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2008年7月の記事

2008年7月31日 (木)

「還付金詐欺」の被害が増えているそうです。

9時のNHKニュースで、還付金詐欺の被害が増えていると伝えています。

大阪のおばちゃん達が「携帯もって、ATM、来い言われたら還付金詐欺やでー」と叫んでいます。

公的機関がお金をやり取りするのに文書を発行あるいは要求しないなんて、ありえません。

だいたい、そんなに簡単にお金が戻ってくるなんて。税金の還付申告をしたことが有る人なら分かると思いますが、 4-5枚の文書を書いて支払いを証明する領収書とともに税務署に郵送、という段取りで、そりゃぁ面倒です。

社会保険事務所を名乗る電話が多いようですが、厚労省の手続きの方が財務省より簡単なんて、そんなことは無いはずです。

一旦政府に支払ったお金が簡単な手続きで戻ってくるなんてことはありえません。 自分に都合の良い部分でだけ政府を信用するからだまされるんです。うまい話なんてありません。

私は自分の手から離れたお金はなくなったものと思っています。共済年金も雇用保険も。

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2008年7月30日 (水)

古米臭の少ないイネ

7/30毎日新聞より。

イネ:古米臭少ない品種、苗の段階で選別 作物研が開発

 長期保存しても古米臭の少ないイネの品種を苗の段階で簡単に選別する技術を、農業・ 食品産業技術総合研究機構作物研究所(茨城県つくば市)が開発した。 長期保存に耐えられる新品種の育成を効率的に進めることができるという。

 古米臭は、玄米の中にある脂質の一種が、リポキシゲナーゼ(LOX) という酵素で酸化されることで発生する。この酵素は3種類あり、最も強く働くLOX3が玄米中に含まれるかどうかで選別していたが、 収穫後でないと分からなかった。

 研究チームは、 世界中から収集したイネ93品種の中からLOX3を持たないタイの在来種を発見。DNAの塩基配列を調べ、日本の在来種「日本晴」 のLOX3遺伝子の塩基配列と一つだけ異なっていることが分かった。LOX3がないと、 古米臭成分は3分の1から5分の1程度に減るという。

 研究チームは、塩基配列の違いを検出する従来方法を応用。 苗の葉1枚でLOX3遺伝子の有無を判別できる2通りの方法を編み出した。従来の選別作業は、田植えから約8カ月かかっていた。

 鈴木保宏・米品質研究チーム長は「香りを重視する酒米の品種改良や、 貯蔵倉庫の温度設定にも役立つかもしれない」と話している。【石塚孝志】

リポキシゲナーゼ(LOX)欠損の作物は何もイネに限らない。 既に実用化されて品種になった青臭みのないダイズや、ビールにした際に保存中の品質の劣化の少ない開発途上のオオムギなど、 幾つかの変異体がある。

選抜方法も、 ダイズの場合は子葉を半分に切ったもので酵素活性の検定ができる分、今回のDNAを使用した選抜法より手っ取り早い (欲しいのは劣性ホモなので選抜効率はあまり良くないが)。イネの場合はPCRを使うのだから、 育苗するまでもなく玄米半粒で検定できると思うのだが・・・・どうなんだろう。

ちなみに、今回のプレスリリースでもLOX3と書いているように、 イネでもオオムギでもダイズでも、LOX遺伝子は複数ある。耐病性に関与しているものもあるが、 大抵のLOXは生体内でどんな機能を担っているのかははっきりとはわからない。LOXは脂肪酸を酸化させて臭い物質を生成するので (大抵は望ましくない臭いだ)、品質面では無いほうが良いことが多い。しかし、本当にLOXがなくても生存に差し支えないのかどうか・ ・・。

まあ、明らかなベネフィットと、 潜在的で不明確なリスクを比較するとどのような選択をするべきかは明らかではあるが。

いずれは、 この成果を生かして貯蔵性の良い米が主力品種になっていくのかもしれない。

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2008年7月29日 (火)

フランス政府の謀略か?

さても、トラックバックは頂いたものの・・・。NHKで放送された「アグリビジネスの巨人モンサントの世界戦略」と言うコンテンツは注意してみなければならない内容を多々含んでいる。 以下にYoutubeの動画をリンクしておく。

予め忠告しておきますが、私はこのドキュメンタリーをもとに「遺伝子組換え問題」を語るべきでは無いと強く思います。 なぜならば、このドキュメンタリーは、具体的に遺伝子組換えの問題を何も扱っておらず、 モンサント社とアメリカ政府のネガティブキャンペーンに終始しているためです。

 

オリジナルのドキュメンタリーはこちら

制作はフランスの公共教育放送ARTE等が主体。NHKによる番組の解説はこちら

当時、農務省のバイオテクノロジー研究者の一人は「政治的判断で、 遺伝子組み換え作物は従来の作物と同一物とみなすことで認可が容易になった」と証言。FDAが発表した認可の文書は、 モンサント社の弁護士が作成した文書と酷似していた。

とある。この「務省のバイオテクノロジー研究者の一人」とされる人物は、Dr.Maryanskiである。 放送されたコメントについて、ご本人が日経FoodScienceのホームページではこう述べられている。 

私は、米国食品医薬品局(FDA)の食品バイオテクノロジー政策に関してそのドキュメンタリーのためにインタビューを受けた1人である。そのドキュメンタリーの中で、リポーターは私のコメントを基に、FDAの政策は科学情報よりも「政治」に立脚してものであると断言している。しかし、その主張はインタビュー時に私が述べたことと相反する。インタビューでは、誤解を与えぬよう、誤って伝えられぬよう、明瞭に、慎重に、簡潔に話すことが重要であるという教訓を、そのドキュメンタリーは私に思い起こさせることとなった。

私は、編集者の意図に基づいて切り取られたインタビュー映像よりもこちらの証言を信頼する。こちらの情報によればDr.MaryanskiはFDAの” バイオテクノロジー・コーディネーター”(つまり行政官)であった。NHKはUSDA(農務省)の研究者だと紹介しているが、 専門領域も立場も取り違えている。

私が見るところこのドキュメンタリは、モンサント社や遺伝子組換え作物に対する反対の意図を強調しようとするあまり、議論を意図的にミスリードさせようとしているところがある。

たとえば、上で引用したYoutubeの動画では、7時34分頃に「遺伝子組換え食品による健康被害」 として紹介している事例は、死者・被害者数からみて、おそらく「昭和電工のトリプトファン事件」として知られている。これは、 遺伝子組換えバクテリアから製造されたアミノ酸にいまだ特定されていない不純物が混入していたことが健康被害の原因とされている。” 同じ遺伝子組換え”と言ってしまえばそれまでだが、この事例と遺伝子組換え作物を同一視するのは、 「バクテリアもトウモロコシも生物だから一緒」というくらいに乱暴な議論の仕方だ。わざとやっているのであればフェアではない、 薄汚い手口だ(わざと混同しているのではないとしたら、もっと困った人たちだが)。

映像でクローズアップされたFDAの文書にはこう書かれていた。

・・・ nor can we roule out the engineering of the organisms

意味合いとしては"その生物の操作の可能性も排除できない"という程度。つまり、 遺伝子組換え技術が原因でないと言うに足る十分な証拠は無い、というだけのことだ。その後、リポーターはこう続ける。

これは驚きです。彼は遺伝子操作の副作用を予期しつつも何も手を打たなかったのです。

私にとっては、これは驚きです。遺伝子操作が被害の原因であるという証拠も無いのに、 政府に規制をするように求めているのですから。「確定的な証拠が無いので可能性を排除できない」と言う判断と「危険性が予期できる」 と言う判断間にはかなり大きな隔たりがあるのだが、その違いが分かっていないのか、それともあえて無視しているのでしょうか。

そして、インタビューはそのまま、モンサント社の組換え作物に関する話題へとなだれ込んでいる。しかも、 男性の野太いフランス語の音声がかぶさっていて、インタビューされたDr. Maryanski氏本人が何を言っているのか、 ちっとも聞き取れない。日本語への翻訳は、英語→フランス語→日本語とならざるを得ないでしょう。 これほどまでにオリジナルの情報が変容していては、私には、もはやドキュメンタリーとはみなせない。

結局、 モンサント社の遺伝子組換え作物が普及するまでの仮定には政治的な働きかけがあったことを暗示する番組ではあるが、 「遺伝子組換え作物そのものの問題点」については、何も言っていないに等しい。ただただ、 遺伝子組換え作物を普及させるまでの手口についてのモンサント社の悪いイメージだけが増幅する仕掛けだ。

なお、 今年に入ってフランス政府はEUの決定に反してモンサント社の遺伝子組換えトウモロコシの流通規制を強化している。仮に、 フランス公共教育放送ARTEが、その主張に沿った番組を制作しても驚くにはあたらない。しかし、万が一、 わが国の公共放送がそのプロパガンダを無批判に垂れ流しているのであれば、その判断能力に疑問を投げかけざるを得ない。 他の報道番組の質もこの程度なのだとしたらがっかりです。

・・・ と言うところに注意して報道番組を疑ってみると、結構色々なことが分かるものです。

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2008年7月28日 (月)

ビスフェノールAに低用量効果はない、と言う論文

食品安全情報blog経由。

この件、食品安全委員会の評価が始まるまで静観しようと思っていたのですが、新しい論文が出たので、とりあえずメモ。

Tyl, RW et al. Two-Generation Reproductive Toxicity Study of Dietary Bisphenol A in CD-1 (Swiss) Mice. Toxicological Sciences 2008 104:362-384; doi:10.1093/toxsci/kfn084

プレスリリースはこちら

     
  • 供試材料はマウス二世代(国立医薬品食品衛生研究所の試験はラット。こちらに良いまとめがあります。)  
  •  
  • ビスフェノールAの用量は0, 0.003, 0.03, 0.3, 5, 50, or 600 mg   BPA/kg/day
  •  
  • 要は高容量とポジコンでは影響があったものの、低容量では成体、産仔とも異常なしとのこと(There were no   BPA-related effects on adult mating, fertility or gestational   indices, ovarian primordial follicle counts, estrous cyclicity,   precoital interval, offspring sex ratios or postnatal survival,   sperm parameters or reproductive organ weights or   histopathology (including the testes and prostate))。

