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2008年8月3日 - 2008年8月9日の記事

2008年8月 9日 (土)

[業務用覚書] 精製していないPCR産物で酵母の形質転換

Transformation-Associated Recombination (TAR) もどきのクローニングを試みている。

たまたまコンピテントセル(というかOD600を3.5-5にあわせただけの酵母培養液、BY5677株)があまったので、 Ura3遺伝子の一部を仕込んだプライマーでPCRして線形化した自作のベクターと、 選抜マーカーUra3遺伝子カセットのPCR産物を使って形質転換をしてみた。

和光純薬の酵母形質転換キットのプロトコルを見ると、濃度を調整した酵母培養液を”培地ごと” 形質転換試薬およびプラスミドと混合するようになっていた。その昔、大腸菌の形質転換を習ったころは、 できるだけDNAをきれいにしなさいと言われたものですが、 酵母の場合は形質転換する細胞懸濁液に培地の成分が入っていても何とかなってしまうんですね。

じゃぁ、いっその事、未精製のPCR産物でも支障なく形質転換できるんじゃない?と思って、 コンピテントセルが残ったらそのうちやってみようと、未精製のベクターと未精製のPCR産物を取っておいた。効率は約5 kbpのベクターで約7.0 x 10^3 cfu/1ug DNAだったので、50 ng位のベクターバックボーンがあれば十分にベクターの構築ができる。

# しかも、QIAGENのカラムのようなPCR産物の精製キットを使わずに済むので、きわめて安上がり!

なお、形質転換キットのプロトコルでは1.0 x 10^5 cfu/1ug (pRS316)なので、それよりはかなり低い(1/10以下)が、 TARもどきのクローニング相同組換えなので相同組換えを起こしたベクターを持った形質転換体しか生えてこない。通常の形質転換の場合は、 細胞にベクターのDNAが入る確率で形質転換効率が決まるが、TARの場合は、細胞にベクターが入る確率 x 細胞にクローニングしたいDNA断片が入る確率 x 相同組換えが起こる確率で形質転換効率が決まる。・・・と考えると、 今回の効率はそれほど低くは無い。

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2008年8月 8日 (金)

政府が遺伝子組換え作物の導入を推進したがる理由

8月5日のニュース

ベトナム政府は、食料輸入を減らして貿易収支を改善する目的で、 遺伝子組換え作物を導入して国内農業を強化しようという施策を検討中とのこと。

【ベトナム・インドシナ】遺伝子組み換え容認か、狙いは輸入削減

8月5日8時0分配信 NNA

 

 ベトナム政府は、遺伝子組み換え農作物を容認し、2010から本格栽培・ 生産に踏み切る計画を進めているもようだ。 収穫量が見込める遺伝子組み換え農作物を利用して大豆などの生産量を拡大し、輸入依存度を下げるのが狙いという。 3日付タインニエン電子版がブルームバーグを引用して報じた。

 農業地方開発省のファン・バン・トアン科学技術課長によれば、遺伝子組み換え作物による大規模生産を、 10年から始める計画だという。主に大豆、トウモロコシ、綿花の輸入依存度を減らすことができると見られ、 これにより貿易赤字を減らし、経済の安定が期待できる。
 
 最新の国内インフレ率は1992年来最高の年率27%に上るが、その主な原因は食糧価格の上昇だ。
 
 トアン課長は、ベトナムでは05年に農産物輸入削減計画が承認されているとコメントしている。
 
 ■「10月に立法措置」
 
 在べトナム米国大使館の農業担当部局の報告書によれば、ベトナムの担当部局は、 すでに遺伝子組み換え作物の導入に向けた法律の草案を策定済みだ。 法案は10月に開会予定の国会で通過の見通しだと報道されている。
 
 ベトナムはインドネシアなどと並ぶアジア有数の大豆輸入国だ。輸入大豆は主に家畜飼料として使用される。 米農務省海外農業局(FAS)の資料によれば、ベトナムは昨年、大豆240万トン、 トウモロコシ75万トンを輸入した。
 
