2014年12月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

最近のトラックバック

どこからきたの?

  • なかのひと

Google Analytics

« 2008年1月20日 - 2008年1月26日 | トップページ | 2008年2月3日 - 2008年2月9日 »

2008年1月27日 - 2008年2月2日の記事

2008年2月 1日 (金)

ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

世情を鑑みず好き勝手を書くつもりが昨日は時事ネタを書いてしまった。いかんいかん。で、今日はまたマイペースに戻す。

 


 

ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

経済学者、飯田泰之氏の著書。実りある議論をするために、まず論理的でない議論を篩い落とすための機械的分析の方法論を提案する本。

機械的方法論とは、以下の5点から、議論の主張・内容ではなく、まず”議論の様式”を検討する方法のこと。

  1. 単純なデータ観察で否定されないか
  2. 定義の誤解・失敗はないか
  3. 無内容または反証不可能な言説
  4. 比喩と例話に支えられた主張
  5. 難解な理論の不安定な結論

全体としては、ちょっと冗長に感じる部分(第5章)もあるが、全体としては良い本です。

# ちなみに、この本によればここで言った「良い本」をきちんと定義しておかないと、それは「ダメな議論」ということになる。 ここでは、”「良い本」の客観的な基準はないが、前書きを見て納得して買うなら、買って損はしない本”と言っておこう。

職場のU君が貸してくれた本なので、折角だからと読んでみたのだが、 少なくとも私はこの本の著者が想定する読者層には入っていないように思う。自然科学分野の研究を商売にしている人々は、 通常の科学論文を読む際には上記の1.-5.よりももっと厳しい基準を立てて論文を読むので、何を今さら・・・という感があるのだ。

しかし、論理的に議論を構築するトレーニングを積んでいない人々にとっては、この本でも「ダメな議論」 を見抜くには十分役に立つのではないかと思うので、「良い本」だと言っておく。

科学者でも、日常の議論ではもっと甘い基準で暮らしているが(そうでないと日常会話が成立しない)、 真面目に議論をする場合は1.-5.以上に厳しくい基準で検討しながら考えている(少なくとも私はそうです)。

例えば、

  • 単純なデータ観察」と言う前に、そのデータ(あるいは観察)は
    • どのような目的で採られたデータ(あるいは行われた観察)か?
    • 目的に照らして、データの取り方(あるいは観察の仕方)は妥当か?
    • データを取った際(あるいは観察を行った際)の前提条件が示されているか?

を検討する。最初からバイアスのかかった測定データ、偏った観察結果かもしれないし、 今議論している際の前提条件とは噛み合わない前提条件で採られたデータの場合は、無条件で議論の素材にはできないと考えた方がよい。

定義については、自然科学でも人文系の科学でも何時、誰が行った定義かが示される場合が多い。 曲解している場合にはすぐに分かる様になっている。従って、きちんと定義されていなと多くの場合議論が成立しないと見て良い。

無内容または反証不可能な言説」については、 科学論文では滅多にお目にかからないがたまにはある。多くの場合、他の研究者から反論されるか、 無視されるので有害な言説になることは少ない(これは例外) 。

比喩と例話に支えられた主張」は、相手にされない。というか議論にならないので、 こういう基準は無い。

難解な理論の不安定な結論」については、理論がきちんと理解できていない場合、 そもそも話題にしてはいけない。その場合、いかなる結論も保留するしかない。それでも議論しなければならない場合は、いかに難解な理論でも、 まず理解する所から始めなければならない。その上で結論が不安定な場合は、前提条件の確実性を疑うか、結論を導き出すプロセスを疑うか、 それらを検証して問題がない場合には、理論そのものを疑わなければならない。

この他、「その議論の前提となる事実はこれまで言われてきた事実とどう違うのか?」とか、 「その議論の結論はこれまで行われてきた議論の結論とどう違うのか?」(つまり、新規性はあるのか) とか・・・要するに、科学者ってのはお笑いでいうツッコミのスタンスを徹頭徹尾、堅持する商売なのだ。

ちなみにこのblogは、私にとっては茶飲み話のような位置づけなので、上記の議論の前提はあてはめていません。そう、相当緩い定義、 そして、いい加減な議論を宗として書いてます。検証作業というのは相当に神経をすり減らすので、 そうでもなきゃ毎日のようには書いてられません。

人気blogランキングへ←クリックしていただけますと筆者が喜びます!