国立医薬品食品衛生研究所の試験でも発情周期を指標としていたようですが、こちらでは発情周期には影響なしとしています。

ヒトのビスフェノールAの吸排に関するEFSAのAFCパネルの意見も公表されたことですし、 食品安全委員会の判断の参考資料となることは間違いないでしょう。

食品安全委員会のリスク評価としては、結局、現行の規制値で十分と考えるか不十分と考えるかでしょう。 以前のエントリーにも書きましたが、げっ歯類で何らかの影響があると言うことと、 ヒトでリスクがあるということの間のには結構大きな開きがあります。

勝手な予想ですが、落としどころとしては、”科学的には影響は無いとまではいえないかもしれないが、あっても軽微。 現行基準値でも十分”として、環境ホルモンの危険を警告する国立医薬品食品衛生研究所等の一部の人々の面子を守りつつも、 社会的な混乱を起こさないように配慮するというところでしょうか。それとも、毒性部が大々的にテレビで流すなど研究成果の意図的リーク (たしか、機関としてのプレスリリースはしてないよね)をしたにもかかわらず、”この試験方法では確かなことはいえない” とダメだしをされるでしょうか。

# 白黒付けないですます、という対応は後々禍根を残すことが多いんですけどね。

EUやカナダでは国際的な対応も二分しているところですから、”低用量効果”を巡る食品安全委員会の今後の議論に注目です。

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2008年7月26日 (土)

がん化しにくいiPS細胞

RNAウイルスベクターを使用したiPS細胞の作成が産総研から公表された。

 

がん化しにくいiPS細胞作製に道、産総研が新タイプ

 

 京都大の山中伸弥教授が開発した新型万能細胞(iPS細胞)に近い細胞を、山中教授とは異なるウイルスを使って作ることに、   産業技術総合研究所の中西真人(まひと)・研究ラボ長らが成功した。

 

 がん化しにくい安全なiPS細胞作製に結びつくと期待される。

 

 25日、都内で開かれたシンポジウムで発表した。

 

 山中教授の手法は、3~4個の遺伝子をレトロウイルスを使い皮膚細胞に導入してiPS細胞を作製する。しかし、   細胞のDNAにウイルスが組み込まれるため、がん化などの危険性が指摘されていた。

 

 中西ラボ長らは、細胞内に長期間とどまり、DNAを傷つけない新型のセンダイウイルスを開発。このウイルスを使い、   3個の遺伝子をマウスの皮膚細胞に導入したところ、遺伝子の働き方や細胞内のたんぱく質がiPS細胞と似た状態になった。

 

 中西ラボ長は、センダイウイルスを容易に除去できる方法も開発し、「今後、様々な細胞に変化できる万能性を確認したい」   としている。
  (2008年7月26日03時06分  読売新聞)

レトロウイルスでがん化がおこるのであればセンダイウイルスを使えばいいのに、というのは誰しも思いつくところ (関連する昨年11月のエントリーはこちら) 。効率はどのくらいなんだろう。また、「センダイウイルスを容易に除去できる方法」というのが味噌ですね。また一歩前進という感じです。 次は、ヒト細胞ですね。

あと、「3個の遺伝子」を一つのベクターに入れられれば感染効率の3乗倍ほど効率的なのですが、 センダイウイルスベクターではあまり大きなサイズのインサートは入らないような。かといってコロナウイルスを使うのはちょっと・・・。

またDNAウイルスに逆戻りしても良いのであれば、 哺乳動物細胞では増殖できないバキュロウイルスでも発現ベクターには使えますし、大きな遺伝子断片が入れられます。 ネガティブセレクションができるマーカー遺伝子を入れておけば、ベクターの除去もできるかもしれません。

そうこうしているうちに、薬剤でiPS細胞を誘導すると言う話もちらほらあったような。

 

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2008年7月25日 (金)

内閣府、「遺伝子組換え技術に関する意識調査結果について」、その1

リンク先はこちら

調査対象9,192のうち8,000人が中学、高校の先生なので、主に教員対象の調査という趣。

報告書のイントロダクションには次のようにある。・・・が、一言申し上げたい。この調査担当者も、現状認識を改めた方がよい。

1.はじめに

 近年、地球規模で起こっている砂漠化等の環境問題は、世界的な食糧事情の深刻化をもたらす要因となっており、 多くを輸入に頼っている我が国の食料安全保障上に大きな影響を与える可能性が高い。

 地球温暖化に伴う食糧問題としては、乾燥や塩害等の劣悪な環境に強い作物、病害虫に強い作物、 単位耕作面積あたりの収量の多い作物等を開発することが重要である。

 世界的には、こうした機能を有する作物とえいて遺伝子組換え作物(以下「GMO」という。)が開発され、 既に数カ国で実用化が始まっている。

 一方で、我が国はイネゲノム解析をはじめとする優れた育種技術を擁しており、 それの活用は我が国の食糧問題のみならず国際的な貢献につながっていくことが期待される。まずは、GMOに関する技術の内容、安全性、 有用性、生物多様性など環境面への影響等に関する情報の発信を行い、国民理解を得ることが必要である。

・・・以下略

1パラ目、地球環境の悪化が食糧安保に脅威となる可能性はその通り。2パラ目、 環境悪化に対応する組換え作物育成の重要性もその通り。3パラ目、「世界的には、こうした機能を有する作物とえいて遺伝子組換え作物(以下 「GMO」という。)が開発され、既に数カ国で実用化が始まっている。」というが、「こういう機能」に、「病害虫に強い作物」 が含まれるのであれば、Btコーンを栽培している国は数カ国では効かない。ISAAAの公表によれば16カ国で商業栽培されている。一方、 ストレス耐性作物はまだ実用化水準にない。

一方、既に日本がおよそ1,200万トン程度輸入している可能性がある遺伝子組換え作物については一切ふれずに、 将来的な期待に備えて国民理解を得ることが必要、と言う議論は理解に苦しむ。 現状で日本の食生活が遺伝子組換え作物に大きく依存していることに目をつぶっていてはいけない。 毎日のように輸入されているであろう遺伝子組換え作物の「技術の内容、安全性、有用性、 生物多様性など環境面への影響等に関する情報の発信を行い、国民理解を得ることが必要である。」、とこのお言葉をそっくり贈ろう。

些末だが、イネゲノム解析は育種技術ではないことを最後に申し添えておく。 アンケートの集計結果を見ると分かるが、品種改良やその技術を理解していない人は教員でも30%は居る。ことほどかように、 品種改良に対する国民理解の浅さがいみじくも露呈してしまっているのは悲しむべきことである。

続編は明日以降あらためて。初歩的なミスで実験を失敗してしまって己に腹が立った日、記す。

 

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2008年7月22日 (火)

水素水って!?

なんだかなぁ・・・。

水素水に記憶力低下抑制効果、日医大教授がマウスで確認

 水素水を飲むことで、記憶力(認知機能)の低下を抑えられることを日本医大の太田成男教授らが動物実験で確認した。

 認知症の予防や治療にも道を開く成果で、科学誌ニューロサイコファーマコロジー電子版に発表した。

 ストレスによって記憶力が低下することは知られている。研究チームは、マウスを狭い空間に閉じ込め、 餌を与えないなどのストレスを加えたうえで、記憶力が、水素が大量に溶け込んだ水と通常の水を飲ませた場合でどのくらい違うか、 10匹ずつ、三つの方法で6週間かけて比較した。

 その結果、いずれの場合も水素水を飲ませた方が記憶力が顕著に高く、ストレスのないマウスとほぼ同等だった。 記憶をつかさどる脳の領域(海馬)における神経幹細胞の増殖能力も同様の傾向だった。

 研究チームは昨年、水素が活性酸素を取り除き、脳梗塞(こうそく)による脳障害を半減させることを確認。 認知症は活性酸素などによって神経細胞が変性する病気とされるが、太田教授は 「水素水を飲まないマウスの海馬には活性酸素によって作られた物質が蓄積していた。 水素水が活性酸素によって低下した神経細胞の増殖能力を回復させ、記憶力低下も抑制したと考えられる」と話している。
(2008年7月19日01時27分  読売新聞)

水に溶かした水素が消化管で吸収されて血流に乗り、脳に届いて活性酸素を分解したのでしょうか。 還元作用があるというのであれば、水素よりももっと水溶性の高いビタミンCなんかじゃダメなんでしょうか。 どうも私の理解の及ばないお話のようです。オリジナルはこちら

ちなみに、過去に水素水関連で公正取引委員会から排除勧告を受けた製品は2件ありました。

  1. ニューアクアイザー
  2. スーパーハイドロマスター

こんなのとは関係のない研究だと思いますが。

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2008年7月21日 (月)

夏向けの小技

お暑う御座います。実験室の空調も設定温度で28度。

実際の室温はと申しますと、これはもう労働安全衛生法の事務所衛生基準規則 第二章事務室の環境管理 第五条の規定に御座います通り、28度以下でなくてはいけない、ということになっておりますので・・・ ええまったくその通りなので御座います。まぁ、実験室が事務所に相当するか否かという議論はあって然るべきではございますが、 特に高温で維持する必要のある環境ではないので、事務所と考えて良いのでは無いかと思います。

しかし、酵母の培養中の寒天培地を実験台の上に置いておきますと、なぜだか、それはもう大喜びで繁殖しまくるという・・・ええ、 涼しさで御座います(もちろん、実験台の上に放置できますのは、非組換え酵母に限られております)。

さて、このくらい気温が上がって参りますとアガロースゲルが固まるのに、冬場よりは少々時間がかかります。また固まっても、 なんだかバンドがブロードな気がする、ということは無いでしょうか。

そんなときには、これ、「アガロースゲル電気泳動の友」。

CIMG1048

ホームセンターなんかで売っている”ペット冷却用シート” です。ま、ただのアルミ板なんですけどね。

あらかじめ冷蔵庫に入れて冷やしておけば、5分そこそこでゲルが固まります(通常は20分ほどかかります)。 ゲル濃度をよく変えなきゃいけなくて、ゲルの作り置きができない場合には重宝です。

裏面にひだを付けて表面積を拡大したラジエター付きのペット冷却用シートや、ノートパソコン用のファン付き冷却装置も魅力的ですが、 何分高いので使っていません。

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2008年7月20日 (日)

へー、遺伝子組換え作物って白眼視されてきたんだ。

7/20の朝日新聞、トップ記事の見出しはこうだ。

遺伝子組み換えに追い風 食糧高騰・温暖化が均衡破る

で、記事はこう書き出している。

長く白眼視されてきた遺伝子組み換え(GM)作物に、追い風が吹き始めている。  

 GM技術の知的所有権を独占し、   世界の主要作物の種子支配を狙っていると批判されてきたモンサント社(米国)は6月、   世界的な食糧高騰や気候変動に立ち向かう「貢献策」を公表した。

