ビスフェノールAの安全性に懸念?-その2-
5/14のエントリーに、国立医薬品食品衛生研究所などの研究グループが動物実験の結果、 低用量でも実験動物の後代にビスフェノールAの毒性の影響があることがニュースになったことを書いた。
先ほど、ニュースで厚生労働省がビスフェノールAの毒性について食品安全委員会に諮問すると言っていたので急遽、 今日2つめのエントリー。Googleでニュースを探したところ、数件あったのでフォローしておく。
まずは、読売新聞。
哺乳瓶のビスフェノールA、厚労省が健康影響評価を依頼
厚生労働省は8日、プラスチック製の哺乳(ほにゅう)瓶や缶詰の腐食防止材などに使われる化学物質ビスフェノールAについて、 国の食品安全委員会に食品安全法に基づく食品健康影響評価を依頼した。
胎児と乳幼児の体に影響を及ぼす可能性が国内外の動物実験で示されたためで、必要があれば規制値の見直しも検討する。
国は1993年、毎日摂取しても問題ないとされるビスフェノールAの量を体重1キロ当たり0・05ミリ・グラムに設定した。
しかし、国立医薬品食品衛生研究所などの実験で、母ラットに妊娠後から離乳前日まで規制値の百分の一にあたる0・0005ミリ・ グラムを毎日与えたところ、子ラットの発情期の周期に異常が見られた。
米国では今年6月、乳幼児の神経や行動への影響を懸念する報告書がまとまり、 カナダはビスフェノールAを使った哺乳瓶の輸入販売を禁止する方針を決めた。ただ、国内では該当する哺乳瓶の流通は9%にとどまるうえ、 欧米に多い調整乳の缶詰は流通していないとされる。
厚労省は「動物実験の結果であり、人間にそのまま当てはまるかどうか不明だが、対象が胎児や乳幼児なので評価を依頼した。 成人への影響もないと考えられるが、妊婦は気をつけてほしい」と話している。
(2008年7月8日20時09分 読売新聞)
厚生労働省が食品安全委員会に食品衛生法に基づく食品健康影響評価を要請する場合の事務の流れはこちら。 厚生労働大臣が自分の所の傘下の審議会に諮るのではないので、諮問ではなく、要請(平たく言うとお願い)。見出しの「依頼」は概ね正しい。
一方、「哺乳瓶のビスフェノールA」と言う限定は、ん?という感じ。 食品安全委員会での評価の仕方は例えばこちらにもあるように器具・ 容器で考えるか、こちらにあるように、 化学物質・汚染物質という物質ベースで考えることになる。どちらのベースで評価依頼するのかは、これから調整するのかも知れないが、 動物実験そのものは哺乳瓶とは関係ないのだが。読者に分かりやすくしようという工夫か?
次、毎日新聞。
ビスフェノールA:原料の哺乳瓶使用を控えるよう呼びかけ
厚生労働省は8日、妊婦や乳幼児に対し、化学物質「ビスフェノールA」を原料とするプラスチック製哺乳 (ほにゅう)瓶の使用や缶詰製品の摂取を控えるよう呼びかけを始めた。国の基準値以下でも、 胎児らの健康に影響を与える可能性を示唆する動物実験を踏まえ、予防措置を取った。厚労省は同日、ホームページで情報提供するとともに、 内閣府の食品安全委員会にヒトへの健康影響評価を諮問した。
ビスフェノールAはホルモンに似た作用を持ち、野生生物の生態の影響が懸念されるとして、 環境省が調査を実施。04年に魚類への影響は推察されるが、ヒトには認められないとの結論を出した。
しかし、その後も国内外で「動物の胎児に、ごく微量でも神経異常や早熟を招く懸念がある」との報告がある。 欧米もヒトの健康影響評価に乗り出した。
厚労省は「現時点でヒトへの影響は不明」としている。だが、安全性を重視する立場から、 ビスフェノールAを原料とした哺乳瓶を使う場合、漏出しないよう過度の加熱や劣化製品の使用を避けるよう呼びかけることにした。 該当する哺乳瓶は国内流通量の9%とされる。同省は「ガラス製の哺乳瓶を使うのも選択肢」と提案した。
また、缶詰では腐食防止のために広く使われ、食品に溶け出す恐れがある。 「缶詰製品に頼らずバランスある食生活が大切」としている。【下桐実雅子】
