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2008年4月の記事

2008年4月30日 (水)

抗がん剤の「副作用減に道」?

研究者や患者を馬鹿にした本日のダメ見出し。朝日新聞より。

抗がん剤原料の猛毒もつ植物、なぜ平気? 副作用減に道

2008年04月30日01時42分

 大腸がんや肺がんなどに使われる抗がん剤イリノテカンの原料になる猛毒カンプトテシンをもつ植物が、 自らは中毒を起こさない仕組みを千葉大学の斉藤和季教授(植物細胞分子生物学)らが突き止めた。この仕組みを応用すれば、 薬を大量生産したり、副作用を抑えたりする方法が開発できる可能性がある。今週の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表される。

 イリノテカンは、中国原産の落葉樹である喜樹(きじゅ) や南西諸島のクサミズキの葉からカンプトテシンを抽出、精製して製造している。これらの植物は、 動物に食べられないためや近くにほかの植物が生えないようにするためにカンプトテシンをつくるよう進化したと考えられる。

 薬の大量生産には酵母や大腸菌の遺伝子に原料の遺伝子を組み込んでつくらせる方法がある。しかし、 カンプトテシンができるとその毒で、酵母や大腸菌が死んでしまう。

 斉藤教授らは、カンプトテシンをつくるチャボイナモリという植物では、酵素の遺伝子に、 特殊な変異があることを見つけた。喜樹の酵素にも同じ変異があった。同じ変異を酵母の酵素に人為的に起こすと、 カンプトテシンがあっても酵母は増え続けた。そこで、この方法を応用すれば、イリノテカンを短期間に大量生産できる可能性があるという。 (鍛治信太郎)

紙媒体の新聞の方でもこの見出しでした。 「副作用を抑えたりする方法が開発できる可能性がある」というのは、明らかに言い過ぎです。

論文はこちら。

Mutations in topoisomerase I as a self-resistance mechanism coevolved with the production of the anticancer alkaloid camptothecin in plants
PNAS published April 28, 2008, 10.1073/pnas.0801038105 (Plant Biology) [Abstract] [PDF] [Supporting Information]

論文のタイトルからも明らかなように、抗腫瘍アルカロイド、 カンプトテンシンを産生する植物のトポイソメラーゼIには変異があって、それとアルカロイド産生とは共進化を遂げてきたのだ、 というのが論文の眼目です。論文の扱っている範囲は、植物の(遺伝子の)進化に限られており、 医療における応用についてはほとんど何も言っていません(考察の最後で、 抗がん剤に対する腫瘍の側の耐性の克服に役立つかも知れないとされていますが)。

もし仮に、副作用の際のカンプトテンシンの作用サイトが、 腫瘍以外の組織のトポイソメラーゼIであるとするならば、 植物と同じ機構でアルカロイドに対する耐性を付けて副作用を減らすにはどうしたらよいでしょうか?

それには、全身のトポイソメラーゼI遺伝子を変異型に変えるか、 ウイルスベクターなど何らかの方法で変異型トポイソメラーゼIを全身で発現させるほかありません。そんなことができるくらいなら、 がんの遺伝子治療ができてしまいます。抗がん剤の副作用を抑える方法としてはとても正気の沙汰ではありません。

オリジナルの論文なんか誰も読まないと思っていい加減な記事を書いてはいけません。 自分が理解できていないことを人に説明しようとしてはいけません。そんなことはできないんですから。

私が論文を読んで理解できる分野で、こんな誤った情報の垂れ流しがあると、 恐らく、それ以外の研究分野でも似たり寄ったりの事実の歪曲や誇大な報道があるのだろうと思ってしまいます。 朝日新聞には記者の科学技術リテラシーをもっと研鑽していただかないといけません。「伝えるスキル」は確かに重要ですが、伝える前に、 伝えるべき事実を自分が正しく理解しておくことはもっと重要です。それができないのであれば、 どのような事実も正確に伝えることはできないのですから。

私が比較的正確な記事だな、と思ったのはこちら。読売新聞。

植物から抽出効率的な生産期待

 千葉大薬学部(千葉市稲毛区)の斉藤和季教授を代表とする研究チームが、植物から抽出した抗がん物質「カンプトテシン」に関し、 その植物自体の細胞増殖には作用しないメカニズムを解明。併せて、 これらの植物では細胞増殖を促進する酵素のアミノ酸に変異部分があることを突き止めた。この研究論文は、 米科学アカデミー紀要の電子版に28日付(現地時間)で公開。より有効な抗がん剤の開発や、その効率的な生産が期待される。

がん治療のための抗がん物質は、アカネ科のチャボイナモリなどの植物から抽出されるカンプトテシンが広く使われている。 カンプトテシンは、細胞の増殖に深くかかわる酵素「DNAトポイソメラーゼ1」の働きを阻害することで、 がん細胞の増殖を抑える抗がん作用がある。

 同チームは、カンプトテシンを含む植物が、酵素の働きを阻害するにもかかわらず、自らは細胞分裂して成長する点に着目。 カンプトテシンを含む植物と、含まない植物の酵素を比較した結果、「含む植物」にはアミノ酸の変異があることが分かった。 すでに抗がん剤が効きにくくなったがん細胞内の酵素のアミノ酸には変異があることが分かっているが、「含む植物」 ではこれとは異なる場所にも変異が見つかった。検証実験を行った結果、いずれの場所の変異もカンプトテシンの効果を無効化していた。

 同チームの山崎真巳准教授は「将来的にがん細胞にさらなる耐性が備わった場合、酵素のアミノ酸には新たな変異ができるはず。 今回の研究により、その場所が推定できるようになった。また、 バイオテクノロジー技術を用いて成長の速い異種生物にカンプトテシンを作らせる場合、人工的に変異させることで、 効率的に生産することが可能になる」と話している。

2008年4月29日   読売新聞)

第1パラグラフで、論文の公開がいつかもちゃんと分かる。 科学的な事実の要約も1パラ目でほぼわかる。

残念なのは、 抗腫瘍剤として使用されているのはカンプトテシンの誘導体である塩酸イリノテカンの方。 従って2パラ目でカンプトテシンが広く使われているというのは誤解。

3パラ目、「同チームは、カンプトテシンを含む植物が、 酵素の働きを阻害するにもかかわらず、自らは細胞分裂して成長する点に着目。」と言う文は意味不明です。 変異型のトポイソメラーゼIは、カンプトテシンで阻害されないので、正しくは”同チームは、 カンプトテシンは通常は酵素の働きを阻害するにもかかわらず、これを含む植物では酵素の働きが阻害されない点に着目。”です。

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2008年4月28日 (月)

なんだかなぁ。

要約すると、go.jpなドメインから勤務時間中に2チャンネルなんか見てちゃいけません・・・というお話です。

 


 

私のblogは、アクセスログから見ても職場から見ている人が多い。しかも、プロバイダ越しにアクセスしている個人を除けば、大学、 研究所など理系の職場からのアクセスが大半だ。そのせいで、土日になるとアクセスが減る。動態を以下の図に示す。

グラフ

Figue 1. 曜日別アクセス集計。緑のバーは訪問者数。黄色はアクセス数。

オメガ・ブロガーなんで、アクセス数自体たいして多くない。しかし、今週日曜(24日)は特異日だったと考えられる。 具体的データはこんな具合。

グラフ2

Figure 2. 4/21-4/27の1週間のアクセス集計。 緑のバーは訪問者数。黄色はアクセス数。

訪問者数は平日並み。アクセス数が平日の2倍近くある。土日にアクセス数が減っているFigure 1.の傾向からは外れている (論文じゃないので検定は省略)。

この日は、普通の理系職業人の興味を引くような記事も書いてないので、なんでかなと思って、さらにアクセスログを見ると、 2チャンネルから飛んでくる人が多かった。

http://ime.nu/domon.air-nifty.com/dog_years_blues_/2008/04/post_6308.html  (リンク元はこれ)

このリンク元は、「2チャンネルからとばすけど良いか?」という確認の為のものなので元の記事はわからない。そこで、googleで、 "domon.air-nifty.com/dog_years_blues_/2008/04/post_6308.html"を検索すると、 とある産総研関係の掲示板に、このblogのURLと記事の引用が貼り付けられていた。

 


 

これで、blogのアクセスが増えるという一定の効果があるのはわかりますが、 2チャンネルにその書き込みをしたのは私ではありません。匿名でものを言う趣味はないので、これまで2チャンネルに書き込んだことはないし、 今後も書き込むことはないと思います。

日曜日のことなので、それ自体はどうでも良いのですが、今日(月曜日)のログはどうもいただけません。go.jpのサイトから、 同じ引用でこのblogに飛んできています。問題は、その時刻です。平日の日中、 2チャンネルを見るのはよしましょうや。このblog自体は、私が遺伝子組換え関連、 食品安全関連およびリスク報道関連の備忘録を主な使途として書いているものなので、分野によっては仕事上有益な情報も(多少は) あろうかと思います(ま、多分に趣味も入ってますが)。

ですが、リンク元が2チャンネルとなると、どう見ても仕事中に2チャンネルを見てるように思えるのですよ。

というか、 勤務時間中に2チャンネル見てるでしょ!

ま、業務なら仕方ありませんが。

・・・どんな業務ですか。

繰り返しますが、それ、よしましょうや。(特に150で始まるIPアドレスのパソコンの前に座っている、そこのあなた!)