 綿花は縫製品の原料として輸入されており、ベトナム統計総局(GSO)によれば、輸入量は1~7月期に26% 増加して17万トンに達した。縫製品は原油に次ぐ2番目の主要輸出品目だ。
 
 ベトナムの1~7月期の貿易赤字額は、昨年の年間赤字額を上回る150億米ドルに達している。 昨年1~7月期の貿易赤字は63億米ドルだった。
 
 今年1~7月期の輸入額の伸びは57%で、上半期(1~6月)の伸びである62%からは鈍化した。
 
 米大使館の報告書によれば、ベトナムは20年までに遺伝子組み換え作物による生産を農業生産の約70% に拡大する計画だという。<ベトナム>

 

政府が遺伝子組換え作物を奨励する理由は様々だが、こういう選択もあるんですね。

ベトナムの様な温暖多雨の地帯では、ダイズの生産性向上のキーとなる形質は、発芽時の耐湿性、耐虫性、 それに糸状菌などに対する耐病性だろう(乾燥の激しくない地域では、アブラムシの媒介するウイルスによる病害は案外少ないかも知れない)。 どれも遺伝子組換えですぐに何とかなるという状況ではない。しかし、亜熱帯- 熱帯では雑草の生育も早いのでラウンドアップ耐性は良い選択肢ではある。

ラウンドアップ耐性ダイズはブラジルやアルゼンチンで効果を上げていることからベトナムでも一定の成功が見込めるはず。そのうち、 生産用種子も国内自給するのだろうか。

 

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2008年8月 7日 (木)

第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針の改正

最近、初対面の方からblog読んでます、と挨拶されることが多くなってきた。・・・しかも農水省や新聞社の方から。

あまりお気楽なことばかりも書いてもいられないのかな、と頭のどこかで思いつつも、そもそもが私的備忘録なので、 読み手がどう思うかには縛られず、どなたかの為に役立つならそれもよし、くらいに考えておこう。 読者や広告主からお金を頂いている新聞とは違うし。

7/1のエントリーでコメントした農林水産省の 「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針の改正」のパブコメのまとめが7/31に公表されていた。 忙しくって見落としていた。

意見提出:18通(インターネットによるもの14通、ファクシミリによるもの3通、郵送によるもの1通)とのこと。 とりまとめた意見に対する公式回答はこちら。 意見を受けて(?)、論点をふまえた指針の公式解説文書はこちら
# 細かいことだが、普通は寄せられた意見○○通、○○件って、何人から何件来たか書くんじゃないか?

寄せられた意見の内容は、概ね、「栽培中止って、厳しすぎるんじゃね?」というのと「各改正案イ、 ウについて追加的措置の科学的根拠の明示及び定義の明示をキボンヌ」という感じ。研究者からの提出がほとんどだったのではないかと想像する。
農水省の対応は大雑把に言えば「栽培中止がメインじゃなくて、防風ネット設置やトウモロコシの除雄がメインなんでそこんとこよろしく」、 あるいは「読み違えてんじゃねーよ。いちいち対応の必要はないよ」というもの。この種のパブコメの対応としては特に不親切ではない。

むしろ、改定案の解釈についての補足の文書を出している点は丁寧でさえある。たとえばこんな表現がある。


なお、この措置は栽培実験場所の選定の条件について定めたものであり、これによって、 開花期の風速が一時的に毎秒3mを超えるような場所での栽培実験ができなくなること、 又は栽培実験の実施中に開花期の風速が一時的に毎秒3mを超えた場合に当該実験を中止することを意味するものではない。

こう明言していただけると、試験を実施する側としては安心できる。また、物議を醸した「風速3m」についても、どこの風速? どんな計算?という具体が決まらないと何も言えないような要件についても、たとえば次のような考え方が示された。

