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2008年7月6日 - 2008年7月12日の記事

2008年7月11日 (金)

科学的(科学者)である前に倫理的(社会人)でなくてはいけないが

東京大学医科学研究所で、研究所内の倫理委員会での議論を経ていない臨床研究が行われ、また患者の同意のない検体が実験につかわれた。 その研究が論文として公表されたことが、朝日新聞の一面トップ記事になった。以下、一部を掲載する。

個人的には、今回の事案は被験者に対する人としての配慮に発するコンプライアンスの問題であって、 研究結果について科学的な面から虚偽を報告した平教授や黄教授の事件とは区別して考えるべき問題であると思う。 新聞の論調ではそのあたりの区別は付いていない。

「倫理委承認」「患者が同意」と偽り3論文 医科研教授

2008年7月11日3時2分

 東京大学医科学研究所で白血病など難治性の血液疾患を研究している分子療法分野研究室教授が中心となって発表した論文で、 研究倫理をめぐる虚偽記載が繰り返されていたことが朝日新聞の調べでわかった。 実際には受けていない倫理審査委員会の承認や血液などの検体の使用の同意を得たと偽った論文が、少なくとも3本あることが判明。 教授は取材に対し、自らも虚偽記載をしたと認め、論文1本をすでに撤回した。

(略)

 ヒトから細胞や血液を採取して使う研究は、患者の体に負担がかかるうえ、その個人情報保護にも特別な配慮が必要だ。 各機関の倫理委による研究計画書の事前審査や、十分な説明に基づく提供者の同意がなければ研究を認めないのが国際ルールで、 03年7月にできた国の指針もその順守を求めている。

 しかし、取材を機に始まった医科研の内部調査でも、指針が適用されて以降、 国内外の医学誌に発表された論文5本に倫理面で虚偽とみられる記載が発覚。撤回された論文は白血病の悪性度の測り方が研究テーマで、 今年5月にイタリアの医学誌「ヘマトロジカ」に東條教授を責任者とする研究室のメンバー4人の連名で発表していた。

 この研究では、医科研付属病院で89~03年に急性骨髄性白血病の患者5人から採取された骨髄と末梢(まっしょう) 血を使用。倫理委の承認を得たり、 文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言に従ってすべての患者から同意を得たりしたと記載していたが、 東條教授によると、実際には倫理委を通さず、同意も一部からしか取っていなかった。

(略)

 こうした論文の基礎となる研究には、文部科学、厚生労働両省の科学研究費補助金の対象も含まれている。文科省は 「倫理面の虚偽記載は論文の捏造(ねつぞう)にも等しい」との見方で、科研費の停止措置などに至る可能性もある。

 東條教授は医科研付属病院副院長や血液腫瘍(しゅよう)内科長も兼任。同科は臍帯(さいたい) 血移植で世界有数の治療成績をあげている。(西川圭介、小倉直樹)

この種の事案にはいくつか視点の異なる問題点が混在している。 記事が正確に事実を伝えていると仮定して問題点を要約すると次の通り。

  1. 臨床研究の研究計画を倫理委員会に諮ることは、厚生労働省のガイドラインや東京大学医科学研究所の内規でも求められているので、 その手続きを経ずに研究を実施したこと。
  2. ヒト由来の試料を研究に使用する場合は、一般的には(一部例外もある)試料の提供者に対して、 研究に使用する旨を説明して同意を得なければならない。 このルールはヘルシンキ宣言・ 厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」 で求められているが、提供者の同意を得ていない試料を使用して研究を実施していること。
  3. 2.の説明同意は文書で行うことを 「臨床研究に関する倫理指針」で求めているが、この手続きを怠っていること。
  4. 研究計画の審査と、説明と同意に関して、論文に明らかに事実と異なる記載をしたこと。

