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2008年8月の記事

2008年8月29日 (金)

アンピシリンが目に入った場合

「アンピシリンが目に入った場合」・・・という検索ワードでこのblogを訪問した方がいるが、・・・そういう場合、 とりあえず大量の水で洗うしかない。

目に入った物質の安全性がわからない場合には、まず洗う。Webで探すのはそのあと。blogなんか見てる場合ではないのだ。

アンピシリン、正確にはアンピシリンあるいはアンピシリンナトリウムがあるが、もともと医療用の抗生物質だ。 現在もヒトおよび動物用注射薬あるいは内服薬として用いられており、 注射時のペニシリンショックを除いて急性毒性がでることはまず無い。培地用のストックの100 mg/uLくらいの濃度のものが目に入った位では特に問題はおこらないだろう。

遺伝子組換え実験によらず、核酸やタンパク質を対象とした実験では、毒薬、劇薬も扱う。その他の化学物質で、 毒性や発ガン性はあるが一般にはそれほど流通していないので法律の規制の対象にはなっていないものもあつかう。 取り扱いを間違うと危険な物質を扱っている以上は、そのリスクを承知した上で扱うことが重要だ。それが嫌なら、 研究なんてしようと思わないこと。

自分の使う試薬が、もし目に入った場合にどうなるか、口に入った場合にどうなるか、皮膚に触れても大丈夫かくらいはあらかじめ調べておこう。

・・・ていうか、どうすればアンピシリンが目に入るかな。ま、フェノールじゃなくって良かったね本当に。

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2008年8月27日 (水)

[業務用覚書] LyticaseってZymolyaseと一緒だったのか

Google earthで見るとシカやウシの寝るときの方角が、地磁気の磁極を向く傾向があるというニュースが今日のトレンド。

オーストラリアや南米のウシはどっちを向くんだろう。

ヒトは、というと日本では北枕はいけないというが、その根拠は定かで無い。


 

プラスミド抽出キットのメーカーから指定されている都合でSigma-Aldrich のLyticaseと言う酵素を使っている。 試薬のボトルをよく見ると"Product of Japan"と書いてある。

バクテリア由来の酵素の工業的精製にかけては、日本は世界的に見ても優れた技術を持っているので良くあることだ。では、 同等品が日本のメーカーから売られていればもっと安く調達できるはずなので調べてみた。
Sigma-Aldrich のホームページによれば、

Lyticase
Synonyms: Zymolyase
from Arthrobacter luteus

とある。なんだ。生化学工業のZymolyaseと一緒か。じゃぁ今度からそっちにしよう。

ちなみにプラスミド抽出キットで指定されているSigma-AldrichのLyticaseは
Product Number L5263 (lyophilized powder, min 4,000 un/mg protein)が50,000Uで\28,500。
生化学工業のZymolyase-20Tは1g (20,000U)で\10,000、Zymolyase-100Tは500 mg(50,000U)で\39,000。

ユニットあたり単価は、L5263は0.57 \/U、Zymolyase-20Tは0.5 \/U、 Zymolyase-100Tは0.78 \/Uなので、Zymolyase-20Tが若干安い。

純度が高い製品の方が一見良さそうではあるが、秤量して小分けするのが大変なので、 Zymolyase-20Tが扱いやすいかもしれない。よく見るとprotease活性も結構高いが、 これも細胞壁分解には効いていたりして。

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2008年8月26日 (火)

ヒトES細胞への遺伝子導入技術の改良

産経ニュースより。

 

ES細胞の遺伝子操作改良 iPS細胞への応用も

 
    2008.8.26 19:42  
 
   

 あらゆる細胞に分化するヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)     の遺伝子操作を大幅に効率化できる技術を埼玉医科大と京都大、新エネルギー・産業技術総合開発機構が開発した。     特定の細胞への分化誘導や、遺伝子の改変が自在にでき、京都大の山中伸弥教授らが開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)     への応用も見込まれる。再生医療の実現や創薬研究に役立つ成果で、米科学アカデミー紀要に9月9日付で論文が発表される。

   

 ES細胞やiPS細胞を再生医療や臨床研究に応用するには、特定の遺伝子を高い効率で組み込む技術が必要とされる。     研究グループは、感染力が強く毒性の低い「アデノウイルス」を遺伝子の運び屋とする従来の技術を改良。     ウイルスから遺伝子部分を除去した“抜け殻”を作り、代わりに分化誘導や研究に必要な改変遺伝子を組み込んだ。

   

 この運び屋によって導入された遺伝子は、ES細胞でもiPS細胞でもほぼ100%の確率で正常に働くことが確認された。     従来法よりもウイルスによる毒性は低く、神経や肝細胞など治療や研究に必要な細胞への分化誘導が可能になるという。また、     ES細胞の遺伝子の一部を組み替える遺伝子改変の成功率は、従来方法の1%から45%へと大幅に向上した。

   

 マウスES細胞では、遺伝子改変技術を応用した「ノックアウトマウス」がさまざまな疾患研究に貢献しているが、     ヒトES細胞での遺伝子改変は困難とされていた。開発された遺伝子操作技術はノックアウトマウスを作るより確実で、     埼玉医科大の三谷幸之介教授は「研究の促進に結びつく」と話している。

 

この記事では何が画期的なのか分かりにくいので、    技術的な内容についてはNEDOのプレスリリースを見た方が良いでしょう。こちら。    

発表される論文ではどんな研究を行い、どのような事実が示されたのかは、記事によれば、次の通り。    「研究グループは、感染力が強く毒性の低い「アデノウイルス」を遺伝子の運び屋とする従来の技術を改良。    ウイルスから遺伝子部分を除去した“抜け殻”を作り、代わりに分化誘導や研究に必要な改変遺伝子を組み込んだ。    

 この運び屋によって導入された遺伝子は、ES細胞でもiPS細胞でもほぼ100% の確率で正常に働くことが確認された。従来法よりもウイルスによる毒性は低く、 神経や肝細胞など治療や研究に必要な細胞への分化誘導が可能になるという。また、ES細胞の遺伝子の一部を組み替える遺伝子改変の成功率は、 従来方法の1%から45%へと大幅に向上した。

とある。NEDOのプレスリリースも概ねその通りなのだが、ちょっと違う点がある。それは、

この運び屋によって導入された遺伝子は、ES細胞でもiPS細胞でもほぼ100% の確率で正常に働くことが確認された。

と言う点。プレスリリースではこのように書かれている。

ほぼ同様の結果が、 京都大学で樹立された複数のヒトES細胞株とカニクイザルES細胞株で得られることが確認されました。すなわち、 改良型アデノウイルスベクターを用いた遺伝子発現と遺伝子操作技術は、 霊長類ES細胞やES細胞と同様の性質を持つと考えられている人工多能性幹細胞 (iPS細胞)において広汎に応用可能である事が示唆されました。

「示唆されました」というのは、つまり、ES細胞で研究をしたけれど、iPS細胞については実験していない、 けれども予想としては上手くいくだろう、ということです。従って「iPS細胞でもほぼ100% の確率で正常に働くことが確認された。」という記述は間違っている。

 


 

「ヘルパー依存型アデノウイルス・ベクター」というウイルス・ベクターの仕組み自体は、1996年にはもう出来上がっていて、 今回の論文の目新しいところは、ただのヒト体細胞ではなくES細胞を使ったこと。 NEDOのプレスリリースはそのあたりも良く分かるので、非常に良く書けている。ES細胞を使う研究は計画の倫理審査があり、 研究を実施すること自体のハードルが非常に高いがそれに関しては触れられていない。

技術的には、外被タンパク遺伝子を持たない代わりに大きな遺伝子断片を運べるアデノウイルス・ベクターと、 外被タンパク遺伝子を持つけれども自律増殖に必要なE1遺伝子と外被へのパッケージングに必要なシグナルを持たないウイルス・ ベクターの二種類を併用しているところがミソ。パッケージされて細胞から飛び出してくるウイルスには、 ウイルス自身の遺伝子は含まれていない(以下NEDOで公表されている画像)。

これは、山中先生の使ったレトロウイルスや、産総研でiPS細胞の誘導に使ったRNAウイルス(センダイウイルス)とは違って、 DNAウイルスだ。レトロウイルスはランダムにゲノムに組み込まれるので、宿主細胞の思わぬ遺伝子破壊を起こすことがあり、 発ガンリスクがある。一方、センダイウイルスは、iPS細胞の誘導後に除去する方法も開発されているので痕跡を残さない。 発ガンリスクも極めて低い。そのかわり、宿主細胞のゲノムを改変することはできない。

その点、ヘルパー依存型のアデノウイルスであれば、狙いをつけた宿主細胞のゲノム上の特定の領域に、 相同組換えによってDNA断片が導入される。つまり、 患者から採取した細胞で作成したiPS細胞に対して遺伝子治療を行なうことができる。これは、 二本鎖DNAをゲノムに持つウイルスならではで、これまでの他のウイルス・ベクターには無い特徴だ。単に、 高効率で遺伝子を導入するのではなく、霊長類で安定的なジーン・ターゲティングができること、それがこの成果の特徴だ。

この研究はiPS細胞の誘導のその先、細胞分化の誘導のそのまた先、遺伝子治療済みの細胞をヒトへ移植する際の基礎技術になるだろう。 ・・・HLA抗原型の変換ができると画期的なんだけど、的が大きすぎるか。

# ヒトES細胞の高効率ジーン・ターゲティングはそれだけで十分すごい仕事だ。今のところ、 iPS細胞と言う名前を出したのは話題提供以上の意味は無いのだが、一般受けをねらったのかな。

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2008年8月25日 (月)

カルシウムの味?

