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2008年11月11日 (火)

「花粉症」3か月で改善? すぐに直りはしませんが

読売新聞より。理研で取り組んでいるスギ花粉症ワクチンも生物研で取り組んでいるスギ花粉症緩和米も要らなくなってしまうかも知れない研究。

「花粉症」3か月で改善、スイスの研究チームが新治療法

 【ワシントン=増満浩志】花粉症などのアレルギー患者に原因物質を繰り返し注射する「減感作療法」を、3か月で済ませることに、チューリヒ大学病院(スイス)などの研究チームが成功した。

 皮下でなく、そけい部のリンパ節に注射する方法で、副作用も従来の方法より少ないという。米科学アカデミー紀要電子版に10日、発表された。

 減感作療法は通常、原因物質のエキスを少量ずつ、約3年かけて注射する。研究チームは、皮下注射したエキスが体内の免疫システムをつかさどるリンパ節へは一部しか達しないことに注目。58人の花粉症患者に対し、リンパ節へ直接、1か月おきに計3回だけ注射する新手法を試してみた。

 開始から4か月後に検査したところ、アレルギー症状が劇的に緩和され、治療前に比べ平均10倍の花粉量がないと鼻炎が起きなくなっていた。効果は開始から3年後も持続していた。

 従来の減感作療法を行った別の54人では、じんましんなどの軽い副作用が18件、入院の必要なぜんそくの副作用が2件起きた。新手法では、軽い副作用が6件起きただけだった。

(2008年11月11日13時18分  読売新聞)

オリジナルの論文はこちら。Open accessの論文ですのでご家庭からでも読めます(・・・読まないか)。

記事にはありませんが、この論文で言う花粉症とはイネ科花粉症です。スギ花粉ではありません。スイスなので牧草の花粉による花粉症が主流なのでしょう。

処理あたり50 人規模の臨床試験で追跡調査も3年行っていますから、試験としてはかなりしっかりしたもの。副作用も少なく軽度であること、治療成績が皮下注射と同等かより良いこと(微妙ですが)、注射の回数も少なく注射自体の苦痛も皮下注射よりも少ないこと(これまでの54回注射がたったの3回!)などから、もう少し臨床試験が行われれば、いずれは従来の減感作療法に代替できるかもしれません。
# しかも、たいした設備投資は要りません。

治療効果については記事の通りで、アレルゲンの点鼻投与に対する反応では、治療開始後4ヶ月目で従来の治療法よりも改善しています(自然暴露ではありません)。3年間の追跡では、従来の治療法と同等かそれ以上の効果。

アレルゲン投与開始初年度における抗ヒスタミン剤投与など他の治療法の必要性は従来法よりも低くなっています。点鼻投与に対する反応では、効果の持続性も3年後では従来の治療法とそう変わりません。また、皮下に希釈したアレルゲンを注射して炎症反応を調べるprick testでも3年間のデータでは従来の治療法と同等の効果を上げており、アレルギー反応を媒介する特異的IgEの値は3年後には初年度よりも、1/3程度まで低下する傾向にあります(つまり、このまま行けば完治するかも!)。

肝心の臨床的な症状も、自然暴露の状態で3年後には初年度よりも相当に症状が改善しています(ただし、Simptom scoreをVAS(visual analogue scales) で示していますが、VAS=2というのは”少し痛い”相当なので、仕事の妨げにならない程度とはいえ、この治療では完治とまでは行かないようです)。初年度のheyfever様の症状のVASは6-8程度はあるので、アレルゲンの点鼻投与ではそこそこ効果はあるものの、臨床的には”かなりつらい”と言う状況のようです。ですから”「花粉症」3か月で改善”と言う見出しは間違ってはいませんが3ヶ月ではおそらく治療効果はあまり実感できないのではないでしょうか。

Pain# 痛みを10段階で表現するVASというものがあるとは知らなかったなぁ。でもVAS=10ともなると、こんな感じではなかろうか。

精製アレルゲンの注射にあたっ てはエコー(超音波)で針先をガイドしながらゆっくりと大腿リンパ節に注射、しかもリンパ節から血管へのアレルゲンの移行を抑えるためにあらかじめ吸引しておくといった処置が必要とのこと(これを怠るとアナフィラキシーのリスクが大きくなる)。また、注射する部位がそけい部なのでアレルギー外来で処置する 場合患者さんの心理的な抵抗もあるかも知れません。

アレルゲンを注射する大腿リンパ節は長さ1.5cm程度、太った患者さんでも皮下数mmの浅い所にあるのでそこを選んだ様です。素人としては、もうちょっとやりようは無いものかと思ったりもするのですが。

アレルギー・マーチという言葉があるくらい、何かのアレルギーを持っている患者さんは他のアレルゲンに対しても反応をおこしやすくなっています。できれば全部のアレルゲンに対して治療をしてしまいたいところでしょうが、単一のアレルゲンに対して54回も注射しなくてはいけないのであれば、軽いアレルギーであれば複数のアレルゲンについてまで治療までしなくても、と思ってしまうかも知れません。注射の痛み、注射後の経過観察、医療費・・・負担は小さくありません。実際、この研究でも途中で治療に来なくなちゃった患者さんが少なからずいた模様です。研究なので治療費は免除されているのでしょうけど、注射がよほど痛かったのでしょう か(皮下注射では54人中22人は3年間の試験中に脱落。そけい部の注射では最初の注射で脱落したのが66人中の8人)。

この研究の成果は、アレルゲン1種類に付き注射3回で済むのであれば、各種のアレルギーに対して現実的な治療の機会を提供できることではないでしょうか。

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