朝日新聞のトップ記事からはわからないこと。

  • 「医科研付属病院で89~03年に急性骨髄性白血病の患者5人から採取された骨髄と末梢(まっしょう)血を使用。」とある。 この際の骨髄や末梢血の採取目的
    • 治療に必要な検査のため?あるいは研究のため?研究目的だけで、 体に負担のかかる骨髄を採取する医者がいるとは非常に考えにくい。
    • また、試料の入手時期が89-03年であれば、厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」 やそれに基づく医科学研究所の内規に関わる違反があったとしても、指針の公表された03年の7月30日以降。 指針に基づいた内規に対する違反があれば、7月30日から12月31日までの間の5ヶ月間。従って、 指針違反はあってもおそらくは少数例
    • 別の記事には、”清木所長は会見で「病気の治療を目的とする検査と、 研究を目的とする検査の相違に対する意識の欠如があった。”とあるので、末梢血は検査目的で採取したもの。
  • ヘルシンキ宣言においては「医師は対象者の自由意志によるインフォームド・コンセントを、 望ましくは文書で得なければならない。」と、「文書」 による同意は努力義務であるとはっきり書いてあるが、記者はこの点を認識しているか?
    • 記事にはこうある。「倫理委の承認を得たり、 文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言に従ってすべての患者から同意を得たりしたと記載していたが、 東條教授によると、実際には倫理委を通さず、同意も一部からしか取っていなかった。」。ここで 「文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言」と書いてあるが、 論文にヘルシンキ宣言をこのように説明的に書く訳はなく、記者による補足と考えられるが、補足の仕方が間違っている。
  • 記事には「個人情報保護にも特別な配慮が必要だ。」とある。一般に個人情報の保護への配慮は必要だが、 個人情報保護法への対応が必要なゲノム研究とそれ以外の研究では対応が異なるが、その違いは記事からはわからない。

私は医者でも医学関係者でもないが、臨床研究の準備に関係したことはある。 臨床研究の倫理審査についてはしばしば考えさせられたものだ。臨床研究では、 研究者は徹底的に説明責任を果たせるようにしておかなければならない。倫理委員会の審査や研究自体のの透明性は非常に重要だ。 組織としての体制整備は重要だが、研究者が山ほど書類を書かなければならない現状にも、効率の面で問題はある。

治療に必要な検査のために、患者さんから試料を採取することはよくある。希な症例の場合は、試料それ自体貴重だ。 重篤な疾患で患者さんが不幸にして死亡してしまった後も、長期間冷凍保存していることもあるだろう。

今回の件では、病院の検査や手術の現場で患者さんから採取された試料だ。通常の医療行為の過程で採取された試料であるならば、 研究のために患者さんの負担が増えたり、研究のために特別な苦痛を感じたことは恐らく無かっただろうと想像する。これは、 後ろ向き研究の場合には概ね当てはまるはずだ。

たしかに、論文に虚偽の記述をしたことは信用失墜行為として責められるに値するし、重大なルール違反だ。しかし、その結果、 科学的には妥当で有用な研究成果や、研究スタッフの多大な労働が葬られるのであれば、自業自得であるにせよ、実にもったいない。

一方で、研究には長い時間を必要とするものもある。ヒト由来の試料を採取した時期と、 社会的な制度が整備されるまでのタイムラグは往々にして発生する。記事には倫理委員会がどうのと書かれているが、 時系列で整理してみれば89年(19年前)の試料を研究に使用していることからも、現在のルールを遡って適用できないのは明らかだし、 かなり希な症例であるということが想像できる。

また、04年の論文(これ? )であれば、"Submitted March 17, 2004; accepted July 10, 2004"とあり、 投稿が04年3月、研究実施は1999-2003と書いてある。従って、研究期間から言えば、2003年の7月30日公表の厚生労働省の 「臨床研究に関する倫理指針」 に従っていなくても、この件については不正とまでは言いにくい。

問題は、2004年の論文ではこの表現に絞られる。

The clinical protocol was approved by the institutional review board of the Institute of Medical Science, University of Tokyo, and written informed consent was obtained from all patients in accordance with the Declaration of Helsinki.