 

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2008年4月25日 (金)

米国、遺伝子差別禁止法成立へ

朝日新聞より。

遺伝子診断で保険差別ならぬ 米で禁止法案、成立へ

2008年04月25日10時06分

 【ワシントン=勝田敏彦】米上院は24日、 保険会社が遺伝子診断の結果によって保険加入を断ったり保険料を変更したりすることや、雇用者による就職差別などを禁止する 「遺伝情報差別禁止法案」を95対0の多数で可決した。同法案は、来週にも下院でも可決され、ブッシュ大統領が署名して成立する見通し。

 米国では、将来、がんなどの重い病気になる可能性を知るため、 個人のDNAを採取して塩基配列を調べる遺伝子診断が急速に普及している。同法案は、診断結果が自分に不利な形で使われることを恐れ、 受診をためらう人もいることを背景に提案された。

今のところ、効力は限定的かもしれないが、 理念において非常に優れた法律である。

リスク分散型の自動車保険というものがある。車種、 クラスによって事故率や盗難被害のリスクが異なるため、それに応じて掛け金を変動させるというものだ。もし、 遺伝的に発病リスクが異なるのであれば、生命保険会社や医療保険を扱う会社は、リスク分散型の保険を設定したがるかもしれない。 発病リスクの高い人の掛け金は高く、発病リスクの低い人の掛け金は安く、という具合に。

向こう10年くらいで、個人の全ゲノムの解析が、 個人の手の届く範囲でできるようになる可能性が高い。20-30年先なら、産婦人科のオプションで10万円で 「生まれたお子様のゲノム情報を解析します」と言う時代になっているかもしれない。ゲノム情報は一生涯変わらない(大抵の組織では) と考えられるので、まさに一生ものの財産になるだろうから。

・・・という展望で考えると、 今の内にゲノム情報による差別禁止を決めておくのは妥当な政治判断だ。

 

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2008年4月24日 (木)

新型インフルエンザ、プレパンデミックワクチン出そろう

日本経済新聞より。

 

化血研、新型インフル用ワクチンの製造販売承認を申請  

 
   

 ワクチン製造の財団法人・化学及血清療法研究所(化血研、熊本市)は24日、     新型インフルエンザの大流行に備えて政府が備蓄を進めている事前接種用の「プレパンデミック・ワクチン」の製造・     販売の承認を厚生労働省に申請したと発表した。申請は北里研究所とデンカ生研、阪大微生物病研究会に続いて4 件目。

   

 化血研が承認申請したプレパンデミック・ワクチンは、病原性の強い「H5N1型」     と呼ばれる鳥インフルエンザのウイルスをもとにつくった。新型インフルエンザの発生に備えて政府はすでに2000万人分を備蓄し、     さらに増やす方向で検討している。 (20:11)

 

これで国内の主要なインフルエンザ・ワクチンメーカーの製品が揃って申請された事になる。

そうこうしているうちに、穀物の国際価格が上がり、ニワトリの飼料が値上がりし、 原油価格高騰で冬場の暖房費も上がり、その結果、有精卵の価格も上がり・・・結局ワクチンの原材料も高騰をどう吸収するのか。 結構、頭の痛いところ。農家がニワトリの頭数を維持できなくなってはワクチン製造にも影響が出るので、 きちんと支援して数を維持してもらう必要もある。

こういう特殊事情で製造する医薬品も、 承認申請して認可されてからでなければ製品版のロットを製造してはいけないのだろうか。工場の製造能力からして、 プレパンデミックワクチンは通常のインフルエンザワクチンの繁忙期には作れない性質のものなので、認可が下りてからあとは、 時間との戦いになるだろう。

順調に製造しても6ヶ月位かかるのであれば、ワクチン原液はそろそろ準備を始めないと。 4月ももう下旬だ。

 

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2008年4月23日 (水)

明治製菓GF2の自主回収に関して

ひさしぶりに緑平和のホームページを見てみたら、 消費者団体と一緒になって明治製菓に嫌がらせをしている事が判明。

明治製菓は優れた技術力をお持ちです。GF2は、 血糖値が急変すると困る方には画期的な製品です。これからも良い製品をとどけて下さい。

緑平和は商取引の相手を明かせと事業者に圧力をかけている。明治製菓の皆様にはこのような圧力に屈せず頑張っていただきたい。 本気で圧力をかける気なら弁護士を立てる所でしょうが、その気はないようなので、例によってマスコミ向けのパフォーマンスでしょう。しかし、 今回は取り上げている新聞社も無い様なのですっかり飽きられてしまったようです。


事実関係は、明治製菓が自主開発した”GF2”という甘味料(果糖からなる3糖)を使用した製品について、製造工程で使用した酵素 (黒麹菌由来インベルターゼ)が食品衛生法上必要な申請をしていなかったことから、製造した製品について自主回収を行ったと言うことだ。

プレスリリースにはあまり詳しいことが書かれていないので、 かえってワケの分からない空想を膨らます人もいるようだ。

プレスリリースのポイントは

  1. 黒麹菌由来の酵素自体の使用にあたっては、食品衛生法に則った申請が必要。
  2. 自主回収である(回収命令など行政指導はされていない)。
  3. 製品の流通自体が食品衛生法違反に当たるかどうかは誰も判断していない。
  4. 製品そのものには、食品衛生法の審査を必要とする酵素は含まれていない。
  5. 従って、製品による健康被害は想定されない。

である。

食品加工における酵素の使用にあたって、食品衛生法の規定する申請が必要なケースといえば、 酵素が遺伝子組換え技術によって改変されたものである可能性が高い。食品安全委員会で審査した実績はこちら。 酵素など食品添加物の場合の審査基準はこちらこの評価基準自体によると、明治製菓のプレスリリースでは触れられていないが、 もしイベルターゼが遺伝子組換えによる食品添加物となると、甘味料としてのGF2そのものが 「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物」に該当する様な気もする)。

なお、遺伝子組換え技術を使用した酵素であっても、安全性評価基準で安全性を推し量るべきではない場合もある。それは、 「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物の安全性評価基準」の第1章第3でいう

「原則として、「組換えDNA技術によって最終的に宿主に導入されたDNAが、 当該微生物と分類学上の同一の種に属する微生物のDNAのみである場合」、又は 「組換え体と同等の遺伝子構成を持つ生細胞が自然界に存在する場合」に該当する微生物を利用して製造されたものは含めないものとする。」

という規程だ。これによれば、事業者が安全性評価を厚生労働省に申請し、 厚生労働省が食品安全委員会に審査を求めても、結果としては「評価対象ではない」と判断され、リスク評価不要、つまり 「食品安全委員会としては評価基準に則った評価はしない」ということになる。実例はこちら


(以下想像) 今回のインベルターゼの一件も、 遺伝子組換え技術で点突然変異変異を導入した黒麹菌のインベルターゼを、 元の黒麹菌に相同組換えでスポンと入れたものだと想像する(想像終わり)。であれば、評価を申請しても、 結果としては「評価対象ではない」と言われる可能性が限りなく高い。だが、その判断をするのは事業者ではない。

今回の明治製菓のプレスリリースにも、そのあたりの事情がにじみ出ている様に思う。こう書いてある。

「GF2を製造するにあたって使用する酵素の申請が、 食品衛生法で義務づけられていたにも関わらず、その手続きをしていなかったため。」

類似のケースで、いわゆる遺伝子組換え作物の場合には、食品安全委員会での評価結果で問題なければ、 それをうけて、所管官庁が流通を解禁するので、その手続きを経ていないものが流通した場合は直ちに食品衛生法違反となり、 安全性の評価されていない未承認の遺伝子組換え作物として扱われる。

しかし、今回のケースでは申請しても「評価しない」と言われる公算が高い。だが、 手続き上は申請して専門家の判断を仰がなくてはならないことになっている。従って、現時点での事業者の瑕疵と明確に言えるのは、 「申請手続きを取っていなかった」ということに限定される、と明治製菓では考えたのかも知れない。

なぜ、自主回収に踏み切ったのかは分からないが、もし自主回収しなかったとしても、 安全上のリスクが懸念されない場合には、官庁の側が回収命令を出せるかどうかは微妙なところだ。やたらと回収命令を出すと、 法律の拡大解釈だと言われる。

(以下想像) ともあれ、 今回のケースでは製品に添加するGF2の製造に使用するインベルターゼの調製のために、黒麹菌の大量培養が必要だったはずだ。 であるとすると、とりあえず遺伝子組換え生物の産業利用にあたるかどうか、経済産業省に照会があったかも知れない。しかし、 核酸供与体と宿主が同一の生物で、相同組換えで遺伝子を改変する技術によって最終的にベクターも残らない場合には、 カルタヘナ法の規制対象外になる。いわゆる、セルフクローニングだ。

明治製菓では、製造プロセスベースではカルタヘナ法上の遺伝子組換え生物には該当しないので、 食品添加物としても遺伝子組換え技術を使用したことにはならない、と判断したのかも知れない。 (想像終わり)

おもわぬ落とし穴にはまりこんだような災難だが、まずは専門家の判断を仰ぐという行政手続きがある以上、 それをスキップすることはできないということだ(判断の結果はともかくも)。この問題、 他の食品メーカーにも波及する可能性があるように思う。

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# 明治製菓から”ナチュラルオカレンス”と言うキーワードでこのブログを訪ねる方が、 先月来いらっしゃいましたが、そういうことだったのでしょうか。

 

2008年4月22日 (火)

環境中でのLMO繁殖は確認されず。

神戸大の遺伝子組換え微生物の不法廃棄の一件の続報。毎日新聞より。  

神戸大・遺伝子操作菌廃棄:サンプル検査で、   菌は検出されず /兵庫

 神戸大大学院医学研究科の久野高義教授の研究室で、遺伝子を組み換えた大腸菌が未処理のまま廃棄されたとされる問題で、久野教授の研究室周辺の下水をサンプル検査した結果、遺伝子を組み換えた菌は検出されなかったことが17日、分かった。 文部科学省にも既に結果が報告されているという。

 関係者によると、神戸大の「遺伝子組換え実験安全委員会」が11日に下水を採取して、検査を進めていた。同委員会は、採取した下水をさらに詳しく分析する方針。

 ただ、下水採取時に遺伝子を組み換えた大腸菌が既に同大学の敷地外に流れている可能性もあるため、同省は大学に外部への影響の確認を迅速に行うように強く求めた。【吉川雄策】

まず、どうやって調べたのだろうか。旧指針の頃は「標準的生存能力実験法」というのが例示されていて、培養期間は7日間だった。環境水のサンプル、それも下水のサンプルを7日も培養すると、おそらくプレートがカビだらけで見るもおぞましい有様になることだろう。

