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2008/05/22

クロロピクリン(あるいはクロルピクリン)

熊本の赤十字病院にて。朝日新聞より。

嘔吐物ガス 防毒マスクなしで治療、薬物特定は2時間後

2008年05月22日15時02分

 熊本市の熊本赤十字病院で、救急患者が吐いた農薬の成分で54人が異状を訴えた。原因とみられるクロロピクリンは、 畑で使う際にも土で覆うなどの注意が必要な農薬という。断片的な情報で病院側も薬物が特定できず、防毒マスクなどを着けずに治療に臨み、 被害が広がった。

 「農薬を飲んだ患者を収容してほしい。自殺目的のようです」。21日午後10時30分ごろ、菊池広域連合西消防署から、 熊本赤十字病院へ連絡が入った。

 現場の合志市内から同病院まで約20分。救急車内では男性の服を脱がせて体を水で洗い、 水を飲ませて薬物の一部を吐かせるなどの処置をしたという。だが当初、薬物が特定できず、医師・ 看護師は防毒マスクなどは着けていなかったという。

 午後10時50分ごろ、救急車が病院に到着。救命救急センターに横付けされ、男性は担架ごと同センター内の処置室に運ばれた。 意識はあったが言葉は話せない状態だった。

 体内から薬物を取り除くため、鼻からチューブを挿入し、胃の内容物を一部吸引した後、男性は突然吐き、意識を失った。 強い塩素系の刺激臭が周囲に広がり、医師らも「目が痛い」「息が苦しい」と訴えた。当時、センターには外来患者や付き添い十数人、医師、 看護師ら約30人がいたが、異臭は一気に広がり、待合室にいた患者らも次々と不調を訴えた。

 ■毒性高いクロロピクリン

 クロロピクリンは常温で気化するため、国内で確認されている中毒事故の大半はガス吸入が原因だ。 空気よりも重いために拡散せずに滞留しやすく、今回のように集団発症する事例も多いという。

 業界団体クロルピクリン工業会(東京)によると、強い刺激臭のため顔を近づけただけで咳(せ) き込んだり目の痛みを感じたりする物質。吸い込んだだけで死に至る可能性もあるほど毒性が強い。

 一方で農作業で比較的よく使われる殺虫剤のため、誤吸入する例は後を絶たない。工業会は全国の医療施設に「ガスが漏れた場合は、 すぐに換気を」と呼びかけている。

 しかし、「病院の救命救急センターの多くは窓がなく、換気はできない」と、 熊本赤十字病院での勤務歴を持つ横須賀市立うわまち病院の本多英喜・救急総合診療部長は指摘する。レントゲン機を使うことがあるため、 すべての壁をコンクリートにする必要があるからという。

 「救急の現場では、搬送前に十分な情報を得ることは難しく、今回のようなケースが再発することは十分に考えられる。それ以前に、 強い毒性がありながら農村部では土壌や倉庫の燻蒸(くんじょう)に広く使われる農薬なのだから、 使用者に危険性を周知することが必要ではないか」と話している。

かつて私が住んでいたあたりで起きた痛ましい事故です。

さて、この記事のおかしな点。

  1. 「畑で使う際にも土で覆うなどの注意が必要」とあるが、クロロピクリンで土壌消毒をする際に土壌表面をマルチ資材等で覆うのは、 安全のためだけではない。消毒剤の大気中への放出を押さえて、少ない薬剤で効果を発揮させる事にある。
  2. 見出し「薬物特定は2時間後」とあるが、胃洗浄開始直後の吐瀉物による被害を避ける為には、 換気の良い場所で処置を行うほか無い。となると、処置の前に薬物を特定できていなければならない。これは非常に難しい。 処置前に分からないのであれば、2時間後だろうが2週間後だろうが関係ない。事の本質とは関係ない見出しだ。
  3. 意図的な服用と、偶発的な吸入の区別が付いていない。自殺が疑われるケースと一般の吸引事故を同列に扱うと対策に失敗する。 (新聞社は対策には関係ないけどね)
  4. とんちんかんなコメント。「使用者に危険性を周知することが必要ではないか」とあるが、 危険性を承知していたので服毒自殺を図ったのでしょ?何を言ってるんだか。

他の記事にもすごいのがある。FNNのコメント。

「通常は毒物を飲んだら吐かせるというのが原則だが、クロルピクリンの安全使用上の注意には、 『誤って飲み込んだ場合には吐かせないようにしましょう』となっている。個室、独立した部屋で本当はやりたいんだけど、 医者さんはガスマスクが必要になる」

安全上の注意には確かにそうある。 応急処置で吐かせると今回のような事態になる。でも吐かせないと患者は死にます。病院での処置は換気や無毒化(できれば) しながら胃洗浄するほかないでしょう。引用の仕方が場違い。ちなみに、クロロピクリンのMSDSシートはこちら

液状のクロロピクリンの毒性よりも、 気体の方が毒性は強いらしい。毒性の作用部位が呼吸器と言うことでしょう。毒性の評価はこちら

馬鹿な模倣犯が出なければよいが。

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