 

2008年1月31日 (木)

中国製ギョーザで殺虫剤中毒

このエントリーは予定外だが、大規模な回収騒動にまで発展している様相なので、備忘録として記録。

輸入ギョーザに殺虫剤が混入して食中毒が発生、 という事件。報道では「農薬」と書いてあるものが多いが、物質としては「殺虫剤の成分」であって、 農業上の使用でない場合は農薬とは言わない。こちらにも同様のご意見がある。

百歩譲って「農薬の成分」と書いても良いが、「農薬」と特定して報道しても良いのは、 殺虫剤の成分が農薬に由来することが分かった時点だろう。農薬は危険なもの、と言う認識が記者や編集者の意識に浸透しているということか。

今回の事件については、今後

  • 製品の製造段階での安全性の管理(生産者)
  • 製品の流通段階での安全性の管理(生産者、流通事業者、行政)

の2つの側面から問題にされるだろう。


まず、読売新聞

中国製冷凍ギョーザで食中毒、千葉と兵庫で3家族10人

 千葉、兵庫両県の3家族計10人が昨年12月28日から今月22日にかけ、市販されていた中国製の冷凍ギョーザを食べた後、 吐き気や下痢など食中毒の症状を訴え、女児(5)が一時、意識不明の重体になるなど9人が入院していたことが30日、分かった。

 両県警が調べたところ、ギョーザとパッケージの一部から有機リン系農薬「メタミドホス」が検出された。

 商品は、いずれも中国・河北省の工場で製造されており、パッケージには穴など外部から混入させたような形跡がないことなどから、 警察当局は、「製造段階で混入した可能性が高い」と見ているが、国内の流通過程についても詳しく調べている。輸入元で日本たばこ産業 (JT)の子会社「ジェイティフーズ」(JTF、東京都品川区)は同日、この工場で生産された23品目の商品の自主回収を始めた。

 JTFなどによると、問題の冷凍ギョーザは「CO・OP手作り餃子(ギョーザ)」と「中華deごちそう ひとくち餃子」。 東京都港区の商社「双日食料」が、中国の「河北省食品輸出入集団天洋食品工場」(天洋食品)に発注し、 天洋食品が加工から包装まで製造過程のすべてを行っている。

 双日食料は、中国で商品の品質や規格をチェックし、JTFが輸入、販売。 千葉県の2家族の食べた商品は同じ工場で昨年10月20日に製造された。同じ製造日の商品は、「手作り餃子」が6816袋、 「ひとくち餃子」が4104袋輸入されたことが確認されている。

 症状を訴えたのは、千葉県市川市の飲食店店員の女性(47)ら家族5人と、千葉市稲毛区の女性(36)と娘(3)、 兵庫県高砂市の男性(51)ら家族3人の計10人。

 市川市の一家は1月22日、同市の「ちばコープ コープ市川店」で購入した冷凍ギョーザを食べたところ、 吐き気や下痢などの症状を訴えた。女性と長女(18)、長男(10)、二男(8)が重症、二女(5)が一時、意識不明の重体となり、 5人とも病院に運ばれた。千葉市の母娘は昨年12月28日、冷凍ギョーザを食べて体調を崩し、母親が入院、娘が治療を受けた。 高砂市の男性ら3人も今月5日、入院した。

 神奈川県の2人、秋田県の1人も同じ商品を食べ食中毒症状を訴えており、県などが関連を調べている。

 厚生労働省は30日、天洋食品で製造された冷凍ギョーザは昨年1月以降、約1300トン輸入されていることを明らかにした。 約1230トンを輸入したJTFのほか、「日協食品」(東京都中央区)、「ワントレーディング」(大阪市中央区) も約70トンを輸入しており、両社に対し、このギョーザの販売を中止するよう要請した。