イ 過去の実測値がない場合
過去3年以上の開花期の平均風速の実測値がない場合は、実測値から以下の数式により「開花期の平均風速の推定値」を算出 (小数点第2位で四捨五入)し、その値が毎秒3mを超えない場所とする。

((A1×B/C)+(A2×B/C)・・+(An×B/C))/n

A1、A2、・・・An:栽培実験実施機関内に設置された気象観測装置等を用いて、栽培実験対象作物の開花期間を含む当該月(例: 7月30日~9月2日であれば、7月、8月、9月でn=3、この場合A1は7月、A2は8月、A3は9月) における栽培実験区画の近傍で測定された各月平均風速値(当該観測値がない場合には、最近傍におけるアメダスデータを用いることも可) について、過去3年以上の平均値(m/秒)。

B:栽培実験区画内における栽培実験対象作物の開花時点の花の高さと同程度の高さに風速計を設置し、 ランダムに抽出した連続10日間以上測定した期間の平均風速値(m/秒)。

C:An の測定を行った地点において、Bを測定した期間と同一期間において測定した平均風速値(m/秒)。

注)「B、Cの測定期間中の平均風速」の算出方法:
測定期間中において終日、毎正時24回、又はそれ以上の回数を測定し、風速観測値の日平均値を1日の平均風速ととする。
測定期間の平均風速は、測定期間中の1日の平均風速の合計を測定期間日数で除し小数点第2位で四捨五入した値とする。


具体案があるんだったらそれも含めて最初から委員会で検討してもらえば良いのに・・・と思う反面、 役所がここまで踏み込むのはなかなか勇気がいることだ。この算定方法の妥当性については専門家の議論を経た、 という手続きが明示されていないので、農水省が責任を負うことになるのだから。その点はこの決断を高く評価したい。
 
一方、低温に対する考え方では、

「開花前の低温により交雑の可能性が想定される場合」について
本指針に該当する栽培実験を実施する独立行政法人が、使用するイネ及びダイズの品種の特性、栽培地域の気象条件、 栽培の実績及び知見を踏まえて、周辺の同種栽培作物との交雑の可能性が生じるおそれがあると判断する場合とする。

とある。要するに「具体的な事例が出てくるまでは何ともいえないので、独法に下駄をあずけます、ということだ。 あとは独法が説明責任を負ってね」と。

これで済むのであれば、「風速3m」も下駄を預けてくれれば良かったのに、とも思ってしまう。

3点ほど残念なのは、
その1、

要望
改正案イ、ウの根拠となった北海道の試験は、大規模な花粉源を想定したものであり、また、 低温条件下での花粉の飛散に関する試験では種子親であるイネのみを低温処理した試験であり、 低温条件下での花粉の飛散を代表する試験であるとは考えられないので、これらの試験結果を踏まえて、 独立行政法人で実施するような小規模な花粉源で行なわれる実験の指針を改正する必要はないので改正案イとウを削除することを要望。
回答
 「指針に定める隔離距離を超える距離での交雑の要因」としては、「大規模な花粉源」以外に「開花前の低温」及び「強い風」 も考察されていることから、今回の改正案イ、ウを新たに追加したところです。
 また、本指針については、科学的知見の充実により適宜見直すこととしており、引き続き知見の集積に努めて参ります。

要望している方は、試験データを解析して高い遠距離交雑率の発生理由は、「低温による不稔」、「開花期の強風」、「大面積の栽培」 の3条件のそろった論理積の場合に発生しているのだから、 小面積の場合にはそもそも検出可能な頻度での交雑は発生しない、といっている。私もこの考え方に賛同する。データの見方がわかる人であれば、 おそらくだれでもそう考えるだろう。
一方、農水省の対応は、”「大規模な花粉源」以外に「開花前の低温」及び「強い風」も考察されている”として、 大面積の栽培を主要因としつつ、補足的な要件である「開花前の低温」及び「強い風」 という条件の論理和で発生するとも読み取れる回答をしている。
これは、データの解釈を誤ったのか、それとも今後予想される大規模栽培に備えて栽培面積に関する敷居を設けたくない、 という独法に対する親心からわざとそう答えたのかはわからないが、議論が完全にすれ違っている。
# 論理積:たとえばA(赤い),B(熱い),C(辛い)の3条件が、AかつBかつC、つまり、赤くて熱くて辛いもの、という条件。
# 論理和:たとえばA(赤い),B(熱い),C(辛い)の3条件が、AまたはBまたはC、つまり、赤かったり熱かったり辛かったり、 という条件。
# これらで形容される範囲は全然違うでしょう?