朝日新聞より。

甘い?辛い?いや「カルシウム味」 米で第6の味発見か

2008年8月25日11時26分

 【ワシントン=勝田敏彦】 米ペンシルベニア州にあるモネル化学感覚センターのチームがカルシウムを味わうための遺伝子をマウスで確かめ、米化学会で発表した。 「カルシウム味」が第6の基本味である可能性もあるという。

 遺伝的に系統が異なる40種類のマウスにカルシウムを含む溶液を飲ませたところ、多くが飲むのを嫌うなか、 がぶ飲みする系統が見つかった。遺伝子を比較した結果、カルシウムを味わうのに使う二つの遺伝子が特定された。

 人間の舌は、甘み、塩味、酸味、苦み、うまみという五つの基本味を感知する。 今回のマウスの遺伝子に似たものは人間にもあることから、研究チームは「カルシウム味」 が基本味の一つである可能性もあると考えている。

 研究チームのマイケル・トルドフ博士は「カルシウム味は苦みに酸味が少し加わったようなものだ。適切に表現する言葉はなく、 『カルシウムっぽい』としかいいようがない」と話している。

”『カルシウムっぽい』としかいいようがない”という表現、いいですね。 ストレートな感覚を無理矢理何かにかこつけると大抵失敗します。たとえば、「まったりとしていて、少しも嫌みじゃない」とか・・・。

結局、カルシウム・イオンの味は、野生型のマウスにとっては好ましい味では無いようですね。たまたま、 変異のある系統だけがぶ飲みするということは。

ちなみに、手近なところで、カルシウムイオンの味を確かめたい方は、試薬棚の塩化カルシウム・・・ではなく、 市販のミネラル・ウォーターの中でも、硬度が最高クラスのContrexを飲むと良いでしょう (多分)。私は、これを飲んだ時は軟水で口を漱ぎたくなりました。味はありますが、それが「カルシウムっぽい」かどうかは保障しかねます。

味覚といえば、ヒトではフェニルチオカルバミド (PTC)に対する感受性の違いが有名です。苦みのレセプターの遺伝子の一つにある変異によって、 PTCに対する感受性が無い人がいると言う現象で、”味盲”(正確には”PTC味盲”)という差別的な言葉で呼ばれています。 特定の物質による苦みを感じないというだけで、別に味覚が全然ダメという訳では無いのに酷い用語です。

もっとも、味覚の受容体も臭いの受容体同様に、複数のセンサー(受容体)が複数の物質に反応して、 全体的な反応パターンとして味覚を感じているので、センサーが一つ欠けているヒトと、 そうでないヒトで反応パターンが少々違うかも知れません。とはいえ、味覚は年齢、生活習慣や体調でも変わるものなので、 そう言った変動の中では、遺伝的な違いによる影響はあったとしても大した違いではないかもしれません。

いずれにしても、味覚や嗅覚には測定できる外部基準がありませんので、私の感じる「カルシウムっぽい」味と、 あなたの感じる(あるいは感じない?)「カルシウムっぽい」味は比較のしようがありません。

 

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2008年8月21日 (木)

[業務用覚書] 酵母の相同組換えの効率とDNA断片の相同領域の長さの関係に関する論文

古い論文ですがオープンアクセスになっているのでメモ。
Micro-homology mediated PCR targeting in Saccharomyces cerevisiae.
P Manivasakam, S C Weber, J McElver, and R H Schiestl
Nucleic Acids Res. 1995 July 25; 23(14): 2799– 2800.

PCR産物両末端の酵母ゲノムとの相同領域の長さを変えて、相同組換えの頻度を測定している。

相同領域の長さ30 bpと25 bpで劇的に効率が上がる。45 bp以上は600bpでもあまり変わらない。 ホストの株によっても効率が結構違う。導入した遺伝子の違いによる影響は見られない。それが、DNA断片導入の効率なのか、 細胞内での相同組換えの効率なのかは、この実験系では切り分けできないが、長さに対する依存性が高いようなので、 おそらくは相同組換えの効率によるものだろう。・・・だとしたらホストの違いはどうのように影響しているのか?謎。

せめてよく使うプラスミドで、それぞれの株の形質転換効率を調べておいてくれたらな、と思う次第。 この実験系では相同組換えによるUra3+株と非相同組換えによるUra3+株の合計が母数になるので、DNAの導入効率は分からない。

もっともこの実験ではターゲットが核ゲノムの遺伝子なので、 マルチコピーのプラスミドの場合は組換え体が取れてくる頻度は数十倍程度は上るかもしれない。

なお、この論文は1995年のものなので、相同組換えへのMRXの関与が見つかる前のものだと思います。 その後のRad54による二本鎖DNA領域への進入とゲノムの相同領域の長さとの関係を直接調べた仕事はあるのだろうか?それとも、 今でもまだそこまで行っていない?

実験的には30-40 bpの相同領域を作っておけば高頻度の組換えが起こることがこの論文から分かるので、 実用上はそれでよしとしましょう。地味だけど貴重な基礎データです。まえもってこれを読んでいたらなぁ・・・あと5 bpプライマーを延ばしておいたのに。

しかし考えてみると、線形にしたプラスミドとPCR断片の間の相同組換えでは、 一本鎖の3'突出末端同士の会合が起きている場所でフォーク構造をとっているんだろうか?この論文で行ったような、 ゲノムDNAと二本鎖DNA断片の間の相同組換えとは若干様相が違う気もする。

# ちなみに、上記で言うホストとは飲食店従業員の方とは関係ありません。

 

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2008年8月20日 (水)

アスパラギン酸はアスパラガスにしか含まれて居ないの!?

朝日新聞より。

記憶の仕組みにアスパラガスのアミノ酸 岡山大が解明

 

2008年8月20日9時18分

 アスパラガスに含まれるアミノ酸の一種「アスパラギン酸」が、   神経細胞で情報伝達にかかわる仕組みを、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の森山芳則教授(生化学)らが突き止め、   米科学アカデミー紀要電子版に発表した。この仕組みの異常で、発達障害などが起こる難病になる可能性も示され、記憶・   学習の仕組み解明につながりそうだ。
 
   

 記憶にかかわる脳の海馬で、アスパラギン酸が神経伝達物質のグルタミン酸とともに存在することなどは知られていた。     大学院生の宮地孝明さんらは、細胞内でアスパラギン酸を運ぶたんぱく質を特定し、小胞型興奮性アミノ酸トランスポーター(VEAT)      と名づけた。

   

 VEATは、神経細胞のつなぎ目にある神経伝達物質を蓄える袋に、アスパラギン酸を運びこむ。蓄積されたアスパラギン酸は、      この袋から分泌されて神経伝達物質になるとグループはみている。

   

 これまでVEATは別の働きで知られており、その異常で、幼児期から精神発達や運動障害が起こる「サラ病」     になることがわかっていた。今回の発見で、サラ病は神経細胞の情報伝達の異常で起こる可能性が示された。

   

 森山教授は「グルタミン酸だけでは説明が難しい情報伝達の仕組みが、     アスパラギン酸の働きを調べることでわかるかも知れない。認知症などの薬の開発につながる可能性もある」と話している。(赤木基宏)        

 
 

神経細胞内でアスパラギン酸の蓄積に関わる膜タンパク質が同定されました、という研究。   小胞型興奮性アミノ酸トランスポーターと言う名前なので、刺激に応答してアミノ酸の運搬の状態が変わるのでしょう。しかし、   この研究で明らかになったのは、神経細胞にある、とあるタンパク質の機能の一端であって、「記憶の仕組み」   ではありません。その点でもこの見出しは不適切です。

 

さらに私が反応してしまったのは、このトンチンカンな説明です。「アスパラガスのアミノ酸」・・・繰り返します。   「アスパラガスのアミノ酸」・・・こう言い換えて、   アスパラギン酸を説明しようとしています。

 

へー、アスパラギンもあるのに、という冗談はさておき、この見出しを付けた方は、   アスパラギン酸が肉でも魚でも卵でも、   多くのタンパク質にごく普通に含まれていることをご存じないのでしょうか。こういう無理矢理な言い換えは、   不正確な上にかえって正しい理解を妨げるので、止めた方が良いと思います。

 

物事をわかりやすく説明するのは大切ですが、わかりやすい、   ということは複雑な現実から多くの情報が捨て去られていると言うことでもあり、正確さには欠けます。   往々にして単純化の匙加減が難しいのですが、科学の世界では、   もうどうにもこうにもそれ以上の単純化や言い換えのしようがないものがあります。例えば元素の名前や惑星の名前がそれです。   アミノ酸の名称も特定の構造を持った分子に固有の呼び方ですので、○○の様なもの、という喩えは意味を持ちません。

 

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2008年8月19日 (火)

もし35Sプロモーターでも、こんなことが起こっていたら?