研究の実施主体は医科学研究所だが、検体採取は医科研付属病院。一見同じ組織に見えるのだが、実は別組織である。 こういう場合、本来はどちらの倫理審査委員会が担当するべきなのだろうか?また、検体の採取は医科研付属病院で目的も検査ということもあり、 最初は臨床研究という意識が薄かったのかも知れない。いずれにしても"The clinical protocol was approved by the institutional review board of the Institute of Medical Science, University of Tokyo"というのが不適切だったのだろう。

突き詰めれば、問題点は一部の試料についてのインフォームドコンセントの欠落(ヘルシンキ宣言からの逸脱) と倫理委員会での審査と試料提供者の同意に関わる論文への虚偽の記載。その辺に落ち着くはずだ。

不正は不正に違いないのだが、それに対して、この騒ぎぶりは何だろうか。内部告発と言うよりは、何か密告と魔女狩り、 というか研究者バッシングの臭いがする。

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2008年7月 9日 (水)

毒物及び劇物取締法メモ1

β-メルカプトエタノールと毒劇法がらみで、このブログを訪問される方が増えている。フォローアップとして、 もう少し有益な情報を提供しよう。

各研究所等での毒劇物取扱のガイドラインについては、厚生労働省医薬食品局化学物質安全対策室のホームページが便利。 「毒物劇物の適切な保管管理について」 などのコンテンツが研究所等の規則の整備、日常点検の参考になる。

以下は、毒劇法の「業務上取扱者」(つまり、製造、輸入、販売、特定毒物の研究をしない人) に関連した規制についてのまとめ。


毒物及び劇物取締法(以下、毒劇法という)は、保健衛生上の(危害を防止の)見地から主に流通(製造、輸入、販売、取扱等) に対する規制を行うことを目的としている。

・・・なので、基本的には毒劇物の製造、輸入、販売業者に対する規制が前面に出ており、 それ以外の毒劇物使用者(第22条で、「業務上取扱者」と言われる) についての規制ルールは、見つけにくい書き方になっている。研究所、大学、病院で毒劇物を扱う職員はこれに該当する。

   
    第二十二条   政令で定める事業を行なう者であつてその業務上シアン化ナトリウム又は政令で定めるその他の毒物若しくは劇物を取り扱うものは、事業場ごとに、その業務上これらの毒物又は劇物を取り扱うこととなつた日から三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、次の各号に掲げる事項を、その事業場の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。    
             一  氏名又は住所(法人にあつては、その名称及び主たる事務所の所在地)    
             二        シアン化ナトリウム又は政令で定めるその他の毒物若しくは劇物のうち取り扱う毒物又は劇物の品目    
             三  事業場の所在地    
             四  その他厚生労働省令で定める事項    
        2      前項の規定に基づく政令が制定された場合においてその政令の施行により同項に規定する者に該当することとなつた者は、その政令の施行の日から三十日以内に、同項の例により同項各号に掲げる事項を届け出なければならない。  
        3  前二項の規定により届出をした者は、当該事業場におけるその事業を廃止したとき、当該事業場において第一項の毒物若しくは劇物を業務上取り扱わないこととなつたとき、又は同項各号に掲げる事項を変更したときは、その旨を当該事業場の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。  
        4  第七条、第八条、第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十五条の三、第十六条の二、 第十七条第二項から第五項まで並びに第十九条第三項及び第六項の規定は、第一項に規定する者(第二項に規定する者を含む。     以下この条において同じ。)について準用する。  
             第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十六条の二並びに第十七条第二項から第五項までの規定は、毒物劇物営業者、特定毒物研究者及び第一項に規定する者以外の者であつて厚生労働省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱うものについて準用する。      
        6  厚生労働大臣又は都道府県知事は、第一項に規定する者が第四項で準用する第七条若しくは第十一条の規定若しくは同項で準用する第十九条第三項の処分に違反していると認めるとき、 又は前項に規定する者が同項で準用する第十一条の規定に違反していると認めるときは、その者に対し、相当の期間を定めて、必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。  
        7  第二十条の規定は、厚生労働大臣又は都道府県知事が第四項で準用する第十九条第三項の処分又は前項の処分をしようとする場合に準用する。  
  ということで、一般の「業務上取扱者」に適用される規制を確認する。
 
   
      第十一条   毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失することを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。    
             2  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物若しくは物又は毒物若しくは劇物を含有する物であつて政令で定めるものがその製造所、 営業所若しくは店舗又は研究所の外に飛散し、漏れ、流れ出、若しくはしみ出、又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。    
             3  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その製造所、営業所若しくは店舗又は研究所の外において毒物若しくは劇物又は前項の政令で定める物を運搬する場合には、これらの物が飛散し、漏れ、流れ出、又はしみ出ることを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。    
             4  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は厚生労働省令で定める劇物については、その容器として、飲食物の容器として通常使用される物を使用してはならない。    
  なるほど。 盗難防止、漏出防止、誤飲防止ですね。
   