研究室の流しのトラップはどうだったのだろう。 組換え大腸菌が必ず選択的に生えてくるポジティブコントロール無しの試験だと、試験の検出力そのものに疑問を持たれる。 標準的な調査方法が無いので難しい仕事だが、方法論的な瑕疵を指摘されないようにきちんと調べてほしい。

続いて、内部告発関係。神戸新聞。

告発情報5カ月間放置 神戸大大学院大腸菌違法廃棄

 神戸大大学院医学研究科の久野高義教授の研究室が、遺伝子を組み換えた大腸菌などを違法に廃棄したとされる問題で、複数の学内関係者あてに昨年十月、違法行為を告発する匿名の電子メールが送られていたことが二十一日、分かった。 文部科学省から連絡を受け、大学が調査に乗り出した今年三月までの五カ月間、情報が事実上放置されていた格好で、大学の対応の遅れに批判が出そうだ。

 関係者によると、メールは医学部の教授ら複数の関係者に届いた。実験に使った大腸菌をそのまま排水口に流すなどずさんな処理実態を指摘する内容で、久野教授の指導に対する批判も書かれていたという。

 神戸大は遺伝子組み換え実験に絡む大腸菌違法廃棄などの問題について、今月四日の会見で「三月十七日に文科省から『実験で適正な処理が行われていない』という匿名の通報があったと連絡があり、内部調査を始めた」と説明。しかし、その五カ月前に告発メールが届いていたことが明らかになり、文科省からの連絡以前に、問題に気づいていた可能性も考えられる。

 元研究生の一人は「十月の段階で調査していれば、違法行為をもっと早く見つけられたはず。外部に被害が及んだ場合、大学の責任も問われかねない」と憤っている。

 神戸大は現在、学内の「遺伝子組換え実験安全委員会」が、関係者への聞き取りや研究室周辺の下水調査などを進めている。一連の問題については「結果がまとまり次第公表する」とコメント、取材には応じていない。

(4/22 08:36)

記事には、「複数の学内関係者あてに昨年十月、 違法行為を告発する匿名の電子メールが送られていたことが二十一日、分かった。」とあるが、この 「分かった」と言う表現は、新聞社の「記者に分かった」 と言う意味だ。であるとすると、記者は21日までに、誰かから「複数の学内関係者あてに昨年十月、 違法行為を告発する匿名の電子メールが送られていたこと」を知り、その裏付けが「関係者」から取れたのが21日ということだろうか (記事の裏付けを取ったとして、の話だが)。

それにしても、うーん、どうして匿名で通報したのかな。もし通報したのが教授の部下であれば、その後も、 上司と上手く折り合いが付けて、同じテーマで研究が続けられるという期待をしていたのだろうか?通報後の事態を考えると、 当分の間研究は止まるし、上司のファンドも終わるかも知れない。PDであれば、その間のキャリアは無駄になる。 それを覚悟しないで通報したとは考えにくい。

この、「元研究生」と通報者の関係もよく分からない。「憤っている」と言うからには、 違法行為に荷担してはいないのだろうが、どこの研究室の「元研究生」なのか。また、何をきっかけに「元研究生」になったのか。新聞社はなぜ、 この「元研究生」にコメントを求めたのか。この事案と無関係に大学を辞めたのであれば、この記事にコメントを載せることに意味はない。

もっとも公益通報者保護法というのはあるものの、単年度契約のPDの場合、 難癖付けられて再契約しないとも限らないし、研究室のスタッフの場合でも、事実上は上司と上手くつきあっていくのは大変難しくなるだろう。 大学や独法の研究室は中小企業並みのスケールで役割分担しているので、大企業の労働者のように配置換えするというわけにもいかないのだ。

となると、覚悟の告発だろうか。だとしたら、なぜ匿名?実名だと再就職に不利だからか? そのあたりの事情がよく分からない。しかし、匿名の告発だと、告発の事実を確認しにくいことがままある。 誹謗中傷のデマと見分けが付きにくいのだから。

もし私が匿名の内部告発メールをもらったらどうするか?基本的に、全実験スペースを主任者が定期点検しているので、ずさんな組換え体の管理がみつかれば指導・警告の対象になる。しかし、今回の事案のようにオートクレーブはあるが使っていない、という場合は確認は非常に難しい。点検で確認できるのは、その時点での施設、実験計画、法定の拡散防止措置の整合性、職員への聞き取りによる実験の状態くらいなので、確信犯的に不法行為を働かれた場合には、とりあえず以下の手順でチェックすることになるのだろう。

  • まず、その研究室の業績と実験計画を比較、研究所に届け出られている計画と研究のアウトプットに齟齬がないかを確認。      
  • ラボの関係者にそれとなく状況をきいていておく。    
  • 安全委員会に状況報告。      
  • 朝晩の抜き打ち点検。現状維持を伝える。      
  • 併せて、責任者、職員、パートさんに質問。      

仮に告発の事実がなかった場合、告発の内容とそれに対する調査結果を併せて安全委員会から公表。と言う段取りだろうか。 事実があった場合は、調査結果を安全委員会を通じて理事長に報告、事後の対応を仰ぐ、というところだろうか。

大学の場合、学部長など管理者にはあまり権限がないことも多いようなので、教授が実質的に全権を握ることになる。そうなると、 コントロールが効きにくいのは想像に難くない。コンプライアンスを徹底させるのはなかなか難しそうだ。

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2008年4月21日 (月)

研究費の不正支出ですか

ご近所の独法で研究費の不正支出に関して大量処分。

産業技術総合研究所:3489万円不正支出… 17人を処分

 経済産業省所管の独立行政法人「産業技術総合研究所」(産総研)は18日、茨城県つくば市の「つくばセンター」 の研究員19人が01~07年度の7年間に内規で定められた手続きを経ず、研究費3489万円を支出していたと発表した。 このうち男性職員1人が同日、センター内で死亡しているのが見つかった。つくば中央署は自殺とみている。 産総研は18人のうち17人を同日付で出勤停止1カ月などの処分にした。残り1人は既に退職したという。

 使われたのはナノテクノロジー研究部門など7部門に交付された内部の運営費と経産省などの研究委託費。 USBメモリーなどのコンピューター用品や実験器具を内規で定められた発注手続きをとらずに業者に納入させたり、 発注品と異なる物品を業者に納入させたりしていた。

 昨年12月、関係者の告発を受け、調査を始めた。25人から聞き取り、19人が認めた。【原田啓之】

毎日新聞 2008年4月19日 1時16分(最終更新 4月19日 12時29分)

産総研のプレスリリースはこちら

処分されるのは不名誉ですが、死んでしまってはおしまいです。ご家族もあるでしょうに。 不名誉でも生きているべきです。まだやり直せるのですから。

こういう事があると、同じような研究独法では予算執行が適正かどうか監査が厳しくなります。 その結果予算執行が滞ると、それが反って不適切な執行の原因になりかねないのですが。

これだけの大量処分があるからには、背後にそれなりの理由があるはずです。プレスリリースにある通り、 使い道が不適切と言うことではなく支出の際の手続きに不備があったというのであれば、何らかの構造的な問題も疑われます。例えば、

  • 委託元の予算編成がずれ込んで、委託研究費の配分決定が9月→しかし1月中には報告書を求められる。 無理は承知でなんとかせねば。→予算が来る前に、機械や備品を正規の手続きを踏まずに調達(←不正です)・・・とか。
  • 内規で定められた発注手続きをとると、必要なスペックの製品を買うためには仕様書を異様に細かく書かなくてはいけない。 →めんどくさいので業者に声をかけて直接調達(←不正です)。←支払いが滞って、 払わないと告発するぞと業者に脅され←告発されるくらいなら自分でゲロしちゃえと、内部告発風の自爆。

こんな感じでしょうか。

再発防止策として「調達請求者と検収者を分離し、調達請求者以外の者が検収を行う」とあります。これは、 結構大変なことです。研究用の物品や試薬は、内容の理解しにくい特殊なものも少なくありませんので、検収者は、 調達が適正に行われたかどうかを判断するために、調達物品やサービスに関する正確な知識が求められます。

これを実現するには、検収にあたる事務職員の能力を向上させる (といっても産総研の研究分野は異様に幅広いのでどうやって能力向上を図るかが問題)、あるいは、 発注者と研究分野の近い研究職員に発注内容と納入物品等の整合性をチェックさせる(立会を求められたらそりゃぁ面倒です) といったところでしょうか。でも、誰に頼めば専門分野が近いのか見当を付けるのも一苦労でしょう。

検収係になると、たとえば、伝票に”Tween20 25g”と書いてあって、納品されたのが” ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート 25g”だった場合、同じものかどうか判断できないといけない。また、制限酵素では” Hinf II”と”Hind III”が同じかどうか判断できないといけないし、あるいは、 わざわざFermentasのFastDigest制限酵素(5分で切れる!)を頼んだのにTOYOBOのを持ってこられてしまうと、 どう不都合なのか説明できないといけません。仕様をきっちり書けば済む話ではありますが。

私なんざ、よく使われるダイクロイックフィルタのバンドパスは見れば判別できますが、 いきなりホロカソードランプの型番と現物を見せられて、これ分かりますかっていわれても、自慢じゃないがちっとも区別が付きません。 ちょっと分野が違うと、もう何が何だかさっぱりですもん。

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2008年4月18日 (金)

新型インフルエンザ対策

日本では通常のインフルエンザの流行期をほぼ過ぎた。

一方、亜熱帯-熱帯アジアではこれから夏場がインフルエンザの流行期に入る。インフルエンザウイルスは乾燥に対しては耐性が強いため、 野外での寿命が長くなる乾燥した時期が流行期になるのだろう。

18日付のScienceには世界各地で単離されたA型インフルエンザウイルス(H3N2型)の分化から起源地を特定 (推定と言うべきか)した論文が掲載された(論文ニュース) 。現在まで行われてきたインフルエンザの流行予測に関して科学的な補強材料を与える研究と言えるだろう。