# 職業的な専門知識がなければ、以下のような連想はしないだろうな、と思いつつ。

翻って植物では、イネ・ゲノムを俯瞰してみると、100 kbpといえばBACクローン1個分くらいのサイズで、 遺伝子が複数詰まっている領域もあれば、砂漠のごときなーんにも無い領域もある、といいうことが分かっています。 哺乳動物で先鞭のつけられたこの研究と同様の現象が植物でも起きているかどうかは分かりませんが、もし起きているとしたら、 結構興味深い現象が見られるかも知れません。

研究用に開発された遺伝子組換え植物の中には、アクティベーション・タギング・ライン(activation tagging line)というものがあります(たとえばこちら)。 強発現プロモーターを植物ゲノムにランダムに割り込ませて、その下流の遺伝子を強制的に発現させるというもの。 遺伝子を無理矢理発現させているので、まともに生育できないケースや種子を採るまでに途中で死んでしまうケースも多々あるようです。 多くの場合、アクティベーション・タギング・ラインの作成にはCaMV35Sプロモータという、強力で、 しかも植物体の広い領域で転写が始まる植物ウイルス由来のプロモーターが利用されています。

では、こういうプロモーターを組換え植物の作成に使うと何が起こるでしょう。もし、 植物細胞でも動物細胞と同じように、転写が活性化している広い領域で様々な遺伝子の転写が同時に活性化しているとしたら?

ひょっとしたら、CaMV35Sプロモータで選抜マーカーを発現させている組換え作物等では、 本来は発現していない遺伝子が予想外に異所的に転写されているかも知れません。もちろん、植物が本来持っている遺伝子が発現するだけなので、 異種生物のタンパク質が大量に蓄積するとか、未知のアレルゲンがどうの、というSF的な状況にはなりません。しかし、 いかに食経験のある植物でも、我々は例えばイネやダイズの”根”を食べたことはありません。しかし、 もし組換え作物で異所的な遺伝子発現がおこっていて、本来根や葉で発現しているタンパク質を食べさせられるのだとしたら、 あまりありがたい話ではありません。

今のところ植物では、 そのような遺伝子組換えによって誘導された異所的な遺伝子発現に関する科学的な知見はありませんので、 食品安全委員会で採用している遺伝子組換え作物の食品安全性評価基準を見直すべき理由も何もありません。

# もっとも、誰かがアラビドプシスのアクティベーション・タギング・ラインをTiling arrayで解析して、組換え植物では遺伝子組換えによって異所的な遺伝子発現が活発に誘導される、なんて言い出さない限りは、ですが。

なお、最近の遺伝子組換えイネでは選抜マーカーの発現に組織特異的プロモーターを使っているので、 この種の心配は起こらないはずです。

 

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8月11日の京都新聞より。

       
         

RNA増加 未知の機能も
          京大グループ、英科学誌に発表

       
      
       

 ある遺伝子DNAが読み取られてRNA(リボ核酸)が作られる「転写」のときに、         その遺伝子の近くの領域も活性化して別のRNAも一緒に増えることが、京都大生命科学研究科の西田栄介教授(細胞生物学)、          大学院生の戎家美紀さんらの研究で分かった。         一見無駄に作られているRNAが未知の機能を果たしている可能性があるという。 英科学誌ネイチャー・セル・         バイオロジーで11日発表した。

       

 ■DNA転写で領域活性化

       

 マウスの細胞で、細胞増殖などで働く因子MAPKによって引き起こされるRNAの増加を調べた。         MAPKによって働く転写因子SRFが結合するDNAの付近を見ると、SRFによって転写される遺伝子だけでなく、         少し離れた遺伝子や、タンパク質を作らない遺伝子間領域も活性化し、それぞれのRNAの量が増えていた。DNAを巻き取る         「糸巻き」のタンパク質ヒストンを調べると、         RNAが増えている領域では糸巻きがゆるんで構造的に転写されやすくなっていることが示唆された。

       

 西田教授は「転写には、必要な遺伝子だけピンポイントで狙うという従来のイメージとは異なり、波及効果があった。         一緒に出てきたいろいろなRNAは、転写の効率を上げるなどの機能を果たしているのかもしれない。なぜ、         あいまいな制御がなされているのか突き止めたい」と話している。

       

新聞の見出しでは、何がなにやらわかりにくいのですが、         この研究を乱暴に要約すると哺乳動物の細胞では、ゲノム上のとある遺伝子が盛んに転写されるとき、その両側の全体で100         kbp位の領域にわたってゲノムが、遺伝子のみならず遺伝子間領域まで転写されているよ、というこです         (オリジナルはこちら)          。論文の表題の"Ripples"には”波動”という意味もあり、ニセ科学マニアには垂涎の的かも?いえいえ、         至極まっとうで興味深い論文です。

       

ゲノム全体をカバーするTiling arrayがあると、こういう仕事ができるんですね。         この論文では、他にもノザン、RT-PCR、SAGEなど転写産物を測定するあらゆる方法を駆使していて、         ゲノムの特定領域のディープ・トランス・クリプトームとも言うべき研究になっています。          また、特にハウスキーピング遺伝子について未成熟な産物転写(スプライシングされていないもの)         と成熟したmRNAの量比の変動も追っていて、転写レベルの変動ほどには成熟mRNAのレベルは動かないので、         ハウスキーピング遺伝子についてはRippleの影響は及びにくい、という考察もあり、かなり仕事が丁寧です。

       

ちなみに酵母では転写の活性化が起きるときの領域のサイズは3 kbp位と言われていますから、          哺乳動物のそれは巨大です。しかし、この研究で見られたような転写の活性化が、物理的な領域のサイズで決まるのか、         遺伝子の密度や染色体上の位置、近傍のゲノムのメチル化等とどのような関係があるのか、というのは今後の課題でしょう。        

      

2008年8月15日 (金)

Molecular gastronomy的? トマトソースのレシピ

仕事のメモではありませんが、業務上得た知識と関係なくもありません。

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庭先のクッキングトマトが500 gほど収穫できたのでトマトソースを作ることにした。デルモンテのイタリアンレッドを2株栽培しているのだが、 今年はもう 2 kg以上収穫できた。CMVワクチン接種苗(*) なので少々値段は張ったのだがもう元はとれた。

* 弱毒CMVを農薬だと考えると、農薬登録されていない気がするのでちょっと微妙な技術です。   家庭菜園用なら無登録でも良いのでしょうか。弱毒ウイルス製剤を販売していないにしても、種苗として販売するための育苗は”業”なので、    農薬取締法の使用規制の対象ではないかと思うのですが。ZYMVについては登録農薬があるのですが。

トマトソースの作り方は数々あるが、トマトという植物の化学的組成や生物としての特性に着目した調理法はあまり知られていない。以前、 NHKのためしてガッテンという番組でトマトソースの作り方を特集していたのだが、固形成分の歩留まりに問題がある様に思ったので、 製造プロセスの改良を試みた。

ガッテンのレシピはこちら。 抜粋すると以下の通り。   

  • 材料   
    • トマト 6個
  • 作り方
    1. トマトのヘタをとり八つ切りにし、ミキサーで粉砕する。       
    2. [1] をこしきでこし、フライパンに入れて20分弱火で加熱する。
    3. ヘラで字がかけるくらいになったらできあがり。
      ※冷蔵庫で1週間ほど保存できる

生化学的な実験では細胞を破砕する(こわす)場合には、水溶液のpHを調整するための緩衝液や、 各種の酵素の阻害剤を加える。その目的は、細胞内では糖、有機酸、ポリフェノールといった様々な物質が膜で仕切られており、 酵素と接触しない様になっているのだが、細胞を破壊するとそれらの物質が酵素と接触したり、空気中の酸素と反応して一期に変質するので、 それを防ぐことにある。

たとえば、リンゴをおろし金ですり下ろしてガーゼなどで絞り汁を濾過すると、 絞り汁はリンゴそのものの果肉とは似てもにつかない褐色になる。これは、リンゴの細胞内に含まれるポリフェノールオキシダーゼという酵素が、 空地中でリンゴの細胞が壊れた際に放出されるポリフェノールを酸化した結果、 ポリフェノールの酸化物が私達の目には茶色に見えているのだと考えられている。

