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2008年3月の記事

2008年3月31日 (月)

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスによる分子生物学の資料

日本でも数年前から大学の先生の講義用のプレゼン資料がインターネット上で公開される様になってきている。たとえば、 こんなのや、 こんなの (阪大の福井先生の講義資料です)。

オリジナルあるいは専門分野の教科書から引用した図やデータが随所に使われているが、 インターネットで公開すると著作権の侵害にあたる可能性が高いと判断されたものについては、たとえば特定の図を”Deleted based on copyright concern.”として、白紙のページにしている場合がある。

このような資料の取扱方には2つほど問題がある。

1.オリジナルの資料に設定された著作権で許諾されている使用方法を使用者が知らない場合、ネット上での公開のみならず、 資料をコピーしたプリントを講義で使用すること(即ち、私的使用ではなく、業としての使用にあたる)自体、 著作権を侵害している可能性がある。

2.オリジナルの資料に設定された著作権で許諾されている使用方法を知らずに、 違法な使用を避けるためにネット上での公開を制限するあまり、最終的に公開された資料が情報に乏しくなって、 講義資料としての価値を失ってしまう可能性が高い。

私も、教科書と板書だけで講義が成立していたのどかな時代のことは知らない。その場合は二次的な複写物でなく、 教科書そのものを使用した講義なので著作権法上の問題は特に起こらない。しかし、 私が大学で講義を受けていた20年前(大学院生の頃は、講義と呼べるものは受けていなかったので学部生の頃) でさえ、教科書以外に教官が講義用の資料集をプリントしたものを配布していた。そこに印刷されていたものは、 本や論文の図表のコピーだった。仮に、著作権者の許諾を得ていない使用であった場合には、 それは著作権法違反であったことになる可能性が高い。

今日、Webで公開されている講義資料に、例えば”Deleted based on copyright concern.” とある図の場合には(多分、講義資料として机上配布していないとは思うが)もし著作権者の許可を得ずにコピーをしてしまうと、 私的使用の範囲を超えた違法な複写になる。

最近、身近なケースでは、若手研究者が大先生のアバウトな依頼で教科書的なプレゼン資料を作らなくてはならないことがあった。近頃は、 助教(かつての助手)が講義を受け持つケースも増えてきて居ると聞く。いずれにしても、 研究のための貴重な時間を割いて講義資料も準備しなくてはいけない。

助教や若手研究者は自分で教科書を執筆しているケースは殆どないし、まあ、 若手でなくても教科書的な基本事項を教えるために自分の専門分野そのものではない分野の講義をしなくてはならないこともままある。 そうなると、資料のもとになる画像は何らかの形で他の方が作成したものを二次的に使用する事が多くなる。しかし、 安直に教科書をスキャナーで取り込んだり、Web上の画像をコピペしたパワーポイントファイルを使う訳にはいかない。

となると、著作権者の許諾をいちいち求めなくても利用できる便利な教科書的な図が無いものかと思う。

クリエイティブ・コモンズという考え方がある。著作権の利用範囲(利用許諾条項)に関する意思表示のあり方で、クリエイティブ・ コモンズ・パブリック・ライセンス(Creative Commons Public Licence)という形態の許諾方法(ライセンス) が提唱されている。詳しくはこちら

実際に、クリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスという「著作権の利用範囲(利用許諾条項)に関する意思表示のあり方」 のみを決めても、各国の著作権法(あるいはそれに相当する法律)との整合性がなければ、有効に機能しないので、 このようなNPOの存在自体は望ましいものだ。

しかし、 NPO法人がライセンスを提供するかの如きホームページであるが、本来の意味でのCreative Commons Public Licenceは、「著作物の利用を許諾する際の基本的な考え方」と「著作物の定義と、具体的な許諾の範囲・方法」なので、 このホームページの” クリエイティブ・コモンズは, 創造的な作品に柔軟な著作権を定義するライセンスを提供するNPO法人です. ” という、一見、特定のNPOがクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスを提供しているかのような言い回しは、 いささか不適切であろう。

自然科学は人類共有の普遍的な資産である。時間の淘汰をにさらされた科学的な知識は、いずれは常識に昇華する。 ・・・かもしれない。そういう意味では、 自然科学の教育の場や科学的知識の市民への普及の場で用いられる教材には、著作権や所有権という考え方はなじまないように思う。むしろ、 教科書的に知識を伝える書物や資料にはオープンソースやクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスの考え方がふさわしいように思う。

さて、実際にクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスに準拠した数学の教科書を公開しているボランティア団体がある。 ” フリー教材開発コミュニティ エフテキスト”がそれだ。高校数学の教科書なので、 これを高校の授業に採用するのはちょっと教科書検定制度への挑戦の香りがするが、どうなんだろう(ちなみに、 大学の講義でつかう教科書については、学校教育法の定める教科書検定の対象ではない)。

明日から新年度。農林団地の桜も満開だ。

教官でもないのに、遺伝子組換え技術の基礎を講義しなくてはならない場面がまたやってくるのだろう。 こういうものが生物学分野でもできれば資料作成に便利なのになぁ、と思う今日この頃。

同じような立場の生物学分野の研究者がネット上で寄り集まって、生物学分野のクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ ライセンスに準拠した教材が作れないものだろうか。・・・こういう企画、科研費でどう?

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2008年3月27日 (木)

Molecular gastronomy?

 分子美食学(molecular gastronomy)と言う研究分野があるらしい。(畝山さんの食品安全情報blogより)

 今週のnature (The man who whipped chocolate)によれば、

 

This month marks the 20th anniversary of the   scientific field of 'molecular gastronomy', the study of   culinary transformations, as first laid out in Paris by French   chemist Herve This and Hungarian physicist Nicholas Kurti in   1988.

とある。化学と物理学の融合分野で、伝統的な料理の素材や加工プロセスを化学的・物理学的に理解して、 再構築する事を目的としているらしい。

 素材の特性にうるさい日本食を常食としている私たちから見ると、 どうしてそこに生物学が含まれていないのか不思議な気がする。Dr. ThisとDr. Kurtiの間では次のような不思議な理解が生まれたらしい。

 

We agreed cooking is a chemical art, like   making soap, like metallurgy. We agreed this was the last   chemical art that had not been rationalized.

