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2008年11月30日 - 2008年12月6日の記事

2008年12月 3日 (水)

地方分権改革推進委員会二次勧告骨子

朝日新聞では朝刊のトップ記事だった。8日に取りまとめ、公表なのでその後内閣府のホームページで確認するとよいのだが、主要農作物種子法の改正に関わる勧告が含まれているようだ。

記事には、地方分権委が見直し(この場合は廃止)を求める主な義務づけの一つに、次のようにあった。

[主要農作物の種子]
都道府県は、種子生産者が栽培中の米、麦、大豆の出穂状態や発芽の良否を審査し、証明書を交付

ちなみに主要農作物種子法には次のようにある。

(定義)

第二条
 この法律で「主要農作物」とは、稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆をいう。
2 この法律で「ほ場審査」とは、都道府県が、種子生産ほ場において栽培中の主要農作物の出穂、穂ぞろい、成熟状況等について審査することをいい、「生産 物審査」とは、都道府県が、種子生産ほ場において生産された主要農作物の種子の発芽の良否、不良な種子及び異物の混入状況等について審査することをいう。
(略)
(ほ場審査証明書等の交付)

第五条
 都道府県は、ほ場審査又は生産物審査の結果、当該主要農作物又はその種子が前条第五項の都道府県が定める基準に適合すると認めるときは、当該請求者に対し、農林水産省令で定めるほ場審査証明書又は生産物審査証明書を交付しなければならない。

この優良な採取ほ場の審査制度は、思うに、自治体の指定する奨励品種等の制度とセットになって生産資材としての種子の品質を保証するのに一役買っているのではないか。性能の良い品種であっても、適正な生産プロセスで生産されて初めて、生産資材としての種子の能力を発揮する。証明書の交付は、それを保証するための一つの手段であろう。

この種子の生産プロセスに対する自治体の保証がなくなった場合、どうやって種子が品種としての性能を発揮できるようにしていくか?国による義務付けが外れれば、それに代替する仕組みが無い場合には、自治体が自らの責任と権限において同様の保証をするか、農協など集荷にあたる団体にその仕組みを肩代わりさせるか、何らかの方策が必要になるだろう。

あるいは、制度自体を廃止して外資による種子の独占を許すのか。

この制限の撤廃は、小さな出来事に見えるかもしれないが、やがてかなり大きな波及効果を持つかもしれない。

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2008年12月 2日 (火)

”葉緑体を飼うウミウシ”の続報

昨年7月のエントリーでウミウシの一種”Elysia chlorotica”が餌にしている緑藻”Vaucheria litorea (C. Agardh)”の葉緑体を細胞内で共生させている話題を紹介した。その続編とも言うべき研究を、University of MaineのDr. RumphoらがPNASで発表している。

要するに、この特異なウミウシは餌の緑藻の核遺伝子の(少なくとも)一つを自分のゲノムに取り込んでおり、しかもその遺伝子から翻訳したタンパク質を細胞内に取り込んだ藻類の葉緑体に供給することで、長期間にわたって取り込んだ葉緑体を長持ちさせているのだ。

ちなみに、ウミウシは英語では"Sea slug"、直訳すると「海ナメクジ」という優雅ならざる呼び名を頂戴している。

遺伝子の水平移動と言う現象は微生物では良くあることなのだが、軟体動物で、しかも植物と動物の間で遺伝子が移動したという事例はこれが初めての発見では無いだろうか。

[植物の遺伝子についての知識があまりない方のための解説]

一般に植物の葉緑体には、葉緑体ゲノムと呼ばれる環状のDNA分子が存在しており、葉緑体を形作るタンパク質の遺伝情報は葉緑体ゲノムに保存されている。しかし、葉緑体の機能全体をまかなうのに必要なタンパク質全部の遺伝情報が葉緑体ゲノムに保存されている訳ではなく、遺伝情報が植物の核ゲノムに保存されて いるものもあり、それらは核で合成されるmRNAの情報に基づいて細胞質でタンパク質に合成され、葉緑体へと運ばれて行きそこで機能する。

[で、PNASに掲載された論文についてのメモ]

ウミウシの一種Elysia chloroticaは、餌としている緑藻Vaucheria litorea の葉緑体を消化管上皮に共生させている。そこには緑藻の核ゲノムはないので、それらの葉緑体が数ヶ月に亘って機能を維持し続けている事実と、それに必要なタンパク質がどのように供給されているのかは謎である。