もちろん、酸素と接触して成分が変化すること自体が調理する上で必ずしも悪いことではないし、 鍋で加熱するとどのみち酸化するので、今回の製造プロセスの改良の眼目はそこではない。それに、 料理の際に緩衝液や酵素の阻害剤を入れると、それは料理とは”別のもの”になりはててしまって、 もう食べられない。

問題は、ステップ2.にある。生のトマトの細胞は、細胞壁の間にペクチンがあり、 糊のように機械的に細胞をつないでいる。ペクチンは加熱調理によって低分子化する(野菜を煮ると柔らかくなるでしょ?ま、 加熱で変化するのはペクチンだけではありませんが。そういう論文もあるんです)。生のトマトを、 ミキサーで破砕すると、機械的に細胞を壊すことはできるが、この時点ではペクチンの低分子化はまず起こらないだろうと考えられる。

その結果、ミキサーにかけた生のトマトは、塊のままの細胞がトマトジュースに浮遊している状態になる。 これをこしきで漉すのだが、生の細胞が固い上、よほど強力なミキサーでなければ繊維分が十分に切り刻まれないために、 こしきの上に結構な量の残渣が残ってしまう。トマトがあまり熟していない場合や果実内の成熟が不均一な場合には、この残渣が増える。 逆にトマトが完熟している場合は、 トマト自身が生産したポリガラクチュロナーゼ(PG)という酵素によってペクチンの部分分解が起こっているために、 果実が柔らかくなっており残渣は少なくなる。

このような経験を踏まえて考えてみると、ミキサーにかける前にペクチンが低分子化していれば、 こしきで漉す効率が高くなり加工歩留まりが向上すると考えられた。そこで、以下のように加工プロセスの改良を試みた。

  • 材料         
    • トマト 6個
  • 作り方
    1. トマトのヘタをとって4つ切りにし、食塩適量と共に真空パックして95度のお湯で5-10分間加温する。       
    2. 真空パックを50度以下まで水道水で冷却、又は空冷してミキサーで粉砕する。
    3. [2] をこしきでこし、中華鍋に入れて15分中-弱火で加熱する。
    4. ヘラで字がかけるくらいになったらできあがり。
    5. 保存容器に入れ、表面に厚さ1-2 mmのオリ-ブオイルの層を作り、殺菌のため電子レンジで2分間加熱し、自然冷却する。
    • 保存期間は保障しませんが、ガッテンのレシピよりは保つはずです。

裏ごし歩留まりの評価を定量的に行っていないため、 こちらの方がどれだけ歩留まりが良くなったかは評価できないが、裏ごし操作に必要な所要時間は1/2程度にとどまる(それに、 固形分が柔らかくなっているので力が余りいりません)。裏ごしされた液体は、生のままミキサーにかけた場合よりもとろみがある (粘度の測定は行っていない。というか家のキッチンの設備ではできません)。すでにペクチンが可溶化されているためであると考えられる。

加熱にはフライパンではなく中華鍋を使用しているが、中華鍋の方が熱効率が良く、 粘度のあるトマトソースでも対流が起こるため、焦げ付かずに濃縮できる。そのため、加熱時間は若干短縮できる。

一方、お湯を沸かす必要があるため二回加熱することから、 CO2排出量はオリジナルのレシピより増えてしまう欠点があるものの、加工中の食品残渣は改良プロセスの方が少なくなる。

肝心の食味は、変哲のない普通のトマトソースです。もちろん、 生のトマトから作っていますので缶詰では楽しめない香りがあります。

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トマトを栽培していない方が、以上の加工プロセスをより簡便に、かつ安価に行う為には、 ホールトマトの缶詰を買ってきてミキサーにかけるとより簡単です。また国内でのCO2排出量を増やしたくないと言う方は、 本場イタリア産のトマトソースの缶詰がお勧めです。加熱調理の際のCO2排出量はおそらくイタリアが負担してくれますし、 工場で加工する方が家庭のガス器具よりも熱効率は良いでしょう。なお、 缶詰の内側のコーティング剤からは微量のビスフェノールAが溶出されることが知られていますが、 缶詰1個から溶出するビスフェノールAの女性ホルモン活性の方が、 納豆1パックに含まれるダイズ由来のゲニステインの女性ホルモン活性よりも低いのではないかと思います。 どちらも通常の食品として問題のないレベルです。

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2008年8月14日 (木)

遺伝子組換え作物の安全性はどこまで解明されたか

・・・タイトルは、実はこけおどしです。

一般の方から、表題のような質問を頂くこともあるし、本のタイトルに「○○はどこまで解明されたか」というものも結構ある。 しかし、科学的にどのような事実が明らかになったか、と言う現状を伝えるのに「どこまで」という言い回しはおそらく適切ではないように思う。 設問の立て方が論理的に間違っていると、決して正しい答えに到達することはできない。

「○○はどこまで解明されたか」という言い回しが生まれる誤解の背景には、科学的に「解明される」あるいは「理解される」 とはどういうことか、専門家と非専門家の間、あるいは専門家の間でもとらえ方に大きな違いがあるように思う。

科学の探究は0%から100%の有限の区間の間で計れるものではなく、新しい事実が分かれば、 そこからまた新しい疑問が発生するのが通例だ。

たとえば、ある生物のゲノムの解読が終わった結果、ゲノムの至る所からRNAが転写されている現象が確認され、 結局のところこれまで考えていた”遺伝子”とは何だったのかがかえって曖昧になってきたこともある。また、分野が変われば、 火星に探査機を送って地表の成分を分析したら過塩素酸塩が発見されて、その生成過程が新たな謎として浮かび上がったこともあり・・・ 小さな例も含めれば枚挙に暇がない。

つまり、科学的事実の解明とは「どこまでも解明され続ける」ものであり、逆の言い方をすると”果て”が無い以上 「100%解明されることはあり得ない」ものでもある。論文の考察でも必ず残された問題は付きもので、この研究で完璧!全部分かった、 といういかがわしいものは見たことがない。

また、「○○はどこまで解明されたか」と言いうるためには、「解明」の程度を計るための定量的な尺度が必要だ。例えば、 特定の目的地があって、そこへ到達するためのロードマップが示されている場合を考えればよいだろう。 製品の開発のように一定水準の基準値をクリアする技術開発であれば、達成程度を数値化することもできるだろう。 自然科学の専門家ではない方々や、専門家でも定量的尺度がもてる分野の方では、科学的に「解明される」ことについて、 このような定量的な尺度があるものをモデルとしているのではないだろうか。

従って「○○はどこまで解明されたか」と言う本のタイトルは、正確を期するならば、大抵は「○○について、これまで何が解明されたか」 とするのが妥当なところだ。たとえば次のようなタイトルがインターネット上で見られる。

  • 慢性痛はどこまで解明されたか
  • 香りの科学はどこまで解明されたか
  • 少子・高齢化はどこまで解明されたか
  • 地球温暖化はどこまで解明されたか
  • 準結晶はどこまで解明されたか
  • 森林群集はどこまで解明されたか
  • PET研究により統合失調症は. どこまで解明されたか
  • 鉄骨の破断現象はどこまで解明されたか、 当面の対策技術
  • 痴呆の基礎研究 痴呆はどこまで解明されたか
  • 高血圧遺伝子はどこまで解明されたか
  • 自閉症はどこまで解明されたか
  • GERDの病理はどこまで解明されたか
  • 宇宙史はどこまで解明されたか
  • ウナギ大回遊の謎はどこまで解明されたか

書いているのは、ほぼ専門家だろうが、正直なところ、どれも 「どこまで解明された」とは言い難いテーマを取り扱っているとうに思う。

私自身、高血圧なので例にとると「高血圧遺伝子はどこまで解明されたか」 というテーマなど、「どこまで」と言う取り上げ方をしてはいけないものののように思う。私は医学関係者ではないが、「本態性高血圧」 という用語の意味を知ったときには唖然としたものだ(興味のある方は自分で調べてみてください)。こちらのホームページ(東大医学部付属病院) にはこう書いてある。

高血圧は原因の明らかな二次性高血圧(腎臓疾患や内分泌疾患による。 全体の約5%)と、原因のはっきりしない本態性高血圧に分類されますが、ほとんどは本態性高血圧です。

つまり、高血圧の95%ははっきりした原因が分からず、それを、 とりあえず本態性高血圧と一括りにしている、ということだ。そこに、 何らかの遺伝子の関与があるらしいということが分かってきたので、「高血圧遺伝子はどこまで解明されたか」 というタイトルになっているのだが・・・95%の高血圧を原因不明と言っている現状を踏まえれば、 何かが解明されれば「高血圧遺伝子が科学的に解明された」 というゴールへと到る定量的な尺度でものごとを語れる状況でないように思うのだが。