 同省幹部は、「原料の野菜などに残留していた農薬であれば、今回のような急性症状を起こすことは考えにくい」と述べた。

 今回のようなケースでは、だれかが故意に農薬を混入させた疑いが強い場合、警察は殺人未遂容疑で捜査するが、 誤って混入された疑いが強い場合には、業務上過失致傷容疑などでの捜査が検討される。
(2008年1月30日20時46分  読売新聞)

 

メタミドホスを「農薬」と断定。メタミドホスの検出量および毒性には触れてられていない。 中毒症状とメタミドホスの関係も触れられていない。故意の混入を示唆。

次、朝日新聞

中国製ギョーザで10人中毒症状 農薬検出 千葉・兵庫

2008年01月31日03時11分

 日本たばこ産業(JT)子会社の「ジェイティフーズ」(東京都品川区)が輸入した冷凍ギョーザを食べた千葉、 兵庫両県の3家族計10人が下痢や嘔吐(おうと)などの中毒症状を訴え、このうち、女児(5) ら3人が一時重体になっていたことが30日、わかった。いずれも中国の食品会社「天洋食品廠公司」の製造。 両県警がギョーザを鑑定したところ、メタミドホスなど有機リン系農薬の成分が検出されたため、ジェイティフーズは同公司製造の23品目、 約58万点の自主回収を始めた。

 厚生労働省は、同公司から冷凍ギョーザを輸入した実績がある業者に対し、都道府県を通じて輸入自粛と販売中止を要請。 事態を重く見た中国の国家品質監督検査検疫総局も「早急に事実解明したい」として調査に乗り出した。

 厚労省によると、同公司の食品は、ギョーザのほかにも、ビーフジャーキーや塩蔵ニンニク、トンカツ、肉まんなどがあり、 07年の輸入量は3535トンに達している。

 同公司から商品や原材料を輸入していたとして、ジェイティフーズ以外で自主回収を決めたのは、「加ト吉」(香川県観音寺市) 市販用「Sごっつ旨(うま)いチャーシュー6枚入りラーメン」「ごっつ旨いチャーシューメンとんこつ」など18種▽「味の素冷凍食品」 (東京都中央区)市販用「ピリ辛カルビ炒飯」など2種▽江崎グリコ(大阪市西淀川区)レトルト食品「DONBURI亭かつとじ丼」 など3種。こうした企業から製品を仕入れていた大手コンビニエンスストアでも販売中止が相次いでいる。

 両県警などによると、中毒症状が出たのは千葉県市川市の女性(47)ら家族5人と、千葉市稲毛区の女性(45)と女児(3) の母子、それに兵庫県高砂市の男性(51)ら親子3人。

 市川市の5人は今月22日、同市内の「ちばコープ コープ市川店」で購入した「CO・OP 手作り餃子(ギョーザ)40個」 を食べて吐き気や下痢の症状を訴えたという。女性と長女(18)、長男(10)、次男(8)が重症、次女(5) が意識不明の重体になった。5人とも快方に向かっているが、現在も入院している。

 千葉市の母子2人は昨年12月28日、同市花見川区の「コープ花見川店」で買った同じ商品を食べて吐き気などをもよおし、 入院や通院をしたという。

 高砂市の3人は今年1月5日、スーパーで購入した「ひとくち餃子」(20個入り、260グラム)を食べた後、同じ症状で入院。 次男(18)ら2人は重体になったという。

 警察当局によると、市川市と高砂市の被害者が食べたギョーザなどからはメタミドホスが検出された。千葉市のケースでは、 メタミドホスとは特定できていないものの有機リン系農薬の成分が検出された。冷凍ギョーザは、原材料がキャベツ、 ニラといった野菜と豚肉などで、中国内でパッケージされて輸入されているが、 市川市と高砂市のケースではパッケージからも成分が検出されており、中国の製造過程で混入した可能性があるという。