・・・もうすこし言いようは無いのか。

長く白眼視されてきた遺伝子組み換え(GM)作物」  

GM技術の知的所有権を独占し、   世界の主要作物の種子支配を狙っていると批判されてきたモンサント社」

こういう枕詞をつけて、物や会社に対する固定的なイメージを読者に植え付けるものの書き方は、 著しく不公平なやり方だ。たとえば、

コラムで法務大臣に”死神”と言う別名をつけて、 良識ある市民の批判にさらされている朝日新聞社」

自分の会社をそう呼ばれたら、このトップ記事の執筆者はどう感じるだろう。事実として遺伝子組換え作物が 「長く白眼視されてきた」にせよ、食料高騰・温暖化が遺伝子組換え作物の普及に追い風になっている情勢を伝えるのに、 このような書き方をする必要はない。

ちなみに、私はモンサント社に知人は居るが利害関係は全く無い。お歳暮・お中元はおろか、 ボールペン一本貰ったことは無い。モンサント社を弁護する理由は無いが、メディアの不公平な報道には抗議する。

私は朝日新聞を購読しているし、複数年まとめて契約している。しかし、 契約期間が切れたら私は二度と朝日新聞を購読しない。ここに宣言する。

読売新聞のオーナーが変わったら即日読売新聞を購読するかもしれない。 読売新聞は、取材記者が高圧的で失礼な取材態度で知られている (業務でなければ取材協力は絶対にしたくない)。しかし、医療や科学関連の記事の品質は高い。

製品としての品質がよければ、企業姿勢には何とか目をつぶってやっても良い。 しかし、記者やオーナーが如何に品行方正でも、製品の品質が低いのでは話にならない。

 


 

さて、署名記事でこのような書き方ができるというのは一種賞賛に値するかもしれない。 腹立ち紛れにどうでも良いことを書いてしまったが、折角なのでこの記事では書かれていない情報も書いておこう。

植物の遺伝子組換え技術の特許について。

特許というのは、投資をして技術開発を行なったものに対して正当な対価を認めて報いるための制度だ。したがって、 一定年限(存続期間という)は保護するが、それを過ぎれば特許の内容は社会全体で共有するべき知的財産となる。

存続期間の間、特許を取得した者の許諾なくその技術を使用してはいけない。その期間は20年あるいは25年間 (農薬分野など)と決められている。植物の遺伝子組換え技術に関する特許は、多くが1980年代に成立している。従って、 多くの技術がそろそろ期限が切れているか、期限切れを迎えることになる(ソースは特許庁) 。

つまり「GM技術の知的所有権を独占し、世界の主要作物の種子支配を狙っている」という表現は、 先駆者として遺伝子組換え作物を開発してきた企業が獲得して当然の、国際的にも認められている独占権に対する批判である。 知的財産権の独占を批判をするならば、特許と言う制度の是非も問うべきではないのか。

作物の種子だって製品である。それが良い製品であれば普及するし、 そうでなければ企業がいくら市場を独占しようとしてもメリットの無い製品は普及しない。「世界の主要作物の種子支配を狙っている」としても、 それは非常に高い目標に向かって企業努力を積み重ねているという意味だ。企業の目標は魅力的な製品で消費者をとりこにして、 より収益を高めることなのだから。

# 大体、具体的にはどんなプランを立てれば、ある市場占有率を達成できるようになると言うのか。

なお、モンサント社は昨年9月にDow Agroscienceと互いの技術を持ち寄って新しいスタック系統を開発することで合意している。 深読みすると、組換え技術の特許切れによってジェネリック医薬品のように先行製品とよく似た後発品種がぞろぞろ出てくる事態に備えて、 品種の幅をより広げておこうとしているようにも見える。今回の件も企業買収をしようと思えばできたのかもしれないが、 互いの独立性を残した方がメリットがあると言う判断での協業だろう。

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2008年7月18日 (金)

Pullout of the killer tomatoes !

以前のエントリーで取り上げたトピックですが、読売新聞によると、 FDAが米国内向けに警告していた生トマトが原因と見られるサルモネラ菌による食中毒についての警告が解除された模様。

「トマト生食OK」米当局が警告解除…中毒の原因は不明

 米食品医薬品局(FDA)は17日、6月7日に出した「トマトの生食はサルモネラ中毒の恐れがある」との警告を解除した。

 汚染源は不明のままだが、患者が多発した4~5月の産地はすでにトマトの収穫・出荷が終わったという。

 患者はその後も増えて1200人を超えたが、 最近の患者についてはトマトとともにサルサソースなどに使われる香辛料が疑われている。(ワシントン・増満浩志)
(2008年7月18日11時09分  読売新聞)

FDAによる警告解除のオリジナルはこちら

# 新聞記事ってどうしてこういうオリジナルのニュースソースを書かないのかね。

ちなみに、「サルサソースなどに使われる香辛料」とは、"raw jalapeno and raw serrano peppers"(ハラペーニョとセラノペッパー、ともにある種のトウガラシ)とのこと。

今回問題になっている食中毒の原因菌の"Salmonella Saintpaul "なんて、その辺に普通にいる細菌なのでどこでコンタミしたのだか。中毒事例ごとに細菌の遺伝子型を決めないと特定は難しいだろう。

ちなみに、Salmonella属細菌の学名は、ここ数年の間で見直されており、 種のレベルでは病原性との関連が一意には決まらないため、血清型(serovar)による分類が導入されている。 FDAの言うところの"Salmonella Saintpaul"という種は存在しない。 種名としては"Salmonella enterica subsp. enterica serovar Saintpaul"になるので、相当に簡略化した表現だ。

文部科省のカルタヘナ法二種告示ではSalmonella属細菌の学名が古いままなので、 次の見直しのタイミングでは改正されることだろう。

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2008年7月16日 (水)

食品安全委員会の独立性は残ったか

消費者行政推進会議では、消費者庁と食品安全委員会の位置づけの論議がまとまった模様。

食品安全委は全面移管せず 消費者庁巡り政府

 政府は15日、 2009年度に新設する消費者庁に関して、内閣府の食品安全委員会の全面移管を見送る方針を固めた。 食品事故が発生したときの緊急対応などを同庁に移す。23日にも開く政府の消費者行政推進会議(座長・佐々木毅学習院大教授) で正式に決める見通しだ。

 食品や添加物などの健康への影響を評価する機能は同委に残す。食品業界などに、 消費者庁に評価機能を移せばバランスを欠くとの声があることなどに配慮したようだ。 食品事故や食中毒が発生した際の公表や情報提供などの緊急対応は事故情報を一元的に集約する消費者庁が担う。 (07:03)

消費者庁がリスク管理の機能を担うのであれば、 リスク評価を行う食品安全委員会をその指揮下に置かないと言う判断は賢明だ。もし、全面移管をしてしまっていれば、 仕組みとしては厚生労働省の審議会で食品安全性の審査をやっていた頃と、そう変わらないことになってしまう所だった。

科学的なリスク評価を、規制行政を行う所管の官庁から切り離す仕組みは、EU(EFSA)でも採用されている。 米国は、FDAとしては評価も規制も行っているが、規制部局(Office of Rgulatory Affairs, ORA)はリスク評価を行う各センターとは独立した組織になっており、 相互に指揮命令関係はない模様。

ところで、リスク評価と規制行政を分けるという考え方を、 毒劇物や危険物を含めた化学物質全般に拡大できないものだろうか。現在は、毒劇法は厚労省、 化学物質やそれを含む製品の製造・流通は厚生労働省、経済産業省、環境省(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律、 化審法)と、それぞれリスク評価から管理まで縦割りになっているが、 リスク評価の部分は各省共通の行政委員会において、リスク情報の共有がスムーズになると良いのだが。百歩譲って、 各種法律の規制対象となる物質とCAS番号の対応を横断的に関連づけた統一データベースがあるだけでも良いのだが。

・・・と思ったらありますね。商用版のデータベースが。 規制がビジネスを生む好例です。年間3.6万円位なので、研究所全体で一単位契約しておけば便利かもしれません。

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2008年7月15日 (火)

β-メルカプトエタノールが毒物になりました -試薬メーカーの対応-

毒劇法の政令改正で7月1日からβ-メルカプトエタノールが毒物になったことについてはこちらに書いたとおり。 毒劇法では濃度で制限をかけている毒物、劇物から除外している物質も沢山ある。が、 β-メルカプトエタノールにはなぜか、そのような規定は無い。β-メルカプトエタノールについては、 経口毒性のLD50が非常に低いので濃度で規制をするのは現実的ではない、と言うほどの毒性ではない。しかし、”2- メルカプトエタノール及びこれを含有する製剤”は全て規制対象だ。

・・・となると、市販の制限酵素の保存用の緩衝液のように、 0.04%-0.08%という低濃度で含まれている場合であっても法律上は毒物になる。普通、酵素を商っている販売代理店は、 毒劇物も取り扱っているので毒劇物販売業者として手続きは済んでいるはずなので混乱は少ないと思うが、研究室等で購入した際に、 受け取った職員は所属、氏名、住所などをいちいち書かされる羽目になる。ゴム印でも用意しておこうか。

7月15日現在、試薬メーカーの対応状況は以下の通り。

     
  • いち早く対応したのは、ロシュ・アプライド・サイエンス。  
  •  
  • タカラバイオ株式会社も対応は早く、    代替製品に置き換えていくとのこと。好感が持てる。
  •  
  • 東洋紡はホームページの見やすい所には対応情報がない。ありました(7/16 修正)。こちら
  •  
  • GEヘルスケアも未対応。
  •  
  • インビトロジェン株式会社は告知のページがわからない。
  •  
  • 株式会社キアゲンも未対応。
  •  
  • フナコシ株式会社も未対応。
  •  
  • コスモ・バイオ株式会社も未対応。

9月までは移行期間。製品ラインナップの複雑な会社はこれから対応していくのだろう。

なお困るのが、容量の管理とマイクロチューブへの 医薬用外毒物 の記載。酵素のストックが山ほどあると、こりゃぁ大変です。       酵素は低温で管理しているので、使用した分だけ秤量というわけにも行かず、どうしたものか。       法律上は盗難等の防止が管理の目的であって、量の管理の具体は組織に委ねられている。いっそ、       研究所の規定の方を変えてしまおうか・・・。

今回の政令改正にあたっては、公開されている審議会の議事録を見る限り、 こんな感じの議論だった。

 

「β-メルカプトエタノールは経皮毒性の基準に照らして毒物だよね。何か異論のある人?」

 

「・・・」

 

「じゃ毒物ってことでよろしく。」

このくらいのリスク評価でも、科学的事実に基づいて誰が見ても異論のない結果であれば、それはそれでよいだろう。

一方、”2-メルカプトエタノール及びこれを含有する製剤”は全て毒物とする、このリスクマネージメントの方法はどうなのだ? ある濃度のβ-メルカプトエタノールを使用した経皮毒性試験の結果を根拠に毒物に指定したのであれば、試験の結果から、 毒性が法定の毒物としての基準を下回る濃度もまた決まるはずだ。 それ以下の濃度の物質は、毒物として法律で規制する意味はないのだ。閾値を決めるのが面倒だったので、 とりあえず全部毒物にしたと言うことなのだろうか?仮にそうだとすれば、ひどい手抜きだ。

新しい規制を行う場合、規制の効果を最大限に発揮させ、なおかつ無用の混乱を引き起こさない閾値を適正に決めるのが行政の責任だ。 今回の一件は、毒物の匙加減を誤ったように思えてならない。

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2008年7月14日 (月)

そこに構造的な問題はないか?