話は戻って、遺伝子組換え作物の食品として、あるいは生態系への安全性について考える場合も「どこまで解明されたか」 という疑問に対して専門家は答えることができない。それは、一つには質問が論理的に正しくないからだ。しかし、 これまで開発されてきた具体的な遺伝子組換え作物のそれぞれについて「これまで何が解明されたか」を答えることは”概ね” できる。

# 2008年7月13日の朝日新聞、be reportの末尾にある、”確かなのは「どこまで解明され、未解明なのか」 といった科学的な議論を含め消費者への情報提供がないまま・・・”という表現にインスパイアされて書いてみました。

# なお、この記事は一般に広く知られている事実から構成されているものであり、職務上知り得た秘密には該当しません。

 

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2008年8月13日 (水)

地味だけど結構いいかも。"MSB Spin PCRapace"

以前試供品をもらって放ってあったPCR精製キット "MSB Spin PCRapace" を使ってみた。 よくあるPCR精製キットは、

  1. PCR反応液を結合バッファーで希釈し、
  2. 遠心や減圧濾過でスピンカラム内のメンブレンに吸着させ、
  3. 洗浄液で洗浄し(Qiagenは1回+カラのカラムで遠心、Monofasは1回のみ)
  4. 溶出バッファーでメンブレンを浸潤させ、遠心でDNA溶液を回収する

という4ステップを行う。回収率はフラグメントサイズにもよるが、2-3 kbpの断片だと40%以下になることもある。 そのくらいの大きさのDNA断片だと、プライマーの除去とバッファーの交換・濃縮だけで良ければ、PEG沈の方が収率は良いくらいだ。

"MSB Spin PCRapace"は、驚いたことに精製ステップが3段階しかない。

  1. PCR反応液を結合バッファーで希釈し、
  2. 遠心や減圧濾過でスピンカラム内のメンブレンに吸着させ、
  3. 溶出バッファーでメンブレンを浸潤させ、遠心でDNA溶液を回収する

つまり、洗浄液で洗うステップがないので操作が簡便で、ピペットのチップの消費も少なくて済む。

結合バッファーの組成に秘密があるらしいのだが、そのあたりはあまり関心がないので置いておいて、操作が簡便なのに加えて、 回収率が非常に高い点が優れている点は良い。 メーカーカタログで85-90%の回収率をうたうキットは多いが、私が使ってきたキット (BIO101のGeneClean, Qiagen のQIAquick, Minelute, 京都モノテックのMonoFas, 日本ジェネティクスのNucleoSpinなど)のうち本当に80%以上回収できたものは、これくらいだ。また、 扱えるDNA断片長も80 bp- 30 kbpと、QIAquickよりも幅広い。QiagenのMineliteは、がんばれば5 uL位のボリュームの溶液にDNAを回収できる点は優れているのだが、扱えるDNA断片のサイズが4 kbpまでなのでlong PCR産物の精製に使うには厳しい。MonoFasは35 kbpまでいけるらしいが、経験上、回収率はあまり期待できない (悪くすると30%くらい)。"MSB Spin PCRapace"の回収量は溶出用バッファーは最低10 uL以上使えとあるので、 溶出ボリュームは大体Mineluteと同等だろう。

まだ、試供品で3回くらいしか試していないが、製品を購入してもう少し詳細をみてみたい。一応、 制限酵素処理後の精製にも使えるとは書いてあるが、高塩濃度のカオトロピック塩は使っていないらしいので、 酵素の種類によっては失活しない可能性がある。PCR産物の精製専用にするか、 熱で失活することがわかっている酵素との組合せで使った方が無難だろう。

ちなみに、国内販売は和光純薬。定価ベースで250本で\42,000 (\168/1本)。MonoFasは250本で\44,000。 QIAquickは250本で\56,000 (\224/1本)、Mineluteは250本で\60,000 (\240/1本) なので、価格的にもお得かもしれない(実売価格はどうかわかりませんが)。

# なお、この製品情報は一般に広く公開されているものであり、職務上知り得た秘密には該当しません。

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2008年8月12日 (火)

食べられる蛍光タンパク質

うーん、どこに蛍光タンパク質が入ってるのかな、とおもいつつ晩飯に中国産ウナギの蒲焼きを食した。

蛍光タンパク質が入っているといっても、遺伝子組換え生物に限った話ではない。もちろん、 食べたのはウナギなのでオワンクラゲやサンゴでもない。

実は、ウナギの筋肉には、もともと蛍光タンパク質が含まれている。鹿児島大学 水産学部教授 林征一 先生の研究テーマで、 特許も出願されている(P2007- 254371A)。
このタンパク質はの詳細は特許明細にかかれているが、蛍光波長はEx. 450-490, Em. 500-550 (望ましくは527 nmなのでGFPよりちょっと長波長、EYFPとは一緒)、分子量16.5 kDaの単量体 (これまで知られている蛍光タンパク質の中では相当に小さい)で、何より面白いのは日本種ウナギAnguilla japonica の筋肉に含まれている点だ。つまりGFPやDsRed等と違って、 ヒトの食経験のある蛍光タンパク質ということになる。食品安全委員会の審査をパスしやすいタンパク質だ。

しかも、脊椎動物由来の蛍光タンパク質というのは、まだ他には知られていない初めての発見ではないだろうか?
# ウナギ以外の魚類や両生類には無いのだろうか?

これは遺伝子組換え植物の識別用マーカー遺伝子使えば、トレーサビリティーを確保する上で有効なツールになるかもしれない。

しかし、特許明細を見た感じでは、まだ遺伝子がクローニングされていない様子。となると、自分で単離するのはしんどいなぁ。 牛久沼で天然物を捕まえてきて、蛍光タンパク質を単離・精製して、N末の構造を決めてオリゴDNAを作って、RACEでcDNAを拾って、 発現ベクターにクローニングして、大腸菌で発現させて蛍光を確認して・・・で、残ったウナギは焼いて食べる、 と言うわけにも行かないだろうな。時間も金もかかるし、既に遺伝子についても特許申請されているし。 遺伝子が取れてもご苦労さんと言われておしまいですね。

# なお、この情報は一般に広く公開されているものであり、職務上知り得た秘密には該当しません。

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2008年8月 9日 (土)

[業務用覚書] 精製していないPCR産物で酵母の形質転換

Transformation-Associated Recombination (TAR) もどきのクローニングを試みている。

たまたまコンピテントセル(というかOD600を3.5-5にあわせただけの酵母培養液、BY5677株)があまったので、 Ura3遺伝子の一部を仕込んだプライマーでPCRして線形化した自作のベクターと、 選抜マーカーUra3遺伝子カセットのPCR産物を使って形質転換をしてみた。

和光純薬の酵母形質転換キットのプロトコルを見ると、濃度を調整した酵母培養液を”培地ごと” 形質転換試薬およびプラスミドと混合するようになっていた。その昔、大腸菌の形質転換を習ったころは、 できるだけDNAをきれいにしなさいと言われたものですが、 酵母の場合は形質転換する細胞懸濁液に培地の成分が入っていても何とかなってしまうんですね。

じゃぁ、いっその事、未精製のPCR産物でも支障なく形質転換できるんじゃない?と思って、 コンピテントセルが残ったらそのうちやってみようと、未精製のベクターと未精製のPCR産物を取っておいた。効率は約5 kbpのベクターで約7.0 x 10^3 cfu/1ug DNAだったので、50 ng位のベクターバックボーンがあれば十分にベクターの構築ができる。

# しかも、QIAGENのカラムのようなPCR産物の精製キットを使わずに済むので、きわめて安上がり!

なお、形質転換キットのプロトコルでは1.0 x 10^5 cfu/1ug (pRS316)なので、それよりはかなり低い(1/10以下)が、 TARもどきのクローニング相同組換えなので相同組換えを起こしたベクターを持った形質転換体しか生えてこない。通常の形質転換の場合は、 細胞にベクターのDNAが入る確率で形質転換効率が決まるが、TARの場合は、細胞にベクターが入る確率 x 細胞にクローニングしたいDNA断片が入る確率 x 相同組換えが起こる確率で形質転換効率が決まる。・・・と考えると、 今回の効率はそれほど低くは無い。

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2008年8月 8日 (金)

政府が遺伝子組換え作物の導入を推進したがる理由

8月5日のニュース

ベトナム政府は、食料輸入を減らして貿易収支を改善する目的で、 遺伝子組換え作物を導入して国内農業を強化しようという施策を検討中とのこと。

【ベトナム・インドシナ】遺伝子組み換え容認か、狙いは輸入削減

8月5日8時0分配信 NNA

 

 ベトナム政府は、遺伝子組み換え農作物を容認し、2010から本格栽培・ 生産に踏み切る計画を進めているもようだ。 収穫量が見込める遺伝子組み換え農作物を利用して大豆などの生産量を拡大し、輸入依存度を下げるのが狙いという。 3日付タインニエン電子版がブルームバーグを引用して報じた。