 厚労省などによると、同公司製造の冷凍ギョーザは、昨年1月から今年1月28日までに約1300トン輸入され、 約1230トンをジェイティフーズが、残り約70トンを日協食品(東京都中央区)とワントレーディング(大阪市)の2社が扱ったという。

    ◇

 〈メタミドホス〉 主に殺虫のために使用される有機リン系の農薬の一つ。日本では農薬として登録されていない。 中国では使用されていたが、厚労省によると、今月に入って製造と使用が禁止された。中毒症状としては、神経が異常に興奮状態となり、 吐き気や発汗、瞳孔の縮小などが現れる。ひどい時には呼吸障害から昏睡(こんすい)となり、死亡に至る。内閣府食品安全委員会によると、 一度に口から与えて半数が死ぬ「半数致死量」は、ラットの場合、体重1キロ当たり16ミリグラムで、 急性毒性は毒物劇物取締法の毒物に相当する。

見出しではメタミドホスを「農薬」と断定。本文では農薬の成分と書いている。 同じくメタミドホスの検出量には触れてられていない。中毒症状とメタミドホスの関係も触れられていない。メタミドホスの毒性(半数致死量) には言及。混入の経緯には全く触れず。

次、毎日新聞

中国産ギョーザ:中毒原因のメタミドホス、現地でも問題に

 中国産冷凍ギョーザによる中毒の原因になった有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、 以前から中国産青果物からたびたび検出され、中国現地でも基準違反が相次ぎ、問題になっていた。にもかかわらず、 中国産の加工食品で農薬検査をする企業はほとんどなかった。

 日本では02年から、中国産カリフラワーやレイシ、そばなどから基準値を超える量が何度も検出され、 2年前、厚生労働省は中国産そばについて全量検査が必要な検査命令を出すなどメタミドホスは要注意の農薬だった。

 しかし、そうした中国の事情を考慮した検査体制を取る企業は少ない。岩井睦雄JT取締役は 「中国産の冷凍野菜では農薬を検査していたが、加工品では異臭や細菌検査しかしていなかった」と体制の不備を認めた。

 一方、日本生活協同組合連合会では年に1度、商品サンプルの農薬を調べているが、限られた商品が対象で、 今回問題となったギョーザでは実施していなかった。飯村彰・同連合会常務理事は「千葉県の3件目の食中毒で警察からの通報を受け、 初めて農薬のことを知った。1件目から農薬に注目すべきだった」と反省点を挙げた。

 食料自給率が40%を切る輸入大国、日本。食卓は中国産の加工食品に対する依存度が高い。今後、 コストとの兼ね合いでどこまで農薬検査を拡充できるか、重い課題が突きつけられた。

【小島正美】

毎日新聞 2008年1月31日 0時53分

中国産ギョーザ:どこで殺虫剤混入? 中国での包装段階か

 中国産ギョーザによる中毒事件で、有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、どこで混入したのか。 10人の被害者が出た千葉、兵庫両県警の調べでは、問題のギョーザの包装紙には穴などはなかった。 商品の外側から注射針などを使って混入した可能性は低く、中国での生産段階で入ったと考えるのが自然だ。

 推定できるのは、▽原料である野菜などにもともと残留農薬として付着していた▽工場での製造過程で入った- -の2ケースだ。農林水産省によると、メタミドホスは、加熱調理することで分解され毒性も弱くなる。 ギョーザは冷凍前に加熱処理されており、残留農薬の可能性は低いとみられる。

 工場での製造過程での混入の可能性が高いが、厚生労働省の担当者は 「限られた商品で被害が出ていることを考えると、個々の商品になる直前に混入したのではないか」とみる。両県警の捜査では、 メタミドホスは商品のパッケージから検出されている。この担当者は「包装段階が最もあり得る」と話している。

毎日新聞 2008年1月31日 2時25分 (最終更新時間 1月31日 2時42分)

殺虫剤と記載。農薬は何でも危険、という印象の記事ではない。小刻みに、トピック別に書いている。 今ひとつまとまりに欠けるが、事実関係が刻々と明らかになる過程では有効かも知れない。混入経路についての記事は重要なポイント。