 でも、私はあえて言いたい。"Cooking is also a biological art, like making sushi, like salad."と。刺身やサラダは細胞でできていて、 魚や野菜の細胞は、咀嚼で機械的に破壊されるか、私たちの胃や腸の消化酵素で分解される、その最期の瞬間まで呼吸をしていて、 細胞としては生きている存在なのだ。納豆やヨーグルトには何十億という生きた細菌がひしめき合っており、 生き物それ自体を食べているのだと。

 だから、食材を物理化学的に単なる”もの=物質”と理解する試みによって、料理そのものを理解しようとすると、 部分的にはきっと失敗する。また、そのようなアプローチでは、調理という加工プロセスのある部分の改善はできるだろが、 素材そのものの生物学的特性を改変して、より調理しやすい素材、あるいは、 調理した際によりおいしい素材を開発することには結びつきにくいだろう。"Molecular gastronomy"には、 生物学の要素が必要なのだ。

 実は、「加工した際によりおいしく食べられる」という、 エンドユーザー向けの理化学的特性の改善を目標に開発された作物は、日本には結構ある。

 剥きやすい大粒の栗”ポロタン”や、短時間の加熱で甘くなるサツマイモ”クイックスイート”、 貯蔵タンパク質11Sグロブリンの組成を改変してより豆腐作りに向いたダイズ(開発中)、 グルテンを構成するタンパク質の組成を制御してパンの品質を良くする硬質コムギ、ルーの浸透性を考慮したカレーライス向きのお米”華麗舞” etc.・・・。

 調理や加工に要求される物理化学的な要求性が、物理化学的な数値として測定可能な水準に達していない食材 (=作物)については、この種の改良がまだできていない。そういう作物の改良には、調理や加工のプロセスを物理学的、 化学的な物理量として記述し直すことができる”molecular gastronomy”との共同作業が大いに役立つだろう。また、 新しい物理化学的特性を持った食材は、調理や加工の可能性を広げ”molecular gastronomy”の発展に役立つかも知れない。

 これまで、こういう品質の改良は当たり前だと思ってあまり深く考えたことがなかったのだが、 作物のエンドユーザー向けの理化学的特性の改善は実は世界最先端の研究分野の一つなのかも知れない。

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2008年3月26日 (水)

遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準ともう一つの視点

 Niftyのメンテナンスで1日あいてしまった。

この数日、私のGoogle等で「ナチュラルオカレンス」 をキーワードにして私のblogを訪問する方が増えていると思ったらそういうことでしたか。先週来、 アクセスログには、明治製菓、 キッコーマン、キリンビール、ヤクルト、 月桂冠など研究レベルでは組換え微生物を使用しており、 組換え微生物の食品利用における有効性に関心があると思われる企業からのアクセスが増えてきている。 いずれも、 Google等で「ナチュラルオカレンス」 をキーワードにして私のblogを訪問しています。
 
# ここで公開されると困るのであれば、会社からアクセスしちゃいけません。
 
3/17に食品安全委員会の第59回 遺伝子組換え食品等専門委員会で 「遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準について」の議論が行われた。
 
会合の主な目的は、遺伝子組換え微生物を利用して製造された食品(遺伝子組換え微生物を含むもの) の安全性評価基準の草案を固めること。ですから、乳酸菌、酵母、 糸状菌などの微生物を利用した製造プロセスを持つ食品メーカーにとっては、 将来に亘る製品開発に影響する可能性が高いので重大な関心事でしょう。
 
残念ながら、3/25現在、議事録は公開されていないので、専門委員会の検討の結果、素案にどのような変更があるかはうかがい知れない。 現状で確認できる専門委員会の資料は素案と他の安全性評価基準との対照表のみ。 従って、このblogでもすでに公開されているもの以上の新しい情報はありません。
 
メーカーの皆さんの関心事は、遺伝子組換え嫌いの最近の消費者の動向を鑑みれば、おそらくどのような菌株ならば、 遺伝子組換えでない (あるいはナチュラルオカレンスである)といえるのか?ということかもしれません。
遺伝子組換え技術から除外されるナチュラルオカレンスについては、公的な定義のない用語なので、 今後ともこのような基準に取り込まれることはないでしょう。少なくとも、「ナチュラルオカレンス」 に該当する事象の範囲はCODEXの議論を受けてカルタヘナ議定書の見解を踏襲することになるはず。
 
生きた組換え(?)細菌を含む製品の場合、プロセスベースで判断するのか、プロダクトベースで判断するのか、 他の法律や国境措置とのかねあいもあってなかなか判断が難しいところです。このあたりの論点整理は、 遺伝子組換え食品等専門委員会のメンバーでもある東京農工大の小関先生が纏めておいでです
 
なお、今般公開された安全性基準案では、第3において次のように記述されている。
”本基準において対象とする遺伝子組換え食品(微生物)は、原則として、 「組換えDNA技術によって最終的に宿主に導入されたDNAが、 当該微生物と分類学上の同一の種に属する微生物のDNAのみである場合」、又は 「組換え体と同等の遺伝子構成を持つ生細胞が自然界に存在する場合」 に該当する微生物を利用して製造されたものは含めないものとする。”
即ち、基準の対象は最終産物(プロダクト)としての微生物であると述べられていますので、 プロダクトベースで判断することとされています。従って、バクテリアのゲノムに抗生物質マーカーを挿入してKNOCK OUTしたあとで、マーカー遺伝子を完全に除去する技術を使用した場合には、 その微生物を使用した製品は安全性審査の対象にはならないことになります。ただし、 ラベル表示の問題は食品安全委員会で検討する事項ではないので、 プロダクトベースで遺伝子組換え食品ではないと考えられるものであったとしても、 表示しなくて良いかどうかはリスク管理の問題ですので、 食品安全委員会の基準とは別に農水省の判断によると考えた方が良いでしょう。
 
今回の評価基準に固有のポイントは以下の通り。
”微生物由来の食品の安全性を考える際に、 他の遺伝子組換え食品の安全性評価項目に加えて特に慎重に考慮すべき点は、 遺伝的安定性、遺伝子伝達の可能性、 遺伝子組換え微生物のヒト消化管での定着性、 遺伝子組換え微生物とヒト腸内フローラとの相互作用、 遺伝子組換え微生物のヒト腸管系及び免疫系への影響、 遺伝子組換え微生物を利用した個別の食品製造に特有な問題等である。”
実験的に腸管内で起こる遺伝子の水平伝達の可能性や程度を評価することは非常に難しい。 プラスミドを持つLMOの場合は、 複製開始点の機能する宿主域についての文献的な知識で良いのだろうか。 遺伝的安定性は、宿主となる菌株の安定性 (内在性トランスポゾンを持たないなど)だろうか。 ヒト消化管での定着性というのは、 定着性が高い場合でも健康に悪影響がなければよしとするということだろうか。また、 「免疫系への影響」に至っては、 どう評価したものか。
 
今回の安全性評価基準では、具体の項目を定めた第3章II.-第3に評価のポイントがある。・・・が、 結局はどのような試験をしなくてはいけないのか非常にわかりにくい。
”7 腸内フローラへの影響に関する事項
組換え体のヒト腸内フローラへの影響に関し、安全性の上で問題がないと判断できる合理的な理由があること。