 農業地方開発省のファン・バン・トアン科学技術課長によれば、遺伝子組み換え作物による大規模生産を、 10年から始める計画だという。主に大豆、トウモロコシ、綿花の輸入依存度を減らすことができると見られ、 これにより貿易赤字を減らし、経済の安定が期待できる。
 
 最新の国内インフレ率は1992年来最高の年率27%に上るが、その主な原因は食糧価格の上昇だ。
 
 トアン課長は、ベトナムでは05年に農産物輸入削減計画が承認されているとコメントしている。
 
 ■「10月に立法措置」
 
 在べトナム米国大使館の農業担当部局の報告書によれば、ベトナムの担当部局は、 すでに遺伝子組み換え作物の導入に向けた法律の草案を策定済みだ。 法案は10月に開会予定の国会で通過の見通しだと報道されている。
 
 ベトナムはインドネシアなどと並ぶアジア有数の大豆輸入国だ。輸入大豆は主に家畜飼料として使用される。 米農務省海外農業局(FAS)の資料によれば、ベトナムは昨年、大豆240万トン、 トウモロコシ75万トンを輸入した。
 
 綿花は縫製品の原料として輸入されており、ベトナム統計総局(GSO)によれば、輸入量は1~7月期に26% 増加して17万トンに達した。縫製品は原油に次ぐ2番目の主要輸出品目だ。
 
 ベトナムの1~7月期の貿易赤字額は、昨年の年間赤字額を上回る150億米ドルに達している。 昨年1~7月期の貿易赤字は63億米ドルだった。
 
 今年1~7月期の輸入額の伸びは57%で、上半期(1~6月)の伸びである62%からは鈍化した。
 
 米大使館の報告書によれば、ベトナムは20年までに遺伝子組み換え作物による生産を農業生産の約70% に拡大する計画だという。<ベトナム>

 

政府が遺伝子組換え作物を奨励する理由は様々だが、こういう選択もあるんですね。

ベトナムの様な温暖多雨の地帯では、ダイズの生産性向上のキーとなる形質は、発芽時の耐湿性、耐虫性、 それに糸状菌などに対する耐病性だろう(乾燥の激しくない地域では、アブラムシの媒介するウイルスによる病害は案外少ないかも知れない)。 どれも遺伝子組換えですぐに何とかなるという状況ではない。しかし、亜熱帯- 熱帯では雑草の生育も早いのでラウンドアップ耐性は良い選択肢ではある。

ラウンドアップ耐性ダイズはブラジルやアルゼンチンで効果を上げていることからベトナムでも一定の成功が見込めるはず。そのうち、 生産用種子も国内自給するのだろうか。

 

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2008年8月 7日 (木)

第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針の改正

最近、初対面の方からblog読んでます、と挨拶されることが多くなってきた。・・・しかも農水省や新聞社の方から。

あまりお気楽なことばかりも書いてもいられないのかな、と頭のどこかで思いつつも、そもそもが私的備忘録なので、 読み手がどう思うかには縛られず、どなたかの為に役立つならそれもよし、くらいに考えておこう。 読者や広告主からお金を頂いている新聞とは違うし。

7/1のエントリーでコメントした農林水産省の 「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針の改正」のパブコメのまとめが7/31に公表されていた。 忙しくって見落としていた。

意見提出:18通(インターネットによるもの14通、ファクシミリによるもの3通、郵送によるもの1通)とのこと。 とりまとめた意見に対する公式回答はこちら。 意見を受けて(?)、論点をふまえた指針の公式解説文書はこちら
# 細かいことだが、普通は寄せられた意見○○通、○○件って、何人から何件来たか書くんじゃないか?

寄せられた意見の内容は、概ね、「栽培中止って、厳しすぎるんじゃね?」というのと「各改正案イ、 ウについて追加的措置の科学的根拠の明示及び定義の明示をキボンヌ」という感じ。研究者からの提出がほとんどだったのではないかと想像する。
農水省の対応は大雑把に言えば「栽培中止がメインじゃなくて、防風ネット設置やトウモロコシの除雄がメインなんでそこんとこよろしく」、 あるいは「読み違えてんじゃねーよ。いちいち対応の必要はないよ」というもの。この種のパブコメの対応としては特に不親切ではない。

むしろ、改定案の解釈についての補足の文書を出している点は丁寧でさえある。たとえばこんな表現がある。


なお、この措置は栽培実験場所の選定の条件について定めたものであり、これによって、 開花期の風速が一時的に毎秒3mを超えるような場所での栽培実験ができなくなること、 又は栽培実験の実施中に開花期の風速が一時的に毎秒3mを超えた場合に当該実験を中止することを意味するものではない。

こう明言していただけると、試験を実施する側としては安心できる。また、物議を醸した「風速3m」についても、どこの風速? どんな計算?という具体が決まらないと何も言えないような要件についても、たとえば次のような考え方が示された。

イ 過去の実測値がない場合
過去3年以上の開花期の平均風速の実測値がない場合は、実測値から以下の数式により「開花期の平均風速の推定値」を算出 (小数点第2位で四捨五入)し、その値が毎秒3mを超えない場所とする。

((A1×B/C)+(A2×B/C)・・+(An×B/C))/n

A1、A2、・・・An:栽培実験実施機関内に設置された気象観測装置等を用いて、栽培実験対象作物の開花期間を含む当該月(例: 7月30日~9月2日であれば、7月、8月、9月でn=3、この場合A1は7月、A2は8月、A3は9月) における栽培実験区画の近傍で測定された各月平均風速値(当該観測値がない場合には、最近傍におけるアメダスデータを用いることも可) について、過去3年以上の平均値(m/秒)。

B:栽培実験区画内における栽培実験対象作物の開花時点の花の高さと同程度の高さに風速計を設置し、 ランダムに抽出した連続10日間以上測定した期間の平均風速値(m/秒)。

C:An の測定を行った地点において、Bを測定した期間と同一期間において測定した平均風速値(m/秒)。

注)「B、Cの測定期間中の平均風速」の算出方法:
測定期間中において終日、毎正時24回、又はそれ以上の回数を測定し、風速観測値の日平均値を1日の平均風速ととする。
測定期間の平均風速は、測定期間中の1日の平均風速の合計を測定期間日数で除し小数点第2位で四捨五入した値とする。


具体案があるんだったらそれも含めて最初から委員会で検討してもらえば良いのに・・・と思う反面、 役所がここまで踏み込むのはなかなか勇気がいることだ。この算定方法の妥当性については専門家の議論を経た、 という手続きが明示されていないので、農水省が責任を負うことになるのだから。その点はこの決断を高く評価したい。
 
一方、低温に対する考え方では、

「開花前の低温により交雑の可能性が想定される場合」について
本指針に該当する栽培実験を実施する独立行政法人が、使用するイネ及びダイズの品種の特性、栽培地域の気象条件、 栽培の実績及び知見を踏まえて、周辺の同種栽培作物との交雑の可能性が生じるおそれがあると判断する場合とする。

とある。要するに「具体的な事例が出てくるまでは何ともいえないので、独法に下駄をあずけます、ということだ。 あとは独法が説明責任を負ってね」と。

これで済むのであれば、「風速3m」も下駄を預けてくれれば良かったのに、とも思ってしまう。

3点ほど残念なのは、
その1、

要望
改正案イ、ウの根拠となった北海道の試験は、大規模な花粉源を想定したものであり、また、 低温条件下での花粉の飛散に関する試験では種子親であるイネのみを低温処理した試験であり、 低温条件下での花粉の飛散を代表する試験であるとは考えられないので、これらの試験結果を踏まえて、 独立行政法人で実施するような小規模な花粉源で行なわれる実験の指針を改正する必要はないので改正案イとウを削除することを要望。
回答
 「指針に定める隔離距離を超える距離での交雑の要因」としては、「大規模な花粉源」以外に「開花前の低温」及び「強い風」 も考察されていることから、今回の改正案イ、ウを新たに追加したところです。
 また、本指針については、科学的知見の充実により適宜見直すこととしており、引き続き知見の集積に努めて参ります。

要望している方は、試験データを解析して高い遠距離交雑率の発生理由は、「低温による不稔」、「開花期の強風」、「大面積の栽培」 の3条件のそろった論理積の場合に発生しているのだから、 小面積の場合にはそもそも検出可能な頻度での交雑は発生しない、といっている。私もこの考え方に賛同する。データの見方がわかる人であれば、 おそらくだれでもそう考えるだろう。
一方、農水省の対応は、”「大規模な花粉源」以外に「開花前の低温」及び「強い風」も考察されている”として、 大面積の栽培を主要因としつつ、補足的な要件である「開花前の低温」及び「強い風」 という条件の論理和で発生するとも読み取れる回答をしている。
これは、データの解釈を誤ったのか、それとも今後予想される大規模栽培に備えて栽培面積に関する敷居を設けたくない、 という独法に対する親心からわざとそう答えたのかはわからないが、議論が完全にすれ違っている。
# 論理積:たとえばA(赤い),B(熱い),C(辛い)の3条件が、AかつBかつC、つまり、赤くて熱くて辛いもの、という条件。
# 論理和:たとえばA(赤い),B(熱い),C(辛い)の3条件が、AまたはBまたはC、つまり、赤かったり熱かったり辛かったり、 という条件。
# これらで形容される範囲は全然違うでしょう?

