプがあるように言われてきた。しかし、ゲノムサイズや各種の遺伝的変異の蓄積のあり方、交雑後代の不稔からみて、よく似た祖先野生植物から別々の場所、時代に人の生活の中に入り込み、栽培され、そして、まとめてイネ(Oryza sativa)と命名されたものだ。だが、japonicaタイプとindicaタイプをわざわざ別種としては扱わないし、交雑後代を新種とも呼ばない。
 イネは作物だから特別なのだと言われるかも知れないが、Prunus属だって結構栽培化されている。ウメ、モモ、プルーン、スモモ、アンズ etc.。要は人間の認知がどこまで自然分類(これも実存としては怪しいところはあるのだが)に介入するのか、という問題なのだ。

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2009年2月 1日 (日)

同種の植物が交雑するのは問題ではない。

遺伝子組換え作物の話題ではありません。1/29 朝日新聞より。

野生の桜、遺伝子ピンチ 移植ソメイヨシノと交雑

2009年1月29日3時0分

 花見や緑化用に移植されたソメイヨシノの花粉で、近くに自生する野生の桜が交雑して、遺伝子汚染されていることが、環境省研究班の調べで分かった。生物は地域ごとに独自に進化して、その地域に合った有用な遺伝子を受け継いでいる。遺伝子が混じることで、病気や気候への適応力に影響が出かねない。研究班は来年度、適切な樹木の移植方法に関する指針を作る。

 研究班メンバーの向井譲・岐阜大教授らは05~07年、岐阜や静岡の公園や山で、ヤマザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなど野生の桜、計216個の種子を集め、遺伝子を調べた。すると、13%にあたる29個の種子からソメイヨシノの遺伝子が見つかった。

 反対に、ソメイヨシノも別の桜の花粉で結実していた。種子129個の約半数から、半径約200メートルにある桜の遺伝子が見つかった。ソメイヨシノの根元では、交雑した種子が芽吹いていた。今後、芽吹いた種が、子孫を残せるか調べる。

 向井さんは「今後、ソメイヨシノを、地域固有の野生桜が自生する地域に植える際には、注意が必要になるだろう」と話す。

 研究班代表の津村義彦・森林総合研究所室長によると、ブナも地域ごとで遺伝子に違いがあり、別の地域に植えると、気候が合わず、枝先が枯れやすくなることが分かったという。

 このため、ブナ、ヤマザクラなどで地域ごとに遺伝子型が違うことを地図で示し、適正な移植、緑化の方法を定めた指針案を作成する。

 これらの結果は、3月に盛岡市で開かれる日本生態学会で発表する。(長崎緑子)

この記事に登場した専門家の皆様には同情を禁じえない。

事実関係から言えば、

  1. 野生のサクラの種子は、同じ地域に自生する野生のサクラ同士の交雑種子とソメイヨシノなど人為的に導入されたサクラとの交雑種子からなる。
  2. 人為的に移植されたソメイヨシノも、近隣ににある野生のサクラと交雑し、交雑に由来する後代の実生が、ソメイヨシノの近傍に自生することがある。
  3. 交雑後代の実生は、在来の野生のサクラよりも地域の気象に対して環境適応性が劣ることがある。

それはわかる。次の問題は、

  • 交雑由来のサクラの実生はどこに生えているのか?

だ。上記の調査では、山の中のサクラの実生苗からソメイヨシノの遺伝子が見つかったとは言っていない。公園のソメイヨシノの根本に生えいる実生では、野生のサクラの遺伝子が見つかったと書いてある。

であれば、山の中のサクラにソメイヨシノの遺伝子が浸透しているという事実があるかどうかは、この記事の範囲では確認されていないことになる。

記事にあるとおり、交雑後代の植物が野生のものよりも地域の環境に適応しにくいのであれば、山の中では、交雑後代の実生よりも野生のサクラ同士の実生の方が生存しやすいのではないか?適応性が劣る雑種の方が、在来種を押しのけて優先種になるという説には説得力がない。

花粉が交配に預かって種子ができる”ということと”その雑種が繁殖して地域の遺伝子プールに優先的な地位を占める”ということを一緒くたにしてはいけない。記事の後の方で引用されている津村さんのコメントはまさに、地域の気候帯への適応能力が重要だと言っているのだから、雑種が繁殖するかどうかについてもその観点から考えるべきであって、次のステップで行なうべきことは、”適正な移植、緑化の方法を定めた指針案を作成”することではなく、”その地域の山林において、近隣にソメイヨシノが導入された以降の樹齢の野生のサクラに、ソメイヨシノの遺伝子が実際に拡散している事実があるかどうかの確認作業”だ。

本当に心配するべきは”遺伝子が混じることで、病気や気候への適応力に影響が出かねない。”というのとは全く逆で、交雑によって在来種よりも適応能力が高い雑種が自然淘汰の結果優先種になりはしないか、ということだ。

不十分な根拠で規制のガイドラインを作ってよしとする姿勢は間違っている。なぜならば、記事で言われるような交雑が本当に問題になっているのであれば、これからガイドラインを作っても、これから植えられるサクラに対しては対応できるだろうが、今既に植えられているソメイヨシノに対しては何等手を打つことにはならないからだ。

逆に、公園のソメイヨシノが野生のサクラの遺伝子によって”遺伝子汚染”されているということで、公園の管理に当たっては景観保持の観点から実生のサクラをきちんと淘汰するべき、と言う議論ではないのかな。まあ、”遺伝子汚染”という意味不明のことばを使った時点でこの記事は論点が迷走しているのだが。

ちなみに、サクラを含む多くのバラ科の植物には自家不和合性がある。自家不和合性というのは「自家受粉しない仕組み」のこと。地域の在来の集団の中でも交雑するグループ、交雑しないグループがあるはずで、そこにソメイヨシノが闖入した場合、あるグループとは交雑するが、あるグループとは交雑しないということが起こる。

技術的には、地域の在来種の不和合性遺伝子を調べて、それと交雑しない遺伝子型のサクラを導入あるいは開発して移植すれば事足りるのだが、数十年の時間とコストをかけねばならないほどの重大な問題ではない。

なぜならば、地球温暖化の影響で気象条件のほうが急激に変動しつつあるので、作業に数十年の時間を要するのであれば、これまでその地域の環境に適応していた在来の野生植物だからと言って、今後の数十年もその地域の環境にもっとも適したものだとはいえない状況にあるのだから。

過激なことを言えば、生態系を適度に撹乱しておかないと、地域の生物種内の遺伝的多様性では、気象の変化に対応できずに地域の生物種集団ごとまるまる滅びてしまうリスクだってある。ニッチを空白にしないためには、遺伝子を人為的に多様化させておく”攻めの保全”と言う考え方だってアリかもしれないのだ。

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