この論文の価値は、新聞で言われているように、これまで言われてきた起源地が分かったと言うことだけではない。その他に、 伝播経路が明らかになったことと、伝播中に蓄積する突然変異のパターンが網羅的に明らかにされたという重要な点にもある。

ちょっとぞっとするのは、東-東南アジアでのインフルエンザウイルス流行の起源から、 南米に見られるもっとも遅い流行までの期間が6-9ヶ月と短いことだ。これは日本での標準的なインフルエンザワクチンの製造に要する期間 (6ヶ月)ととんとん。南米で6-9ヶ月ということは、日本ではもっと早く流行が始まるので東- 東南アジアでの流行前にウイルス株の予測をしてワクチン製造することが求められるということだ。それができないのなら、 培養細胞で短期間でワクチン製造をする技術が必要になるだろう。

また、起源地から離れるほど、同時に時間が経過するほどに抗原型が分化していくことが示されている。つまり、 流行起源地に近い程ウイルスの抗原型が変異していないので、起源地に近い地域では、起源地で単離したウイルス株由来 (あるいは変異を入れて弱毒化したりすることもあると聞く)のワクチンが効く可能性が高いということだ。逆を言えば、 起源地から遠い地域では、 できるだけ近くで流行したウイルス株からワクチンを作らなければウイルスの変異に追いつけないために効かないかも知れないということでもある。

起源地に近い日本では、もし、東-東南アジアで流行し始めたウイルス株を早急に捕まえて、 迅速にワクチンが作れれば流行を防ぐことができるかも知れない。

一方、ワクチンについては抗体価がが上がりにくい集団(つまり、ワクチンが予防効果を発揮しにくい集団)が居る。乳幼児と高齢者だ。 高齢化が進む日本では、免疫機能の働きの弱い高齢者が多くなるため、ワクチンが感染予防に対して効果を持ちにくくなっていくはずだ。 感染予防をワクチンだけに頼る施策を続けると危ないかも知れない。

タミフルやザナビルなど、ウイルス側の構造をターゲットにした医薬品の場合は、耐性ウイルスが出てくることは明らかで、 いつまでも有効とは限らない。これも、ワクチンの代用にはなりにくい。

他の方法も必要だ。長期的には徳島大学の木戸先生達の研究のように、 ヒトの体の感染を成立させている機構をターゲットにした医薬品が必要かも知れない。・・・とはいえ、 気道の分泌型プロテアーゼを阻害するとウイルスの活性化はブロックできるかも知れないが、 細菌感染が起こるのではないかと若干心配ではあります。その時は、抗生物質を同時に投与しておくと良いのかも知れませんが。

 


 

今日のツッコミどころ。読売新聞の社説

 これに加え、「新型」は、鶏の有精卵を使う今の製造法がうまく適用できるか定かではない。 鳥インフルエンザのように、鶏が大量死するタイプなら、製造に使う卵が先に傷んでしまう。大量生産に用いることができるだろうか。

鶏が大量死するタイプの強毒型ウイルスをそのままワクチン製造に使うことを想像しているのですね。 この筆者は想像力が足りません。そういう場合は、遺伝子組換えや人為突然変異で増殖能を抑えた変異株を作って卵が傷まないようにするんです (若干時間がかかるのが難点ですが)。実際、WHOの配布しているモックアップワクチン用の株は弱毒化してあります。

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2008年4月16日 (水)

「植物の尊厳」を認める答申!?

以下のニュースで、「生の尊厳」と言う言葉にどのような意味を込めているのかよく分からないので、 コメントが難しいのだが、今日目にしたビックリニュース。

 
    植物の尊厳を認める報告書、スイスで
  • 2008年04月15日 10:24 発信地:ジュネーブ/スイス

【AFP】「植物にも尊厳があり、みだりに花を摘むことは非倫理的行為である」とするスイスの専門家らによる報告書が14日、   発表された。
 
   この報告書は連邦政府機関「Federal   Ethics Committee on Non-Human Gene Technology   (ヒト以外の種の遺伝子工学に関する連邦倫理委員会)、ECNH」    がまとめた『植物界における生の尊厳(the dignity of the creature in the plant   world)』で、理由なく花を摘むのは「斬首」に等しいと論じている。
 
   一方で、同委員会メンバーのBernard   Baertsche氏は記者会見の席で、日常の楽しみの一環として道ばたの花を摘むことは許容範囲と述べ、「植物の尊厳」   についてはケースバイケースであるとの寛容性も見せた。
 
   同様に、「植物に対する行為が人類の存続を目的としている場合は倫理的行為の範囲内である」と認めた。また、遺伝子工学についても   「植物の自主性(繁殖能力や適応能力)」を脅かすものではないとして許容している。
 
   今のところ、「植物の尊厳」に抗議の意を示している団体はごく少数で、   スイス国民の大多数は報告書内容は彼らの倫理的価値観を侵害しないと受け止めている。(c)AFP

「植物の自主性」・・・って?えっ!?という感じです。

このような報告書を政府機関が纏めるということ自体が驚きです。 どのような分野の専門家を集めて議論すればよいのか見当も付きません。

植物に始まり、果ては昆虫の尊厳(人類の存続に関係のない理由で蚊をみだりに叩き潰してはいけない)とか、 細菌の尊厳(人類の存続に関係のない理由でみだりに除菌してはならない)とか言い出しはしないかと、ちょっとハラハラします。”尊厳” を云々するのは、せめて哺乳動物くらいにしてほしいものです。

なお、我が国においては、動物の生存権、Animal rightsを保障する一連の有名な法律を世界に先駆けて作った実績があります。Wikipediaによれば、今を去ること321年前、 1687年のこと。通称、”生類憐れみの令”って総称されてますけどね(1709年には廃止)。

むやみに動植物を痛めつけたり殺したりするのは、私も反対です。しかし、 業務上の合理的な理由で植物を痛めつけたり(作物の収穫、調理、遺伝子組換えなど)、家畜や実験動物、 あるいは野生動物を殺さなくてはならないのは、もう仕方がないのです。

職業人である以上、それらの行為を強制的に止めるのは、職業人としてのヒトに対する生存権の侵害です。(Sea shepherdにもヒトの生存権に思いをいたしてほしいものです。)

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2008年4月15日 (火)

遺伝子組換え実験の掟

大学、国公立の研究所、企業で行われてきた遺伝子組換え実験については、実験者や法人が守るべきルールがある。

平成16年2月19日以降は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」 (通称、カルタヘナ法あるいは”かるた”と略す人もいる)。違反者には行政指導や、刑事罰が適用される。

それ以前は、実験の実施主体によって所管官庁が異なるものの、大学、研究機関では「組換えDNA実験指針 (平成十四年文部科学省告示第五号)」(旧指針)の遵守が求められてきた。こちらは指針なので、基本的に罰則はない。(が、違反があれば、 やんわりと科研費返納等を促したことはあるらしい。)

遺伝子組換え実験の規制の歴史に興味がある方は、この組換えDNA実験指針のWeb魚拓でも取っておいた方が良いかも知れない(ま、 居なさそうなので自分で取っておきました) 。廃止された規則がまだ役所のホームページにあると、そのルールが生きているのと勘違いする人がでてくるので、削除する予定となっている(・ ・・って3年以上も放ってあるのですが)。

旧指針の解説資料については、 これはこれで結構味わい深いことが書いてある。

     
  • 遺伝子組換え実験指針の歴史
    • 旧文部省、旧科技庁の取り組み(昭和51年?平成13年)   
    • 省庁統合による文部科学省統一指針の誕生(平成14年?平成16年)
    •    

遺伝子組換え実験をしたことがない市民や、平成17年度以降に初めて遺伝子組換え実験を始めた人にはなじみがないのだが、 日本では昭和54年(1979年)にアメリカで1975年に開かれたアシロマ会議の議論を受けて、 初めて大学の遺伝子組換え実験に関する指針が設けられている。以来、平成16年(2004年) の廃止までの25年間に実に20回の改訂が行われている。

現在、遺伝子組換え実験の規制をしているカルタヘナ法の下部規則である「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令 (平成16年 文部科学省・ 環境省令第1号) 」(通称、二種省令)には、この旧指針の考え方が色濃く残されており、 基本的なルールは激変的には変わっていない。それまでの指針自体が合理的なものであったことと、 現場の混乱を避けるための配慮とがあったのだろう(それでも結構、混乱していましたし、 私はその渦中でもがいておりました)。

このあたりの「昔語り」をどなたかにしてほしいものだ。例えば、

     
  • ”昔はなぁ、ヒトや霊長類のゲノムDNAをクローニングすると言うだけでP3レベルが要求されたものだった”
  •  
  • ”あの頃は、窓の開く温室で組換え植物を栽培する実験は、開放系と言うて、ぜえんぶ大臣確認実験だった”     (私も申請書を書いたことがあります)
  •  
  • ”そうそう、そういえば自律増殖性の組換えウイルスを作る実験も、あの頃は大臣確認だった”     (今でも大臣確認ですって。)
  •  
  • ”機関承認実験と機関届出実験という区別まで指針の中に事細かに書かれていたものだ”

なんて具合に。リスク評価の集積が進んだことで、20年前から見ると大幅に規制緩和されている様子が分かることだろう。

このところ新聞沙汰になっている神戸大学大学院の事案については、様々なblogや果ては2chでも色々と喧伝されている。やれ、 「役人が現場の状況も知らないで勝手なルールを作るからいけない」だとか。・・・しかし、 滅菌していない組換え大腸菌を流しに捨ててはいけないというのは、 20年以上も前の組換えDNA実験指針が運用されていた頃からどこの現場でも通用しているルールだ。プロなら知らないはずはない。

無原則に様々な組換え微生物を普通に流しに捨てる状況の方が、現状より良いと考える人はおそらく居ないのだろうから、 何らかの行動基準は必要なのだ。要は廃棄の前に”不活化”できていれば良いのだから、オートクレーブが面倒だったら、 流す前に塩素系漂白剤を入れて一晩放置とか、他にも方法はあっただろうに。それさえもやらなかったのであれば極めて残念なことだ。

