遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準ともう一つの視点
Niftyのメンテナンスで1日あいてしまった。
この数日、私のGoogle等で「ナチュラルオカレンス」
をキーワードにして私のblogを訪問する方が増えていると思ったらそういうことでしたか。先週来、 アクセスログには、明治製菓、
キッコーマン、キリンビール、ヤクルト、 月桂冠など研究レベルでは組換え微生物を使用しており、
組換え微生物の食品利用における有効性に関心があると思われる企業からのアクセスが増えてきている。 いずれも、
Google等で「ナチュラルオカレンス」 をキーワードにして私のblogを訪問しています。
# ここで公開されると困るのであれば、会社からアクセスしちゃいけません。
3/17に食品安全委員会の第59回 遺伝子組換え食品等専門委員会で
「遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準について」の議論が行われた。
会合の主な目的は、遺伝子組換え微生物を利用して製造された食品(遺伝子組換え微生物を含むもの)
の安全性評価基準の草案を固めること。ですから、乳酸菌、酵母、
糸状菌などの微生物を利用した製造プロセスを持つ食品メーカーにとっては、
将来に亘る製品開発に影響する可能性が高いので重大な関心事でしょう。
残念ながら、3/25現在、議事録は公開されていないので、専門委員会の検討の結果、素案にどのような変更があるかはうかがい知れない。
現状で確認できる専門委員会の資料は素案と他の安全性評価基準との対照表のみ。
従って、このblogでもすでに公開されているもの以上の新しい情報はありません。
メーカーの皆さんの関心事は、遺伝子組換え嫌いの最近の消費者の動向を鑑みれば、おそらくどのような菌株ならば、 遺伝子組換えでない
(あるいはナチュラルオカレンスである)といえるのか?ということかもしれません。
遺伝子組換え技術から除外されるナチュラルオカレンスについては、公的な定義のない用語なので、
今後ともこのような基準に取り込まれることはないでしょう。少なくとも、「ナチュラルオカレンス」
に該当する事象の範囲はCODEXの議論を受けてカルタヘナ議定書の見解を踏襲することになるはず。
生きた組換え(?)細菌を含む製品の場合、プロセスベースで判断するのか、プロダクトベースで判断するのか、
他の法律や国境措置とのかねあいもあってなかなか判断が難しいところです。このあたりの論点整理は、
遺伝子組換え食品等専門委員会のメンバーでもある東京農工大の小関先生が纏めておいでです。
なお、今般公開された安全性基準案では、第3において次のように記述されている。
”本基準において対象とする遺伝子組換え食品(微生物)は、原則として、 「組換えDNA技術によって最終的に宿主に導入されたDNAが、 当該微生物と分類学上の同一の種に属する微生物のDNAのみである場合」、又は 「組換え体と同等の遺伝子構成を持つ生細胞が自然界に存在する場合」 に該当する微生物を利用して製造されたものは含めないものとする。”
即ち、基準の対象は最終産物(プロダクト)としての微生物であると述べられていますので、
プロダクトベースで判断することとされています。従って、バクテリアのゲノムに抗生物質マーカーを挿入してKNOCK
OUTしたあとで、マーカー遺伝子を完全に除去する技術を使用した場合には、
その微生物を使用した製品は安全性審査の対象にはならないことになります。ただし、
ラベル表示の問題は食品安全委員会で検討する事項ではないので、
プロダクトベースで遺伝子組換え食品ではないと考えられるものであったとしても、
表示しなくて良いかどうかはリスク管理の問題ですので、 食品安全委員会の基準とは別に農水省の判断によると考えた方が良いでしょう。
今回の評価基準に固有のポイントは以下の通り。
”微生物由来の食品の安全性を考える際に、 他の遺伝子組換え食品の安全性評価項目に加えて特に慎重に考慮すべき点は、 遺伝的安定性、遺伝子伝達の可能性、 遺伝子組換え微生物のヒト消化管での定着性、 遺伝子組換え微生物とヒト腸内フローラとの相互作用、 遺伝子組換え微生物のヒト腸管系及び免疫系への影響、 遺伝子組換え微生物を利用した個別の食品製造に特有な問題等である。”
実験的に腸管内で起こる遺伝子の水平伝達の可能性や程度を評価することは非常に難しい。 プラスミドを持つLMOの場合は、
複製開始点の機能する宿主域についての文献的な知識で良いのだろうか。 遺伝的安定性は、宿主となる菌株の安定性