東大医科研で行われた倫理委員会を経ていない臨床研究の実施と、論文への虚偽記載のフォローアップ。朝日新聞では、 7/11に引き続き12、13日もこの問題について追加の報道と、社説を掲載している。

# なお、Googleで見る限り、blogger諸氏はほとんど反応していない模様。

一連の事案の経緯はこちらに書いたので省く。 論点は以下の通り。

     
  • 一部、インフォームドコンセントを得ていない試料を研究に使用したこと。
  •  
  • その結果を論文に記載する際に、全ての試料についてインフォームドコンセントを得たと記載したこと。
  •  
  • 臨床研究の計画は、研究所内の規定および厚生労働省の指針に従って、機関倫理委員会(IRB)   の審査の上で実施することになっているが、実際は審査・承認を経ずに研究を実施していたこと。
  •  
  • IRBの審査・承認を経ずに実施した研究であるにもかかわらず、審査・承認を経たと論文に書いたこと。

以下に朝日新聞の13日の社説を引用させてもらう。

 

 同研究所の清木元治所長は陳謝するとともに、「検査と研究の違いについて意識が薄かった」と述べた。

 

 同じ血液を採るにしても、研究目的となると、治療目的での検査とは患者の受け止め方がまったく違う。   研究目的は必ずしも患者自身の利益に直結しないからだ。だからこそ、患者にていねいに説明し、   同意を得ることがいっそう厳しく求められているのだ。

患者の検体を研究に使用する場合に、なぜ患者の同意が必要なのか?と言う疑問に対して、この社説では 「研究目的となると、治療目的での検査とは患者の受け止め方がまったく違う」と説明している。

本当にそれが理由なのか?話は少々わき道に逸れるが、では日本赤十字が、 期限切れで輸血に使用できなくなった血液を試験に提供する場合はどうなのだ?東京都赤十字血液センターのホームページにはこうある。

 

各種検査で基準を満たさない血液や有効期間を過ぎた輸血用血液、検査に用いた検体の残りなどは、   輸血の有効性や安全性の向上のための研究や安全な輸血のための検査試薬製造等に有効に活用しています。さらに、国の指導の下、   他の研究機関との共同研究にも使用しています。しかし、   残念ながら上記以外の血液は感染性医療廃棄物として適切な管理のもとに処理しています。

私はよく献血をするのだが、はたして血液提供者は献血の際に、 自分の血液が研究に使用されることを同意したことがあるだろうか?気持ちの問題というのなら、 これも研究目的となると、 治療目的での輸血とは提供者の受け止め方がまったく違う」ということになりはしないか?

# ちなみに、私は、献血した私の血液が何かの役に立つのなら、 使い道が何であれ期限切れで捨てられるよりはましだと思っている。

臨床研究の中には死体から採取した組織を使用する場合や、検体採取後に提供者が死亡する場合もあるに違いないが、 この場合は本人の気持ちは問題にできないのだ。検体を提供する「患者の受け止め方」 を論点の中心に据えると、問題が違って見えてしまう。ヘルシンキ宣言を読んでいただければわかると思うのだが、 検査のために採血した血液の流用であれば、問題は、その研究が行われた結果、そして論文が公表された結果によって、 患者やその関係者の人権を侵害した事実があるのかということだ。

もし仮に「患者の受け止め方」を中心的な問題に据えるのであれば、 今般の報道がなければ患者に知られることもなく、従って誰も傷つかなかった、という議論さえ可能なのだ。 臨床研究において患者の気持ちを尊重することは大切だが、研究者の負うべき責任の範囲はそれにとどまるものではない。

今回の例とは異なるが、ゲノム情報を解析した場合を考えればわかるように、 影響の範囲は本人のみならず親兄弟や子孫にまで及ぶこともあるのだから。研究に対する同意の求め方、 同意の範囲は本人と関係者の人権に配慮して、ケースバイケースで慎重に考えなくてはならない。 「患者の受け止め方」を中心においた議論であってはいけないのだ。

朝日新聞社は今回の件はどうだと考えているのだろう。「患者の受け止め方」に還元できる議論であるならば、 そこを確認したのだろうか?

また12日の記事には次のようにある。

 

甘い体制整備、倫理「個人任せ」 東大医科研虚偽論文

 
   

2008年7月12日3時2分

 
 
   

 医学論文で研究倫理をめぐる虚偽記載が明らかになった東大医科学研究所(東京都港区)には、     研究者が患者らの血液など検体を保管する際の規則や患者から同意文書をとるための決まった書式がなかったことが分かった。     研究者を対象にした倫理研修も今年4月に初めて定期化したという。清木元治所長は「医科研は、倫理面の意識が薄かった。     研究所全体として体制整備の必要性を認識するのが遅れていた」と言っている。

   

 医科研の内部調査担当者によると、研究倫理にかかわる手続きは、事実上、研究者個人の「倫理」に任され、     組織としてはノーチェックだった。こうした環境が、今回発覚した東條有伸教授(52)     の研究室による論文への虚偽記載につながったとの見方が研究所内では強いという。

   

 医科研幹部の一人は取材に対し、「東條教授は、共同研究者から『倫理審査委員会に出しましょう』と言われるなど、     せっぱ詰まって出さなければいけなくなった時しか、(倫理委に)申請していなかったようだ」と話す。

   

 11日に記者会見した清木所長は再発防止策について、毎年、各研究室が行うプロジェクトを報告してもらい、     それぞれがきちんと倫理申請されているかどうかを定期的に点検する考えを示した。

   

 同じ東大でも、医学部(東京都文京区)は対照的だ。     ヒトから採取した検体を研究に使用する際の同意の取り方や個人情報保護の扱いについて統一的な手順を詳細に定めている。     さらに03年からは臨床研究を行う医師や研究者に研究倫理セミナーの受講も義務付けた。     研究計画について倫理審査委員会に申請する際には、原則としてこの受講証が必要という。

   

 世界医師会の「ヘルシンキ宣言」や厚生労働省の倫理指針が、     個別の医学研究に倫理委の承認や患者からの文書による同意の取り付けを求めているのは、かつての「人体実験」     が明らかになった経緯などを踏まえて、患者や検体提供者の意思に反して研究が行われたり、     本人の知らないうちに自分の体にかかわる情報が出回ったりするのを防ぐためだ。

   

 医療倫理に詳しい東大関係者は「『患者のために』ということならすべて許されると考えるのは、研究者のおごりだ。     身体の一部という究極の個人情報を扱う以上、十分な説明と意思確認は欠かせない。透明性確保のため文書で同意を得るのも当然だ」     と指摘する。また、医療倫理にかかわる厚労省の担当者は     「国内最高レベルの研究機関で研究倫理について虚偽記載がまかり通っていたとは信じられない。明らかに一線を越えており、     研究所全体としても『意識が低かった』では済まない話だ」と話している。(西川圭介、小倉直樹)

 

同じ東大でも医科研はダメで医学部はOKだという論調は頂けない。 そりゃぁ研究倫理の担保が万全なセクションもあるだろう。しかし、 これは一部で不祥事があれば全部をまとめてバッシングするのを常とする新聞らしくも無い。

# 東大医学部を持ち上げるのなら、居酒屋タクシーを利用していない大部分の公務員も、ほめておくれ、 というのは冗談だが。

そもそも、この事案について、医科研の倫理審査委員会がなぜ機能していなかったのかについて、 その背後にある構造的な問題にも目を向けるべきだ。研究者個人の問題に帰結していては、再発を防ぐことはできない。

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2008年7月11日 (金)

科学的(科学者)である前に倫理的(社会人)でなくてはいけないが

東京大学医科学研究所で、研究所内の倫理委員会での議論を経ていない臨床研究が行われ、また患者の同意のない検体が実験につかわれた。 その研究が論文として公表されたことが、朝日新聞の一面トップ記事になった。以下、一部を掲載する。

個人的には、今回の事案は被験者に対する人としての配慮に発するコンプライアンスの問題であって、 研究結果について科学的な面から虚偽を報告した平教授や黄教授の事件とは区別して考えるべき問題であると思う。 新聞の論調ではそのあたりの区別は付いていない。

「倫理委承認」「患者が同意」と偽り3論文 医科研教授

2008年7月11日3時2分

 東京大学医科学研究所で白血病など難治性の血液疾患を研究している分子療法分野研究室教授が中心となって発表した論文で、 研究倫理をめぐる虚偽記載が繰り返されていたことが朝日新聞の調べでわかった。 実際には受けていない倫理審査委員会の承認や血液などの検体の使用の同意を得たと偽った論文が、少なくとも3本あることが判明。 教授は取材に対し、自らも虚偽記載をしたと認め、論文1本をすでに撤回した。

(略)

 ヒトから細胞や血液を採取して使う研究は、患者の体に負担がかかるうえ、その個人情報保護にも特別な配慮が必要だ。 各機関の倫理委による研究計画書の事前審査や、十分な説明に基づく提供者の同意がなければ研究を認めないのが国際ルールで、 03年7月にできた国の指針もその順守を求めている。

 しかし、取材を機に始まった医科研の内部調査でも、指針が適用されて以降、 国内外の医学誌に発表された論文5本に倫理面で虚偽とみられる記載が発覚。撤回された論文は白血病の悪性度の測り方が研究テーマで、 今年5月にイタリアの医学誌「ヘマトロジカ」に東條教授を責任者とする研究室のメンバー4人の連名で発表していた。

