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2008年3月23日 - 2008年3月29日の記事

2008年3月27日 (木)

Molecular gastronomy?

 分子美食学(molecular gastronomy)と言う研究分野があるらしい。(畝山さんの食品安全情報blogより)

 今週のnature (The man who whipped chocolate)によれば、

 

This month marks the 20th anniversary of the   scientific field of 'molecular gastronomy', the study of   culinary transformations, as first laid out in Paris by French   chemist Herve This and Hungarian physicist Nicholas Kurti in   1988.

とある。化学と物理学の融合分野で、伝統的な料理の素材や加工プロセスを化学的・物理学的に理解して、 再構築する事を目的としているらしい。

 素材の特性にうるさい日本食を常食としている私たちから見ると、 どうしてそこに生物学が含まれていないのか不思議な気がする。Dr. ThisとDr. Kurtiの間では次のような不思議な理解が生まれたらしい。

 

We agreed cooking is a chemical art, like   making soap, like metallurgy. We agreed this was the last   chemical art that had not been rationalized.

 でも、私はあえて言いたい。"Cooking is also a biological art, like making sushi, like salad."と。刺身やサラダは細胞でできていて、 魚や野菜の細胞は、咀嚼で機械的に破壊されるか、私たちの胃や腸の消化酵素で分解される、その最期の瞬間まで呼吸をしていて、 細胞としては生きている存在なのだ。納豆やヨーグルトには何十億という生きた細菌がひしめき合っており、 生き物それ自体を食べているのだと。

 だから、食材を物理化学的に単なる”もの=物質”と理解する試みによって、料理そのものを理解しようとすると、 部分的にはきっと失敗する。また、そのようなアプローチでは、調理という加工プロセスのある部分の改善はできるだろが、 素材そのものの生物学的特性を改変して、より調理しやすい素材、あるいは、 調理した際によりおいしい素材を開発することには結びつきにくいだろう。"Molecular gastronomy"には、 生物学の要素が必要なのだ。

 実は、「加工した際によりおいしく食べられる」という、 エンドユーザー向けの理化学的特性の改善を目標に開発された作物は、日本には結構ある。

 剥きやすい大粒の栗”ポロタン”や、短時間の加熱で甘くなるサツマイモ”クイックスイート”、 貯蔵タンパク質11Sグロブリンの組成を改変してより豆腐作りに向いたダイズ(開発中)、 グルテンを構成するタンパク質の組成を制御してパンの品質を良くする硬質コムギ、ルーの浸透性を考慮したカレーライス向きのお米”華麗舞” etc.・・・。

 調理や加工に要求される物理化学的な要求性が、物理化学的な数値として測定可能な水準に達していない食材 (=作物)については、この種の改良がまだできていない。そういう作物の改良には、調理や加工のプロセスを物理学的、 化学的な物理量として記述し直すことができる”molecular gastronomy”との共同作業が大いに役立つだろう。また、 新しい物理化学的特性を持った食材は、調理や加工の可能性を広げ”molecular gastronomy”の発展に役立つかも知れない。

 これまで、こういう品質の改良は当たり前だと思ってあまり深く考えたことがなかったのだが、 作物のエンドユーザー向けの理化学的特性の改善は実は世界最先端の研究分野の一つなのかも知れない。

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2008年3月26日 (水)

遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準ともう一つの視点

 Niftyのメンテナンスで1日あいてしまった。

この数日、私のGoogle等で「ナチュラルオカレンス」 をキーワードにして私のblogを訪問する方が増えていると思ったらそういうことでしたか。先週来、 アクセスログには、明治製菓、 キッコーマン、キリンビール、ヤクルト、 月桂冠など研究レベルでは組換え微生物を使用しており、 組換え微生物の食品利用における有効性に関心があると思われる企業からのアクセスが増えてきている。 いずれも、 Google等で「ナチュラルオカレンス」 をキーワードにして私のblogを訪問しています。
 
# ここで公開されると困るのであれば、会社からアクセスしちゃいけません。
 
3/17に食品安全委員会の第59回 遺伝子組換え食品等専門委員会で 「遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準について」の議論が行われた。
 