その2、

要望
本指針の各種措置について、All or Nothing ではなく、リスク管理の考えに基づいた判断が必要であり、 今以上基準を厳しくする必要は無い。あわせて同様の考え方により、食品・飼料安全性承認遺伝子組換え農作物と、食品・ 飼料安全性未承認遺伝子組換え農作物の取り扱いを分け、食品・飼料安全性承認遺伝子組換え農作物は、本指針の対象から除外すべき。
回答
 今回の改正案に対する意見ではありませんが、本指針は、カルタヘナ法に基づき承認された第1種使用規程承認作物を用いて、 農林水産省が所管する独立行政法人が行う栽培実験が国民の理解の下で円滑に行えるよう、 栽培実験上の留意点及び情報提供について定めるものです。
 よって、本指針の各種措置についても安全性の観点に加え円滑な実験推進の観点にたった措置も必要と考えられ、また同様の観点から、 食品・飼料の安全性承認農作物の野外栽培実験も対象とすることが必要と考えます。

・・・スミマセン。「円滑な実験推進の観点にたった措置も必要」なので、「食品・ 飼料の安全性承認農作物の野外栽培実験も対象とすることが必要」という回答の趣旨がわからない。食品・ 飼料安全性の承認された組換え作物の混入では、健康被害の可能性は考慮する必要はないし、混入によって「遺伝子組換えでない」 表示ができなくなる可能性も、広域のほ場において、今回の交雑率の100倍以上である5%以上の混入が起こらない限りないはず。また、 この指針策定時のパブコメでは風評被害対策はこの指針のスコープには含めないと言っていたので、それも違うだろう。
想定されるリスクを明示しないで、この対策は無いんじゃないかな。

その3、

要望
改正案イについて、冷害に対する特段の警戒が過去の気温のデータから行う必要が無いとされている地域の試験においては、 知見により低温による不稔はほぼ生じないとされているので、強い卓越風に関する対策を行う意義は薄い。
 従って、風速に関する規制を行う場合には、その前提として栽培地域の気温に応じた地域区分を導入することを要望。
回答
イネ及びダイズにおいては、栽培地域にかかわらず、これまでの知見によって開花前に低温に遭遇すれば交雑率が高まることが想定されます。 特に、温暖地であっても晩秋など気温が低い時期に開花期を迎える作型による栽培実験では、同様に交雑率が高まることが想定されます。
 よって、各地域の気温により本指針の対象地域を限定するのは適当ではないと考えております。

回答の「開花前に低温に遭遇すれば交雑率が高まることが想定されます。」というのは科学的にはその通り。しかし、「特に、 温暖地であっても晩秋など気温が低い時期に開花期を迎える作型による栽培実験では、同様に交雑率が高まることが想定されます。」というのは、 ほぼ屁理屈。絶対に無いとはいえないが、 晩秋に開花期を迎えるような試験では周辺に開花期が重なる同種作物はまず栽培されていない。 産業ベースでそういう高リスクの栽培を行う農家があることを農水省が把握しているのか?野党の議員さんの質問だったら、 「そのような事実は承知していない」とすげなく回答するだろうに。

 



ちなみに、私の寄せた意見は以下の通り(オリジナルとちょっと違っているかもしれません)

 