      第十二条   毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物の容器及び被包に、「医薬用外」の文字及び毒物については赤地に白色をもつて「毒物」の文字、劇物については白地に赤色をもつて「劇物」の文字を表示しなければならない。    
 
  市販の試薬の容器で保管する場合は概ね問題ない(*)が、小分け容器に入れてある場合は対応が必要。  
  (*) 古い試薬の場合、ラベルに印刷されていない場合がある。また、輸入品で、なおかつこれまで毒物でなかったもの(例えばβ-メルカプトエタノール等)の場合は、販売時にラベルに印刷されていないので個別に対応が必要。
 
  つかいさしのボトルの内容量は、さすがに汚染の危険をおかしてメスシリンダーで計るわけにもいかないので、   ボトルごと天秤で秤量して差分を記録していくほかない。紛失や盗難への対策という意味ではこれで十分だろう。

容器への表示については、
   

     毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物を貯蔵し、又は陳列する場所に、「医薬用外」の文字及び毒物については「毒物」 、劇物については「劇物」の文字を表示しなければならない。  

  これは所定の保管場所にあればまず大丈夫。 色の指定はない。
   
      第十六条の二   毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令で定める物が飛散し、漏れ、流れ出、しみ出、又は地下にしみ込んだ場合において、 不特定又は多数の者について保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに、その旨を保健所、警察署又は消防機関に届け出るとともに、保健衛生上の危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければならない。    
             2  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失したときは、直ちに、その旨を警察署に届け出なければならない。    
  数量管理をきちんとしていないと紛失はチェックできない。年度途中で毒物に指定された物があると対応に追われるが、仕方がない。
   
      第十七条   (略)。    
   
             2  都道府県知事は、保健衛生上必要があると認めるときは、毒物又は劇物の販売業者又は特定毒物研究者から必要な報告を徴し、又は薬事監視員のうちからあらかじめ指定する者に、これらの者の店舗、研究所その他業務上毒物若しくは劇物を取り扱う場所に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させ、関係者に質問させ、試験のため必要な最小限度の分量に限り、毒物、劇物、第十一条第二項に規定する政令で定める物若しくはその疑いのある物を収去させることができる。    
             3  前二項の規定により指定された者は、毒物劇物監視員と称する。    
             4  毒物劇物監視員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。    
             5  第一項及び第二項の規定は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。    
  報告聴取、立入検査の項目。非常事態でなければ普通は対応する必要は生じない。
  準用規定は以上。あれ?末端の「業務上取扱者」は行政指導の対象になっていない。   事業の許認可に関わる権限が及ばないためだろうか。それから気になるのは罰則。
  取扱の第十一条関係は、罰則なし。第十二条関係は、第二十四条第二号
             (罰則)    
   
      第二十四条   次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。       
                一  (略)       
                二  第十二条(第二十二条第四項及び第五項で準用する場合を含む。)の表示をせず、又は虚偽の表示をした者 
  容器、保管場所の表示義務違反はかなり重い処分です。しかも、行政指導のワンクッションもなく直罰!   これは要注意。
  事故時の対応、第十六条の二関係は、第二十五条第三号
 
        第二十五条   次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。    
             一  (略)    
             二  (略)    
             二の二  (略)    
             三  第十六条の二(第二十二条第四項及び第五項で準用する場合を含む。)の規定に違反した者    
  盗難・紛失した場合は三十万円以下の罰金だそうです。盗まれた上に罰則、まさに踏んだり蹴ったり。
  それから、忘れちゃいけない両罰規定、使用者責任に関しては、
        第二十六条   法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第二十四条、第二十四条の二、第二十四条の四又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の罰金を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、その業務について相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。  
  とある。注意・監督義務が適切に履行されていた場合は罰則の対象ではないとのこと。
  廃棄物関係はこちらを参照   (根拠法が書いてないのがなんですが、廃棄関係は第十五条の二)・・・これは驚いたことに、第二十二条第四5の規定する末端の「業務上取扱者」には適用されない様に見える。本当かな?
  とはいえ、廃棄物については他法令への準拠も求められるので、そのまま捨てる訳にはいかない。
  廃棄関係については、実は第十五条の二にこうある。
             (廃棄)    
   