会合の主な目的は、遺伝子組換え微生物を利用して製造された食品(遺伝子組換え微生物を含むもの) の安全性評価基準の草案を固めること。ですから、乳酸菌、酵母、 糸状菌などの微生物を利用した製造プロセスを持つ食品メーカーにとっては、 将来に亘る製品開発に影響する可能性が高いので重大な関心事でしょう。
 
残念ながら、3/25現在、議事録は公開されていないので、専門委員会の検討の結果、素案にどのような変更があるかはうかがい知れない。 現状で確認できる専門委員会の資料は素案と他の安全性評価基準との対照表のみ。 従って、このblogでもすでに公開されているもの以上の新しい情報はありません。
 
メーカーの皆さんの関心事は、遺伝子組換え嫌いの最近の消費者の動向を鑑みれば、おそらくどのような菌株ならば、 遺伝子組換えでない (あるいはナチュラルオカレンスである)といえるのか?ということかもしれません。
遺伝子組換え技術から除外されるナチュラルオカレンスについては、公的な定義のない用語なので、 今後ともこのような基準に取り込まれることはないでしょう。少なくとも、「ナチュラルオカレンス」 に該当する事象の範囲はCODEXの議論を受けてカルタヘナ議定書の見解を踏襲することになるはず。
 
生きた組換え(?)細菌を含む製品の場合、プロセスベースで判断するのか、プロダクトベースで判断するのか、 他の法律や国境措置とのかねあいもあってなかなか判断が難しいところです。このあたりの論点整理は、 遺伝子組換え食品等専門委員会のメンバーでもある東京農工大の小関先生が纏めておいでです
 
なお、今般公開された安全性基準案では、第3において次のように記述されている。
”本基準において対象とする遺伝子組換え食品(微生物)は、原則として、 「組換えDNA技術によって最終的に宿主に導入されたDNAが、 当該微生物と分類学上の同一の種に属する微生物のDNAのみである場合」、又は 「組換え体と同等の遺伝子構成を持つ生細胞が自然界に存在する場合」 に該当する微生物を利用して製造されたものは含めないものとする。”
即ち、基準の対象は最終産物(プロダクト)としての微生物であると述べられていますので、 プロダクトベースで判断することとされています。従って、バクテリアのゲノムに抗生物質マーカーを挿入してKNOCK OUTしたあとで、マーカー遺伝子を完全に除去する技術を使用した場合には、 その微生物を使用した製品は安全性審査の対象にはならないことになります。ただし、 ラベル表示の問題は食品安全委員会で検討する事項ではないので、 プロダクトベースで遺伝子組換え食品ではないと考えられるものであったとしても、 表示しなくて良いかどうかはリスク管理の問題ですので、 食品安全委員会の基準とは別に農水省の判断によると考えた方が良いでしょう。
 
今回の評価基準に固有のポイントは以下の通り。
”微生物由来の食品の安全性を考える際に、 他の遺伝子組換え食品の安全性評価項目に加えて特に慎重に考慮すべき点は、 遺伝的安定性、遺伝子伝達の可能性、 遺伝子組換え微生物のヒト消化管での定着性、 遺伝子組換え微生物とヒト腸内フローラとの相互作用、 遺伝子組換え微生物のヒト腸管系及び免疫系への影響、 遺伝子組換え微生物を利用した個別の食品製造に特有な問題等である。”
実験的に腸管内で起こる遺伝子の水平伝達の可能性や程度を評価することは非常に難しい。 プラスミドを持つLMOの場合は、 複製開始点の機能する宿主域についての文献的な知識で良いのだろうか。 遺伝的安定性は、宿主となる菌株の安定性 (内在性トランスポゾンを持たないなど)だろうか。 ヒト消化管での定着性というのは、 定着性が高い場合でも健康に悪影響がなければよしとするということだろうか。また、 「免疫系への影響」に至っては、 どう評価したものか。
 
今回の安全性評価基準では、具体の項目を定めた第3章II.-第3に評価のポイントがある。・・・が、 結局はどのような試験をしなくてはいけないのか非常にわかりにくい。
”7 腸内フローラへの影響に関する事項
組換え体のヒト腸内フローラへの影響に関し、安全性の上で問題がないと判断できる合理的な理由があること。

8 腸管系及び免疫系への影響に関する事項
組換え体のヒト腸管系及び免疫系への影響に関し、安全性の上で問題がないと判断できる合理的な理由があること。”
さて、どうやって評価したものか。付帯的に調査方法のガイドラインでも策定してくれれば良いのだが(ちなみに、 今回素案を検討した調査会のメンバーでは五十君先生が腸内フローラの研究分野、 澤田先生がアレルギー・ 免疫の分野)。
 