1.今般提示された改定案のうち、
第2 栽培実験の実施-2 交雑防止措置-(1)距離による交雑防止措置-イ 
について。

指針改定案策定の根拠となる資料では、岩見沢市のアメダスの風速を参考にしています。 多くの研究独法では隔離圃場に風速計を設置していないことから、栽培予定場所における風速のデータは保有していないため「過去のデータ」 が存在しないと考えられます。従って「過去のデータ」として参考にしうるデータの範囲を、 栽培予定場所直近のアメダス計測点あるいは栽培予定場所での実測値など、具体的に定義しなければ実効性を担保できません。

次に、栽培予定場所直近のアメダス計測点で開花期の平均風速が3mを超える場合であっても、栽培場所に防風林が備えられており、 開花期の卓越風を減衰させる措置が既に執られている場合もあることから、 規制の際の風速は栽培予定地点の実測値に基づくことが実情に則した科学的な措置です。

従って、各独立行政法人の隔離圃場など栽培予定場所での風速データが集積されるまで、 向こう3年間は指針の施行を見合わせることを要望いたします。

2.指針に定める隔離距離を超える距離での交雑の要因は、イネについては
1) 低温による不稔、2) 強い卓越風、3) 大規模な試験
とされております。
試験結果を拝見いたしますと、
a. 農環研による試験では、交雑が検出された理由は試験規模の影響によものであり、試験を実施した際の隔離距離であれば、 交雑程度はモデル実験からも支持されるとおりほぼ0になること。
b. 一方、北海道おける試験では、1) 低温による不稔、2) 強い卓越風、3) 大規模な試験
の3条件が揃った場合には、モデル実験から想定されるよりも相当に高い交雑率が示されたことが分かります。

つまり、a.のケースは、従来の距離による交雑防止措置であっても、花粉源が大面積でない場合には、それなりに有効であり、 b.のケースはこれまでデータがとられたことのない、1)-3)の3条件を同時に満たす栽培状況においては、 遠距離交雑が高まることを示しております。

従って、指針における規制ルールの改定にあたっては、交雑が想定される状況と、それに対応する規制とのバランスを考慮して、” 「1)-3)の3条件を同時に満たす栽培状況においては」、抑風、除雄、 学識経験者の意見を聞いて農林水産技術会議事務局長が定める措置、栽培中止のいずれかを選択する” とする措置が妥当であると考えられます。また、つきましては、低温の具体的な程度、栽培地点における卓越風の程度、 規制の適用範囲となる栽培面積の下限を策定することを要望いたします。

なお、資料の交雑予測モデルの考察には風速の規制値の策定に使用したとは書かれておりませんが、風速の根拠として、 仮に川島芝池モデルを使用したのであれば、 このモデルは花粉源を点として考えて定式化しているため点に近い小面積の花粉源に対するモデルであり、 北海道や農環研で行われたような大面積の花粉源に対する予測モデルとしては不適切であることを申し添えます。もし、 今般の試験データとモデルの整合性を議論するのであれば、花粉源の面積をパラメータとして採用したモデルの採用をお勧めいたします。


3.イネの低温による不稔に関わる科学的な研究については、北海道農業試験場、 東北農業試験場において障害型冷害に関する研究に長年に亘って取り組んで来たことが知られております。 このような農林水産省としての取組の結果、イネが低温の影響を受けやすい時期に、どの程度の低温が、どのくらいの期間継続した場合に、 どの程度の不稔歩合に至るかが定式化されており、具体的な規制値を設けるのに十分な科学的知見が得られております。また、 ご存じのように平成5年の冷害をうけて、 農林水産省として冷害の起きやすい地域については早期警戒システムを設けているところでもあります。このように、 水稲の冷害については有効な施策が講じられている現状においては、冷害の予測はすでに技術的に可能な状況です。

従って、長距離交雑の発生した上記1)-3)の原因のうち、もっとも効果の大きかったと考えられる1) 低温による不稔についての対策を交雑防止措置の主たる対策とするのであれば、 冷害に対する特段の警戒が過去の気温のデータから行う必要が無いとされている地域においては、 低温による不稔はほぼ生じないとされておりますので、今般の改正案にある2) 強い卓越風に関する対策を行う意義は薄いと考えられます。 従って、風速に関する規制を行う場合には、その前提として栽培地域の気温に応じた地域区分を導入することを要望いたします。
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2008年8月 6日 (水)

日本で主要農作物のシードビジネスは育つか?