なお、昨日(1/30)午後9時頃のNHKニュースでは、中国野菜の残留農薬問題と一緒に報道していた。 実際に野菜の残留農薬による食中毒の事例の一つも紹介しないで、 中国の都市部の消費者も不安を抱いている事のみ伝える極めて頭の悪い対応である。伝えているのは、「不安を抱いている人がいる」 と言う事実のみで、食中毒を引き起こすレベルの殺虫剤が含まれた野菜が流通しているという事例ではない。 今回の事例に直接関連した情報は一つもない。

とどめは時事通信。

2008/01/31-00:20
中国では死亡例も=「メタミドホス」中毒
 
 【北京30日時事】
千葉県などで発生した中毒問題で検出された有機リン系物質「メタミドホス」 は中国では最近まで、 殺虫剤などの農薬として稲作などに広く使用され、 2004年には四川省で中毒による死亡事故も起きていたことが30日、 分かった。
 当時の新華社電などによると、同年3月と4月に同省で2件の中毒事故が発生し農民2人が死亡。いずれも、 「メタミドホス」 殺虫剤を調味料と間違えて食品に入れて口にしたためという。新華社は 「メタミドホス農薬は広く使用されており、 四川省衛生庁は注意するよう警告した」と伝えた。
 

メタミドホスによる中毒には違いないが、 コントロール下の残留農薬と一緒に扱う問題ではない。摂取して死ぬような毒性のある化合物は各種産業では広く使われている。 この事例はメタミドホスの危険性の問題ではなく、調味料と毒物を間違えるような取扱をする人がいた点に問題がある。・・・ 淘汰されたようだが。

 


 

殺虫剤メタミドホスが今回の食中毒の原因であると仮定すると、今回中毒を起こした方の摂取した量は、無毒性量 (NOAEL) を超えている可能性がきわめて高い。 1日許容量(ADI)とNOAELの関係はNOAELに安全係数をかけて10-100倍厳しくしたものがADIとなる。

FAOのホームページによる残留農薬基準ではメタミドホスの1日許容量(ADI)は0.01mg/kg/day。 ラットの急性毒性のNOAELは0.1mg/kg(published as not to cause any toxicological effectとある)。

そうすると、ヒトで体重50kgならNOAELは5-50mg相当か (ADIの100倍として推定。 慢性毒性ベースで考えている1日許容量からNOAELを推定するのは邪道ですが)。

摂食したギョーザの数が5-10個だとすると、 重量にして70g-140gの範囲。 食べた方の体重が50kgだとすると、NOAELぎりぎりの量で中毒したと仮定して (実際はもっと摂っているだろうが)、 食べた際にギョーザに残留していたメタミドホスの濃度は至極大雑把に言って35-700ppm以上と考えられる。 加熱調理の際に何割か分解しているだろうから、元々はもっと多く混入していたことになる。

この量は非常に低く見積もっているが、 それでも残留農薬の一律基準である0.01ppmの3,500倍から70,000倍にあたり、 農産物に残留する農薬の量としてはいかにも多すぎる。まして、ギョーザに入れる野菜は、 白菜やキャベツが主でニラは少量だ。白菜やキャベツは結球野菜なので、農薬は表面にしか付かない。メタミドホスは移行型殺虫剤だが、 タバコの実験では植物体内部のメタミドホス濃度は最大でも5ppm程度にしかならない。結球野菜は一皮むけば、 あとは表面に付いた農薬を含んでいない水が重量のほとんどだからタバコよりも濃度は低くなるだろう(残留基準値:はくさいは2ppm キャベツは1ppm) 。だから、加工時点で高濃度の殺虫剤が野菜内部に残っていたというのは非常に考えにくいし、 それを加工したギョーザに残留農薬として35-700ppm以上含まれていたことも、まず無いだろう。