8 腸管系及び免疫系への影響に関する事項
組換え体のヒト腸管系及び免疫系への影響に関し、安全性の上で問題がないと判断できる合理的な理由があること。”
さて、どうやって評価したものか。付帯的に調査方法のガイドラインでも策定してくれれば良いのだが(ちなみに、 今回素案を検討した調査会のメンバーでは五十君先生が腸内フローラの研究分野、 澤田先生がアレルギー・ 免疫の分野)。
 
どうやら新規の組換え生物を含む食品の前途には冥く長い道が横たわっているらしい。
 
もう一つの視点は食品の安全性とはまた別。
 
仮に、遺伝子組換え乳酸菌を使ったヨーグルトや遺伝子組換え酵母を含むワインを海外で購入して、 日本で飲食しようとする場合に、 食品衛生法とは別の法律上のリスクがある。
もしかしたら、あなたは食品のパッケージを開けた途端にカルタヘナ法第4条に違反するかもしれない。 カルタヘナ法第4条では、次のように規定されている。
(以下 略)
食品に含まれる生きた遺伝子組換え生物を「食べる」行為は、 使用等にあたる可能性が高い。 食品のパッケージを開けると、 法律で定められた「拡散防止措置」を執らないで行う使用等(即ち、「第一種使用等」) にあたる可能性が高い。 屋内での使用等であっても、法律で適切な拡散防止措置が規定されていない場合、 あるいは主務大臣の確認した拡散防止措置を執っていない場合には、第一種使用等に該当すると考えられる。
 
なお、第4条違反の罰則は、同法第39条で「六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、 又はこれを併科する。」とされていますので、 組換え酵母を使用したワインの栓を抜く前には、 拡散防止措置を執りましょう。(って・・・どうやって?)
 
・・・という馬鹿馬鹿しい事態にならないようにするためには、あらかじめ、 コモディティーとして流通している組換え作物同様に、 第一種使用規程を策定して申請しておくか、同法第4条第1項の 「特定遺伝子組換え生物等」の指定を受けておくんでしょうね。 食品の場合の主務大臣がどなたかは存じませんが。
 
今のところ、国際的にも「特定遺伝子組換え生物等」の指定を受けたものはないと思いますので、 この方法でカルタヘナ法をクリアするのは、なかなかハードルが高いと思いますので。
 
これに類似した件について、東京農工大の小関先生作成の資料では 「虫歯に良い乳酸菌入りヨーグルトをLA の空港で食べたら日本に帰れない?」 と書いてあります。 カルタヘナ議定書やカルタヘナ法では、 遺伝子治療を受けた人や組換え生ワクチンを投与された人は遺伝子組換え生物扱いされないことになっているのですが、 口の中や腸内で遺伝子組換え微生物を飼っている人の場合はどうもビミョーな感じがします。
 
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2008年3月24日 (月)

生物学にBig scienceは似合わない? -あるいはomicsの黄昏?-

最近、シーケンサーの能力の爆発(もう向上という水準ではなくなりつつある)についてのエントリーを書いた。 シーケンサーの能力の向上は、ゲノミックスを中心的な業務としているラボの姿を一変させる可能性を秘めている。

従来のスタイルは、Wet中心の実験室+シーケンサーを動かすためのバックヤード(テンプレート調整&キャピラリの洗浄・充填) というシーケンス工場だったが、これからのスタイルは実験室+"storage farm"かもしれない。これまで、 シーケンサーを設置していたスペースが空き、稼働準備のための設備も大半は必要なくなる。

理研のゲノム科学総合研究センターの解散が報道されている。以下は、毎日新聞より。

 


 

 

ヒトゲノム:研究の長期戦略どこへ 理研の科学総合センター解散へ

 人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)を解読する国際ヒトゲノム計画に貢献した「理化学研究所ゲノム科学総合研究センター」 が3月末に解散する。産業への貢献が期待されたほど進まず、政府が独立行政法人の合理化を進める中で、見直し対象になった。 欧米でも研究方針は頻繁に修正されるが、研究拠点の解散は珍しい。研究の一部は新組織で継続されるものの、 センターとしての活動は10年間で終了することになり、ゲノム研究の長期戦略が論議を呼びそうだ。【田中泰義、青野由利】

 ◆10年間で1264億円投入

 ◇人材と資金を集中

 ヒトゲノム計画は1980年代に提案され、米国を中心に国際協力で進められた。日本も90年代初めから参加し、 98年にセンターが発足した。生物分野では初めて人材と資金を集中させた大規模研究機関で、10年間で約1264億円が投じられた。

 この間、センターは21番染色体のゲノム解読で中心的な役割を果たし、チンパンジーやマウス、 シロイヌナズナなどのゲノム解析でも成果をあげた。機能を持つ遺伝子のデータベースもマウスで作成した。榊佳之・同センター長は 「新たな万能細胞である人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発も、われわれの基盤的な研究成果が支えた」と強調する。

 ◇学問的検討が不足

 一方で、生物学における大型研究の戦略には課題も残した。

 ゲノム解読では、使用機器の開発などに日本人が貢献した。しかし、日本の解読率はヒトゲノム全体の1割に満たなかった。 このため「適切な時期に資金が投入されず、十分な国際貢献ができなかった」との批判が出た。

 こうした声を踏まえ、政府は02年度以降、遺伝子から作られるたんぱく質の立体構造を決めるプロジェクト「タンパク3000」 に積極的に予算を計上した。センターを中心に約578億円をつぎこみ、4187個の構造を決定したが、 期待されたほど医薬品開発に直結しなかった。成果は見えにくく、再び研究戦略が問われた。

 中村桂子・JT生命誌研究館長は「生物学は本質的に大型プロジェクトになじまない。ゲノム解読はプロジェクトに合う、 まれな例だった。解読終了後は、それをどう展開するか考える必要があったのに、 国際競争と称して学問的検討のないままタンパク3000などに資金を投じた」と指摘する。

 結果的に組織は解散が決まった。センターを構成する5研究チームのうち1チームが研究を終了。 他の4チームは理研の他組織と統合した新領域などとして再スタートする。

 ◇行革「見せしめ」の声も

 合理化による研究拠点の改組を外部の専門家はどうみるか。

 隅蔵(すみくら)康一・政策研究大学院大学准教授(科学技術政策)は「この分野の基盤は整備され、 研究機関にとってゲノム解読装置やデータベースなどは普通のインフラになった。 選択と集中の観点から発展的に研究体制を再編するのは妥当ではないか」と受け止める。

 確かに、解読装置の機能向上は著しい。00年ごろにはヒトゲノムを1台で解読するには4年以上かかった。 それが今では25~40日で可能となり、10年にはわずか約2分に短縮される見通しだ。 大量の機器を一研究機関に集中させる必要性は薄らいだ、との見方はセンター内にもある。