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2008年4月14日 (月)

組換え実験中止ですか

神戸大学が全学で遺伝子組換え実験を中止しているらしい。朝日新聞より。

 

神戸大、遺伝子組み換え実験を全学で停止

 

2008年04月12日

 
   

 神戸大大学院医学研究科(神戸市中央区)の久野(くの)高義教授(57)の研究室(分子薬理・薬理ゲノム学)が、     遺伝子組み換え実験に使った大腸菌などを未処理のまま廃棄していた問題を受け、同大学は学内すべての研究室などに対し、     遺伝子組み換え実験の停止を命じた。あわせて、実験に携わった研究者と学生らに廃棄方法などを尋ねるアンケートを配った。

   

 同大学によると、電子メールで11日、理学、農学、工学などの研究科と付属病院など12部門に通知した。     医学部では問題発覚直後から実験を自粛していたが、学内調査で久野教授と研究生らの証言に食い違いが出ていることなどから、     実態が解明されるまで全学レベルで実験を停止させることにした。     すでに遺伝子を組み換えたマウスなどの実験動物の飼育は認めるという。

   

 アンケートは遺伝子組み換え実験の期間や内容、廃棄方法など4項目を問うもので、署名と押印を求めている。     回答期限は16日午前10時。また同大学は11日夜、医学研究科棟周辺のマンホールを開けて下水を採取し、     久野教授の研究室の流しから廃棄された遺伝子組み換え大腸菌などが残留していないか調べている。

 

新年度早々、事件と直接関係のない部署にとっては大変な迷惑である。中には科研費が通ったという通知をもらって、 さぁやるぞ、と張り切ったところで腰砕けになってしまった方も居るに違いない。一部の不届きもののせいで迷惑を被るのでは、 全くもって気の毒としか言いようがない。

しかし、「遺伝子組み換え実験の期間や内容、廃棄方法など」の調査って言ってもね・・・ 全学で行われている遺伝子組換え実験の種類は、事務方の想像を超えるものだろう。私の居る独法でも、課題数だけでも数百の実験が、 東京ドームの数倍のフロア面積の実験スペースで実施されいる。総合大学ともなると、もしかすると、もっと大規模かもしれない。 調査が終わってからの集計作業も相当大変なことになるのは間違いない。それまで実験中止ならば連休も返上で作業しても1ヶ月で済むかどうか。 事態の収拾は、どのくらいマンパワーを割けるかにかかっている。

廃棄したという事実の追跡については、ベクターをちょこっと改変するだけなので中間産物はとっておかない、 とかcDNAを発現ベクターに載せ換えるまでの増幅とか、ちょっと増やしておしまいという組換え大腸菌の廃棄まで入れると、 正確な記録に残っていない(実験ノートから推定するしかない)組換え大腸菌の廃棄も相当数あるはずだ。聞かれた方も、 どこまで回答したものかと迷うことだろう。

下水の大腸菌の分離まではやらないのでは、と思っていたが、やるんですね。 採ってきた下水の水を大型遠心機にかけてゴミを落として、高速遠心機でペレットして、生理食塩水で段階希釈して、 アンピシリン入りのLBプレートに撒くのでしょうか。標準的な検出法が確立されていないので、難しい問題です。

結局、最終的な判断は、単に何らかの組換え大腸菌が下水にいるかどうかではなく、 問題の研究室で作られた大腸菌がどのくらいの頻度で環境中に居るのか、と言う問題です。技術的には難しいのですが、 抗生物質なしの培地でのコントロールも取っておかないと。でないと、ものすごく高感度な検出法を使うと、環境中ではほぼゼロに近い、 なにがしかの組換え大腸菌を増幅してしまう事になります。 最後は久野研究室で使用していたクローンに特異的プライマーでコロニーPCRでもするのでしょうか。環境からDNAのPCRだと、 死滅した組換え生物由来のDNAまで検出されるので、高感度ではあるが信頼性は低いし。

不用意に環境中の大腸菌を増幅する実験をすると、 危険性から言えば組換え大腸菌どころではない病原性大腸菌を繁殖させることになりかねないので、要注意です。

 

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2008年4月11日 (金)

遺伝子組換え微生物を流しに捨ててはいけません。

下記の記事の内容が仮に事実であるとすれば、こういう事をしていると、 違法と言うだけでなく研究者や所属している組織の社会的な信用も失います。

 

遺伝子組み換え大腸菌、実験室の流しに捨てる…神戸大研究室

 

 神戸大医学研究科(神戸市中央区)の久野高義教授の研究室(分子薬理・薬理ゲノム学)が、   実験に使った遺伝子組み換え大腸菌や酵母を実験室の流しに捨てて処分し続けていたことが10日、複数の同研究室関係者の証言でわかった。  

 

 遺伝子を組み換えた生物は、遺伝子組み換え生物等規制法で、熱や薬品で死滅させて廃棄すると定められている。   同教授が文部科学省の調査に事実を隠ぺいしたとの証言もあり、同省は「早急に詳細な調査をする」という。

 

 関係者によると、久野教授らは、発がんのメカニズムなどの研究で、遺伝子を組み換えた大腸菌や酵母を使用。5年以上前から、   菌の入った培養液を処理せず実験室内の流しに捨てた。菌を育てた寒天状の培地も一般廃棄物としてごみ箱に捨てていた。

 

 加熱処理して菌を死滅させる機器は実験室に3台あるが、ほとんど使われていなかったという。医学研究科によると、   捨てられたとされる菌の危険度は低いというが、排水は一般の下水道に直結しており、人の体内に入る可能性も否定できない。

 

 文科省は、不適切な処理を伝える匿名の通報を受けて3日に、研究室を立ち入り調査。神戸大側は翌日、   組み換え大腸菌の培養器を廊下に置いていた違法行為があったと発表したが、処理については「すべて適正と確認した。周囲の汚染はない」   と説明していた。

 

 久野教授は「手を抜くスタッフがいた可能性は否定できず責任は私にあるが、違法な処理や隠ぺいを指示したことはない」   と話している。

 
    (2008年4月11日03時10分  読売新聞)  

 さて、こういう事態になると、まず生きた組換え体を廃棄した事実(いつ、何を、どこに、どれだけ) があるかどうかということの事実関係を確認しなければなりません。次に、その事実があったとして、 廃棄された組換え大腸菌や組換え酵母が人体や環境に対してどのような影響があるかを検証しなければいけません。

 いずれも、文部科学省からの聞き取りに対して、事業者としての神戸大学の責任で行うことになります。 学内の遺伝子組換えに関する安全委員会や総務部門等がその担当になるでしょう。 実験で頻繁に作る組換え微生物の廃棄については記録を残していない事も多いでしょうから、追跡は大変だと思います。

 もし関係者が事実関係を認めれば、流しのトラップの水を取ってきて、 選択培地にストリークしてプラスミドを取って調べる、というところまでする必要はないと思います。もし、下水にまで漏出していれば、 これは環境省マターでもありますので事態の収拾は長期化するかもしれません。

 人体に対する影響については、通常の組換え実験に使われる酵母Saccharomyces cerevisiae (出芽酵母)あるいはSchizosaccharomyces pombe(分裂酵母) であれば、病原性もありませんので感染の心配はありません。また、大抵は栄養素要求性を持った変異体を使うので、 特殊な培地でなければ生育できない事が多く、自然環境下では生きていけないようにしてあります。

 一方、大腸菌については、通常遺伝子組換え実験用にはK-12株由来、B株由来、 W株由来 (これはちょっと微妙なポジション)のものが使われていますが、いずれも人には感染しないことが確かめられています。 環境中での生存率もかなり低い(・・・とはいえ、 0ではない)ので、生き残っているものも絶対に居ないとは言えません。が、 普通は環境中に居る様々な常在菌と拮抗しあうので、生態系に影響を与えるほど大繁殖することはできません。

 問題となっている菌株が、上記のものであれば深刻な事態にはならないはずですので、そうであることを祈ります。

 こういう事態になったのは、果たしてスタッフの手抜きというだけで済む問題だろうか?「手抜き」というのは、 違法だという認識があって、それにもかかわらず、ばれなければ違法行為をしても良いと考えているということになるのだ。 廊下にインキュベーターを出していた一件は、「だって狭かったんだもん」と言うことなのだろうが、こっちの方は 「だってめんどくさかったんだもん」とでも言うのだろうか。困ったラボだ。

 文部科学省研究振興局生命倫理・安全対策室には相当の負荷がかかっていることでしょう。毎週、 神戸に日帰り出張という有様かもしれません。職員の皆さんも過労で体をこわさないように気をつけて下さい。国家公務員の約1.2% は鬱や統合失調症などの精神疾患で長期休養を取っているそうですので。

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2008年4月10日 (木)

「役に立たない」方が幸せな研究

世の中には「役に立たない」方が幸せな研究というものがある。

バイオテロ対策、飢餓対策、放射線防護、地震対策など、ハザードに備えるための基盤研究は、その成果が世の中の役に立つ時には、 世の中が不穏な時代になっていると考えられる。

ちょっと旧聞ですが、3/17の新聞発表より。

東芝、 警察庁や帯畜大と共同でDNAチップを用いた生物剤検知システムを開発

DNAチップを用いた生物剤検知システムの開発について
-高精度な生物剤検知用DNAチップの開発を完了-

 警察庁 科学警察研究所(以下、科警研)は、国立大学法人 帯広畜産大学 大動物特殊疾病研究センター(以下、帯畜大)、 株式会社 東芝(以下、東芝)と共同で、生物剤検知用DNAチップ(*1)を開発しました。

 今回開発したDNAチップは、科警研、帯畜大の持つ生物剤(=病原体)検出に関する技術と、東芝の電流検出型DNAチップ技術(*2) を融合することで、生物剤の混在が疑われる試料に対し、生物剤の迅速かつ簡便な多項目同時検知を可能にします。