だとすると、 野菜に付着した残留農薬に対する原材料レベルでのリスクマネージメントでは、 被害を防ぐことはできない事になる。

一方、現実的なコストの範囲では、故意の毒物混入を検査で防ぐ方法は、 今のところ存在しないと考えて良い。 農薬の一斉分析で同定できるのは、化学構造の明らかなもののみ。 毒物だって化学物質としては多様な実体をもつのだから、 何でも検出できると言うわけではない。また、 食品のような天然物は非常に多くの化学物質からできているので (一般の方はこの点について誤解が多い。我々が口にする全ての食品は、 100%化学物質でできている。)、 何かが検出できたとしてもそれが毒物だと同定できるわけではない。つまり、 検査技術でどうにかなるものではない。

また、抜き取り検査で分かるのは生産ロット単位での推定なので、 包装時点でたまたま数個のパッケージに毒物を混入する手口の場合には、 毒物が特定できる性質のものであったとしても検査をすり抜ける事になる。 故意の毒物の混入であれば、これは犯罪だ。 生産者や行政のリスクマネージメントで防止できる問題ではない。製造物のレベルで毒物混入の検査を行っている食品会社は無いだろう。 原材料に毒性が無く(農薬の検査はするだろうが、毒物の検査はしない)、正常な加工プロセスでは毒物は発生しないので、 できてくる食品にも当然毒性はないと推定されるので、検査する必要が無いからだ。

もっとも、 最初の食中毒の報告から製品回収までに1ヶ月間もかかった事実が一方にあり、 この点について被害の拡大を防ぐためのリスクマネージメントは対応が不十分であった可能性は否定できない。 製品が食中毒の原因になったかどうか事実を確かめるか、もしそうであった場合の結果の重大さに鑑みて、 早急に対応するべきであっただろう。これは、企業の危機管理の問題だと思うが。

人気blogランキングへ←クリックしていただけますと筆者が喜びます!

2008年1月30日 (水)

Synthetic Mycoplasma genitalium JCVI-1.0の"すかし"

大げさな記事が出たものだなぁ。

先日、細菌ゲノムの全合成というエントリーにDr. C. Venterらの研究所の仕事について書いたが、Wired Visionにその合成ゲノム中の”透かし”についての記事が出ていた。Dr. Venterの情報の又聞きを次のように書いてある。

同研究所の所長J. Craig Venter氏はこの「透かし」について、次のように説明したと『New York Times』紙のAndy Pollack記者は伝えている

「Venter氏によると、これらの透かしには暗号化されたメッセージが含まれているという。 探偵になってメッセージを解読するには、透かしの暗号化されたアミノ酸配列を特定しなければならない」

そして、Wired Visionは、

Wired Scienceの電話依頼に応じて、NCBIのDavid Wheeler氏とTao Tao氏が、 Venter氏の研究所から提出された遺伝子配列を調べてくれ、一見何の変哲もないように見える配列に隠された透かしを見つけた。 そしてわれわれはそれを解読した。

史上初の細菌の合成ゲノムに埋め込まれることで歴史に残ることになった、5つのメッセージの解読結果をここに初公開する。

と誇らしげに書いている。

ちなみに、Synthetic Mycoplasma genitalium JCVI-1.0の塩基配列は1/24付でNCBIのデータベースで公開されている。 このデータは最初から誰でも見ることができる。塩基配列情報にはどんな遺伝子がコードされているかを要約したFeature tableが付いている。そこを見ると、ご丁寧にも、


  
84823..84879
/note="watermark; Translation in frame 1: CRAIGVENTER"

  
169040..169108
/note="watermark; Translation in frame 1: VENTERINSTITVTE"

等(あと3つあるが、)とわざわざ”watermark”(透かし)と書いた注釈が入っている。ページ内検索で” watermark” をキーワードにして探せば誰にでも見つけられる。

Wired Visionの記事は、この作業を大仰に「解読」と言っており、しかも1/28に公表した記事 (日本語版は1/29)では「ワイアードが初公開:合成ゲノムに隠された暗号を解読」という見出しを打っている。

私は、ゲノム情報そのものは1/24に公開されていたものだからWiredが初めて公表するものではないし、 Feature tableにわざわざ 「透かしです」と書いてあるものを見つけて読むのも「解読」とは言わないと思うのだが (暗号化もされてないことだし)、 世間ではどうなんだろうか。

人気blogランキングへ←クリックしていただけますと筆者が喜びます!