 一方、吉岡斉・九州大教授(科学技術史)は「内外での評価を踏まえた上での判断と考えるが、 行革のために見せしめ的に行った印象を受ける。研究機関に対し、短期間で成果を出せという風潮が強まるのではないか」と警戒する。

 榊センター長は「10年間の成果が活用できるよう、国には今後も十分な対応を求めたい」と話している。

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 ■ことば

 ◇ヒトゲノム解読

 人間の遺伝情報は細胞のDNAに、4種類の塩基を組み合わせた暗号文字で書き込まれている。 ヒトゲノム計画は人間の全遺伝情報を担う約30億塩基対の配列を解読する国際プロジェクトとして90年代初頭に始まり、 03年に終了した。その後、研究の焦点は、遺伝子の働きやたんぱく質の構造と機能、RNAの役割などに移ってきた。 DNAなどの分子が細胞内で構成するネットワークの解明や、ゲノム解読で得られる大量データの情報処理も課題となっている。

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 ◇ゲノム計画の歴史◇

1988年 国際ヒトゲノム計画を推進する国際組織「HUGO」設立

  90年 国際ヒトゲノム計画開始

  96年 参加国が解読結果を直ちに公開することなどで合意

  98年 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター発足

2001年 ヒトゲノム解読概要発表

  02年 タンパク3000計画開始

  03年 ヒトゲノム解読完了

  07年 タンパク3000計画終了

毎日新聞 2008年3月23日 東京朝刊

 


 

 文部科学省出向中に、理研のゲノム科学総合研究センターを訪問したことがある。タンパク3000の幕引きの前年、 2006年だったと思う。壮大なシーケンサー工場と、NMRパークが印象に残っている。もし、 この施設を維持することが目的化してしまったら大変なことだな、と。そういう意味では、技術的な理由、あるいは知見の集積の結果、 巨大工場が要らなくなったので、スクラップ・アンド・ビルトで組織を改めるというのは、むしろ歓迎するべき出来事だと思う。

 理研のシーケンス工場のシーケンサーは、島津と共同開発したRISAシリーズのキャピラリーシーケンサーだ。 384本の石英キャピラリーを備えた電気泳動タイプのシーケンサーとしては、単体での処理能力は世界有数のものだったと思う。 1PASSで読める長さも900bp前後あったはずなので、 完全長cDNAプロジェクトなどでは信頼性の高いデータの蓄積に一定の貢献があったと考えられる。しかし、装置が大型である、 キャピラリーの洗浄やセットアップに専用の装置が必要である等、設備的・ 人的な稼働コストが結構かかる点が災いしてそれほど普及しなかったように思う。

 世界的なシーケンサーの開発動向はこちらのエントリーに書いたので、 ここでは触れないが、技術的な動向からいってもシーケンサー単体の飛躍的な能力向上の結果、シーケンス工場はもう要らない。だから、 行革の見せしめがどうのというのは的外れなように思う。的を射ているかどうかは、理研の運営費交付金の動向を見ればはっきりするだろう。 少なくとも、研究室のインフラになる様な小型シーケンサーはこれからも存在し続けるだろうし、 ゲノムプロジェクトをコンパクトにしたようなスーパー・シーケンサーは、それとは相当に異質な代物だ。科学史研究者は、 技術論に精通しているのだろうが技術そのものには疎いのかもしれない。

 ゲノム研究への投資のタイミングを逸したというのはもはや動かしがたい史実であろう。しかし、 10年間で1264億円という事業費は巨額か否か?見出しに数字があると、巨額であることを印象づける結果になるのだが、 この分野での他国の投資と解読率との比較がないのは記事としてアンフェアだ(もっとも、サンガーセンターと比べられると負けちゃうような気はしますが) 。もっとも、これとて宇宙開発予算の端数にしかすぎない。

 もともと、ヒト・ゲノム研究は、 ヒトの遺伝子のフルセットがどうなっているのか分からない時代に散発的ながん研究があまりに多かったので、 研究基盤を整備する意味で始められたように思う。今日ではヒト・ゲノム研究も終了し、基盤的なデータセットが一通り揃ったところなのでで、 そもそものヒト・ゲノム研究のきっかけになった、がん研究等の個別研究に資源を再配分する時期では無いだろうか (こういう視点が科学史の研究者から出てこないのがちょっと悲しかったりする)。

 タンパク3000にしても、ヒト・ゲノムにしても、計画の立案時から見て、タンパク質の立体構造に関わる知見や、 ゲノムや遺伝子に関する基本的なものの見方が随分変わってしまった(※)。それは、これらのプロジェクトのアウトプットによる影響であり、 プロジェクトのアウトプットが、プロジェクトの前提条件となる知識基盤を動的に変容させてきた過程を表している。

 しかし、ゲノム研究やタンパク質の構造解析の結果、なにかすぐに社会の役に立つ成果が得られると誰が考えたのだろうか? 私はそんな無責任なことを言う専門家が居るとはちょっと考えられないのだ。特に、 タンパク3000のプロジェクト企画段階では分子標的医薬はまだ実用化されても居なかっただろうから、 医薬品開発にすぐに結びつくなんて誰が言い出したのか。記事では”期待されたほど医薬品開発に直結しなかった”というが、 誰がそんな期待をしたのだろう。

 


 

※ どう変わったは、一言では言いにくい。

私は素人だが、 タンパク質の立体構造は構造モチーフ情報の集積と計算機科学の進歩によって基本的な3次構造から予測できるようになってきており、 必ずしも結晶構造解析をして決定しなければ前に進めないという状況ではなくなりつつある。このような進歩やNMRの改良によって、 X線結晶構造解析もかつてほど必要とされなくなっている。その結果、宇宙ステーションでのタンパク質の結晶化も、どうしても必要、 という状況では無くなってきている様に思う。

ゲノムも、「遺伝子とそれ以外の部分」という括りで見ていたものが、実はゲノムの至る所から機能RNAへの転写が行われており、 ゴミタメのように言われてきた非コード領域に由来するRNAの生物学的重要性が格段に増している。また、「遺伝子」からの転写産物も、 スプライシングのされ方によって、結果として異なるタンパク質をコードしていることもあり、 遺伝子とタンパク質の対応もなかなか一筋縄ではいかなくなってきている。

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2008年3月21日 (金)

ダイズの7S,11Sグロブリンの血清脂質プロファイルに対する効果は限定的?

NIH public accessになっている論文。個人的にはショッキングだったのでメモしておく。

 


 

Adams, M.R. et al. Replacement of dietary soy protein isolate with concentrates of soy 7S or 11S globulin has minimal or no effects on plasma lipoprotein profiles and biomarkers of coronary risk in monkeys. Atherosclerosis. 2008, 196: 76-80.