 近年、NBCテロ(*3)が国民の安全・安心に対する大きな脅威となっていますが、そのような事案が発生した際には、 迅速な検知と情報伝達が被害の最小化や蔓延防止、および犯罪捜査に最も重要となります。特に、生物剤を用いたバイオテロの場合、 使用された生物剤の種類によって、その後の対応が大きく異なることから、 複数の生物剤を迅速に同時検出するシステムの構築が求められますが、 これまでの検査方法は操作が煩雑で多項目の同時検知が難しいなどの課題がありました。そこで、科警研、帯畜大、東芝は、 現場レベルで迅速かつ簡便に複数の生物剤を同時検知可能なシステムの構築を目指し、 DNAチップをベースにした生物剤検知システムの開発を進めており、まずは今回、 そのキー技術となる生物剤検知用のDNAチップの開発に成功しました。

 今後、三者は、更なる検出の迅速化、簡便化を進め、当生物剤検知用DNAチップを搭載した「全自動モバイル型生物剤検知システム」 の実現を目指して、共同開発を継続していきます。

 なお、今般の開発は、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(JST・CREST)の「先進的統合センシング技術研究領域 (平成17年度採択)」の一環として実施したもので、 3月24日より国立京都国際会館で開催される第81回日本細菌学会総会において発表を予定しています。


*1:DNAチップとは、ガラスやシリコン基板上に、複数種のDNA分子を固定したもので、 試料中のDNAと結合するか否かを調べることで、試料中に目的のDNAが存在するかを調べることができる。

*2:電流検出方式とは、電気化学的に活性な核酸挿入剤を用いる東芝オリジナルのDNA検出技術。

*3:Nuclear/Biological/Chemical terrorism 核物質、 生物剤又は化学剤若しくはこれらを使用する兵器を用いた大量殺傷型のテロ。

研究代表者が大学時代の同級生だったのでビックリ。僭越ながらGood Jobと申し上げます。

炭疽菌や野兎病菌のような人獣共通感染症の病原菌の研究は、獣医畑でないとなかなか専門的にはやれないので、 北大や帯広畜産大はこの分野の研究者を養成する上で非常に重要な教育研究機関になっている。・・・というか、 日本は公衆衛生の向上によって感染症が減ったために、多くの大学で医学部での感染症研究が昔から見ると下火になってきているのも一因だ (これ自体、「役に立たない」方が幸せな研究ではあるのだが)。

こういう社会基盤の安定のための研究にはなかなかお金がつかないものなので、JSTの資金提供にもGood Job!と言ってあげたい。

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2008年4月 9日 (水)

京都大学のOpen Course Ware

Open Course Ware(OCW)については、wikipediaあたりで調べてください・・・ と思ったらwikipediaには載っていなかった。

OCWとは、MITで始められた大学の講義を人類共通の知的資産として無料で開放しようという気前の良い運動。 本家はこちら

日本でも2005年から、大阪大学、京都大学、慶應義塾大学、東京工業大学、東京大学、 早稲田大学の6大学が自発的に合同で企画を始め、今日では日本オープンコースウエア・ コンソーシアムとして活動しています。

以前のエントリーで、クリエイティブコモンズ・ライセンスの教材について書きましたが、オープンコースウエアといえども、 著作権についてはクリエイティブコモンズ・ライセンスではない様ですので、教材の二次的使用には制限があります。

それはさておき、以下のニュース。

臓器移植映像や湯川博士の業績解説

 京都大とネット検索最大手の米グーグルは8日、 同社傘下の世界最大規模の動画投稿サイト「ユーチューブ」で講義や教材などの動画の無料公開を始めたと発表した。 社会貢献とともに、国内外から優秀な学生、研究者を獲得するためのPRが狙いだ。

 ユーチューブによる講義の配信は、明治学院大(東京)、嘉悦大(同)に次いで3番目。

 公開しているのは、講義の録画や授業で紹介された教材など199本。医学部生向けに解説した臓器移植の映像、ノーベル賞受賞者・ 湯川秀樹博士の業績を京大教授が解説した画像もある。誰でも視聴できるが、単位は認定されない。

 京大は2005年から大学の講義をネット上で公開する「オープンコースウエア」に取り組んでいる。グーグルとの提携で、 人気サイトのユーチューブを通じて視聴者の拡大を目指す。

 当面、これまでの公開分をユーチューブで配信し、将来はすべての講義を対象にするという。

 京大学術情報メディアセンターの土佐尚子教授は「学問は学内に閉じ込めておくものではない。共有してこそ価値がある」と話す。 米グーグル副社長の村上憲郎・グーグル日本法人社長は「専門性の高い動画を見たいという利用者の要望に応えたい」としている。

2008年4月9日   読売新聞)
いいですねー、知の開放。良い講義は社会人だけではなく、高校生にも見せてあげたいですね。また、自前のサイトでなくYouTubeで動画を公開というところが今風です。 視聴した方のコメントも付くので双方向っぽい感じになりますしね。
ついでに、日本のOCWの総合ポータルサイトなんていうものはないんでしょうかね。 どの大学の講義が魅力的か、 学生を飽きさせない工夫をしているかがよく分かるようになります。
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2008年4月 8日 (火)

ヘルシア緑茶に除草剤混入

4月4日、毎日新聞より。

異物混入:花王「ヘルシア」から除草剤成分 何者か混入か

 「花王」(東京都中央区)が販売する清涼飲料水のペットボトル「ヘルシア緑茶」(350ミリリットル) を飲んだ練馬区の会社役員の男性(43)が下痢の症状を訴え、花王が成分を調べたところ、除草剤の成分が検出されたことが分かった。 花王に脅迫などはないものの、警視庁捜査1課は何者かが意図的に混入した疑いもあるとして威力業務妨害容疑で捜査を始めた。【川上晃弘、 古関俊樹、山本太一】

 調べでは、男性の妻が3月26日に練馬区内のスーパーでヘルシア2本を購入。31日にそのうちの1本を男性が飲んだところ、 洗剤や薬のような味がしたため、のどに指を入れて吐き出したという。男性は下痢を訴えたが、既に回復しており入院などはしていない。

 男性によると、ペットボトルのキャップが少し緩かったといい、混入経路を調べている。 男性はもう1本のヘルシアを27日に飲んだが異常はなかった。他の客からの被害の訴えはないという。

 花王によると、除草剤の成分が検出されたものを含むヘルシアは3月5日に山口県の委託先の工場で33万本が製造され、 14日に出荷された。物流拠点には約2万本が残っているが、開封して確認したところ異常はみられなかった。 練馬区のスーパーには20日に納入され、翌21日から26日まで陳列されていた。

 除草剤は一般に市販されているものとみられる。花王は、除草剤は多量に入っていたとみられるものの、 1本すべて飲んでも致死量には達しないと説明している。

 除草剤はヘルシアの原材料には含まれておらず、製造段階ではなく流通過程で混入されたとみている。

もう一つ。

除草剤混入:内閣府の情報把握は、通報から4日後

 岸田文雄国民生活担当相は7日の記者会見で、花王の清涼飲料水「ヘルシア緑茶」への除草剤混入事件に関し、 被害者の男性が3月31日に花王に連絡したが、内閣府が情報を把握したのは4日後だったことを明らかにした。 政府は先の中国製冷凍ギョーザによる中毒事件を受け、情報収集・伝達体制の見直しに乗り出したばかり。 今回は格好の試金石となったが、「合格点」とはいかなかったようだ。

 内閣府によると、東京都内の男性がヘルシア緑茶を飲んだ後に下痢の症状を訴え、3月31日夜に花王に連絡。 同社は4月1日に現品を回収し、異物の混入を確認した3日に保健所と警視庁に通報した。東京都は4日に厚生労働省に連絡し、 同省が内閣府に伝えた。

 これに関連し、岸田氏は会見で「厚労省に報告のあった1件しか(被害が)確認されなかったので、 緊急事態には当たらないと判断した」と釈明。そのうえで「省庁間の情報共有もギョーザ事案に比べてかなりスピードアップした」 と自賛した。ただ、厚労省は「下痢と緑茶に因果関係が疑われる状態だったので、速やかに保健所に通報してほしかった」(監視安全課) と同社の対応を疑問視している。

 政府は7日夕、ギョーザ事件を踏まえた緊急時対応訓練を実施したが、今回の緑茶事件によって一足先に「実戦」 での対応力を問われた形だ。【木下訓明

毎日新聞 2008年4月7日 18時39分

えーと、事実関係を整理すると、

  • 4月1日:回収
  • 4月3日:分析終了・異物確認
  • 4月3日:保健所、警視庁に通報
  • 4月4日:東京都→厚労省に連絡
  • 4月4日:厚労省→内閣府に連絡

事実関係が明らかになってからの連絡は、特に遅くないのでは?保健所から厚労省への連絡が1日縮まるかどうかというところだが、 これ以上早くしようとすると事実関係の確認はともかくとりあえず通報、ということになりはしないか?