可能性としては、
1.緑藻の葉緑体が自律的に機能できるのか、あるいは
2.ウミウシから葉緑体機能の維持に必要なタンパク質を供給してもらっているか・・・の両方、あるいはそのどちらかが考えられる。

そこで、遺伝子の水平移動によってウミウシが緑藻の遺伝子を獲得してタンパク質を葉緑体に供給していると言う仮説に基づき検証を行った。まず、緑藻の葉緑体 ゲノムを調べたが、その結果光合成に必要な遺伝子が一部欠けていることを確認した。次に、ウミウシの遺伝子発現を調べたところ、葉緑体の有酸素光合成に必 要な緑藻の核遺伝子psbOがウミウシの細胞で発現していることと、この遺伝子がウミウシの生殖系列の細胞のゲノムに含まれていることを示した。

ウミウシ由来のpsbOの塩基配列は緑藻Vaucheria litoreapsbOのものと同一であったことから、餌であるVaucheria litorea由来である。この緑藻のpsbO遺伝子の3’側近傍の塩基配列とウミウシの相同な遺伝子の間では高度に多様であり、ウミウシのミトコンドリアの遺伝子は含まれていなかった。[註:コンタミの可能性の排除という意味でのチェック]

  • supporting informationとして動画が2本付いています!なんだか科学論文も凄いことになってきています。軟体動物が苦手な人は見ない方がよいでしょう。S1, S2
  • かつては、特定の植物種の葉緑体ゲノムやミトコンドリアゲノム構造を決めること自体を目的として、論文になったものですが、この論文では葉緑体の細胞内共生 の機構解明を目的に、緑藻の葉緑体ゲノムとミトコンドリアゲノムのシーケンスをやっちゃってます。なんだかすごい時代になったものです。
  • ところで、核ゲノムコードで葉緑体に供給されているタンパク質は恐らくpsbOだけではないので、全体像としてはどうなっているのだろうか?
  • このウミウシは進化の途上でVaucheria litoreaしか食べてこなかったのか?次はウミウシの全ゲノムの決定か?なんだか、マッドサイエンスな香りがします。
  • このElysia chloroticaとは近縁で無いウミウシでも藻類の葉緑体を保有するものがいるようなので、そっちはどうなのだろう?
  • 取り込んだ葉緑体で光合成をするのはわかった。で、どうやってこのウミウシは葉緑体の光合成産物を頂戴しているのだろう?葉緑体から糖を取り出すのもそう簡単では無いと思うのだが。こっちも謎だ。

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2008年12月 1日 (月)

ヘビ毒から鎮痛ペプチド

11/30の朝日新聞より。

ガラガラヘビ毒から「強力」鎮痛物質 富山大

 南米産のガラガラヘビの毒から、モルヒネの数百倍の鎮痛作用がある物質を抽出して合成することに、富山大和漢医薬学総合研究所の紺野勝弘准教授らが成功 した。ラットの実験では効果が3日以上持続し、飲み薬の麻酔に使える可能性があるという。共同研究する製薬会社を探し、新薬の開発をめざす。

 ブラジルに生息するガラガラヘビは、運動神経をまひさせる猛毒で知られるが、かまれても激しい痛みを感じないという。ブラジルでは30年代に、毒を薄めて痛み止め薬として市販されていたという。

 紺野さんは、世界的な毒蛇の研究機関として知られるブラジルのブタンタン研究所や富山大で、ガラガラヘビの毒を分析。チームで、アミノ酸が14個つながった化合物が鎮痛物質と突き止めた。

 さらに、鎮痛効果を確かめるため、ラットの脚に重さをかけ、どれぐらい我慢できるか調べた。この物質を飲んだ群は飲まない群に比べ、ほぼ倍の重さ の痛みに耐えることができた。その効果は、1回、飲ませただけで3~5日続いた。モルヒネで同じ効果を出すには、その数百倍の量が必要なことも分かった。

 モルヒネは、使う量を増やさないと効き目が悪くなることがある。一方、このヘビの毒は量を増やさなくても同じ効果が続いたという。

 紺野さんは「飲み薬として使えれば、普及する可能性がある。痛みを抑える仕組みを解明して、薬作りにつなげたい」と話している。(佐藤久恵)