[超訳メモ]

ダイズの7Sあるいは11Sグロブリンを抽出し、飼料のカゼインなどのタンパク質と置換して、サルに食べさせ、 血清中のコレステロール、トリアシルグリセロールの濃度を測定した。また、冠リスクのバイオマーカー(soluble E-selectin, VCAM-1, MCP-1, TGF-β-1,  PAI-1) との関連を調査した。

ダイズ粗蛋白抽出物では、総コレステロールとVLDL + LDL コレステロールは有意に改善し、HDLも増加した。しかし、 7Sと11S抽出物では大した効果はなかった。7S抽出物では、総コレステロールが7%増加(主にVLDL + LDLコレステロールの増加によると見られる)した。バイオマーカーについては、どの蛋白でも改善は見られなかった。

要するにサルでは、飼料のタンパク質を単離した7S,11S蛋白へ置換しても、血清リポ蛋白のプロファイルを改善しないし、 冠リスクのバイオマーカーも改善しない。

 


 

作業仮説としては、培養細胞やマウスで血清リポ蛋白のプロファイルを改善する要因になってきたものは、 比較的少数の特定のタンパク質と考えており、粗蛋白で見られた効果が、精製分画ではよりシャープに現れると期待しての実験だったのだろう。 結果は、全く意外。齧歯類で確認されたような精製タンパク質の効果は、サルでは認められなかったということ。 n=32の試験で標準誤差もよくコントロールされている様に見えるので、データの精度は高そう。

なお、ダイズ7S分画は主にβ-コングリシニン、11S分画はグリシニンからなる。11Sの方は豆腐の主成分なので、 食品のタンパク質としては日本人にはなじみ深い。

うーん。この実験結果は、かなり痛いですね。これまで、 どの蛋白がコレステロール低減や脂質改善に効果があるかを培養細胞やマウスで詰めてきた研究が多々あって、 いよいよヒトに近い霊長類でモデル実験をしたところが、コレですから。がっかりした研究者は結構多いのでは無いかと思います。 この実験結果を信じるのであれば、 コレステロールのコントロールと冠リスクに関するバイオマーカーの改善にはどの分画が良いかと言う議論は白紙に戻ったことになるわけですから。

血清リポ蛋白のプロファイル改善のような特別な効果を期待しなければ、ダイズ由来食品は蛋白源としては肉よりもずっとまし。 そもそもダイズにはコレステロールが含まれていない。でも中性脂肪が気になるのであれば、 豆腐やあぶらげにも結構な量の脂質が含まれているので、加工食品として総合的に考えるのであればケースバイケースの判断が必要。結局、 特定のダイズ蛋白が心疾患等の予防によいというヘルスクレームの根拠が無くなるかもしれなということ。

一方、この実験ではアテローム性動脈硬化に対する評価はされていないので、高血圧に対する効果については情報がない。また、 生理活性を表す実体は、タンパク質が部分分解されたペプチドだと考えられているので、 投与されたタンパク質が非常に効率よく消化されてしまって、生理活性を表すのに十分な量のペプチドが残存しなかった場合にも、in vitroの実験結果と一致しない事も起こりうる。タンパク質の消化性をコントロールして、 機能性ペプチドの状態で吸収できるようになれば、また状況は変わるのだろうが、 今度は食品アレルギーを起こす可能性が高くなるのでそちらも気をつけなくてはならない。

ところで、全く消化しないものは食べ物にならないが、植物由来の食品には加工程度によってあまり消化性の良くないものもある。 ダイズそのものは、裸のタンパク質とは違って細胞壁に囲われた細胞でできている。細胞壁自体はヒトの消化酵素に耐性があり、 胃や小腸では消化されないため、組織という細胞の固まりの状態は腸管まである程度維持されると考えられる。たとえば、枝豆や水煮ダイズは、 裸のタンパク質である豆腐やあぶらげよりも消化されにくいだろう。 納豆は粒の形状が残っているが納豆菌のプロテアーゼでタンパク質は相当程度程度分解されているが、ポリグルタミンの粘液(糸の成分) でコートされているので、ゆっくりと消化が進む(そのため遅発性アナフィラキシーが起こることがある)。従って、 抽出されたタンパク質の生理機能性と食品のそれは、消化性が異なることもあるので一致しないことも十分にあり得る。

この論文の動物実験では、抽出済みのタンパク質を加えた混餌飼料なので、 ダイズ粉末を使用した場合とも消化吸収の状況が異なると考えられる。食品という複雑なものを科学の領域で扱えるまでに単純化・ 抽象化することは、なかなか難問だ。

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2008年3月19日 (水)

ミートホープ事件結審

北海道新聞より。

 


 

ミート社偽装 田中被告に懲役4年 札幌地裁「食の安全脅かす」(03/19 13:43)

 苫小牧市の食肉加工製造卸会社「ミートホープ」(破産手続き中)の食肉偽装事件で、 詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪に問われた元社長田中稔被告(69)=苫小牧市船見町二=の判決公判が十九日、 札幌地裁で開かれた。嶋原文雄裁判長は「会社と自己の利益を計るため、食の安全への信頼を根幹から揺るがした背信的な犯罪」として、 懲役四年(求刑・懲役六年)を言い渡した。

 食の安全、安心を脅かし、食品の表示偽装が各地で表面化するきっかけとなった事件で、 判決は田中被告の刑事責任を厳しくとらえ実刑とした。

 判決理由で嶋原裁判長は、一九七六年のミートホープ設立から数年後に食肉偽装が始まったと認定。 牛肉以外の肉を混ぜたことについて、「田中被告が長年の経験を悪用し、犯行を主導した。昨今みられる食品偽装の中でも大胆さ、 悪質さは際だつ」と述べた。

 また、田中被告が公判で、「(安い肉がほしいとの)取引業者の要望を断りきれなかった」 「安価でおいしい製品を工夫して供給しようとしたため」などと、偽装を繰り返した動機を供述したことに、嶋原裁判長は 「自らが社会に及ぼした影響に対し、悔悟や罪の意識が乏しい」と非難した。

 弁護側は、田中被告とミートホープが自己破産し、社会的制裁を受けていることなどから、 執行猶予を含む寛大な判決を求めていた。

 判決によると、田中被告は二〇〇六年五月から○七年六月にかけて、 三百二十七回にわたり牛肉に豚肉などを混ぜて製造したミンチ肉に「牛100%」などと表示し、 取引先十数社に約百三十八トンを販売した。このうちの約百トンを納入した北海道加ト吉(赤平市)など三社から、 代金約三千九百万円をだまし取った。

 


 

さて、判決理由には「食の安全捨てた」 と言う言葉は使われていないようだな。とすると、この見出しはおかしい。理由は後述する。もう一つ、中国新聞から判決要旨。

 


 