 この研究では、医科研付属病院で89~03年に急性骨髄性白血病の患者5人から採取された骨髄と末梢(まっしょう) 血を使用。倫理委の承認を得たり、 文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言に従ってすべての患者から同意を得たりしたと記載していたが、 東條教授によると、実際には倫理委を通さず、同意も一部からしか取っていなかった。

(略)

 こうした論文の基礎となる研究には、文部科学、厚生労働両省の科学研究費補助金の対象も含まれている。文科省は 「倫理面の虚偽記載は論文の捏造(ねつぞう)にも等しい」との見方で、科研費の停止措置などに至る可能性もある。

 東條教授は医科研付属病院副院長や血液腫瘍(しゅよう)内科長も兼任。同科は臍帯(さいたい) 血移植で世界有数の治療成績をあげている。(西川圭介、小倉直樹)

この種の事案にはいくつか視点の異なる問題点が混在している。 記事が正確に事実を伝えていると仮定して問題点を要約すると次の通り。

  1. 臨床研究の研究計画を倫理委員会に諮ることは、厚生労働省のガイドラインや東京大学医科学研究所の内規でも求められているので、 その手続きを経ずに研究を実施したこと。
  2. ヒト由来の試料を研究に使用する場合は、一般的には(一部例外もある)試料の提供者に対して、 研究に使用する旨を説明して同意を得なければならない。 このルールはヘルシンキ宣言・ 厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」 で求められているが、提供者の同意を得ていない試料を使用して研究を実施していること。
  3. 2.の説明同意は文書で行うことを 「臨床研究に関する倫理指針」で求めているが、この手続きを怠っていること。
  4. 研究計画の審査と、説明と同意に関して、論文に明らかに事実と異なる記載をしたこと。

朝日新聞のトップ記事からはわからないこと。

  • 「医科研付属病院で89~03年に急性骨髄性白血病の患者5人から採取された骨髄と末梢(まっしょう)血を使用。」とある。 この際の骨髄や末梢血の採取目的
    • 治療に必要な検査のため?あるいは研究のため?研究目的だけで、 体に負担のかかる骨髄を採取する医者がいるとは非常に考えにくい。
    • また、試料の入手時期が89-03年であれば、厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」 やそれに基づく医科学研究所の内規に関わる違反があったとしても、指針の公表された03年の7月30日以降。 指針に基づいた内規に対する違反があれば、7月30日から12月31日までの間の5ヶ月間。従って、 指針違反はあってもおそらくは少数例
    • 別の記事には、”清木所長は会見で「病気の治療を目的とする検査と、 研究を目的とする検査の相違に対する意識の欠如があった。”とあるので、末梢血は検査目的で採取したもの。
  • ヘルシンキ宣言においては「医師は対象者の自由意志によるインフォームド・コンセントを、 望ましくは文書で得なければならない。」と、「文書」 による同意は努力義務であるとはっきり書いてあるが、記者はこの点を認識しているか?
    • 記事にはこうある。「倫理委の承認を得たり、 文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言に従ってすべての患者から同意を得たりしたと記載していたが、 東條教授によると、実際には倫理委を通さず、同意も一部からしか取っていなかった。」。ここで 「文書による患者同意を掲げた世界医師会のヘルシンキ宣言」と書いてあるが、 論文にヘルシンキ宣言をこのように説明的に書く訳はなく、記者による補足と考えられるが、補足の仕方が間違っている。
  • 記事には「個人情報保護にも特別な配慮が必要だ。」とある。一般に個人情報の保護への配慮は必要だが、 個人情報保護法への対応が必要なゲノム研究とそれ以外の研究では対応が異なるが、その違いは記事からはわからない。

私は医者でも医学関係者でもないが、臨床研究の準備に関係したことはある。 臨床研究の倫理審査についてはしばしば考えさせられたものだ。臨床研究では、 研究者は徹底的に説明責任を果たせるようにしておかなければならない。倫理委員会の審査や研究自体のの透明性は非常に重要だ。 組織としての体制整備は重要だが、研究者が山ほど書類を書かなければならない現状にも、効率の面で問題はある。

治療に必要な検査のために、患者さんから試料を採取することはよくある。希な症例の場合は、試料それ自体貴重だ。 重篤な疾患で患者さんが不幸にして死亡してしまった後も、長期間冷凍保存していることもあるだろう。

今回の件では、病院の検査や手術の現場で患者さんから採取された試料だ。通常の医療行為の過程で採取された試料であるならば、 研究のために患者さんの負担が増えたり、研究のために特別な苦痛を感じたことは恐らく無かっただろうと想像する。これは、 後ろ向き研究の場合には概ね当てはまるはずだ。

たしかに、論文に虚偽の記述をしたことは信用失墜行為として責められるに値するし、重大なルール違反だ。しかし、その結果、 科学的には妥当で有用な研究成果や、研究スタッフの多大な労働が葬られるのであれば、自業自得であるにせよ、実にもったいない。

一方で、研究には長い時間を必要とするものもある。ヒト由来の試料を採取した時期と、 社会的な制度が整備されるまでのタイムラグは往々にして発生する。記事には倫理委員会がどうのと書かれているが、 時系列で整理してみれば89年(19年前)の試料を研究に使用していることからも、現在のルールを遡って適用できないのは明らかだし、 かなり希な症例であるということが想像できる。

また、04年の論文(これ? )であれば、"Submitted March 17, 2004; accepted July 10, 2004"とあり、 投稿が04年3月、研究実施は1999-2003と書いてある。従って、研究期間から言えば、2003年の7月30日公表の厚生労働省の 「臨床研究に関する倫理指針」 に従っていなくても、この件については不正とまでは言いにくい。

問題は、2004年の論文ではこの表現に絞られる。

The clinical protocol was approved by the institutional review board of the Institute of Medical Science, University of Tokyo, and written informed consent was obtained from all patients in accordance with the Declaration of Helsinki.

研究の実施主体は医科学研究所だが、検体採取は医科研付属病院。一見同じ組織に見えるのだが、実は別組織である。 こういう場合、本来はどちらの倫理審査委員会が担当するべきなのだろうか?また、検体の採取は医科研付属病院で目的も検査ということもあり、 最初は臨床研究という意識が薄かったのかも知れない。いずれにしても"The clinical protocol was approved by the institutional review board of the Institute of Medical Science, University of Tokyo"というのが不適切だったのだろう。

突き詰めれば、問題点は一部の試料についてのインフォームドコンセントの欠落(ヘルシンキ宣言からの逸脱) と倫理委員会での審査と試料提供者の同意に関わる論文への虚偽の記載。その辺に落ち着くはずだ。

不正は不正に違いないのだが、それに対して、この騒ぎぶりは何だろうか。内部告発と言うよりは、何か密告と魔女狩り、 というか研究者バッシングの臭いがする。

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2008年7月 9日 (水)

毒物及び劇物取締法メモ1

β-メルカプトエタノールと毒劇法がらみで、このブログを訪問される方が増えている。フォローアップとして、 もう少し有益な情報を提供しよう。

各研究所等での毒劇物取扱のガイドラインについては、厚生労働省医薬食品局化学物質安全対策室のホームページが便利。 「毒物劇物の適切な保管管理について」 などのコンテンツが研究所等の規則の整備、日常点検の参考になる。

以下は、毒劇法の「業務上取扱者」(つまり、製造、輸入、販売、特定毒物の研究をしない人) に関連した規制についてのまとめ。


毒物及び劇物取締法(以下、毒劇法という)は、保健衛生上の(危害を防止の)見地から主に流通(製造、輸入、販売、取扱等) に対する規制を行うことを目的としている。

・・・なので、基本的には毒劇物の製造、輸入、販売業者に対する規制が前面に出ており、 それ以外の毒劇物使用者(第22条で、「業務上取扱者」と言われる) についての規制ルールは、見つけにくい書き方になっている。研究所、大学、病院で毒劇物を扱う職員はこれに該当する。

   
    第二十二条   政令で定める事業を行なう者であつてその業務上シアン化ナトリウム又は政令で定めるその他の毒物若しくは劇物を取り扱うものは、事業場ごとに、その業務上これらの毒物又は劇物を取り扱うこととなつた日から三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、次の各号に掲げる事項を、その事業場の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。    
             一  氏名又は住所(法人にあつては、その名称及び主たる事務所の所在地)    
             二        シアン化ナトリウム又は政令で定めるその他の毒物若しくは劇物のうち取り扱う毒物又は劇物の品目    
             三  事業場の所在地    
             四  その他厚生労働省令で定める事項    
        2      前項の規定に基づく政令が制定された場合においてその政令の施行により同項に規定する者に該当することとなつた者は、その政令の施行の日から三十日以内に、同項の例により同項各号に掲げる事項を届け出なければならない。  
        3  前二項の規定により届出をした者は、当該事業場におけるその事業を廃止したとき、当該事業場において第一項の毒物若しくは劇物を業務上取り扱わないこととなつたとき、又は同項各号に掲げる事項を変更したときは、その旨を当該事業場の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。  
        4  第七条、第八条、第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十五条の三、第十六条の二、 第十七条第二項から第五項まで並びに第十九条第三項及び第六項の規定は、第一項に規定する者(第二項に規定する者を含む。     以下この条において同じ。)について準用する。  
             第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十六条の二並びに第十七条第二項から第五項までの規定は、毒物劇物営業者、特定毒物研究者及び第一項に規定する者以外の者であつて厚生労働省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱うものについて準用する。      
        6  厚生労働大臣又は都道府県知事は、第一項に規定する者が第四項で準用する第七条若しくは第十一条の規定若しくは同項で準用する第十九条第三項の処分に違反していると認めるとき、 又は前項に規定する者が同項で準用する第十一条の規定に違反していると認めるときは、その者に対し、相当の期間を定めて、必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。  
        7  第二十条の規定は、厚生労働大臣又は都道府県知事が第四項で準用する第十九条第三項の処分又は前項の処分をしようとする場合に準用する。  
  ということで、一般の「業務上取扱者」に適用される規制を確認する。
 
   
      第十一条   毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失することを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。    
             2  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物若しくは物又は毒物若しくは劇物を含有する物であつて政令で定めるものがその製造所、 営業所若しくは店舗又は研究所の外に飛散し、漏れ、流れ出、若しくはしみ出、又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。    
             3  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その製造所、営業所若しくは店舗又は研究所の外において毒物若しくは劇物又は前項の政令で定める物を運搬する場合には、これらの物が飛散し、漏れ、流れ出、又はしみ出ることを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。    
             4  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は厚生労働省令で定める劇物については、その容器として、飲食物の容器として通常使用される物を使用してはならない。    
  なるほど。 盗難防止、漏出防止、誤飲防止ですね。
   