たとえば、

  • いろいろなものを食べて下痢をした→
  • 下痢をした本人が食品メーカー数社に連絡→
  • 原因究明はともかく、食品メーカーから保健所に連絡。(「異物混入かもしれないし食あたりかもしれませんが、 当社製品を喫食したあとで下痢をしたお客さんが居ます!」と)→
  • 保健所から厚労省に連絡。(「下痢をした人がいます。いろんなものを食べてますが原因はわかりません」)→
  • 厚労省・・・全国から食あたりの情報がほぼリアルタイムで集まる。

・・・という感じでしょうか。これでは危機管理にも何もあったもんじゃありません。毎日新聞社はどうしてほしいんでしょうか。 危機に際しては通報が早ければそれに超したことはありませんが、緊急事態かどうかの見極めも重要です。このタイムコースを見ると、 政府が情報を把握してから後は遅いとは言えないでしょう。

それを、”緊急事態には当たらないと判断した」と釈明。”だの、” ギョーザ事案に比べてかなりスピードアップした」と自賛した。”だのと書く。

事実関係としては、質問に対して”緊急事態には当たらないと判断した」と回答”、 対応状況については”ギョーザ事案に比べてかなりスピードアップした」と感想を述べた。” と言えば済むものを、あえてこの言葉を選んだセンスが、私は残念でならない。とりあえず政府を叩いておけば、 国民が喜ぶと思っているのだろうか。それとも、毎日新聞はメーカーによる異物の分析を早くしろと言うのだろうか。そう言う主張なら、 記事の見出しは不適切です。

なお、この件について政府の対応に矛先を向けたのは、ざっと見たところ毎日新聞一社のみなのは少し安心した。独自の視点ではあるが、 明後日の方を向いている。また、毎日新聞社は食品安全にかかわる内閣府の機能を何だと思っているのだろう? 食品衛生法に基づいて回収などの措置命令を出すのも、注意喚起の呼びかけをするのも結局は厚労省の仕事だ。犯罪の場合は警察庁だし。 とりあえず、今の食に関する危機管理体制は、このようになっているらしい。

どう見ても、事実関係の把握に時間がかかったものの、内閣府に情報が入るのが遅いと批判される理由はないように思う。どこが、 「合格点」とはいかないのかさっぱりわからない。

 

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2008年4月 3日 (木)

「諦める」にも勇気が要る

特定の中国産冷凍食品の餃子から、約20,000ppmのメタミドホスが検出された。県警の分析で明らかになったという。 ニュースはこちら。毎日新聞より。

中国製ギョーザ中毒:メタミドホス、基準値の6万倍検出--母子中毒、 未調理ギョーザ

 ◇千葉の母子中毒、未調理ギョーザから

 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件で、千葉県警捜査1課は31日、 千葉市稲毛区の母子が食べて中毒症状を起こしたギョーザと同じ袋に入っていた未調理のギョーザから、 最高で基準値の6万4300倍の有機リン系殺虫剤「メタミドホス」を検出したと発表した。 5人が中毒症状を起こした同県市川市のギョーザの約6倍の濃度で、国内の成分分析では最高値。1課は「残留農薬のレベルではない」 とし、意図的な混入の可能性が更に高まったとみている。

 未調理3個と、母子が吐き出した1個を分析した結果分かった。 未調理ギョーザは皮1グラムから1490~1万7680ppm、具1グラムから410~1万9290ppm、 吐き出したギョーザは皮1グラムから1470ppm、具1グラムから1240ppmをそれぞれ検出した。 4個のうち3個で皮の方の濃度が高いことから、1課は成形から袋詰めの間に混入されたとみている。

 国が導入した原料野菜の残留メタミドホスの基準値は、ニラ0・3ppm、キャベツ1・0ppmで、 皮は4966~5万8933倍、具は1366~6万4300倍に相当する。ギョーザ1個(14グラム)当たり最大で263・ 62ミリグラムが混入していた計算で、女児は2個、母親は5個食べると致死量に達した可能性があるという。 母子は07年12月28日に「CO・OP手作り餃子(ギョーザ)」(07年10月20日製造)を食べ、女児が軽症、 母親がめまいなどを訴え、1日入院した。【斎藤有香】

 ◇昭和大学薬学部の吉田武美教授(毒物学)の話

 動物実験で半数が死ぬメタミドホスの「50%致死量」は体重1キロのラットで20ミリグラム弱。これを基準とすると、 体重50キロの場合1000ミリグラム、20キロの場合400ミリグラムが50%致死量になる。

毎日新聞 2008年4月1日 東京朝刊

エイプリルフールのジョークではないのが残念な限り。 日経FoodScienceでは松永和紀さんが何を間違ったか、「1億9290万ppm」と書いていらっしゃいます。 100万ppmで丁度100%になりますので、メタミドホス含有率1億9290万ppmの餃子ですと、 餃子成分の19,290%がメタミドホス・・・!?無理です。こちらの日付は4月2日なので、やはりジョークではないようです。

えー気を取り直して、今回の報道で欠けている要素の一つ。それはデータの整合性です。 餃子4個を分析したものの具と皮の濃度の対応が分かりません。

 

餃子 A B C D(食べさし)
410 19,290 ? 1,240
1,490 17,680 ? 1,470

 

と言う状況なのか、

 

餃子 A B C D(食べさし)
19,290 17,680より小 410 1,240
1,490 17,680 410より大 1,470

 

という状況なのか。あるいはその順列組合せ。まあ、どうだって良いんですけど千葉県警のホームページを見ても分かりませんでした。

また、この記事の基準値の6万4300倍という数字は19,290ppm/64,300=0.3ppmなので、 ニラの残留農薬基準をスタンダードにしているらしい。

残留農薬基準は食品ごとに決められており、 様々な食品を通じて摂取した場合にトータルで摂取される残留農薬がADIに達しないように設定されている。従って、 この基準値との比較でメタミドホスの影響をある程度推定する事が許されるのは、ニラがギョーザの構成成分の100%である場合に限られる。 構成成分の重量比からいえばキャベツの方が多いはずなので、書きぶりに悪意が感じられる。

高濃度を印象づけるためにこの数値引用したのだろうが、ちっとも分かりやすい記事になっていない。むしろ、 食品安全委員会で算定した4月4日までパブコメ中のARfDの0.003mg/kg体重/日や、 ラットの急性神経毒性の無毒性量0.3mg/kg体重/日との比較で考えた方が毒性の程度が分かりやすい。概ねこんな感じ。

ギョーザ1個が約14gなので、その2%がメタミドホスでできている場合、 ギョーザ1個を食べた場合に摂取されるメタミドホスは280mgになる。

体重60kgの人の場合、ARfDから算出される安全な1日摂取量は0.18mg。

従って、 ギョーザ1個で安全な摂取量の1556倍に相当するメタミドホスを摂取することになる。 この量はラットで毒性が表れる量を基準にした場合の約16倍に相当する。

毒性が表れないギリギリのラインの16倍の毒物を摂取した場合に中毒するのはまず間違いない。 数個を食べた場合には必ず何らかの症状が出るでしょう。しかし、マスコミ的には16倍ではインパクトが無いんでしょうね。 毒物の性質によって毒性が表れる量と、半数致死量の間が離れているものと、近いものがあるが、メタミドホスの場合は離れている方でしょう。

上記の新聞記事を読み直して気づいたのですが「メタミドホスの「50%致死量」 は体重1キロのラットで20ミリグラム弱。」・・・ラットの体重は、 Wisterラットの雄で450gくらい。大きなものでも800g位のはず。 体重1キロのラットは相当の大ネズミです。

多分、「メタミドホスの「50%致死量」はラットでは体重1kgあたり20ミリグラム弱。」 と専門家が言ったのを記者が勘違いしたのでしょう。たとえるにしても言い方ってものがあります。「体重250kgの人の場合、 5gのメタミドホスを摂取した場合、100人中50人が死亡します」と言われたら、どう思います?

残念ながらトータルではリスク情報が正しく伝わらないダメ記事です。

表題の”「諦める」にも勇気が要る”ですが、

結局、食品の原産国表示は毒物混入のリスクとは無関係。 意図的な毒物混入は原産国で発生頻度が異なると考えるべき根拠はないので、東京都が求めるように原産国を書いても安全性担保には役立たない。 また、食品メーカーは中国の食品工場に監視カメラを増設していると言う話も聞くけれども、 常時モニター画面を監視し続けて不審な動きがないかをチェックするのは、監視自体に相当のマンパワーを割かないと無理。 コンビニの防犯カメラが強盗の抑止に役立つかどうかを考えれば分かるように、毒物混入が分かった事後に犯人を絞り込むのに役立つ程度。 意図的な毒物混入を未然に防ぐ用は為さない。

食品原材料については残留農薬、重金属、ダイオキシンなどある程度ロットレベルでの安全確保はできるものの、 個別の汚染はどうやったってわからない。非破壊であらゆる毒物を検査する意外に避ける方法はないのだから。

また、加工後に腐る事もあるだろうから、食べ物に毒物が入っていない事を保障することはできないのだ。それは、 手作りにしてもおなじこと。いくら管理に気を配っても、できるだけの手を尽くしても、中毒のリスクは減りはしますがゼロにはならない。 中毒する時には中毒する他ないのです。

毒を喰らわば皿までと申します。さあ、腹をくくって美味しく頂きましょう。そして、勇気を持って諦めましょう。

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2008年4月 2日 (水)

体細胞クローン家畜の安全性評価を厚労大臣が諮問

畜産草地研究所(農業・食品産業技術総合研究機構)は平成16年からという農水省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」 という予算で安全性評価試験を実施してきた。 その成果と、内外の科学的安全性評価結果が出そろったところで、食品安全委員会に諮問する運びとなった。

朝日新聞より。

クローン牛、食べられる? 「一般牛と差異なし」報告

2008年04月01日

 農林水産省所管の畜産草地研究所は体細胞クローン技術で作った牛とその子の肉質や乳の成分が一般の牛と比べて 「生物学的な差異はない」との調査結果をまとめた。クローン技術では米国や欧州でも安全とする評価が相次いでおり、 厚生労働省は1日、クローン技術で作った牛や豚とその子について、内閣府の食品安全委員会に食品としての健康影響の評価を諮問した。

 同委員会が安全と評価すれば、国内で流通する可能性もある。ただ、消費者の不安もあり、厚労省によると、 世界的にも流通実績はない。

 体細胞クローンは、 核を取り除いた未受精卵にコピー元となる動物の皮膚などの体細胞から核を移植して代理母の子宮に戻して出産させる技術。 畜産草地研究所の調査では、体細胞クローン牛から生まれたクローン牛を調べ、栄養成分の分析やアレルギー試験などを実施。その結果、 一般の牛から得た乳や肉との差はないと結論付けた。

 米食品医薬品局(FDA)は今年1月、クローン技術で作った牛や豚、ヤギやその子から作られる肉・ 乳製品の安全性を従来の家畜と同等と評価。欧州食品安全機関(EFSA)も、 クローン技術で作った牛と豚とその子から作られる食品を安全とする方向で意見集約を進めている。