食肉偽装事件の判決要旨 札幌地裁


 食肉加工販売会社「ミートホープ」の食肉偽装事件で、元社長田中稔被告に対し、札幌地裁が19日言い渡した判決の要旨は次の通り。

 田中被告はミートホープ設立当初、肉加工の際に出るくず肉の処理に困り、 設立数年後には、牛のほかに豚や羊のくず肉を混ぜた牛ひき肉の製造を始めた。本件各犯行は、 同社で行われていた偽装行為の一環だ。

 被告は取引業者や最終的に食品を口にする一般消費者を顧みず、 偽装が容易なひき肉を利用し、安価な原材料費で多額の売り上げを得て、会社や自分の利益を図ろうとした。動機は極めて利欲的、 自己中心的で、厳しい非難を免れない。

 牛肉に豚肉、鶏肉、羊肉などを加える犯行は大胆で悪質さは際立っている。 昨今の食肉偽装の中でも、原産地偽装などの事案とは一線を画す。偽装表示、詐取行為は長期間、多数回にわたって繰り返され、 取引業者の信用も傷つけた。

 食肉業界での公正な競争を害したほか、 一般消費者に食品表示に対する不安を抱かせ、食の安全への信頼を根幹から揺るがしたことは明らかで、犯情は非常に悪い。

 本件各犯行は、会社ぐるみの大規模かつ組織的犯行であり、 代表取締役の被告が専門知識を悪用し、率先して偽装方法を発案し従業員に具体的に指示するなど、自ら中心となって主導した。

 さらに、被告は犯行の発覚後、 偽装に使用していた豚の心臓などを工場外に運び出して処分し、証拠隠滅を図るなど犯行後の情状も良くない。

 被告は食品の製造・ 加工に携わる者として食の安全に関する規範意識が強く求められる立場にありながら犯行を行っていたばかりか、公判で 「取引業者の要望を断り難かった」「工場間取引には表示義務がなかった」などと述べ、 自らの行為や社会的影響を真摯に省みて悔悟する姿勢がない。

 他方で、 ミートホープは偽装牛肉の取引による利益のみに依存していた会社ではなく、捜査・ 公判を通じて事実をすべて認め反省の弁を述べているほか、 被告とミートホープはともに破産宣告を受けるなど一定の社会的制裁を受けており酌むべき事情も認められる。

(初版:3月19日12時40分)

 


 

読売新聞、中日新聞でも裁判所の判断は 「食の安全への信頼を根幹から揺るがした」であったと伝えられているので、そうなのだろう。論告求刑の際に、 検察側は『食の安全』を捨てた恥も外聞もない行為 と言ったと伝えられている。本件裁判では「食の安全」 に関わる食品衛生法違反が裁判の争点になっていないにもかかわらず、 である。どこかズレている。

一方、裁判所はさすがに「食の安全を揺るがした」とは言っていない。 そのかわり「食の安全への信頼を根幹から揺るがした」と言った。 この犯罪が揺るがしたのは「安全」そのものではなく「安全への信頼」だったと。流石に、 裁判の争点になっていないことを判決理由にはできなかったのだろう。

それを知って、私は少しほっとしているところだ。 司法の公正に対する信頼が少し揺るぎかけていたところだったので。

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2008年3月17日 (月)

「きぼう」への投資を回収する?

宇宙空間に日本の物置小屋ができた・・・今般のシャトルで打ち上げられた「保管室」の取り付け成功は、つまるところそういうことだ。

20年の歳月と巨額のプロジェクト運営経費、最高の製造技術、そしてロボットアームを操作する匠の技をもってして為し得た成果。新聞各紙の書きぶりではそんな感じだ。それを物置小屋と言っていけなければ、倉庫だ。実験室本体ではないので、保管室というユニット自体の機能はきわめて限定的だろう。

私は、ここまでの成果を貶すつもりはさらさら無いが、新聞社の社説を見ていると、早くも成果を口にし 始めているので、私は冷めた目で現状を見直したいのだ。各紙の社説では喧しくも、早く資本を回収しろと言わんばかりの論調が飛び交っている。まだ実験室さえできていないのに、何を言ってるんだろう。寝言を言うのは寝ているときだけにしていただきたいものである。

 


 

読売新聞から。

これまでに政府は、ステーション計画に6000億円以上の予算を投入した。今後、ステーションの維持や日本独自の無人輸送船開発・ 運用などを合わせると、1兆円を超える費用がかかる。

 巨額の投資を無駄にしないよう幅広い活用策を模索し、役立てることも大事だ。国際協力は、そのひとつだ。 宇宙実験にアジア地域の国に参加してもらうなどの取り組みにも期待したい。

朝日新聞から。「「きぼう」―1兆円を生かせるか」

 しかし、肝心なのは、そこをどう使い、どう生かしていくかだ。

 きぼうの建設費は約5500億円、物資の輸送など運用に今後、毎年約400億円かかる。 準備段階も含めれば合計1兆円に達する巨大プロジェクトである。どのようにして巨額の投資に見合う成果を上げるのかが問われている。

(中略)

日本として何をめざすのか。今こそ、しっかりした計画が必要なときだ。

 


 

大新聞社にかかると、JAXAも文科省も、まるでなーんにも考えてない様な言われぶりだ。

 


 

日本経済新聞から。「宇宙実験、夢より成果見せよ(3/12)」

 日本は計画参加に伴い、実験棟の製作などに約7000億円つぎ込み、 2015年まで毎年400億円を投じる。つまり実験棟は総額が1兆円に及ぶプロジェクトである。 当初の経緯に加え各国との付き合いもあっただろうが、さほど深慮もせず計画を続けてきたことは否定できまい。

 実験棟は無重量状態だから、当初は革新的な材料や新薬の開発ができると言われてきた。その期待は薄れつつある。 実験装置の性能が上がり、地上実験で十分との指摘もある。目を見張る成果が出ればいいが、出ないのなら実験棟を見限ることも必要だ。 有人宇宙活動は費用がかさむ。それがどれだけ役立つのか。費用対効果を見極めるべきである。

 


 

さすが投資家向けの新聞です。7年先までにはどれだけ役に立つか示せと・・・。

いずれも、建設までに5,500-7,000億円の巨費を投じたこと自体を問うており、 2015年までの7年間で費用対効果に見合ったかどうか評価しろ、と言っている。短期で資本を回収させるタイプの製品向けの技術開発でもあるまいし、何を考えているのかさっぱり理解できない。だいたい、大雑把な見積金額でも1,500億円も違っちゃってて、彼らは何を見てるのだろう。概算値の端数だけでiPS細胞の研究費(5年で100億)の15倍、単年度20億だとすると75年分の研究費に相当する。年間400億の事業費というところは二社共通だから本当なのだろうが、これだって医学・生物学の分野から見ると桁違いの巨額だ。