どうやら新規の組換え生物を含む食品の前途には冥く長い道が横たわっているらしい。
 
もう一つの視点は食品の安全性とはまた別。
 
仮に、遺伝子組換え乳酸菌を使ったヨーグルトや遺伝子組換え酵母を含むワインを海外で購入して、 日本で飲食しようとする場合に、 食品衛生法とは別の法律上のリスクがある。
もしかしたら、あなたは食品のパッケージを開けた途端にカルタヘナ法第4条に違反するかもしれない。 カルタヘナ法第4条では、次のように規定されている。
(以下 略)
食品に含まれる生きた遺伝子組換え生物を「食べる」行為は、 使用等にあたる可能性が高い。 食品のパッケージを開けると、 法律で定められた「拡散防止措置」を執らないで行う使用等(即ち、「第一種使用等」) にあたる可能性が高い。 屋内での使用等であっても、法律で適切な拡散防止措置が規定されていない場合、 あるいは主務大臣の確認した拡散防止措置を執っていない場合には、第一種使用等に該当すると考えられる。
 
なお、第4条違反の罰則は、同法第39条で「六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、 又はこれを併科する。」とされていますので、 組換え酵母を使用したワインの栓を抜く前には、 拡散防止措置を執りましょう。(って・・・どうやって?)
 
・・・という馬鹿馬鹿しい事態にならないようにするためには、あらかじめ、 コモディティーとして流通している組換え作物同様に、 第一種使用規程を策定して申請しておくか、同法第4条第1項の 「特定遺伝子組換え生物等」の指定を受けておくんでしょうね。 食品の場合の主務大臣がどなたかは存じませんが。
 
今のところ、国際的にも「特定遺伝子組換え生物等」の指定を受けたものはないと思いますので、 この方法でカルタヘナ法をクリアするのは、なかなかハードルが高いと思いますので。
 
これに類似した件について、東京農工大の小関先生作成の資料では 「虫歯に良い乳酸菌入りヨーグルトをLA の空港で食べたら日本に帰れない?」 と書いてあります。 カルタヘナ議定書やカルタヘナ法では、 遺伝子治療を受けた人や組換え生ワクチンを投与された人は遺伝子組換え生物扱いされないことになっているのですが、 口の中や腸内で遺伝子組換え微生物を飼っている人の場合はどうもビミョーな感じがします。
 
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2008年3月24日 (月)

生物学にBig scienceは似合わない? -あるいはomicsの黄昏?-

最近、シーケンサーの能力の爆発(もう向上という水準ではなくなりつつある)についてのエントリーを書いた。 シーケンサーの能力の向上は、ゲノミックスを中心的な業務としているラボの姿を一変させる可能性を秘めている。

従来のスタイルは、Wet中心の実験室+シーケンサーを動かすためのバックヤード(テンプレート調整&キャピラリの洗浄・充填) というシーケンス工場だったが、これからのスタイルは実験室+"storage farm"かもしれない。これまで、 シーケンサーを設置していたスペースが空き、稼働準備のための設備も大半は必要なくなる。

理研のゲノム科学総合研究センターの解散が報道されている。以下は、毎日新聞より。

 


 

 

ヒトゲノム:研究の長期戦略どこへ 理研の科学総合センター解散へ

 人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)を解読する国際ヒトゲノム計画に貢献した「理化学研究所ゲノム科学総合研究センター」 が3月末に解散する。産業への貢献が期待されたほど進まず、政府が独立行政法人の合理化を進める中で、見直し対象になった。 欧米でも研究方針は頻繁に修正されるが、研究拠点の解散は珍しい。研究の一部は新組織で継続されるものの、 センターとしての活動は10年間で終了することになり、ゲノム研究の長期戦略が論議を呼びそうだ。【田中泰義、青野由利】

 ◆10年間で1264億円投入

 ◇人材と資金を集中

 ヒトゲノム計画は1980年代に提案され、米国を中心に国際協力で進められた。日本も90年代初めから参加し、 98年にセンターが発足した。生物分野では初めて人材と資金を集中させた大規模研究機関で、10年間で約1264億円が投じられた。