      第十二条   毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物の容器及び被包に、「医薬用外」の文字及び毒物については赤地に白色をもつて「毒物」の文字、劇物については白地に赤色をもつて「劇物」の文字を表示しなければならない。    
 
  市販の試薬の容器で保管する場合は概ね問題ない(*)が、小分け容器に入れてある場合は対応が必要。  
  (*) 古い試薬の場合、ラベルに印刷されていない場合がある。また、輸入品で、なおかつこれまで毒物でなかったもの(例えばβ-メルカプトエタノール等)の場合は、販売時にラベルに印刷されていないので個別に対応が必要。
 
  つかいさしのボトルの内容量は、さすがに汚染の危険をおかしてメスシリンダーで計るわけにもいかないので、   ボトルごと天秤で秤量して差分を記録していくほかない。紛失や盗難への対策という意味ではこれで十分だろう。

容器への表示については、
   

     毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物を貯蔵し、又は陳列する場所に、「医薬用外」の文字及び毒物については「毒物」 、劇物については「劇物」の文字を表示しなければならない。  

  これは所定の保管場所にあればまず大丈夫。 色の指定はない。
   
      第十六条の二   毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令で定める物が飛散し、漏れ、流れ出、しみ出、又は地下にしみ込んだ場合において、 不特定又は多数の者について保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに、その旨を保健所、警察署又は消防機関に届け出るとともに、保健衛生上の危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければならない。    
             2  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失したときは、直ちに、その旨を警察署に届け出なければならない。    
  数量管理をきちんとしていないと紛失はチェックできない。年度途中で毒物に指定された物があると対応に追われるが、仕方がない。
   
      第十七条   (略)。    
   
             2  都道府県知事は、保健衛生上必要があると認めるときは、毒物又は劇物の販売業者又は特定毒物研究者から必要な報告を徴し、又は薬事監視員のうちからあらかじめ指定する者に、これらの者の店舗、研究所その他業務上毒物若しくは劇物を取り扱う場所に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させ、関係者に質問させ、試験のため必要な最小限度の分量に限り、毒物、劇物、第十一条第二項に規定する政令で定める物若しくはその疑いのある物を収去させることができる。    
             3  前二項の規定により指定された者は、毒物劇物監視員と称する。    
             4  毒物劇物監視員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。    
             5  第一項及び第二項の規定は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。    
  報告聴取、立入検査の項目。非常事態でなければ普通は対応する必要は生じない。
  準用規定は以上。あれ?末端の「業務上取扱者」は行政指導の対象になっていない。   事業の許認可に関わる権限が及ばないためだろうか。それから気になるのは罰則。
  取扱の第十一条関係は、罰則なし。第十二条関係は、第二十四条第二号
             (罰則)    
   
      第二十四条   次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。       
                一  (略)       
                二  第十二条(第二十二条第四項及び第五項で準用する場合を含む。)の表示をせず、又は虚偽の表示をした者 
  容器、保管場所の表示義務違反はかなり重い処分です。しかも、行政指導のワンクッションもなく直罰!   これは要注意。
  事故時の対応、第十六条の二関係は、第二十五条第三号
 
        第二十五条   次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。    
             一  (略)    
             二  (略)    
             二の二  (略)    
             三  第十六条の二(第二十二条第四項及び第五項で準用する場合を含む。)の規定に違反した者    
  盗難・紛失した場合は三十万円以下の罰金だそうです。盗まれた上に罰則、まさに踏んだり蹴ったり。
  それから、忘れちゃいけない両罰規定、使用者責任に関しては、
        第二十六条   法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第二十四条、第二十四条の二、第二十四条の四又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の罰金を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、その業務について相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。  
  とある。注意・監督義務が適切に履行されていた場合は罰則の対象ではないとのこと。
  廃棄物関係はこちらを参照   (根拠法が書いてないのがなんですが、廃棄関係は第十五条の二)・・・これは驚いたことに、第二十二条第四5の規定する末端の「業務上取扱者」には適用されない様に見える。本当かな?
  とはいえ、廃棄物については他法令への準拠も求められるので、そのまま捨てる訳にはいかない。
  廃棄関係については、実は第十五条の二にこうある。
             (廃棄)    
   
      第十五条の二   毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令で定める物は、廃棄の方法について政令で定める技術上の基準に従わなければ、廃棄してはならない。    
  ここで言う「政令」とは、毒物及び劇物取締法施行令のこと。関連部分は以下の通り

 第九章 毒物及び劇物の廃棄

 
    第四十条   法第十五条の二 の規定により、毒物若しくは劇物又は法第十一条第二項に規定する政令で定める物の廃棄の方法に関する技術上の基準を次のように定める。    
             一  中和、加水分解、酸化、還元、稀釈その他の方法により、       毒物及び劇物並びに法第十一条第二項に規定する政令で定める物のいずれにも該当しない物とすること。    
             二  ガス体又は揮発性の毒物又は劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所で、少量ずつ放出し、又は揮発させること。    
             三  可燃性の毒物又は劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所で、少量ずつ燃焼させること。    
             四  前各号により難い場合には、地下一メートル以上で、かつ、 地下水を汚染するおそれがない地中に確実に埋め、海面上に引き上げられ、若しくは浮き上がるおそれがない方法で海水中に沈め、又は保健衛生上危害を生ずるおそれがないその他の方法で処理すること。    
  β-メルカプトエタノールは還元剤なので酸化してしまえば他の物質になる訳だが、高濃度だと発火する。一方、   濃度規定があれば薄めれば良いのだがβ-メルカプトエタノールについては濃度規定はないようだ。
  従って、薄めただけでは毒物のまま。中和するには、低濃度にしておいて、パーマ液に使われるマイルドな酸化剤(過酸化水素水、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムあたり)を加えるのが良いかも知れない。なお、過酸化水素水も6%以上の高濃度だと劇物になります(毒を以て毒を制す、というか、劇を以て毒を制すというか・・・)。
  毒劇法の法定の廃棄方法に未だに海洋投棄があるのはびっくりだ。他の法令に引っかからないものだろうか。どう → 環境省の人?
 
  参考になったでしょうか?
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2008年7月 8日 (火)

ビスフェノールAの安全性に懸念?-その2-

5/14のエントリーに、国立医薬品食品衛生研究所などの研究グループが動物実験の結果、 低用量でも実験動物の後代にビスフェノールAの毒性の影響があることがニュースになったことを書いた。

先ほど、ニュースで厚生労働省がビスフェノールAの毒性について食品安全委員会に諮問すると言っていたので急遽、 今日2つめのエントリー。Googleでニュースを探したところ、数件あったのでフォローしておく。

まずは、読売新聞。

哺乳瓶のビスフェノールA、厚労省が健康影響評価を依頼

 厚生労働省は8日、プラスチック製の哺乳(ほにゅう)瓶や缶詰の腐食防止材などに使われる化学物質ビスフェノールAについて、 国の食品安全委員会に食品安全法に基づく食品健康影響評価を依頼した。

 胎児と乳幼児の体に影響を及ぼす可能性が国内外の動物実験で示されたためで、必要があれば規制値の見直しも検討する。

 国は1993年、毎日摂取しても問題ないとされるビスフェノールAの量を体重1キロ当たり0・05ミリ・グラムに設定した。

 しかし、国立医薬品食品衛生研究所などの実験で、母ラットに妊娠後から離乳前日まで規制値の百分の一にあたる0・0005ミリ・ グラムを毎日与えたところ、子ラットの発情期の周期に異常が見られた。

 米国では今年6月、乳幼児の神経や行動への影響を懸念する報告書がまとまり、 カナダはビスフェノールAを使った哺乳瓶の輸入販売を禁止する方針を決めた。ただ、国内では該当する哺乳瓶の流通は9%にとどまるうえ、 欧米に多い調整乳の缶詰は流通していないとされる。

 厚労省は「動物実験の結果であり、人間にそのまま当てはまるかどうか不明だが、対象が胎児や乳幼児なので評価を依頼した。 成人への影響もないと考えられるが、妊婦は気をつけてほしい」と話している。
(2008年7月8日20時09分  読売新聞)

厚生労働省が食品安全委員会に食品衛生法に基づく食品健康影響評価を要請する場合の事務の流れはこちら。 厚生労働大臣が自分の所の傘下の審議会に諮るのではないので、諮問ではなく、要請(平たく言うとお願い)。見出しの「依頼」は概ね正しい。

一方、「哺乳瓶のビスフェノールA」と言う限定は、ん?という感じ。 食品安全委員会での評価の仕方は例えばこちらにもあるように器具・ 容器で考えるか、こちらにあるように、 化学物質・汚染物質という物質ベースで考えることになる。どちらのベースで評価依頼するのかは、これから調整するのかも知れないが、 動物実験そのものは哺乳瓶とは関係ないのだが。読者に分かりやすくしようという工夫か?