      第十五条の二   毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令で定める物は、廃棄の方法について政令で定める技術上の基準に従わなければ、廃棄してはならない。    
  ここで言う「政令」とは、毒物及び劇物取締法施行令のこと。関連部分は以下の通り

 第九章 毒物及び劇物の廃棄

 
    第四十条   法第十五条の二 の規定により、毒物若しくは劇物又は法第十一条第二項に規定する政令で定める物の廃棄の方法に関する技術上の基準を次のように定める。    
             一  中和、加水分解、酸化、還元、稀釈その他の方法により、       毒物及び劇物並びに法第十一条第二項に規定する政令で定める物のいずれにも該当しない物とすること。    
             二  ガス体又は揮発性の毒物又は劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所で、少量ずつ放出し、又は揮発させること。    
             三  可燃性の毒物又は劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所で、少量ずつ燃焼させること。    
             四  前各号により難い場合には、地下一メートル以上で、かつ、 地下水を汚染するおそれがない地中に確実に埋め、海面上に引き上げられ、若しくは浮き上がるおそれがない方法で海水中に沈め、又は保健衛生上危害を生ずるおそれがないその他の方法で処理すること。    
  β-メルカプトエタノールは還元剤なので酸化してしまえば他の物質になる訳だが、高濃度だと発火する。一方、   濃度規定があれば薄めれば良いのだがβ-メルカプトエタノールについては濃度規定はないようだ。
  従って、薄めただけでは毒物のまま。中和するには、低濃度にしておいて、パーマ液に使われるマイルドな酸化剤(過酸化水素水、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムあたり)を加えるのが良いかも知れない。なお、過酸化水素水も6%以上の高濃度だと劇物になります(毒を以て毒を制す、というか、劇を以て毒を制すというか・・・)。
  毒劇法の法定の廃棄方法に未だに海洋投棄があるのはびっくりだ。他の法令に引っかからないものだろうか。どう → 環境省の人?
 
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2008年7月 8日 (火)

ビスフェノールAの安全性に懸念?-その2-

5/14のエントリーに、国立医薬品食品衛生研究所などの研究グループが動物実験の結果、 低用量でも実験動物の後代にビスフェノールAの毒性の影響があることがニュースになったことを書いた。

先ほど、ニュースで厚生労働省がビスフェノールAの毒性について食品安全委員会に諮問すると言っていたので急遽、 今日2つめのエントリー。Googleでニュースを探したところ、数件あったのでフォローしておく。

まずは、読売新聞。

哺乳瓶のビスフェノールA、厚労省が健康影響評価を依頼

 厚生労働省は8日、プラスチック製の哺乳(ほにゅう)瓶や缶詰の腐食防止材などに使われる化学物質ビスフェノールAについて、 国の食品安全委員会に食品安全法に基づく食品健康影響評価を依頼した。

 胎児と乳幼児の体に影響を及ぼす可能性が国内外の動物実験で示されたためで、必要があれば規制値の見直しも検討する。

 国は1993年、毎日摂取しても問題ないとされるビスフェノールAの量を体重1キロ当たり0・05ミリ・グラムに設定した。

 しかし、国立医薬品食品衛生研究所などの実験で、母ラットに妊娠後から離乳前日まで規制値の百分の一にあたる0・0005ミリ・ グラムを毎日与えたところ、子ラットの発情期の周期に異常が見られた。

 米国では今年6月、乳幼児の神経や行動への影響を懸念する報告書がまとまり、 カナダはビスフェノールAを使った哺乳瓶の輸入販売を禁止する方針を決めた。ただ、国内では該当する哺乳瓶の流通は9%にとどまるうえ、 欧米に多い調整乳の缶詰は流通していないとされる。

 厚労省は「動物実験の結果であり、人間にそのまま当てはまるかどうか不明だが、対象が胎児や乳幼児なので評価を依頼した。 成人への影響もないと考えられるが、妊婦は気をつけてほしい」と話している。
(2008年7月8日20時09分  読売新聞)