2008年1月29日 (火)

redFの謎

今日は面倒くさい謎解きの宿題を頂いたので、そのプロセスを記録しておく。

pIndigoBAC-5というBACベクターには、redFというORFがある。 このredFがどこから来たか、が今日の宿題。

BAC(Bacterial Artificial Chromosome)は、大腸菌のF-plasmid(約100kbpほどの巨大プラスミド) の複製機構を利用して、外来の巨大DNAをクローニングするためのベクターだ。

PubMedで安直にF-plasmid, redFというキーワードで検索しても、何も出てこない。

仕方がないので、Google Scholarで調べたけど、これもダメ。そこで、キーワードをF-factor, redFで検索すると、pIndigoBAC-5の取説がヒットした。

それによると、pBeloBAC11由来と書いてある。 redFの部分はpBeloBAC11由来かも知れないので、pBeloBAC11のmapを探す。 mapにはredFは出ていない。が、 よく見るとCmRの上流の1831にBstZ17Iの制限サイトがある。滅多に見かけないマイナーな制限サイトだ・・・ と思って、pIndigoBAC-5のmapを見るとやはりBstZ17Iサイトがある。おそらく、 pIndigoBAC-5のredFは、pBeloBAC11由来だ。

次に、オリジナルのF-plasmidにredFが無いと、 pBeloBAC11までさかのぼれてもご先祖様が分からない。そこで、pIndigoBAC-5の塩基配列のORFを検索BstZ17Iサイトを含む領域にあるORF(115AA)をblastPにかけて、 F-plasmidにヒットするかどうか調べた。

NCBIのAP001918には、 46866..47672のポジションにgene="resD", note="99 pct identical to sp:REDF_ECOLI[ResD of plasmid F]というORFがあることがわかった。 やっとredFという表記が出てきた。本体はresolvaseだった。

次に、AP001918のgene="resD"の部分配列(459-807=349bp)と、pIndigoBAC-5のORF “redF”(1642-1990=349bp)とアラインメントした。

すると100%マッチした。

従って、ベクターの起源から考えても、この部分はF-plasmidと考えて差し支えないだろう。

確認のためにpBeloBAC11のBstZ17I サイトを含む領域(1642-1989) にあたる115AAのORFをpIndigoBAC-5のBstZ17I サイト近辺のORFとアラインメントした。

すると100%マッチした。

従って、このredFはF-plasmid→(未確認のご先祖様) →pBeloBac11→pIndigoBAC-5という来歴があるのだろうと推定した。ただし、 F-plasmidのresolvaseは807bp, 268AAあるので、なぜ中途半端な入れ方をしたのかは現時点では不明。

ベクターを構築する際の継ぎ目にあたってるかどうかまで調べれば分かるのかも知れないが来歴が推定できたのでこれ以上調べても意味がないのと、 面倒なので止めておく。

しかし、ご先祖様であるpBeloBac11でORFと見なしていないものを、 わざわざpIndigoBAC-5ではORFとして扱い、 しかも部分配列であるにもかかわらずredFと名前まで書いてあるのは理由が分からない。 どなたかご存じでしたら教えて下さい。

論文によってはredFを” essentilal components of the single-copy F-factor replicon” の一つとまで書いていますが、 その論文に書いてある仮想的BACの起源の一つであるEpicentreのpCC1BACも起源はpBeloBAC11なので、 その先祖の一世代前のベクターであるpBAC108LまでさかのぼらないとredFの起源は分からない。 ・・・そっから先の調査は趣味の領域だ。

趣味に走って一つだけさかのぼってみると、この論文ではBACの構成はFig.1に至極あっさり書いてあって” The plasmid is based on a mini-F plasmid, pMBO131”とある (また新しいご先祖様の登場だ)。しかし、redFの説明は見あたらない。 ちなみにベクターの図(Fig.1)ではCmRの下、2時の位置(redFのあたり)に継ぎ目があるが、 バックボーンのpMBO131に由来する部分なのでこの論文では分からない。少なくとももう一つ1989年の引用文献をあたらないと・・・ と言う具合に際限がないのでここらで止めておく。腹も減ったし。

いずれにしても、核酸供与体は大腸菌ということにしておこう。F-plasmid由来というのは見当が付いたことだし。実際には、 自然界ではあちこち動き回っているかも知れませんが。

人気blogランキングへ←クリックしていただけますと筆者が喜びます!