ペプチド医薬品は単価が高くなりがちなところが泣き所ですが、これは次の点で画期的な発見です(いずれ安く製造できるようになると良いのですが)。

  • ”アミノ酸が14個つながった単純な構造の化合物”であること。
  • 経口投与できること。注射しなくても良いので、ガン患者等のペインクリニックには向いているかもしれません。
  • 持続時間が長いこと。3-5日間効果が継続するということは、なかなか代謝されないということ。主成分がペプチドであれば、モルヒネなどのアルカロイドのように代謝する器官に負荷がかかることもないはず。

カルタヘナ法関係では、ガラガラヘビは実験分類クラス1ですので、認定宿主ベクター系であれば、拡散防止措置はP1レベルで十分です。毒素の毒性の強さによっては大臣確認が要りますが、後述の論文では、この毒素を使ってラットの経口投与試験をしているので、LD50が「体重一キログラム当たり百ナノグラムを超える」ことから大臣確認実験には該当しません(最大で25 μg/kg投与しています)。

もっとも、「毒を薄めて痛み止め薬として市販されていた」とありますので、鎮痛成分自体はもともとそう強い致死性の毒素ではないはずです。

ペプチドが経口投与で生理活性を発揮するというのは実は結構大変なことで、消化管で全く分解されないか、あまり分解されない、小腸の壁から吸収されて血流に乗る、しかも生理活性(この場合は鎮痛作用)を発揮する様な血中濃度が維持できること、など様々な関門があります。鎮痛作用といっても、局部麻酔のように局所的に末梢神経の刺激の伝達をブロックする場合と、中枢神経を抑制する場合があります。脳で作用する物質の場合は血液脳関門を透過しないといけな いので、文字通りもう一つ関門があることになります。通常、opioid peptideはなかなか脳関門を通らないとされているので、脳に届いて作用するのであればそこも画期的です(・・・天然物なのに!)。

論文が出ているはずと思って調べてみたらこちら。鎮痛物質はcrotalphineと言うそうです。鎮痛ペプチド(-phine)らしい名前ですね。Abstractによると、
"This 14-amino-acid residue sequence is identical to the gamma-chain sequence of crotapotin, a non-toxic component of this snake venom."
とのことですので、毒性の心配は要らない様です。

一方、
"The amino acid sequence of this peptide, designated crotalphine, was determined by mass spectrometry and corroborated by solid-phase synthesis to be <EFSPENCQGESQPC, where <E is pyroglutamic acid and the two cysteine residues forming a disulfide bond."
とのことで、N末端側がピログルタミン酸になっているので、もし組換え生物に作らせるとしたら、相当の工夫が必要かも知れません(ピログルタミン酸はそのま まではエドマン分解できないそうなので、構造決定の際にも厄介だったのではないでしょうか)。また、7番目と14番目のCystein残基がS-S結合し ているようなので、そのあたりをきちんと分子内で結合させる制御が難しそうです。

なお、新聞記事の見出しでは”「強力」鎮痛物質”とありますが、強さで言えばイモガイの産生するコノトキシンの方が強いかも知れません。しかし、あまり作用が強いものはコントロールが難しくなってしまいます。また、コノトキシンは経口投与できないそうなので、その点でもcrotalphineの方が使い道によっては有利でしょう。

ちなみに、鎮痛作用はあまり強くはありませんが、ホウレンソウ由来のRubiscolin-6というものもあります。こちらも経口投与で作用が現れるのですが、鎮痛作用だけでなく記憶力改善にも効果があり、さらに抗不安効果もあるとのこと。構造は単純で、6アミノ酸残基(Tyr-Pro-Leu-Asp-Leu-Phe)で、修飾や分子内結合はありません。

ただし、こちらの論文で は経口投与の場合の投与量が0.1g/kg体重なので、体重60kgのヒトであれば、このペプチドだけ6gも摂取しなければいけません。ご飯(白米)のタ ンパク質含有率は約2.5%ほど。粗タンパク量としては、ご飯を240g食べれば6gのタンパク質を摂取できますが、お米のタンパク質全量を組換えタンパ ク質に置き換えられる訳ではないので、技術的にはかなり難しいところです。

※ ですが、抗不安薬の成分を含んだ組換えイネというのは、社会的なコンセンサスを得るのは難しいように思います。モルヒネの受容体に作用するようなので、も し習慣性があると困るし・・・。でも、お米ってほぼ毎日食べてるような・・・いやいや、他の品種のお米だと食べた気がしない、というのではやはりいけない。

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