その2、

要望
本指針の各種措置について、All or Nothing ではなく、リスク管理の考えに基づいた判断が必要であり、 今以上基準を厳しくする必要は無い。あわせて同様の考え方により、食品・飼料安全性承認遺伝子組換え農作物と、食品・ 飼料安全性未承認遺伝子組換え農作物の取り扱いを分け、食品・飼料安全性承認遺伝子組換え農作物は、本指針の対象から除外すべき。
回答
 今回の改正案に対する意見ではありませんが、本指針は、カルタヘナ法に基づき承認された第1種使用規程承認作物を用いて、 農林水産省が所管する独立行政法人が行う栽培実験が国民の理解の下で円滑に行えるよう、 栽培実験上の留意点及び情報提供について定めるものです。
 よって、本指針の各種措置についても安全性の観点に加え円滑な実験推進の観点にたった措置も必要と考えられ、また同様の観点から、 食品・飼料の安全性承認農作物の野外栽培実験も対象とすることが必要と考えます。

・・・スミマセン。「円滑な実験推進の観点にたった措置も必要」なので、「食品・ 飼料の安全性承認農作物の野外栽培実験も対象とすることが必要」という回答の趣旨がわからない。食品・ 飼料安全性の承認された組換え作物の混入では、健康被害の可能性は考慮する必要はないし、混入によって「遺伝子組換えでない」 表示ができなくなる可能性も、広域のほ場において、今回の交雑率の100倍以上である5%以上の混入が起こらない限りないはず。また、 この指針策定時のパブコメでは風評被害対策はこの指針のスコープには含めないと言っていたので、それも違うだろう。
想定されるリスクを明示しないで、この対策は無いんじゃないかな。

その3、

要望
改正案イについて、冷害に対する特段の警戒が過去の気温のデータから行う必要が無いとされている地域の試験においては、 知見により低温による不稔はほぼ生じないとされているので、強い卓越風に関する対策を行う意義は薄い。
 従って、風速に関する規制を行う場合には、その前提として栽培地域の気温に応じた地域区分を導入することを要望。
回答
イネ及びダイズにおいては、栽培地域にかかわらず、これまでの知見によって開花前に低温に遭遇すれば交雑率が高まることが想定されます。 特に、温暖地であっても晩秋など気温が低い時期に開花期を迎える作型による栽培実験では、同様に交雑率が高まることが想定されます。
 よって、各地域の気温により本指針の対象地域を限定するのは適当ではないと考えております。

回答の「開花前に低温に遭遇すれば交雑率が高まることが想定されます。」というのは科学的にはその通り。しかし、「特に、 温暖地であっても晩秋など気温が低い時期に開花期を迎える作型による栽培実験では、同様に交雑率が高まることが想定されます。」というのは、 ほぼ屁理屈。絶対に無いとはいえないが、 晩秋に開花期を迎えるような試験では周辺に開花期が重なる同種作物はまず栽培されていない。 産業ベースでそういう高リスクの栽培を行う農家があることを農水省が把握しているのか?野党の議員さんの質問だったら、 「そのような事実は承知していない」とすげなく回答するだろうに。

 



ちなみに、私の寄せた意見は以下の通り(オリジナルとちょっと違っているかもしれません)

 

1.今般提示された改定案のうち、
第2 栽培実験の実施-2 交雑防止措置-(1)距離による交雑防止措置-イ 
について。

指針改定案策定の根拠となる資料では、岩見沢市のアメダスの風速を参考にしています。 多くの研究独法では隔離圃場に風速計を設置していないことから、栽培予定場所における風速のデータは保有していないため「過去のデータ」 が存在しないと考えられます。従って「過去のデータ」として参考にしうるデータの範囲を、 栽培予定場所直近のアメダス計測点あるいは栽培予定場所での実測値など、具体的に定義しなければ実効性を担保できません。

次に、栽培予定場所直近のアメダス計測点で開花期の平均風速が3mを超える場合であっても、栽培場所に防風林が備えられており、 開花期の卓越風を減衰させる措置が既に執られている場合もあることから、 規制の際の風速は栽培予定地点の実測値に基づくことが実情に則した科学的な措置です。

従って、各独立行政法人の隔離圃場など栽培予定場所での風速データが集積されるまで、 向こう3年間は指針の施行を見合わせることを要望いたします。

2.指針に定める隔離距離を超える距離での交雑の要因は、イネについては
1) 低温による不稔、2) 強い卓越風、3) 大規模な試験
とされております。
試験結果を拝見いたしますと、
a. 農環研による試験では、交雑が検出された理由は試験規模の影響によものであり、試験を実施した際の隔離距離であれば、 交雑程度はモデル実験からも支持されるとおりほぼ0になること。
b. 一方、北海道おける試験では、1) 低温による不稔、2) 強い卓越風、3) 大規模な試験
の3条件が揃った場合には、モデル実験から想定されるよりも相当に高い交雑率が示されたことが分かります。

つまり、a.のケースは、従来の距離による交雑防止措置であっても、花粉源が大面積でない場合には、それなりに有効であり、 b.のケースはこれまでデータがとられたことのない、1)-3)の3条件を同時に満たす栽培状況においては、 遠距離交雑が高まることを示しております。

従って、指針における規制ルールの改定にあたっては、交雑が想定される状況と、それに対応する規制とのバランスを考慮して、” 「1)-3)の3条件を同時に満たす栽培状況においては」、抑風、除雄、 学識経験者の意見を聞いて農林水産技術会議事務局長が定める措置、栽培中止のいずれかを選択する” とする措置が妥当であると考えられます。また、つきましては、低温の具体的な程度、栽培地点における卓越風の程度、 規制の適用範囲となる栽培面積の下限を策定することを要望いたします。

なお、資料の交雑予測モデルの考察には風速の規制値の策定に使用したとは書かれておりませんが、風速の根拠として、 仮に川島芝池モデルを使用したのであれば、 このモデルは花粉源を点として考えて定式化しているため点に近い小面積の花粉源に対するモデルであり、 北海道や農環研で行われたような大面積の花粉源に対する予測モデルとしては不適切であることを申し添えます。もし、 今般の試験データとモデルの整合性を議論するのであれば、花粉源の面積をパラメータとして採用したモデルの採用をお勧めいたします。


3.イネの低温による不稔に関わる科学的な研究については、北海道農業試験場、 東北農業試験場において障害型冷害に関する研究に長年に亘って取り組んで来たことが知られております。 このような農林水産省としての取組の結果、イネが低温の影響を受けやすい時期に、どの程度の低温が、どのくらいの期間継続した場合に、 どの程度の不稔歩合に至るかが定式化されており、具体的な規制値を設けるのに十分な科学的知見が得られております。また、 ご存じのように平成5年の冷害をうけて、 農林水産省として冷害の起きやすい地域については早期警戒システムを設けているところでもあります。このように、 水稲の冷害については有効な施策が講じられている現状においては、冷害の予測はすでに技術的に可能な状況です。

従って、長距離交雑の発生した上記1)-3)の原因のうち、もっとも効果の大きかったと考えられる1) 低温による不稔についての対策を交雑防止措置の主たる対策とするのであれば、 冷害に対する特段の警戒が過去の気温のデータから行う必要が無いとされている地域においては、 低温による不稔はほぼ生じないとされておりますので、今般の改正案にある2) 強い卓越風に関する対策を行う意義は薄いと考えられます。 従って、風速に関する規制を行う場合には、その前提として栽培地域の気温に応じた地域区分を導入することを要望いたします。
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2008年8月 6日 (水)

日本で主要農作物のシードビジネスは育つか?