 日本では99年に農水省がクローン牛の国内出荷の自粛を要請。03年に厚労省の研究班は安全性を認める一方で、 食品の安全性には「慎重な配慮が必要」としていた。今回、クローン牛の子についても安全性が確認され、「科学的な知見が出そろった」 (厚労省の担当者)としている。

さて、FDAの評価ではたしかヤギが入っていたが日本ではなし。クローンヤギ肉が輸入されたら・・・ と言う懸念は無いのだろう。まあ、クローン牛そのものは相当高価なものと思った方がよいでしょうから「食べられる?」と言う質問には 「いずれ食べられる。当分はお金持ちに限って。」と答えておこうか。

もう一つ。毎日新聞より。

クローン肉:牛・豚、安全評価へ 厚労省が諮問

 体細胞クローン牛や豚と、その子孫の肉や乳などの安全性について、厚生労働省は1日、 国の食品安全委員会に対し健康影響評価を諮問した。農林水産省が3月、「体細胞クローン家畜は通常の家畜と同様に安全」 との報告書をまとめ、米食品医薬品局も同様の評価を公表したことを受けた。今後、米国などで市場に出る可能性もあるとして、 厚労省は評価の依頼を決めた。

 クローン技術を使えば、肉質が優れた牛や豚、乳量の多い牛のコピーをつくり出せる。国内でも研究が進み、昨年9月末現在、 体細胞クローン牛535頭、豚256頭が誕生している。

 しかし、牛については農水省が出荷自粛を要請しているため、市場には流通しておらず、豚も市場に出た実績はない。

 体細胞クローン動物は、流産や死産が多いことが指摘されている。農業・食品産業技術総合研究機構は体細胞クローン牛や、 その子孫計220頭のデータを分析。3月にまとめた国内調査で「生後200日以上生存した牛は、一般牛と同等に生育し、 生理機能も差はなかった」と結論づけた。

 厚労省は「評価結果がまとまり次第、必要な対応をとる。米国は出荷を自粛しており、市場には出ていない。現時点で、 輸入などの規制措置をとる必要はないと考えている。評価結果は説明会などを開き、国民に情報提供したい」と話している。 【下桐実雅子】

こちらの記事では、牛と豚と書かれている。 具体的なクローン動物の作出頭数や研究の経過についても言及されており情報量も多い。「ただ、消費者の不安もあり、厚労省によると、 世界的にも流通実績はない。」のような無意味な表現や、ふざけた見出しがない分好感が持てる。

解説記事も一つ。毎日新聞より。

解説:クローン肉・安全評価へ 不安に応える審議を 消費者団体は「時期尚早」

 体細胞クローンで作った牛や豚の安全性を認める動きは世界的な流れだ。しかし、 各国とも消費者団体は慎重な姿勢を示しており、国の食品安全委員会には、「解禁ありき」ではなく、 国民の疑問や不安に応える丁寧な審議が求められる。

 これまでに豪州、ニュージーランドが安全性を承認。今年1月には欧州連合(EU)と米食品医薬品局が「危険とは考えにくい」 「安全性の点で普通の牛と変わらない」との報告書などを公表した。

 農林水産省によると昨年9月末現在、体細胞クローン牛を出生させた研究機関は全国に42機関あり誕生・ 飼育技術は広がっている。

 近畿大の入谷明・先端技術総合研究所長は「新しい食品の安全性を確認する手法は確立している。その手法で、 国内の体細胞クローン牛を調べたところ、問題ないとの結果が出た。公聴会や消費者団体への説明会で説明を重ねるべきだ」と話す。

 一方、安全宣言が出た米国でも、実際の流通までは数年かかる見通し。日本でも消費者団体などが 「クローン家畜には流産や死産が多く、原因がはっきりしないうちに流通を目指すのは時期尚早」と、「食の安全」 確保の立場からの検討を訴える。【永山悦子、江口一】

毎日新聞 2008年4月2日 東京朝刊

消費者団体のコメントが珍妙。流産や死産した家畜は肉にならないので流通しない。 あるいは死産や流産した体細胞クローンの親動物の方に何らかの安全上の疑念があると言うのだろうか。「食の安全」 と言う観点では議論の対象にならないのはあきらか。これを食品安全委員会に向かって言うのは、専門家に対して失礼だ。

ただ、今回のように、特段の危険性を示すデータがない場合は丁寧な審議といっても議論の争点が定まらない。 科学的には、危険性を示すことは何かの事象が観察されればよいので比較的たやすいのだが、安全性を示すことは容易ではない。 何も起こらない場合は従来の食品と違わないとは言えるが、それはどのくらい安全であるかと言うこととは別の議論だ。

ちなみに、体重60kgの成人が霜降り牛肉を毎日300g摂取すると、摂取しない場合と比較して、 内臓脂肪の蓄積量の増大が見られる事が多く、脂肪肝になるリスクが高まることが知られている。 また血中中性脂肪やコレステロール値も高くなり、冠リスクのバイオマーカーにも悪影響を与える可能性が高い。 これらの悪影響は日常生活における運動量が少ないほど著しいとされている。

# 要するに良いものばかり食べてると太るよ、と言うだけのことだが。

さて、安全性がきちんと評価されれば、今後流通するのはまず間違いないだろう。その段になれば、 今度は表示の問題が出てくるかもしれない。国産和牛のクロ-ンについては堂々と表示すればよいのだ。 その方が最先端技術で作られた高級牛肉として中国にも高値で売れるかも知れない(松坂牛、米沢牛、神戸牛、 近江牛に次ぐ地位とされる佐賀牛などは、割安感からか中国向けに出荷されているという)。飼料価格も高騰しているのだから、 付加価値を付けるには良いチャンスだ。

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2008年4月 1日 (火)

Internatuinal Whale Genome Research Program launched

2008年04月01日 23:59 発信地:東京/日本 【APF通信】

日本ゲイ(=魚偏に京)類研究所が中核機関となり、日本政府、韓国政府、ノルウエー政府、アイスランド政府の協力を得て、 国際クジラゲノム研究プログラムが発足した。

研究プログラムの初期の目的はミンククジラのゲノム(全遺伝子)を解読することで、ミンククジラの繁殖集団の遺伝的構成の解明や、 非侵襲的個体識別技術の確立に役立てたいとしている。

ミンククジラのゲノムサイズは、ボノボとほぼ同じ。研究は東京都で進め、今後半年間でのゲノム解読を目指す。

ミンククジラの生態に詳しいシー・ハウンド・ジャパンの田所博士は、「鯨類は全体として絶滅の危機にあると言われているが、 実際はその生態がよく分かっていないだけ。日本の調査捕鯨によって個体数の増加が明らかになったミンククジラについて、 各国の研究者が情報を持ち寄って遺伝情報解明のために活動するのは、初めての試みだ。クジラは自然保護の世界的な象徴でもあるので、 このような研究を行う価値はある」と述べた。

中国科学院の王博士は、「ゲノム解読プロジェクトにより、 ミンククジラがどのように進化して今日の生態やキリスト教国における神の使いとしての地位を獲得してきたのか遺伝子レベルで理解するゲノム倫理学への道が開けるだろう」 と話している。

一方、シー・シェパー代表ポール・ワットソン氏は「神聖なクジラのゲノムを解読はクジラの神聖を汚す行為。 残虐な捕鯨に科学的根拠をこじつけようとするもので許されない。断固粉砕する」とコメントしている。

生存頭数の増加していると考えられる南氷洋のミンククジラは1990年以降は76万頭程度、 個体数の少ないナガスクジラは1千頭前後と見られている。

APril Fool news agency】

 


 

 オリジナル記事、パンダ・ ゲノム・プロジェクトにインスパイアされました。中国がパンダ・ゲノムをやるのなら、日本がクジラ・ ゲノムの解読をしても良いのでは・・・と思ってしまいます。

 産業としての捕鯨の是非は、クジラが再生可能な資源であるかどうかと言う尺度で見るならば、 種によって対応を変えるのが妥当なところ。歯クジラも髭クジラも、大型も小型も一緒くた、生存している個体数の考慮もせずに、 産業ベースでの捕鯨が全面禁止という対応が国際的に認められているのは合理的ではないと思います(まあ、 合理的なら何でも良いとも思わないのですが)。

 我が国には捕鯨の伝統がとか言い出すと、南氷洋まで出張る意義が見いだせない。 クジラは知能が高いから捕殺するのは野蛮だと言う議論は、生物の持つ生命の重みを知能で計ることを絶対視している。 動物の生存権を謳う動物愛護と同根で、新手の動物に偏ったアニミズムだ(アニミズムのくせに、 クジラに食べられるオキアミや植物はどうだって良いらしい)。キリスト教国ではこのようなアニミズムは異端かと思っていたのだが (異端だからと言って火あぶりにしろとも言いません)。

 いずれにせよ、国際的な資源管理の問題は、倫理観や文化、 宗教とは切り離して科学ベースで論じるべきだと思います。また、産業としての捕鯨は、一つの産業として成り立ちうるのか、 経済的な視点でよく考えるべきでしょう。元捕鯨国の連中から止めろと言われて止めるのは業腹ですが、それはそれとして、 我が国における捕鯨とクジラに依存した産業は、石炭産業や養蚕がそうであったように役割を終えつつある様に感じます。 クジラを食べたことがない世代、あるいはクジラを特に食べたいと思わない世代がマーケットの主流になってしまえば、 特にクジラを食べなくてはいけない事情が無い限り、もはやクジラ肉が市場を獲得する事は無いのですから。

 一方、科学的な見地からクジラの生物学を追究する自由はあって然るべきだと思います。多分、 宇宙科学よりは安上がりです。ファンドが付くかどうかは知りませんけどね。

 また、組換え技術が張り込む余地は残念ながらなさそうです(遺伝子組換えクジラにクローンクジラ、 ノックアウト・クジラに病態モデル・クジラetc.)。まあ、組換えクジラが国境を越えて自由に泳ぎ回る事態は、 カルタヘナ議定書でも想定していません。

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