次、毎日新聞。

ビスフェノールA:原料の哺乳瓶使用を控えるよう呼びかけ

 厚生労働省は8日、妊婦や乳幼児に対し、化学物質「ビスフェノールA」を原料とするプラスチック製哺乳 (ほにゅう)瓶の使用や缶詰製品の摂取を控えるよう呼びかけを始めた。国の基準値以下でも、 胎児らの健康に影響を与える可能性を示唆する動物実験を踏まえ、予防措置を取った。厚労省は同日、ホームページで情報提供するとともに、 内閣府の食品安全委員会にヒトへの健康影響評価を諮問した。

 ビスフェノールAはホルモンに似た作用を持ち、野生生物の生態の影響が懸念されるとして、 環境省が調査を実施。04年に魚類への影響は推察されるが、ヒトには認められないとの結論を出した。

 しかし、その後も国内外で「動物の胎児に、ごく微量でも神経異常や早熟を招く懸念がある」との報告がある。 欧米もヒトの健康影響評価に乗り出した。

 厚労省は「現時点でヒトへの影響は不明」としている。だが、安全性を重視する立場から、 ビスフェノールAを原料とした哺乳瓶を使う場合、漏出しないよう過度の加熱や劣化製品の使用を避けるよう呼びかけることにした。 該当する哺乳瓶は国内流通量の9%とされる。同省は「ガラス製の哺乳瓶を使うのも選択肢」と提案した。

 また、缶詰では腐食防止のために広く使われ、食品に溶け出す恐れがある。 「缶詰製品に頼らずバランスある食生活が大切」としている。【下桐実雅子】

リスク報道としては、適切な見出しかも知れない。厚労省でも評価はこれからとしながらも、 消費者にビスフェノールAを含む哺乳瓶の使用を控えるよう呼びかけており、 代替案としてガラスほ乳瓶の使用を提案しているところまでフォローしているので、報道の姿勢としては好感が持てる。今回の厚労省の姿勢は、 市民団体の大好きな「予防的措置」といえるだろう(規制ではないけれど)。

ちょっと残念なのは、この記事では「ヒトへの健康影響評価を諮問した」と書いているところ。 些末な言葉使いではありますが、新聞記者は行政の手続きについて素人であってはいけません。厚生労働大臣は、 食品安全委員会に諮問できる立場ではないことは理解しておくべきだ。

次、朝日新聞。

哺乳びんなどに使用 ビスフェノールAの安全性評価諮問

2008年7月8日19時56分

 厚生労働省は8日、プラスチック原料に含まれる化学物質「ビスフェノールA」について、 内閣府の食品安全委員会に、健康影響評価を諮問した。近年、動物実験で微量摂取でも影響があるとの結果が出たのを受けて実施した。

 厚労省によると、ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂などに含まれ、食品容器では哺乳(ほにゅう) びんや缶詰の内面塗装などに使われる。97年ごろから環境ホルモン(内分泌攪乱(かくらん)化学物質) としての働きがあるか注目されている。

 厚労省研究班の報告では、妊娠したラットへの投与で、これまで「有害な影響はない」 とされてきた量の1万分の1以下で、胎児の神経や行動に影響がみられたという。

 米国では6月に「乳幼児の神経や行動などに影響を及ぼす懸念がある」との報告書が公表され、 カナダではポリカーボネート製の哺乳びんの輸入や販売などを禁止する方針。

 厚労省によると、国内に流通する哺乳びんのうち、同製は1割程度。 溶出濃度はごく微量で過去に健康被害の報告もないという。

 一方、食品缶については「妊婦が多く摂取すると胎児に影響が及ぶ可能性がある」と指摘。 国産品では対策が取られているというが、流通量の7割を占める輸入品について、厚労省は、対策などの実態を調査する方針。

まず、見出しのセンスは読売新聞と同等。毎日新聞の方がリスク情報を新聞から得ようとしている読者には親切だ。

次に、1パラ目の「諮問」は間違い。また、「近年、 動物実験で微量摂取でも影響があるとの結果が出たのを受けて実施した。」というのが、何を実施したのか分からない。なんだこの記事は。

ポリカーボネート製哺乳瓶の使用に、さしあたりの危険性はなさそうだと言うニュアンスで書いている。 現時点では科学的には正しいが厚労省の呼びかけには真っ向から対立している。

 


 

今のところ、5月の情報よりも科学的に目新しい情報は出ていない。しかし、 行政的に一歩動いたのでフォローしておこう。

以前のエントリーにも書いたが、動物実験の毒性評価結果が、そのままヒトに当てはまらないケースがある。 ラットとヒトでは成長過程の時間に対する反応が異なる(アロメトリーといった方がよいかも知れない)ので、 動物実験からヒトの性的な成熟過程に対する化学物質の影響評価を導くことは難しい。

食品安全委員会の答え方も、厚労省から提出された科学的な情報に基づいて、

  1. 一定量以上で影響はある
  2. 影響はない
  3. データが十分ではないので分からない

と言う回答があり得る。今回のケースがどれに当たるかは、この先数ヶ月の審議にかかっている。

また、厚生労働省のリスク管理は、評価結果に基づくものではあるけれども、規制の影響の範囲に応じてさじ加減を工夫するのが通例。 今回のケースで考えれば、ビスフェノールAの適当な代替物質がないのであれば、 禁止すると缶詰のコーティング剤がより品質の悪いものに代替されてしまうリスクもあるので、妊婦は缶詰ばかり常食しないように、 と妊婦さんに呼びかける方が妥当だろう。

# 妊婦が缶詰ばかり食べていると栄養のバランスが悪くなって、 そちらの方がビスフェノールAよりも遙かに問題が多いような気がするのだが。

哺乳瓶からの溶出については、おそらくこれからの評価待ちだが、禁止するほどのものかどうかは判断材料がないので何とも言えない。

 

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無知から来る「安心」

不安のタネを知らなければ「安心」していられる。私は「安全・安心」という言葉が大嫌いだ。

ある程度定量的に評価できる安全性(あるいはリスク評価)で裏打ちされた「安全」と、「とりあえず不安材料は見あたらない」 というだけの「安心」を一緒くたにしているからだ。場合によっては、危機的状況にふさわしくない「安心」もあり得るのだ。

次の記事は読売新聞から(記事のボールドは土門)。

活断層をランク付け、29か所が「いつ動いてもおかしくない」

 政府の地震調査研究推進本部は、主要な活断層(110か所) を地震が起きる切迫度に応じてランク付けする新指標を導入する方針を固めた。

 住民らの防災意識を高めるのが狙いで、糸魚川―静岡構造線断層帯など29か所が最高ランクの「いつ動いてもおかしくない活断層」 に位置づけられる見通し。2009年版地震動予測地図に発生確率とともに盛り込まれる。

 活断層での地震発生確率は、過去の地震の平均活動間隔などをもとに計算される。間隔が数千年~数万年と大きいため、 確率値は海溝型の地震に比べ、低く算出されがちで、最高でも首都直下地震を起こす神縄・国府津―松田断層帯(神奈川・静岡県)の16%。 専門家らから「住民に無用な安心感を与える」という指摘が出ていた。

 新指標は、平均活動間隔を過ぎても地震が起きていない活断層を最高ランクとし、 活動間隔に迫るものを最高に準じると位置づける方針。
(2008年7月7日14時39分  読売新聞)

無用な安心感を与える」という言い回しが面白い。 地震や台風のような天災は不可抗力だ。それ自体を人智で防ぐことはできない。しかし、天災に備えることで被害を軽減することはできる。 だから、根拠もなく、無防備なままで安心していて良いというものではない。

 

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2008年7月 3日 (木)

ウナギから検出されたマラカイトグリーンに安全上の問題はあるか?

ウナギの産地偽装事件で、今度はマラカイトグリーンと代謝産物であるロイコマラカイトグリーンが検出されたと報道されている。 NHKではアナウンサーが発がん性が云々、安全性を犠牲にした金儲けがどうの、と言っている。

しかし、本当にウナギから検出された微量濃度のマラカイトグリーンに発がん性があるのか?詳しくは食品安全情報blogを見ていただきたい。 変異原性があるか?といえばある。発がん性があるか?と言えばそうとも言い切れない。確実性の高い試験が行なわれていないためだ。正しくは、 「発がんの疑いがある物質」と言うべきだろう。

発がん性の疑われるマラカイトグリーンについては、 発がんメカニズムが明らかでは無いことから日許容量を想定することは適当でないので、法律上は食品から検出されてはならないとされている

つまり、これまで発がん性が明らかにされてきた様々な物質と比較すると、危険性は低いのだ。

今回、ウナギからマラカイトグリーンが検出されたことの問題点は、その違法性にあるのであって、 直ちに安全性に問題があると言う問題ではなく、食べてしまったのだがどうしたらよいか?と不安になるような問題でもない。

現状の報道では、マラカイトグリーンを含む可能性のあるウナギを食べてしまった方の不安を解消することはできない。 もっと報道の仕方を考えていただきたいものだ。

漠然とした不安の方が健康には良くない。

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2008年7月 2日 (水)

EUの遺伝子組換え作物に対する規制

ニュース・ソースは日経Food Science。EUでは遺伝子組換え作物の利用拡大に向けた動きがあるらしい。

  • 欧州委員会委員長 急騰する食糧価格を切り下げるために、各国政府はGMOの可能性を認めるべきだと強く要請。
  • 欧州委員会 保健・消費者保護総局 長官 未承認GMOの微量混入に閾値を設ける提案へ?
  • EU承認済みのGMトウモロコシの輸入・利用を拒否してきたオーストリアの禁止令が08年5月27日に撤廃。
  • Nestle社会長は、ヨーロッパの政策当局に対し、GMOに対する反対姿勢の再考を促す。

そして、記事の文章中に次のような記述がある。

この論拠であるヨーロッパのGMO忌避がアフリカ諸国に影響を与え、 輸出への懸念からそのGMO栽培を遅らせているという理屈は、 心あるヨーロッパ人たちにとって、おそらく最も痛いところを突いている。 欧州委員会Peter Mandelson通商委員長は、 直ちにアフリカいじめを否定し、欧州委員会に責任はなく、 しばしば見られる欧州各国政府のGMO拒否の姿勢に落胆しているとコメントを出している。

私はアフリカ諸国が国際市場を通じてどの国の農産物を購入しているかは知らない。しかし、 EUのGM作物に対する解禁は、域内での栽培と、輸入の許可がペアでなければならないだろう。もしそうでなければ、 国際的な穀物市場に大きな混乱を引き起こすのではないかと懸念する。

なぜならば、現在、GM作物の輸出能力が高い合衆国および南米産のGM大豆やトウモロコシは、 輸入規制をしているEUへはあまり回らずに、日本、中国、アフリカ等に輸出されている。そこに、 EUという新たな大口の取引先が突然生まれたらどうなるか?ただでさえ高騰している穀物がさらに高くなることは間違いないだろう。 EUには域内での栽培規制を緩和していただいて、穀物の生産力を向上してもらわないと、短期間で受給バランスが崩れてしまうおそれがある。

日本向けの飼料の国際価格を考えるならば、むしろEUには輸入規制を続けていただいた方がありがたいのだ。

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2008年7月 1日 (火)

「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針の改正案」について

表題の案件のパブコメ締切(7/4)が迫っています。

この「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」(以下、指針という)の範囲には、 農水省の監督下にある独立行政法人で遺伝子組換え作物の野外栽培を行う場合が全て含まれます (農林水産省や独立行政法人の委託で民間事業者が栽培を行う場合はこの限りではないはず)。

指針の目的は、カルタヘナ法に基づき承認を受けた組換え作物を用いて、 自ら又は委託を受けて行う栽培実験の実施に当たり遵守すべき事項を定める、とあり、遺伝子組換え作物の野外栽培を行う場合に、 研究所等が栽培実験計画を策定し公表すること、栽培管理体制(遺伝子組換え作物の混入防止、交雑防止のための措置等) を整備することを求めています。