※ 書いててだんだん腹が立ってきた。

今のところモノオキが一つできただけで、実験室の完成はこれから控えている大仕事だ。それさえも、研究のための設備が整ったということに過ぎない。宇宙実験室が本領を発揮するためには、そこで研究が行なわれなければならない。それがなければ、”箱物行政”と一緒だ。

ちなみに、私は研究に投じた経費から、それに見合った成果を回収しようと考えてはいけないと思っている。手作りの装置でちまちま実験してノーベル賞を取る人もいれば、スーパーカミオカンデやITERのように巨大装置を建造しないと実験できない人も居る。紙と鉛筆で良い人もいれば、スパコンが必要な人もいる。研究の遂行に必要な資源の投資は、ピンキリだ。

研究のアウトプットも様々。それが世の中に役立つこともあれば、役立たないこともある。すぐに役立つこともあれば、100年を経てようやく役に立つ研究も、1,000年経とうが役に立たない研究もある。研究成果が社会的に意味をもつまでの時間のスパンは様々だし、波及効果の現れ方も様々だ。いずれにしても、短期的な経済的波及効果で研究の真価を計ることは誰にもできないし、人類に対する貢献という意味では、その尺度は適当ではない。

つまり、「投資に見合った成果」というものは、成果自体を評価するための明示的で、なおかつ社会的に合意のある尺度が存在しない以上、幻想に過ぎない。(定量的な議論の前提が成り立たない、ダメな議論、と言う奴だ。)

まして、宇宙空間で行われる実験を必要とする研究に対して、「日本の国際競争力」がどうの、とか「公費で行われる研究なので納税者に対する説明責任」がという戯言は聞きたくもない(後者は耳が痛い)。そんなものに役立つことが予めわかっている研究なんておよそつまらない。また、私の想像力では、国際宇宙ステーションでできる生物学実験が、かつての”宇宙メダカ”以上のどんなインパクトを社会に与えうるのか全くわからない(・・・私の頭が硬くなってきてるのかな)。

私人のblogなので、またしても勝手なことを言うが、科学は、芸術やスポーツと似ているかもしれない。音楽に酔い、絵画を楽しみ、競技者の超絶的な技量を楽しむように、科学を楽しんでほしい。オペラハウスを作るのに巨費を投じたのに、つまらない演奏をしやがってとか、巨大サッカースタジアムを建ててやったのにJ2かよ!などと言ってほしくないのだ。プレイをする場の値段は、そこで行われる演奏、競技、研究の価値とは関係ないのだから。

日本経済新聞風に言えば、「宇宙実験、成果より夢見せよ」だ。すでに建設には巨費を投じてしまった。回収できる目処はまずないのだから、あとはどんな夢を描かせてくれるかが勝負だ。

※ さて、今シーズンはコンサドーレもJ1だ。これを、器に見合ったチームという評価をする人が居るのだろうか?

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2008年3月14日 (金)

葉緑体形質転換のちょっと微妙なところ

日本国内で遺伝子組換え生物を作成する場合、カルタヘナ法の規制がかかる。研究開発段階の遺伝子組換え生物の使用等(たとえば実験) の場合は、文部科学省の研究開発二種省令に従って拡散防止措置を執らなければならない。

遺伝子組換え植物を栽培する場合、大抵は最初はP1Pレベルの拡散防止措置を執って栽培するが、 やがて組換え体の評価が進んで個体数も増え、栽培室が手狭になってくると、特定網室レベルの拡散防止措置を執る場合がある。

特定網室で普通に栽培できる(つまり大臣確認をしないで)遺伝子組換え植物の条件は、研究開発二種省令では、 第五条第四号に次のように定められている。

ホ 次の(1)から(4) までに掲げる要件のいずれにも該当する遺伝子組換え生物等 別表第五に掲げる特定網室の拡散防止措置とすること。


(1) 供与核酸が同定済核酸であり、かつ、哺乳動物等に対する病原性及び伝達性に関係しないことが科学的知見に照らし推定されること。
(2) 供与核酸が宿主の染色体の核酸に組み込まれており、かつ、転移因子を含まないこと。
(3) 花粉、胞子及び種子(以下「花粉等」という。) の飛散性並びに交雑性が宿主と比較して増大しないことが科学的知見に照らし推定されること。

(4) 微生物である遺伝子組換え生物等を保有していない植物であること。

大抵の組換え植物は問題なくクリアできるが、ちょっと引っかかるのが(2)。葉緑体形質転換の場合は、 導入した供与核酸は葉緑体ゲノムに取り込まれるのだが、葉緑体のcpDNAを「染色体」と言っちゃって良いのだろうか?

(2)の文章の意図は、 「供与核酸がエピゾームとして挙動したりトランスポゾンそのもののように転移して組換え生物の特性がどんどん変化するものは、 リスク評価済みとは言えないよね」というところだろうから、仮にcpDNAを「染色体」と言えなかったとしても、 リスク管理上は葉緑体形質転換植物を特に強く規制する必要はない。

なぜならば、葉緑体は一般に母性遺伝することから、そこに外来遺伝子を導入した遺伝子組換え植物では、 雄性配偶子である花粉を媒介した外来遺伝子の拡散を防ぐことが期待されており、 医薬品成分などフードチェーンに入ってほしくない物質を組換え作物で生産させる際のキーテクノロジーの一つとなることが期待されている。 リスク管理という点では花粉を媒介して外来遺伝子が拡散する可能性が非常に低いことから、 特定網室での栽培を規制するべき理由はないことになる。

だが、cpDNAを含む葉緑体内の構造を日本語で葉緑体の「染色体」と呼ぶかと言えば、普通は言わない。 良くって、核様体(chloroplast nucleoid)。英語表現では"Chloroplasd chromosome"と言わなくはないが、PubMedで見ても、この10年くらいはあまり使われていない表現だ (私が学生の頃は、まだそういう論文を見たことがあった)。従って、杓子定規に文言を解釈すると、葉緑体形質転換植物は(2) の条件を満たせないかもしれない。

なので、葉緑体形質転換体を特定網室で栽培しようと考えている研究者の皆様には、 その前に文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理安全対策室に、cpDNAを「染色体」 と言って良いかどうか照会することをお勧めします。

もし、規制当局から「染色体」と呼べないと解釈された場合には、 栽培の前に大臣確認申請をしてきちんと手続きをしておく必要があります(怠ると、ひょっとすると科研費をカットされちゃうかも知れませんね) 。

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2008年3月13日 (木)

高オレイン酸ダイズと低リノレイン酸ダイズ

遺伝子組換えダイズのうち、脂肪酸組成を変化させて加工後にトランス脂肪酸を発生させにくくした物がある。

デュポンの高オレイン酸ダイズモンサントの低リノレイン酸ダイズがそれだ。ダイズの脂肪酸組成におけるオレイン酸、 リノレイン酸の比率は環境変動が大きいものの遺伝的にコントロールすることができる。