厚生労働省が食品安全委員会に食品衛生法に基づく食品健康影響評価を要請する場合の事務の流れはこちら。 厚生労働大臣が自分の所の傘下の審議会に諮るのではないので、諮問ではなく、要請(平たく言うとお願い)。見出しの「依頼」は概ね正しい。

一方、「哺乳瓶のビスフェノールA」と言う限定は、ん?という感じ。 食品安全委員会での評価の仕方は例えばこちらにもあるように器具・ 容器で考えるか、こちらにあるように、 化学物質・汚染物質という物質ベースで考えることになる。どちらのベースで評価依頼するのかは、これから調整するのかも知れないが、 動物実験そのものは哺乳瓶とは関係ないのだが。読者に分かりやすくしようという工夫か?

次、毎日新聞。

ビスフェノールA:原料の哺乳瓶使用を控えるよう呼びかけ

 厚生労働省は8日、妊婦や乳幼児に対し、化学物質「ビスフェノールA」を原料とするプラスチック製哺乳 (ほにゅう)瓶の使用や缶詰製品の摂取を控えるよう呼びかけを始めた。国の基準値以下でも、 胎児らの健康に影響を与える可能性を示唆する動物実験を踏まえ、予防措置を取った。厚労省は同日、ホームページで情報提供するとともに、 内閣府の食品安全委員会にヒトへの健康影響評価を諮問した。

 ビスフェノールAはホルモンに似た作用を持ち、野生生物の生態の影響が懸念されるとして、 環境省が調査を実施。04年に魚類への影響は推察されるが、ヒトには認められないとの結論を出した。

 しかし、その後も国内外で「動物の胎児に、ごく微量でも神経異常や早熟を招く懸念がある」との報告がある。 欧米もヒトの健康影響評価に乗り出した。

 厚労省は「現時点でヒトへの影響は不明」としている。だが、安全性を重視する立場から、 ビスフェノールAを原料とした哺乳瓶を使う場合、漏出しないよう過度の加熱や劣化製品の使用を避けるよう呼びかけることにした。 該当する哺乳瓶は国内流通量の9%とされる。同省は「ガラス製の哺乳瓶を使うのも選択肢」と提案した。

 また、缶詰では腐食防止のために広く使われ、食品に溶け出す恐れがある。 「缶詰製品に頼らずバランスある食生活が大切」としている。【下桐実雅子】

リスク報道としては、適切な見出しかも知れない。厚労省でも評価はこれからとしながらも、 消費者にビスフェノールAを含む哺乳瓶の使用を控えるよう呼びかけており、 代替案としてガラスほ乳瓶の使用を提案しているところまでフォローしているので、報道の姿勢としては好感が持てる。今回の厚労省の姿勢は、 市民団体の大好きな「予防的措置」といえるだろう(規制ではないけれど)。

ちょっと残念なのは、この記事では「ヒトへの健康影響評価を諮問した」と書いているところ。 些末な言葉使いではありますが、新聞記者は行政の手続きについて素人であってはいけません。厚生労働大臣は、 食品安全委員会に諮問できる立場ではないことは理解しておくべきだ。

次、朝日新聞。

哺乳びんなどに使用 ビスフェノールAの安全性評価諮問

2008年7月8日19時56分

 厚生労働省は8日、プラスチック原料に含まれる化学物質「ビスフェノールA」について、 内閣府の食品安全委員会に、健康影響評価を諮問した。近年、動物実験で微量摂取でも影響があるとの結果が出たのを受けて実施した。

 厚労省によると、ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂などに含まれ、食品容器では哺乳(ほにゅう) びんや缶詰の内面塗装などに使われる。97年ごろから環境ホルモン(内分泌攪乱(かくらん)化学物質) としての働きがあるか注目されている。

 厚労省研究班の報告では、妊娠したラットへの投与で、これまで「有害な影響はない」 とされてきた量の1万分の1以下で、胎児の神経や行動に影響がみられたという。

 米国では6月に「乳幼児の神経や行動などに影響を及ぼす懸念がある」との報告書が公表され、 カナダではポリカーボネート製の哺乳びんの輸入や販売などを禁止する方針。

 厚労省によると、国内に流通する哺乳びんのうち、同製は1割程度。 溶出濃度はごく微量で過去に健康被害の報告もないという。

 一方、食品缶については「妊婦が多く摂取すると胎児に影響が及ぶ可能性がある」と指摘。 国産品では対策が取られているというが、流通量の7割を占める輸入品について、厚労省は、対策などの実態を調査する方針。

