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2008年3月 4日 (火)

産業技術総合研究所の特許生物寄託センターの病原微生物管理:調査委員会調査報告書公表

産総研の微生物管理については、昨年10月17日、マスコミ各紙に激しく叩かれたこともあり、 以て他山の石とすべし、という意味でフォローする。

調査委員会の調査報告書は このPDFファイル。

調査結果に基づいて産総研が執る対応策はこちら

 産総研としては、委員会からのご指摘と提言を重く受け止め、再発防止策、関係者の処分、等を検討し、 必要な対策を着実に進めてまいりますとともに、問題をご指摘いただいた方に誠実な対応を行ってまいります。また、 寄託センターの運営改善にあたっては、特許生物寄託制度との関連も含め特許庁とご相談し、適切に対処してまいります。

とあるが、今後の対応策を何時までに決め、決定した時点で改めて経産省・特許庁に報告するか、 報道陣等に公表するか、つくば市に連絡するか、地域住民に知らせるかは特に書かれていない。 特許庁と相談の部分もあるので勝手に決められないのかも知れない。

これまでの報道各社の書きぶりはこちら

「レベル3」の病原体の受入・保管について:

”人に感染した場合に重い病気を起こす恐れのある「レベル3」に分類されるブルセラ菌2株と鼻疽(びそ) 菌1株を含め、約20株の病原体を内規違反で保管・培養などしていたという。”、”外部機関の調査で、病原性の低い「レベル1」 の別のものだったことが確認されたとしている。”(読売新聞)

”朝日新聞が入手した内部文書によると、 01年の時点で、人に症状が出る危険性のある「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、84年、88年、 90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」の病原体で、人が感染すると発熱などを起こし、 最悪の場合は死に至ることもあるブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株だった。”、”一村理事は 「2年前に菌の一部を研究機関に預けていた。その菌を調査した結果、今年7月に3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」 と説明している。”(朝日新聞)

さて、実際に「レベル3」(仮にCDCの決めたBSL3だとしよう)の微生物の取扱があったのかどうか? 報道された時点では、新聞社には分かっていなかったはずだ。ニュースソースは、産総研の公表、朝日新聞の入手した内部文書、 一村理事からの聞き取りのどれかだが、実際に取り扱われた菌が何かは科学的な同定作業を行うまでは分からないものだからだ。従って、 記事の中では、結局、”確認されたとしている”、あるいは”・・・3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」と説明している” 、 という伝聞調の書き方しかできないことになる。

一方、朝日新聞の記事にはこうある。「内部文書によると、01年の時点で、人に症状が出る危険性のある 「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、84年、88年、90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」 の病原体で、人が感染すると発熱などを起こし、最悪の場合は死に至ることもあるブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株だった。」

文書から確認できる事実関係と、一般的な知識とがまぜこぜになってしまっている。 優秀な朝日新聞の社員のことだから、おそらくうかつにも混同してしまったと言うことは無いだろう。書き手の悪意を感じる。

ちなみに実際に文書から確認できたことと、一般的な知識を分けると、こういう書き方になる。

入手した内部文書によると、01年の時点で、「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、 84年、88年、90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」の病原体(ブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株) であった。

一村理事は「2年前に菌の一部を研究機関に預けていた。その菌を調査した結果、 今年7月に3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」と説明している。

なお、「レベル2」以上の病原体は人が感染すると何らかの症状が出る可能性があるとされており、「レベル3」 の病原体のうちブルセラ菌と鼻疽菌は発熱などを起こし、死に至ることもあるとされている。

産総研の文書に記録されていたこと、理事から聞き取ったこと、一般的な知識を順にならべると、 記事とはかなり違った印象になる。これ以外のニュースソースを調べると、実際のリスクは感染すると発病するおそれのある「レベル2」 の菌株293株の受入が内規違反(内部統制の破綻)であり、なおかつ、それらを十分な病原体取扱経験の無い職員に扱わせていたこと (感染リスク)である事が分かる。