今ひとつ、「栽培実験の実施に当たり遵守すべき事項を定める」目的は何なのか釈然としない指針ですが、 2006年の改訂の際のパブコメに対する回答を見ると、一応の目的がわかります。そこには次のようにあります(ボールドは土門による)。

  • 本指針は、農林水産省所管の独立行政法人が行う遺伝子組換え作物の栽培実験上の留意点等を取りまとめたものであり、安全性の面で問題のない栽培実験であっても、国民の理解の下で円滑に実施する観点から、周辺の同種栽培作物等との交雑防止等について指導していく必要があると考えています。
  •    
  • 本指針は、農林水産省所管の独立行政法人の行う遺伝子組換え作物の栽培実験を国民理解の下で円滑に実施する観点から策定したものです。本指針の策定に当たっては、検討会を設け、科学的知見をもとに検討を行っています。
  •    
  • 今後とも、国民の懸念に対し安心いただけるよう科学的知見の集積に努めます。

要約すると、「安全性の問題ではなくとも、科学的な知見をもとに検討し、 国民の理解の下で栽培実験を円滑に実施するため」ということを目的としているようです(科学的知見の集積で、 国民の懸念に対し安心いただけるかどうかは、わからないですが・・・)。

組換え作物と「組換えでない作物」との交雑があった場合に、直ちに安全上の問題が生じるかといえば、 それは議論の前提によるとしか言いようがありません。

いずれかの国において、科学的に妥当な方法で安全性が確認された組換え作物については、 交雑や混入が起こったとしても直ちに安全上の問題が生じることはありません。ただし、 私たちのような研究独法で開発中の組換え作物については、全く同じ議論が一般的には成り立つとまでは言えません。 この場合に安全性を担保するものは、組換え作物の開発者が設計時点で行う、 急性毒性や発ガンリスクのあるタンパク質を含ませないと言う考慮のみです。食品・ 医薬品としての実用化を前提に研究開発を行う場合には当然の配慮ではありますが、安全性を担保する最終的な責任は我々にあります。

逆に言えば、消費者の健康に対する懸念が生じ得る事態とは、

  1. 仮に急性毒性や発ガンリスクのあるタンパク質を含ませた遺伝子組換え作物が存在したとして、      
  2. それが毒性を発揮するに十分な量のタンパク質を収穫部位に集積しており、    
  3. その作物が毒性を発揮するのに十分な量、一般の作物に混入する    
     

という特異的な事態でしょう。そのような場合にのみ、消費者の健康に対する懸念が生じるはずです。発がん物質を除いて、 いかなる毒素にも無影響量という生物学的な影響を発揮する為に必要な最小量が存在し、 それ以下では毒性は発揮しないというのが毒物学の一般的な知識です。

一方、交雑や混入が起こった場合には、安全性の議論とは別に、 食品衛生法や飼料安全法上のリスクや風評被害によるリスクがあります。この場合の賠償責任については、指針の考慮する範囲ではないとされており、 個別の裁判を通じて解決する事になるでしょう。 それは、不可逆的な健康被害とは次元の違う話です。

なお、この指針の方向性・考え方は2006年の改訂の際も、現在も変わっていないと思います。そこで、 今回の改定案の基礎になった資料と改定案について、私なりに検討を加えてみたいと思います。


資料を読み解く

まず、パブコメのページはこちら。 検討会の議事次第、資料一覧、参加者はこちら。 会議に提示された事務局資料はこちら (議論の対象になったデータはこの資料にあります)。改正案はこちら

検討会は公開だったのにの議事録は?というのがちょっと不満。どなたがどんな発言をされたのか、 見当の経緯が分からないので検討会の委員と同じ視点で資料を見ることができないのは残念です。・・・と思ったら、こちらにありましたのでリンクしておきます。

さて、こちらの資料を読み解くことにします。 私の関心はイネだけなので、他の作物については見ません。なかなか興味深いデータなのですが、 議事録と併せてみると肝心のところが紹介されていないように思います。以下にデータを紹介します。

     
  1. 長距離交雑事例とその要因の考察、1)イネ
  2.  
  3. 交雑予測モデル

まず、1.-1)については、北海道岩見沢市で距離300 mで交雑率0.024%、距離600 mで0.028%、 つくばみらい市で距離40 mで0.002%の交雑がありました。なお、つくばみらい市の交雑に関する詳細データでは、距離10 m, 20 m, 30 m, 40 mの間で、それぞれ種子10万粒以上を観察しており、 10m以上の距離では交雑程度は距離に応じたものではなく離散的に発生しているデータが示されています。

北海道ではその試験を行った地域では冷害があったので、冷害によって交雑率が上がるかどうか、 別途試験を行って低温障害時の交雑率の上昇を確認しています。

データを見ていただけると明らかなように、それぞれ花粉源の大きさが2.4ha、 20aとこれまでにない大規模栽培である事が分かります(ちなみに、生物研の隔離ほ場は4aです)。

また、北海道では岩見沢市のアメダスデータを示しており、 試験を行った水田ではなくアメダスの測定点では開花期に日平均で1.7-5.6m卓越風が吹いていたことが示されています。

1.の考察では、北海道では開花期前の低温で雄性不稔が生じたこと、大規模な花粉源、強い卓越風が原因、 つくばみらい市では試料点数の増加により検出感度が向上したこと、とまとめています。

2.については、花粉の拡散に対する風の影響を考慮した川島・芝池モデル (農環研の米村さんが出所?)による花粉源からの距離17mまでのシミュレーションとモデル式を示しています。考察では、 「隔離距離を延ばせば交雑割合は低下していくが、モデル上では交雑率を完全にゼロにするためには無限大の距離が必要」とまとめています。

さて、状況証拠は以上の通り。

資料から言えることを考えてみる

まず、つくばみらい市のデータを見てみると、10 mから40 mの間では、 交雑が100,000-150,000粒あたり1あるいは2粒で、交雑率にして0.002%です。北海道では距離600 mと離れているにもかかわらず交雑率は0.028%。3,500粒に1粒くらいの交雑で、つくばみらい市の試験の10倍以上です。

このことから、北海道での交雑率が異常に高かったことが分かります。その要因として、 岩見沢市のほ場では不稔率が37.3-47.5%と異常に高かったことも示されており、意図的に低温処理をした試験では距離5 mでの交雑率が2.96%に上る事も示されています。

これまでの状況証拠から、低温による障害型冷害が発生した場合は、そうでない場合よりも遠距離交雑はより起きやすくなる、といえます。

次に、卓越風の影響ですが、北海道の試験はあくまでアメダスポイントの風速データが示されて居るのみで、 花粉源の水田での実測データではありません。また、シミュレーションモデルについては、距離10 mを超えると交雑率はほぼ0になることは示せていますが、つくばみらい市で検出された0.002%の交雑率に近づく距離の外挿や、 北海道での試験の距離600 m付近での交雑率の予測は特に示されていませんので、議事録にあるように、 このモデル式で風と距離の影響を議論するには、データの示し方が不適切です。

なお、モデル式(ブルーム式・長期平均式)をよく見ると、測定点の距離以外のパラメーターを定数にした場合、 水平距離Rの逆数に定数を掛けたものであることが分かりますので、Rを無限大にしても当然、交雑率は0にはなりません。 この事を持って、「隔離距離を延ばせば交雑割合は低下していくが、モデル上では交雑率を完全にゼロにするためには無限大の距離が必要」 と言う議論をする姿勢には、私はどうしても同調できません。モデルの選択の妥当性は、近距離の交雑程度に対するフィッティングでしか示されておらず、長距離での極低い交雑率に対するモデルとして妥当かどうかは示された資料からは分からないためです。

むしろ、「つくばみらい市の交雑データからは、10mを超える距離での交雑は、距離のパラメータにあまり影響されない離散的な過程 (おそらくはポアソン過程)であるので、距離を伸ばすことによる交雑率の低減は期待できない。従って、他の交雑防止措置の方が有効である。」 と言っていただいた方が遙かによく分かります(・・・って、誰にでも分かる言い方に工夫するのは大変ですが、 犬伏先生は提示されたデータから直感的に正しく理解されています)。

以上より、示された試料から得た私の結論としては

     
  1. 遠距離交雑は低頻度でも確率的には必ず起こる。
  2.  
  3. 低温によって、遠距離交雑の頻度は高まる。
  4.  
  5. 卓越風の影響は示されたデータからは、評価できない。
  6.  
  7. 従って、花粉源が大規模で、しかも低温による不稔が懸念される2つの条件が揃った場合には、   従来とは異なる距離によらない交雑防止措置が必要。

というものです。

 


 

考えてみると、低温によるイネの障害型冷害については北海道農業試験場の佐竹さんを始め、東北農業試験場のチームなど、 かつて農林水産省として実施してきた研究による膨大な科学的知見があるはずなので、 どのくらいの低温がどの生育時期にどのくらいの期間続くと、どの程度の不稔歩合になるか定式化されているはずです。・・・ 学生時代に習ったような気がします。

また、障害型冷害が起こりやすい警戒地域も設定されているし、早期警戒ネットワークも行政レベルで動いています。

・・・なのに、この改訂案は何でしょうか?「開花前の低温により交雑の可能性が想定される場合には」 というのは。独法の隔離ほ場の設置場所などわかりきっているのに、わざとぼかしたのでしょうか。

つくばみらい市のデータからも、交雑が起こること自体は仕方ないし、 改訂案でも大規模栽培に対する対策は盛り込まれていない訳ですから、問題の所在は「遠距離交雑が起こること」ではなく 「遠距離交雑が高頻度で起こること」にあるはずです

今般の試験結果の事務局のまとめ通り、障害型冷害、卓越風、試験規模の3点が揃った場合に始めて、 対策が必要な水準の交雑率になると言うのであれば、栽培試験の前提条件として「開花期の平均風速が3 mを超えない場所を選定」というのはおかしいでしょう。卓越風は、 交雑そのものの主要因ではないと事務局の資料にも書いているのだから、「障害型冷害、卓越風、 試験規模の3点が揃った場合には栽培試験を中止すること」と、3条件の論理積で実験中止を決める方が適切なはずです。

しかも、改訂案ではこれらの対策を「距離による交雑防止措置」というカテゴリーに入れています。改訂内容は、どう見ても 「距離によらない交雑防止措置」ですし、隔離距離の拡大による交雑防止の効果は小さいという議論をふまえた改訂なのですか、 改訂のポイントがずれています。

# あんまり書くと身内から造反されたと言われるかも知れませんが、所詮はごまめの歯ぎしりです。

 

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