(内在性トランスポゾンを持たないなど)だろうか。 ヒト消化管での定着性というのは、
定着性が高い場合でも健康に悪影響がなければよしとするということだろうか。また、 「免疫系への影響」に至っては、
どう評価したものか。
今回の安全性評価基準では、具体の項目を定めた第3章II.-第3に評価のポイントがある。・・・が、
結局はどのような試験をしなくてはいけないのか非常にわかりにくい。
”7 腸内フローラへの影響に関する事項
組換え体のヒト腸内フローラへの影響に関し、安全性の上で問題がないと判断できる合理的な理由があること。
8 腸管系及び免疫系への影響に関する事項
組換え体のヒト腸管系及び免疫系への影響に関し、安全性の上で問題がないと判断できる合理的な理由があること。”
さて、どうやって評価したものか。付帯的に調査方法のガイドラインでも策定してくれれば良いのだが(ちなみに、
今回素案を検討した調査会のメンバーでは五十君先生が腸内フローラの研究分野、
澤田先生がアレルギー・
免疫の分野)。
どうやら新規の組換え生物を含む食品の前途には冥く長い道が横たわっているらしい。
もう一つの視点は食品の安全性とはまた別。
仮に、遺伝子組換え乳酸菌を使ったヨーグルトや遺伝子組換え酵母を含むワインを海外で購入して、 日本で飲食しようとする場合に、
食品衛生法とは別の法律上のリスクがある。
もしかしたら、あなたは食品のパッケージを開けた途端にカルタヘナ法第4条に違反するかもしれない。
カルタヘナ法第4条では、次のように規定されている。
(遺伝子組換え生物等の第一種使用等に係る第一種使用規程の承認)
第四条 遺伝子組換え生物等を作成し又は輸入して第一種使用等をしようとする者その他の遺伝子組換え生物等の第一種使用等をしようとする者は、 遺伝子組換え生物等の種類ごとにその第一種使用等に関する規程(以下「第一種使用規程」という。) を定め、 これにつき主務大臣の承認を受けなければならない。ただし、 その性状等からみて第一種使用等による生物多様性影響が生じないことが明らかな生物として主務大臣が指定する遺伝子組換え生物等 (以下「特定遺伝子組換え生物等」という。) の第一種使用等をしようとする場合、 この項又は第九条第一項の規定に基づき主務大臣の承認を受けた第一種使用規程(第七条第一項 (第九条第四項において準用する場合を含む。) の規定に基づき主務大臣により変更された第一種使用規程については、 その変更後のもの) に定める第一種使用等をしようとする場合その他主務省令で定める場合は、 この限りでない。(以下 略)
食品に含まれる生きた遺伝子組換え生物を「食べる」行為は、 使用等にあたる可能性が高い。 食品のパッケージを開けると、
法律で定められた「拡散防止措置」を執らないで行う使用等(即ち、「第一種使用等」) にあたる可能性が高い。
屋内での使用等であっても、法律で適切な拡散防止措置が規定されていない場合、
あるいは主務大臣の確認した拡散防止措置を執っていない場合には、第一種使用等に該当すると考えられる。
なお、第4条違反の罰則は、同法第39条で「六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、
又はこれを併科する。」とされていますので、 組換え酵母を使用したワインの栓を抜く前には、
拡散防止措置を執りましょう。(って・・・どうやって?)
・・・という馬鹿馬鹿しい事態にならないようにするためには、あらかじめ、 コモディティーとして流通している組換え作物同様に、
第一種使用規程を策定して申請しておくか、同法第4条第1項の 「特定遺伝子組換え生物等」の指定を受けておくんでしょうね。
食品の場合の主務大臣がどなたかは存じませんが。
今のところ、国際的にも「特定遺伝子組換え生物等」の指定を受けたものはないと思いますので、
この方法でカルタヘナ法をクリアするのは、なかなかハードルが高いと思いますので。
これに類似した件について、東京農工大の小関先生作成の資料では
「虫歯に良い乳酸菌入りヨーグルトをLA の空港で食べたら日本に帰れない?」 と書いてあります。
カルタヘナ議定書やカルタヘナ法では、
遺伝子治療を受けた人や組換え生ワクチンを投与された人は遺伝子組換え生物扱いされないことになっているのですが、
口の中や腸内で遺伝子組換え微生物を飼っている人の場合はどうもビミョーな感じがします。
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