昨日は、新聞社の取材に協力した。種子ビジネスの展開についてのブレインストーミングを中心に、 日本の主要農作物種子法についても通り一遍のお話をした。

主要農作物の種子については、イネ、コムギ、オオムギ、ハダカムギ、ダイズの種子を安価に安定供給する目的の主要農作物種子法 (昭和二十七年五月一日法律第百三十一号)という法律がある。実は、 研究開発を生業とする農業系の独立行政法人職員では知らない人も結構多い。私も、育成事業に携わった経験がなければ、 きっと知らないままだっただろう。

# 昨日は間違って昭和22年の法律と言ってしまいました。正しくは昭和27年です。 昭和22年として覚えていたのは種苗法の全面改定の年でした。ごめんなさい。

種苗法は品種の育成者の知的財産権を守るための法律。主要農作物種子法の目的は、「主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、 種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うこと」です。法律の条文を見ていると、”都道府県に対して優良な品種の選定試験を行い、 選定した品種の生産能力について農家に保証しなさい。”といっているだけのように見える。

しかし、実際は、これを根拠法として、各自治体では生産能力の高い品種、あるいは品質の良い品種を”奨励品種”等 (あるいは認定品種等ほかの呼び方もある)として生産を奨励し、安価に種子の供給を行うための種子協会等の団体 (地域ごとに任意団体だったり、経済連だったり、法人だったりする)の種子増殖事業に助成金を出している。そのほか、 奨励品種についてはJAが買いとる際にプレミアをつけたり、根拠法は違うか農業共済保険制度で自然災害による不作の場合の保障で厚遇される(奨励品種は買入価格が高い分減収分のマージンが大きくなる)など、 様々な優遇策がとられている。これは、食料安全保障の一環と考えることもできる。

つまり、奨励品種でない場合にどうなるかというと、農家は耕地面積の何割かを自家採取用に回さなくてはいけないので、 そこでとれた生産物を売ることはできない。その上採取した種子の発芽能力は完全に自己責任だし、生産物の価格は完全に市場原理で決まるし、 自然災害の多い地域では不作の際にあまり保障が得られないかもしれない、ということになる。

その結果、主要農作物の種子については国や自治体、あるいは独立行政法人が育成した品種が普及しており、 民間育成の品種が普及しにくい状況にある。民間育成の品種が性能で負けていなくても、種子の安定供給、流通のプレミア、 災害時の保障などがセットで優遇される奨励品種になれなければ、普及することは難しいのだ。

という現状をふまえると、海外の種苗メーカーが日本国内の主要農作物の種子市場に参入するのは非常に難しい様に思う。しかし、 この制度は諸刃の剣で、自治体が認めない限り独立行政法人から新しい品種がリリースされても、すぐに奨励品種になるとは限らないし、 その時々の自治体の予算枠を超えた数の品種はまず奨励品種にはなれない。それは、海外からの新品種の参入を防ぐのに一役買ってはいるのだが、 同時に国内の民間育種の参入を妨げ、品種の交代の足かせにもなっているのだ。

最後にその制度をどう思うか?と質問された。私は、育成者だった頃は、新しい品種の普及の妨げになりがちだったので、 なくなったほうが良い制度かもしれないと思っていた。しかし、今は若干違う感想を持っている。もし、 道州制導入によって国から地方へ財源や権限が委譲されるという文脈の中で、全国一律に優良品種を普及させて食糧安全保障をするという、 この制度がなくなるのであれば、それには反対する。食糧安全保障は国として担うべき事業だからだ。

もっとももう少し他にやりようは無いものか、とも思う。この制度のために品種の流動化が妨げられているように思えるからだ。

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2008年8月 5日 (火)

キンシバイによる食中毒事例

 ちょっと前のニュースですが、天然毒による食中毒の事例です。毎日新聞より。

食中毒:巻き貝で 天草の女性、一時心肺停止 /熊本

 

 県は16日、天草市河浦町の女性(73)が、フグと同じ毒性分を含んだ巻き貝「キンシバイ」を食べ、   食中毒症状を起こしたと発表した。一時、心肺停止状態となったが、現在は意識を回復し快方に向かっているという。

 

 健康危機管理課によると、女性は14日午前9時半~10時半ごろ、   知り合いの漁業夫婦が同町沖の産島近くで捕ってゆでたキンシバイ20個を譲り受け、孫の男児(5)と一緒に食べた。正午ごろ、   舌のしびれや呼吸困難などの症状を起こし、病院に搬送された。孫は異常がなく、捕った夫婦も昼ごろ食べたが、影響はなかったという。  

 

 キンシバイは、日本近海の水深10~30メートルの砂地にすみ、まれにフグ毒と同じ「テトロドトキシン」を含む場合がある。   流通することは少ないが、昨年7月、長崎市内の農水産物直売所でこの貝を購入した女性が食中毒症状を起こした。【門田陽介】

 

毎日新聞 2008年7月17日 地方版

 これに関連して、   農林水産省からお知らせが出ています。    調べてみると、昨年も似たような事例が長崎市であった模様で、    厚生労働省から昨年、通知が出ています。  
 
   巻き貝に、フグと同じ神経毒が蓄積されるケースはそれ自体は珍しいことではないのですが、巻き貝の種によっては、   その程度が違っていると考えて良いでしょう。そもそもフグの毒自体がえさ(プランクトンなど)   に由来していて生物濃縮されたものですから、えさになる生物に毒が含まれているのは自然なことです(参考)    。
 
   日本近海産のフグの代表的な毒素は有名なテトロドトキシンです。   神経細胞のナトリウムイオンチャンネルの機能阻害によって信号伝達をブロックするため麻痺が起こるとされています。しかし、   フグの神経細胞のナトリウムイオンチャンネルはほかの生物のものと構造的に異なっておりテトロドトキシン耐性になっているとのことです   (ソース)    。
 
   ちなみに、厚労省の所管する食品衛生法では、有害な食品の製造販売等が規制されていますが、   農業及び水産業における食品の採取業は規制対象である「営業」の範囲から外れています。
 
 
    食品衛生法  
 
    第四条 ○7 この法律で営業とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、     若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいう。ただし、     農業及び水産業における食品の採取業は、これを含まない。

 
ですので、自然界から採取した有毒生物の譲渡によって起きた食中毒については、「業」としておこなった反復的・   継続的な食品の流通の結果ではないことから、食品衛生法の適用対象にならないのでしょう。   それから、農林水産業は所管が違うということで、農水省のホームページで注意喚起したのでしょうね。

 同じ生物による食中毒でも、流通経路によって注意喚起する役所が違うというのはなんだか変な感じです。法令上の解釈で言えば齟齬はないのでしょうけど。こんな時こそ食品安全委員会の登場!ではないかと思うのですが、肝心の食品安全委員会のホームページにはこの件について何も出ていません(大量発生でもないと対応しないらしい)。
 
   しかし、何ですね。「農業及び水産業における食品の採取業」ってなんだか変じゃありませんか?   山林に生えているキノコや、海で泳いでる魚はまだ食品ではないはず。販売の意図をもって採取した瞬間から食品になるのだと思うのですが。    なので、食品の採取業と言われると「食品」   が生えていたり泳いでいたりする有様を想像してしまいます。
 

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2008年8月 1日 (金)

「まるでナッツ」を飲んでみた。

超有名ブロガーの”小鳥ピヨピヨ”さんが飲んでくださってるんですね、アサヒビールの焼酎、「まるでナッツ」。いや光栄です。

「飲んでくださってる」て言うのは不肖わたくし、原材料の”裸麦”品種、「ダイシモチ」の育成者の末席をけがしております。ですので、 「ダイシモチ」が売れると、育成者として幾ばくかのスズメの涙ほどの補償金(著作権料みたいなものです)をいただけます(・・・ ではないのですが、うれしくて3本も買ってしまいました)。

いまやオオムギの育成事業からも遠ざかっていますので、ささやかなエールを送る立場ではありますが。

さて、肝心の製品です。

私もさっき飲んでみた所ですが、オン・ザ・ロックあるいは、生のままで飲むと、若い焼酎らしいアルコールのきつさで、 あまり香りが楽しめません。1:1位の水割りにしたほうが良いでしょう。口当たりがまろやかになって、後口にのどの奥からわき上がる香りが、 ナッツ(アーモンドというよりは、ローストしたピーナッツ)そっくりです。

たしかに、味わって飲めば「まるでナッツ」ですが、食事しながらですと、”まるで”、というよりは「何となくナッツ・・・?」 という感じです。そこのところ、あまり期待しないでくださいね。チーズには合います。

この、「ダイシモチ」 の畑は結構な見物でした。一面の畑に、”紫色”の穂波が風になびくという光景は。この「ダイシモチ」は旧系統名が四国裸95号といいます。 香川県の善通寺市(あるいは、愛媛県の重信町)で栽培されています。穂が揃う時期には、車で遠くの国道を走っていても、 その紫色を帯びた畑が分かったものです。

この焼酎とこの品種が、末永く皆様に愛されんことを彼方より願ってやみません。ちなみに、ダイシモチのおいしさは、 丸麦や発芽大麦よりも、押麦にした方がよく分かります。モチ性品種なので、麦飯にしてもご飯がパラパラとほぐれることはなく、 ほおばるとふっくらとした食感とほのかな甘みが口中に広がります。・・・ どこかで売っているかもしれませんので興味のある方はネットで探してみると良いでしょう。

 

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