昨日は、新聞社の取材に協力した。種子ビジネスの展開についてのブレインストーミングを中心に、 日本の主要農作物種子法についても通り一遍のお話をした。

主要農作物の種子については、イネ、コムギ、オオムギ、ハダカムギ、ダイズの種子を安価に安定供給する目的の主要農作物種子法 (昭和二十七年五月一日法律第百三十一号)という法律がある。実は、 研究開発を生業とする農業系の独立行政法人職員では知らない人も結構多い。私も、育成事業に携わった経験がなければ、 きっと知らないままだっただろう。

# 昨日は間違って昭和22年の法律と言ってしまいました。正しくは昭和27年です。 昭和22年として覚えていたのは種苗法の全面改定の年でした。ごめんなさい。

種苗法は品種の育成者の知的財産権を守るための法律。主要農作物種子法の目的は、「主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、 種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うこと」です。法律の条文を見ていると、”都道府県に対して優良な品種の選定試験を行い、 選定した品種の生産能力について農家に保証しなさい。”といっているだけのように見える。

しかし、実際は、これを根拠法として、各自治体では生産能力の高い品種、あるいは品質の良い品種を”奨励品種”等 (あるいは認定品種等ほかの呼び方もある)として生産を奨励し、安価に種子の供給を行うための種子協会等の団体 (地域ごとに任意団体だったり、経済連だったり、法人だったりする)の種子増殖事業に助成金を出している。そのほか、 奨励品種についてはJAが買いとる際にプレミアをつけたり、根拠法は違うか農業共済保険制度で自然災害による不作の場合の保障で厚遇される(奨励品種は買入価格が高い分減収分のマージンが大きくなる)など、 様々な優遇策がとられている。これは、食料安全保障の一環と考えることもできる。

つまり、奨励品種でない場合にどうなるかというと、農家は耕地面積の何割かを自家採取用に回さなくてはいけないので、 そこでとれた生産物を売ることはできない。その上採取した種子の発芽能力は完全に自己責任だし、生産物の価格は完全に市場原理で決まるし、 自然災害の多い地域では不作の際にあまり保障が得られないかもしれない、ということになる。

その結果、主要農作物の種子については国や自治体、あるいは独立行政法人が育成した品種が普及しており、 民間育成の品種が普及しにくい状況にある。民間育成の品種が性能で負けていなくても、種子の安定供給、流通のプレミア、 災害時の保障などがセットで優遇される奨励品種になれなければ、普及することは難しいのだ。

という現状をふまえると、海外の種苗メーカーが日本国内の主要農作物の種子市場に参入するのは非常に難しい様に思う。しかし、 この制度は諸刃の剣で、自治体が認めない限り独立行政法人から新しい品種がリリースされても、すぐに奨励品種になるとは限らないし、 その時々の自治体の予算枠を超えた数の品種はまず奨励品種にはなれない。それは、海外からの新品種の参入を防ぐのに一役買ってはいるのだが、 同時に国内の民間育種の参入を妨げ、品種の交代の足かせにもなっているのだ。

最後にその制度をどう思うか?と質問された。私は、育成者だった頃は、新しい品種の普及の妨げになりがちだったので、 なくなったほうが良い制度かもしれないと思っていた。しかし、今は若干違う感想を持っている。もし、 道州制導入によって国から地方へ財源や権限が委譲されるという文脈の中で、全国一律に優良品種を普及させて食糧安全保障をするという、 この制度がなくなるのであれば、それには反対する。食糧安全保障は国として担うべき事業だからだ。