 この間、センターは21番染色体のゲノム解読で中心的な役割を果たし、チンパンジーやマウス、 シロイヌナズナなどのゲノム解析でも成果をあげた。機能を持つ遺伝子のデータベースもマウスで作成した。榊佳之・同センター長は 「新たな万能細胞である人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発も、われわれの基盤的な研究成果が支えた」と強調する。

 ◇学問的検討が不足

 一方で、生物学における大型研究の戦略には課題も残した。

 ゲノム解読では、使用機器の開発などに日本人が貢献した。しかし、日本の解読率はヒトゲノム全体の1割に満たなかった。 このため「適切な時期に資金が投入されず、十分な国際貢献ができなかった」との批判が出た。

 こうした声を踏まえ、政府は02年度以降、遺伝子から作られるたんぱく質の立体構造を決めるプロジェクト「タンパク3000」 に積極的に予算を計上した。センターを中心に約578億円をつぎこみ、4187個の構造を決定したが、 期待されたほど医薬品開発に直結しなかった。成果は見えにくく、再び研究戦略が問われた。

 中村桂子・JT生命誌研究館長は「生物学は本質的に大型プロジェクトになじまない。ゲノム解読はプロジェクトに合う、 まれな例だった。解読終了後は、それをどう展開するか考える必要があったのに、 国際競争と称して学問的検討のないままタンパク3000などに資金を投じた」と指摘する。

 結果的に組織は解散が決まった。センターを構成する5研究チームのうち1チームが研究を終了。 他の4チームは理研の他組織と統合した新領域などとして再スタートする。

 ◇行革「見せしめ」の声も

 合理化による研究拠点の改組を外部の専門家はどうみるか。

 隅蔵(すみくら)康一・政策研究大学院大学准教授(科学技術政策)は「この分野の基盤は整備され、 研究機関にとってゲノム解読装置やデータベースなどは普通のインフラになった。 選択と集中の観点から発展的に研究体制を再編するのは妥当ではないか」と受け止める。

 確かに、解読装置の機能向上は著しい。00年ごろにはヒトゲノムを1台で解読するには4年以上かかった。 それが今では25~40日で可能となり、10年にはわずか約2分に短縮される見通しだ。 大量の機器を一研究機関に集中させる必要性は薄らいだ、との見方はセンター内にもある。

 一方、吉岡斉・九州大教授(科学技術史)は「内外での評価を踏まえた上での判断と考えるが、 行革のために見せしめ的に行った印象を受ける。研究機関に対し、短期間で成果を出せという風潮が強まるのではないか」と警戒する。

 榊センター長は「10年間の成果が活用できるよう、国には今後も十分な対応を求めたい」と話している。

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 ■ことば

 ◇ヒトゲノム解読

 人間の遺伝情報は細胞のDNAに、4種類の塩基を組み合わせた暗号文字で書き込まれている。 ヒトゲノム計画は人間の全遺伝情報を担う約30億塩基対の配列を解読する国際プロジェクトとして90年代初頭に始まり、 03年に終了した。その後、研究の焦点は、遺伝子の働きやたんぱく質の構造と機能、RNAの役割などに移ってきた。 DNAなどの分子が細胞内で構成するネットワークの解明や、ゲノム解読で得られる大量データの情報処理も課題となっている。

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 ◇ゲノム計画の歴史◇

1988年 国際ヒトゲノム計画を推進する国際組織「HUGO」設立

  90年 国際ヒトゲノム計画開始

  96年 参加国が解読結果を直ちに公開することなどで合意

  98年 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター発足

2001年 ヒトゲノム解読概要発表

  02年 タンパク3000計画開始

  03年 ヒトゲノム解読完了

  07年 タンパク3000計画終了

毎日新聞 2008年3月23日 東京朝刊

 


 

 文部科学省出向中に、理研のゲノム科学総合研究センターを訪問したことがある。タンパク3000の幕引きの前年、 2006年だったと思う。壮大なシーケンサー工場と、NMRパークが印象に残っている。もし、 この施設を維持することが目的化してしまったら大変なことだな、と。そういう意味では、技術的な理由、あるいは知見の集積の結果、 巨大工場が要らなくなったので、スクラップ・アンド・ビルトで組織を改めるというのは、むしろ歓迎するべき出来事だと思う。