私の印象としては、内部統制の甘いのんきな研究所がたちの悪い報道の餌食になったというように見える。

今回公表された調査報告書では、問題となった受入時点では「レベル3」(BSL3) とされた菌株の同定についても記事より遙かに詳細に書かれている。同定は帯広畜産大学の専門家(報告書に氏名はないが、 調べればすぐに見当はつくだろう。BSL3の細菌を扱える研究室はそう多くないだろうから。)が16S rRNA遺伝子のユニバーサルプライマーでPCRをしてシーケンスするという標準的な方法で行われている。簡便で信頼の置ける方法だが、 それでもデータベースにない配列が出てくると決め手にならない場合もある。私も土壌細菌の16S rRNA遺伝子の配列決定を手伝ったことがある(というか、3週間ほどでクローニングからシーケンスまでみっちり教えたことがある)が、 属まで見当がついても、種まではわからないものが滅法多い。

幸いBSL3の細菌であればよく調べられているはずなので、今回実験的に得られた16S rRNAの塩基配列がそれらに該当しなかったと言うことであれば少なくともBSL3でないという事だけはできる。 科学的な事実関係から言えば、少なくともレベル3ではない、ということと、もし病原体であればレベル2の細菌の塩基配列に該当する (これも大抵はよく調べられている)ので、消去法でレベル1という推定をしているのだろう。従って、 これらの3菌株による感染リスクは無いか、仮にあったとしても既知の重大な疾病に至る可能性は低いといえる。

さて、今回公表された調査委員会の調査報告書には、他の事案と合わせて、 今回の事案の問題点が5つに纏められている。79ページもあるけれども、結局は内部統制が上手く働いておらず、その要因は

  1. 一体感を欠いた組織風土があること
  2. 統治機構がうまく機能していないこと
  3. 組織としてのリスク評価能力に限界があること
  4. マイナス情報を開示するという基本姿勢が不十分であること
  5. リスク管理規程に記載された「秘密保持義務」が組織の閉鎖性につながりかねないこと

と纏められている。

詳細は報告書を読んでいただくとして、寄合所帯の独法では「一体感を欠いた組織風土があること」とか、 「統治機構がうまく機能していないこと」というのは往々にしてある。私の所属している独法でも、とかく「昆虫のヒトひとは○○だから」とか 「動物の××て本当にできるの?」など、所属で色分けする発言を聞くことが多い。私は、植物系の研究センターに居るのだが、 他の領域の方々から見ると「植物の奴は・・・」となるかも知れない。

統治機構については、職務権限がはっきりしていない事が問題とされている。産総研では、独立行政法人通則法、 個別の独立行政法人の設置法、独法の定める業務方法書等が定められているが、いずれもかなり大雑把なもので義務、権限の範囲、 行う業務などが事細かに決められている訳ではない。また、産総研の「幹部会」では、どの幹部がどの業務の執行に関し、 どのような権限と責任を持つかが不明瞭と指摘されており、”特に「幹部会で話し合われたことに関し、いったい誰が責任を持って実行し、 いつまでに完了させるのか」等があいまいになる”と言う点が強調されている。

耳の痛い話である。ガバナンスとリスク管理の体制整備と運用は、他人事ではない。 3年後には私達の独法も大きな組織改編を迎えようとしているのだから。

この報告書を受けて、産総研はいつまでに何をどうするのかを注視しよう。

# 一部の施策(受入菌株の同定根拠を供託する方に示してもらう、とか供託の際の申込みフォームの様式を改良するとか) については既に実施済み。あとはBSL2の菌株の取扱い方法など、組織改革ではなく手直しで済む部分から着手するんだろうな。

なお、特許寄託センター自体は、製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRCでも数年前から動いており、こちらではBSL2 (NBRCではL-2と呼んでいる)の配布も行っている。ひょっとしたら、そのうち一本化されるのではないかという気はしているのだが。

 

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