もっとももう少し他にやりようは無いものか、とも思う。この制度のために品種の流動化が妨げられているように思えるからだ。

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2008年8月 5日 (火)

キンシバイによる食中毒事例

 ちょっと前のニュースですが、天然毒による食中毒の事例です。毎日新聞より。

食中毒:巻き貝で 天草の女性、一時心肺停止 /熊本

 

 県は16日、天草市河浦町の女性(73)が、フグと同じ毒性分を含んだ巻き貝「キンシバイ」を食べ、   食中毒症状を起こしたと発表した。一時、心肺停止状態となったが、現在は意識を回復し快方に向かっているという。

 

 健康危機管理課によると、女性は14日午前9時半~10時半ごろ、   知り合いの漁業夫婦が同町沖の産島近くで捕ってゆでたキンシバイ20個を譲り受け、孫の男児(5)と一緒に食べた。正午ごろ、   舌のしびれや呼吸困難などの症状を起こし、病院に搬送された。孫は異常がなく、捕った夫婦も昼ごろ食べたが、影響はなかったという。  

 

 キンシバイは、日本近海の水深10~30メートルの砂地にすみ、まれにフグ毒と同じ「テトロドトキシン」を含む場合がある。   流通することは少ないが、昨年7月、長崎市内の農水産物直売所でこの貝を購入した女性が食中毒症状を起こした。【門田陽介】

 

毎日新聞 2008年7月17日 地方版

 これに関連して、   農林水産省からお知らせが出ています。    調べてみると、昨年も似たような事例が長崎市であった模様で、    厚生労働省から昨年、通知が出ています。  
 
   巻き貝に、フグと同じ神経毒が蓄積されるケースはそれ自体は珍しいことではないのですが、巻き貝の種によっては、   その程度が違っていると考えて良いでしょう。そもそもフグの毒自体がえさ(プランクトンなど)   に由来していて生物濃縮されたものですから、えさになる生物に毒が含まれているのは自然なことです(参考)    。
 
   日本近海産のフグの代表的な毒素は有名なテトロドトキシンです。   神経細胞のナトリウムイオンチャンネルの機能阻害によって信号伝達をブロックするため麻痺が起こるとされています。しかし、   フグの神経細胞のナトリウムイオンチャンネルはほかの生物のものと構造的に異なっておりテトロドトキシン耐性になっているとのことです   (ソース)    。
 
   ちなみに、厚労省の所管する食品衛生法では、有害な食品の製造販売等が規制されていますが、   農業及び水産業における食品の採取業は規制対象である「営業」の範囲から外れています。
 
 
    食品衛生法  
 
    第四条 ○7 この法律で営業とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、     若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいう。ただし、     農業及び水産業における食品の採取業は、これを含まない。

 
ですので、自然界から採取した有毒生物の譲渡によって起きた食中毒については、「業」としておこなった反復的・   継続的な食品の流通の結果ではないことから、食品衛生法の適用対象にならないのでしょう。   それから、農林水産業は所管が違うということで、農水省のホームページで注意喚起したのでしょうね。

 同じ生物による食中毒でも、流通経路によって注意喚起する役所が違うというのはなんだか変な感じです。法令上の解釈で言えば齟齬はないのでしょうけど。こんな時こそ食品安全委員会の登場!ではないかと思うのですが、肝心の食品安全委員会のホームページにはこの件について何も出ていません(大量発生でもないと対応しないらしい)。
 
   しかし、何ですね。「農業及び水産業における食品の採取業」ってなんだか変じゃありませんか?   山林に生えているキノコや、海で泳いでる魚はまだ食品ではないはず。販売の意図をもって採取した瞬間から食品になるのだと思うのですが。    なので、食品の採取業と言われると「食品」   が生えていたり泳いでいたりする有様を想像してしまいます。
 

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