 理研のシーケンス工場のシーケンサーは、島津と共同開発したRISAシリーズのキャピラリーシーケンサーだ。 384本の石英キャピラリーを備えた電気泳動タイプのシーケンサーとしては、単体での処理能力は世界有数のものだったと思う。 1PASSで読める長さも900bp前後あったはずなので、 完全長cDNAプロジェクトなどでは信頼性の高いデータの蓄積に一定の貢献があったと考えられる。しかし、装置が大型である、 キャピラリーの洗浄やセットアップに専用の装置が必要である等、設備的・ 人的な稼働コストが結構かかる点が災いしてそれほど普及しなかったように思う。

 世界的なシーケンサーの開発動向はこちらのエントリーに書いたので、 ここでは触れないが、技術的な動向からいってもシーケンサー単体の飛躍的な能力向上の結果、シーケンス工場はもう要らない。だから、 行革の見せしめがどうのというのは的外れなように思う。的を射ているかどうかは、理研の運営費交付金の動向を見ればはっきりするだろう。 少なくとも、研究室のインフラになる様な小型シーケンサーはこれからも存在し続けるだろうし、 ゲノムプロジェクトをコンパクトにしたようなスーパー・シーケンサーは、それとは相当に異質な代物だ。科学史研究者は、 技術論に精通しているのだろうが技術そのものには疎いのかもしれない。

 ゲノム研究への投資のタイミングを逸したというのはもはや動かしがたい史実であろう。しかし、 10年間で1264億円という事業費は巨額か否か?見出しに数字があると、巨額であることを印象づける結果になるのだが、 この分野での他国の投資と解読率との比較がないのは記事としてアンフェアだ(もっとも、サンガーセンターと比べられると負けちゃうような気はしますが) 。もっとも、これとて宇宙開発予算の端数にしかすぎない。

 もともと、ヒト・ゲノム研究は、 ヒトの遺伝子のフルセットがどうなっているのか分からない時代に散発的ながん研究があまりに多かったので、 研究基盤を整備する意味で始められたように思う。今日ではヒト・ゲノム研究も終了し、基盤的なデータセットが一通り揃ったところなのでで、 そもそものヒト・ゲノム研究のきっかけになった、がん研究等の個別研究に資源を再配分する時期では無いだろうか (こういう視点が科学史の研究者から出てこないのがちょっと悲しかったりする)。

 タンパク3000にしても、ヒト・ゲノムにしても、計画の立案時から見て、タンパク質の立体構造に関わる知見や、 ゲノムや遺伝子に関する基本的なものの見方が随分変わってしまった(※)。それは、これらのプロジェクトのアウトプットによる影響であり、 プロジェクトのアウトプットが、プロジェクトの前提条件となる知識基盤を動的に変容させてきた過程を表している。

 しかし、ゲノム研究やタンパク質の構造解析の結果、なにかすぐに社会の役に立つ成果が得られると誰が考えたのだろうか? 私はそんな無責任なことを言う専門家が居るとはちょっと考えられないのだ。特に、 タンパク3000のプロジェクト企画段階では分子標的医薬はまだ実用化されても居なかっただろうから、 医薬品開発にすぐに結びつくなんて誰が言い出したのか。記事では”期待されたほど医薬品開発に直結しなかった”というが、 誰がそんな期待をしたのだろう。

 


 

※ どう変わったは、一言では言いにくい。

私は素人だが、 タンパク質の立体構造は構造モチーフ情報の集積と計算機科学の進歩によって基本的な3次構造から予測できるようになってきており、 必ずしも結晶構造解析をして決定しなければ前に進めないという状況ではなくなりつつある。このような進歩やNMRの改良によって、 X線結晶構造解析もかつてほど必要とされなくなっている。その結果、宇宙ステーションでのタンパク質の結晶化も、どうしても必要、 という状況では無くなってきている様に思う。

ゲノムも、「遺伝子とそれ以外の部分」という括りで見ていたものが、実はゲノムの至る所から機能RNAへの転写が行われており、 ゴミタメのように言われてきた非コード領域に由来するRNAの生物学的重要性が格段に増している。また、「遺伝子」からの転写産物も、 スプライシングのされ方によって、結果として異なるタンパク質をコードしていることもあり、 遺伝子とタンパク質の対応もなかなか一筋縄ではいかなくなってきている。

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