マウスの脂肪細胞(白色脂肪細胞及び褐色脂肪細胞)からプリオン病が感染することがわかった。
オリジナルの論文はPLoS Pathogensに掲載された。
これまで、BSE等のプリオン病は神経系や胸腺などの”特定危険部位”(政府で使われているこの訳語は不適切であると思う)を介して家畜から人に感染すると考えられてきた。この論文で著者は以下のように示唆している。
(我々の結果は、次のことを示唆している。プリオンに感染した家畜や野生動物は、ヒトや家畜へのこれまで認められなかった感染の危険性を引き起こすかもしれない。)
もし、表題どおりの現象が通常のウシでも起きるのであれば、全頭検査は言うに及ばず、”特定危険部位”という括りでリスク管理をしてきたことが、ほぼ無意味であったことになる。なにしろ、大量にある皮下脂肪でもプリオンが感染するということなのだから。ただし、そのプリオンの量と感染力がどの程度かによってとるべき対応は大きく違ってくるはずなのだが。
この論文を読むにあたり、留意するべき事項
要するに、ウシに適用しうる結果か?
- 使用されたマウスはプリオンに対する感受性が高いものが使用されていないか?(通常の動物では問題にならない水準ではないのか?)
- 組織へのプリオンの分布の調査は野生型のマウスだった(TGマウスも比較に用いている)。
- 脳の感染力価は野生型もTGも同等。(感染力価は8.9 vs. 9.8)
- 脂肪組織(皮下)の感染力価は、野生型ではTGの約1/2-1/3(4.7 vs. 8.6)
- しかし、この値は特定危険部位にあたる脳の1/2であり、舌(野生型では、4.7)と同等。安全と考えられている血清(野生型では1.8)の2倍以上にあたる。
- 使用されたマウスは高齢ではないか?(例えばウシでは20ヶ月例以下では問題にならないレベルのものではないか?)
- 6-12ヶ月齢の若いマウス
- プリオンの接種の方法は特別か?(近年、リスクとなりうる原発性のBSEを模している状況と言えるか、あるいは脳内接種?)
- 脳内に組織磨砕物の希釈系列を50uL投与
- 脂肪細胞に蓄積していたプリオンの量は、神経細胞と比べて多いか少ないか?(仮にウシの脂肪で同等量が蓄積していた場合、ヒトが摂取する可能性のある見積量はどの程度か?)
- 感染力価で表現しているので分からない
- 22Lスクレイピーに感染したマウスの組織は、感染力価は確認されているのだが、WTではImmunoblottでは脳以外の組織にプリオンが検出されていない。これは謎
など。
immunoblotと感染力価が対応していない、野生型個体については組織免疫染色でも脂肪組織そのものにはプリオンが確認されていない、など若干データに不整合があるように感じる。
論文の表題でも、”Detection of Prion Infectivity in Fat Tissues of Scrapie-Infected Mice”とあるとおり、プリオンそのものが脂肪細胞から検出された、と言うわけではない。感染性の基礎となる現物のプリオンが検出されないのは???
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