2008年1月28日 (月)

細菌ゲノムの全合成

あまり一般向けのお話ではありません。

Dr. C. Venterらの研究所の仕事。プレスリリースはこちら。 論文はこちら

Mycoplasma genitalium(G37株)というバクテリアのゲノム(582,970 bp)を、 合成DNAを組み合わせて5-7kbのDNA断片110個の再構築で作ってしまった、という研究 (NCBIにVenterらが登録したシーケンスは580,076 bp)。

中間段階では72kb、144kbのサブゲノムを構築してBACクローンとして大腸菌で増幅、 最後のアセンブルはYACに入れて酵母の細胞内の相同組換えを利用して作成、と言う作成手順。しかし、 最初の5-7kbの断片の構築には100-150merくらいの合成DNAを100-140個組み立てる作業があり、 そこを組織的に行うノウハウが、実はこの研究のキモかもしれない。

ちなみに100-150merの合成DNAの価格は\100/base x 150 + \30,000(精製料金) =\45,000くらい。二本鎖なので、この2倍で\90,000で150bp。7kbpだと約46.7倍で\4,200,000。 これを110個並べるとなると、最低限の原材料費だけで4億6千2百万円要る。合成DNAも大口のディスカウントがあるのかも知れないが、 50% OFFと言われても、そう得をした気分にはならないだろう。

合成したMycoplasma genitaliumのゲノムサイズは583kbなので天然痘ウイルス (Variola virus)の約185kbpやワクシニアウイルスの約195kbpの3倍程度だ。すでに理論的にはこれらの大きなサイズのウイルスゲノムの合成は可能であったが、今や技術的にも可能になった。あとは、 ヒト培養細胞内にワクシニアウイルスMVA株と合成天然痘ウイルスゲノムを共感染させると、 案外簡単に天然痘ウイルス粒子の再構成ができてしまうかもしれない(こちらのオリゴDNA代は、グッとお得でたったの1.6億円)。

DNA合成装置を規制しないとバイオテロの危険が・・・という論調の報道もあったが、繰り返しになるが、 合成DNAが入手しやすいことや、組換え技術の普及がバイオテロの引き金になる訳ではない。遺伝子組換え技術を利用して (あるいはしなくても)、強力な病原体を開発する手段は、かなり前からあったのだから。問題は、 コストをかけて違法行為をやるかどうかという判断を誰がするか(つまり、研究熱心で勤勉なテロリストや協力者が居るかどうか)、 ということなのだから。こういうスケールの仕事の追試験は予算の制約から実質的には非常に難しい。また、 作ったものが目的通りに機能するかは、実証試験をしてみるまでは分からないのでテロリズム用のツールとしては不確実性が高い。

既にアメリカの規制当局でも”Proposed Framework for the Oversight of Dual Use Life Sciences Research: Strategies for Minimizing the Potential Misuse of Research Information”と題して潜在的なバイオ技術の悪用に関する議論されている様です。 いずれ、日本の研究者コミュニティーにも何らかの波及があることだろう。

このチームは、昨年、二種類の近縁の細菌同誌の間でゲノムDNAの入れ替えに成功している。 次のターゲットは恐らく、人工合成した細菌ゲノムを異種の細菌の細胞に移植することか。

人気blogランキングへ←クリックしていただけますと筆者が喜びます!

« 2008年1月20日 - 2008年1月26日 | トップページ | 2008年2月3日 - 2008年2月9日 »

twitter

  • Bernard_Domon

Ranking

  • にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
    日本ブログ村
無料ブログはココログ