まず、見出しのセンスは読売新聞と同等。毎日新聞の方がリスク情報を新聞から得ようとしている読者には親切だ。

次に、1パラ目の「諮問」は間違い。また、「近年、 動物実験で微量摂取でも影響があるとの結果が出たのを受けて実施した。」というのが、何を実施したのか分からない。なんだこの記事は。

ポリカーボネート製哺乳瓶の使用に、さしあたりの危険性はなさそうだと言うニュアンスで書いている。 現時点では科学的には正しいが厚労省の呼びかけには真っ向から対立している。

 


 

今のところ、5月の情報よりも科学的に目新しい情報は出ていない。しかし、 行政的に一歩動いたのでフォローしておこう。

以前のエントリーにも書いたが、動物実験の毒性評価結果が、そのままヒトに当てはまらないケースがある。 ラットとヒトでは成長過程の時間に対する反応が異なる(アロメトリーといった方がよいかも知れない)ので、 動物実験からヒトの性的な成熟過程に対する化学物質の影響評価を導くことは難しい。

食品安全委員会の答え方も、厚労省から提出された科学的な情報に基づいて、

  1. 一定量以上で影響はある
  2. 影響はない
  3. データが十分ではないので分からない

と言う回答があり得る。今回のケースがどれに当たるかは、この先数ヶ月の審議にかかっている。

また、厚生労働省のリスク管理は、評価結果に基づくものではあるけれども、規制の影響の範囲に応じてさじ加減を工夫するのが通例。 今回のケースで考えれば、ビスフェノールAの適当な代替物質がないのであれば、 禁止すると缶詰のコーティング剤がより品質の悪いものに代替されてしまうリスクもあるので、妊婦は缶詰ばかり常食しないように、 と妊婦さんに呼びかける方が妥当だろう。

# 妊婦が缶詰ばかり食べていると栄養のバランスが悪くなって、 そちらの方がビスフェノールAよりも遙かに問題が多いような気がするのだが。

哺乳瓶からの溶出については、おそらくこれからの評価待ちだが、禁止するほどのものかどうかは判断材料がないので何とも言えない。

 

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無知から来る「安心」

不安のタネを知らなければ「安心」していられる。私は「安全・安心」という言葉が大嫌いだ。

ある程度定量的に評価できる安全性(あるいはリスク評価)で裏打ちされた「安全」と、「とりあえず不安材料は見あたらない」 というだけの「安心」を一緒くたにしているからだ。場合によっては、危機的状況にふさわしくない「安心」もあり得るのだ。

次の記事は読売新聞から(記事のボールドは土門)。

活断層をランク付け、29か所が「いつ動いてもおかしくない」

 政府の地震調査研究推進本部は、主要な活断層(110か所) を地震が起きる切迫度に応じてランク付けする新指標を導入する方針を固めた。

 住民らの防災意識を高めるのが狙いで、糸魚川―静岡構造線断層帯など29か所が最高ランクの「いつ動いてもおかしくない活断層」 に位置づけられる見通し。2009年版地震動予測地図に発生確率とともに盛り込まれる。

 活断層での地震発生確率は、過去の地震の平均活動間隔などをもとに計算される。間隔が数千年~数万年と大きいため、 確率値は海溝型の地震に比べ、低く算出されがちで、最高でも首都直下地震を起こす神縄・国府津―松田断層帯(神奈川・静岡県)の16%。 専門家らから「住民に無用な安心感を与える」という指摘が出ていた。

 新指標は、平均活動間隔を過ぎても地震が起きていない活断層を最高ランクとし、 活動間隔に迫るものを最高に準じると位置づける方針。
(2008年7月7日14時39分  読売新聞)

無用な安心感を与える」という言い回しが面白い。 地震や台風のような天災は不可抗力だ。それ自体を人智で防ぐことはできない。しかし、天災に備えることで被害を軽減することはできる。 だから、根拠もなく、無防備なままで安心していて良いというものではない。

 

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