リスク報道としては、適切な見出しかも知れない。厚労省でも評価はこれからとしながらも、 消費者にビスフェノールAを含む哺乳瓶の使用を控えるよう呼びかけており、 代替案としてガラスほ乳瓶の使用を提案しているところまでフォローしているので、報道の姿勢としては好感が持てる。今回の厚労省の姿勢は、 市民団体の大好きな「予防的措置」といえるだろう(規制ではないけれど)。
ちょっと残念なのは、この記事では「ヒトへの健康影響評価を諮問した」と書いているところ。 些末な言葉使いではありますが、新聞記者は行政の手続きについて素人であってはいけません。厚生労働大臣は、 食品安全委員会に諮問できる立場ではないことは理解しておくべきだ。
次、朝日新聞。
哺乳びんなどに使用 ビスフェノールAの安全性評価諮問
2008年7月8日19時56分
厚生労働省は8日、プラスチック原料に含まれる化学物質「ビスフェノールA」について、 内閣府の食品安全委員会に、健康影響評価を諮問した。近年、動物実験で微量摂取でも影響があるとの結果が出たのを受けて実施した。
厚労省によると、ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂などに含まれ、食品容器では哺乳(ほにゅう) びんや缶詰の内面塗装などに使われる。97年ごろから環境ホルモン(内分泌攪乱(かくらん)化学物質) としての働きがあるか注目されている。
厚労省研究班の報告では、妊娠したラットへの投与で、これまで「有害な影響はない」 とされてきた量の1万分の1以下で、胎児の神経や行動に影響がみられたという。
米国では6月に「乳幼児の神経や行動などに影響を及ぼす懸念がある」との報告書が公表され、 カナダではポリカーボネート製の哺乳びんの輸入や販売などを禁止する方針。
厚労省によると、国内に流通する哺乳びんのうち、同製は1割程度。 溶出濃度はごく微量で過去に健康被害の報告もないという。
一方、食品缶については「妊婦が多く摂取すると胎児に影響が及ぶ可能性がある」と指摘。 国産品では対策が取られているというが、流通量の7割を占める輸入品について、厚労省は、対策などの実態を調査する方針。
まず、見出しのセンスは読売新聞と同等。毎日新聞の方がリスク情報を新聞から得ようとしている読者には親切だ。
次に、1パラ目の「諮問」は間違い。また、「近年、 動物実験で微量摂取でも影響があるとの結果が出たのを受けて実施した。」というのが、何を実施したのか分からない。なんだこの記事は。
ポリカーボネート製哺乳瓶の使用に、さしあたりの危険性はなさそうだと言うニュアンスで書いている。 現時点では科学的には正しいが厚労省の呼びかけには真っ向から対立している。
今のところ、5月の情報よりも科学的に目新しい情報は出ていない。しかし、 行政的に一歩動いたのでフォローしておこう。
以前のエントリーにも書いたが、動物実験の毒性評価結果が、そのままヒトに当てはまらないケースがある。 ラットとヒトでは成長過程の時間に対する反応が異なる(アロメトリーといった方がよいかも知れない)ので、 動物実験からヒトの性的な成熟過程に対する化学物質の影響評価を導くことは難しい。
食品安全委員会の答え方も、厚労省から提出された科学的な情報に基づいて、
-
一定量以上で影響はある
- 影響はない
-
データが十分ではないので分からない
と言う回答があり得る。今回のケースがどれに当たるかは、この先数ヶ月の審議にかかっている。
また、厚生労働省のリスク管理は、評価結果に基づくものではあるけれども、規制の影響の範囲に応じてさじ加減を工夫するのが通例。 今回のケースで考えれば、ビスフェノールAの適当な代替物質がないのであれば、 禁止すると缶詰のコーティング剤がより品質の悪いものに代替されてしまうリスクもあるので、妊婦は缶詰ばかり常食しないように、 と妊婦さんに呼びかける方が妥当だろう。
# 妊婦が缶詰ばかり食べていると栄養のバランスが悪くなって、 そちらの方がビスフェノールAよりも遙かに問題が多いような気がするのだが。
哺乳瓶からの溶出については、おそらくこれからの評価待ちだが、禁止するほどのものかどうかは判断材料がないので何とも言えない。
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