デュポンの高オレイン酸ダイズは、遺伝子組換え技術で脂肪酸組成を変化させたもので、食品安全性の確認は平成13年3月に行われている。 なお、食品安全委員会の設立は平成15年なので、当時の審査は厚生労働省の食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会で行なわれた

一方、モンサントの低リノレイン酸ダイズ(商品名"VISTIVE")は、いくつかのバージョンが開発されており、 現在普及しているものは、遺伝子組換え技術で除草剤耐性を付与しているものの、低リノレイン酸の性質については従来型の育種で達成している。 除草剤耐性については既に評価済みであり、低リノレイン酸の性質については食品安全性の確認は不要という事になる。

なお、モンサントでは次期バージョンでは遺伝子組換え技術でその他の形質を改善した物も準備中

私は、この2つを混同してしまって、電話であった問い合わせに”VISTIVEについても食品安全委員会で審査中だったと思う” と回答してしまった。カワダさんごめんなさい。二重に間違えました。

「遺伝子組換えダイズであって、健康に良い物を指向して開発された」と言う意味では、 質問に照らしてどちらも間違ってはいないんですが、「健康によい物を指向して遺伝子組み換えされた」というものではありませんでした。 機会があればお詫びして訂正いたします。

# 先ほどアクセスログを見ると、今日の電話の直後に、県庁からこのblogをご覧になってる様でしたが。

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2008年3月12日 (水)

植物性乳酸菌でダイズのアレルゲンを除去

uneyamaさんの食品安全情報blog経由。

http://www.eurekalert.org/pub_releases/2008-03/uoia-uoi030608.php

植物性乳酸菌 Lactobacillus plantarum でダイズを発酵させると、アレルゲン性が低下する。 目標はアレルギーのヒトに対するゼロトレランスの達成だそうです。

乳酸菌は菌体外に酵素を分泌するので、その性質を利用して腎臓病食用のお米の除蛋白に既に使われている。ダイズでもできるという、 当たり前と言えば当たり前の研究。

なお、納豆菌 Bacillus subtilis nattoも菌体外にプロテアーゼを出します。が、 納豆にするとダイズが最終的にアレルゲンフリーになるかどうかは不明です。納豆による遅発性アナフィラキシーの症例もあるので、 よっぽどよく発酵させないとアレルゲンフリーにはならないんでしょうね。

 

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2008年3月11日 (火)

食品安全委員会がメタミドホスの急性参照用量(ARfD)を公表

以前、朝日新聞のちょっとどうかと思う勘違い報道をもとに、食品安全委員会農薬専門調査会幹事会でとりまとめられたメタミドホスのADIとARfDについてのエントリーを書いた。

今回はその続報。今回は審議案がパブコメにかかっているので、国民が行政に意見を言える機会としては、 前回の原案時点よりも重要なはずのだが、大手新聞社は1社もフォローしていない。この分だと、パブコメ終了に(案) が取れても誰も関心を持たないんじゃないだろうか。行政手続きの流れから考えれば、評価書原案よりも評価書案、 評価書案よりも評価書のほうが重要なのだが。

以下、食品安全委員会のホームページを勝手に要約。

 

食品安全委員会、メタミドホスの摂取許容量について意見募集開始

3月6日 食品安全委員会は第229回委員会でメタミドホスの健康影響評価案をとりまとめ、農薬評価書(案)として審議案を公表した。審議案では、動物実験の結果から推定したメタミドホスの一日許量摂取量(ADI)と急性参照容量(ARfD)が提案された。

なお、ADIは長期間に亘って毒性物質を摂取した場合でも悪影響が現れない一日あたりの摂取量。ARfDはADIに比べて多量の毒性物質を一日あるいはより短時間に摂取した場合でも悪影響が現れない摂取量を指す。

今回、公表された審議案は各界の意見を聴取する目的で、3月6日から4月4日までの間、意見募集   (パブリックコメント)が行われている(審議案に対するご意見はこちらへ)    。

評価書案を見ると、

  1. 14Cあるいは32Pで標識したメタミドホスを使用した動物実験の結果から、経口摂取されたメタミドホスは、効率よく吸収されること(投与24時間以内に糞便中にはほとんど排泄されない。3-21日後までに8-21%排出される)
  2. 14Cあるいは32Pで標識したメタミドホスを使用した動物実験の結果から、経口摂取されたメタミドホスは、効率よく分解されること(投与24時間以内に、投与した標識物質の70%が呼気と尿中に排出される)      
  3. 急性毒性試験による経口のLD50はSDラットでは16mg/kg(♂)、13mg/kg(♀)。マウスでも11-23mg/kg。無毒性量は0.3mg/kg(ラット)。      
  4. 急性遅発性神経毒性は、光学異性体の間で異なること。(神経障害標的エステラーゼの再活性化程度からして、おそらく光学異性体間で代謝速度が異なるためか?)
  5. ADIの設定基準になる慢性毒性試験の概要(無毒性量は0.06mg/kg/day、イヌ、1年間)。
  6. 遺伝毒性については、変異原性、発がん性、催奇形性はいずれも陰性。      
  7. この他、試験過程に曖昧さがあるため判定に用いられなかった試験もある。      
  8. 以上の事実に基づき、食品健康影響評価を行い、急性毒性の無毒性量0.3mg/kgより100倍安全な0.003mg/kg/dayをARfD、慢性毒性の無毒性量0.06mg/kgより100倍安全な0.0006mg/kg/dayをADIに設定した。      

以上。

これ以外に検討すべき科学的事実をご存じの方は、パブコメで意見募集しているところなので意見として提出しましょう。

なお、毒劇法の基準では経口経路で50mg/kg以下のLD50の物質は毒物にあたるため、 毒劇法の規制対象になる。仮に農薬として使用された場合は、無登録の農薬として農薬取締法の規制対象にもなるでしょう。

しかし、遺伝毒性はなく、代謝も比較的速いことから(ただしヒトの場合、遅発性の神経障害が2年程度残るため、疼痛があるらしいが)、 毒物としてはまだマイルドな方です。一頃、コリンエステラーゼ阻害活性があると言うだけで「サリンと同じ!」 と声高に仰っていた大学のセンセイがいらっしゃいましたが、uneyamaさんも指摘しているように、 代謝されやすさが全然違うので毒性物質に暴露された際の予後についてもサリンよりもずっと良好なはずです。

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2008年3月10日 (月)

「食の安全」巡る摘発、昨年は最多52件・・・本当か?

食品の産地偽装、原材料の虚偽表示は、食品衛生上のリスクとは概ね無関係。

例えば、インド洋産のミナミマグロを太平洋産のメバチマグロと表示するのは、原材料も産地も偽装している事になる。法律違反だが、 食品衛生上のリスクはない。もちろんそうでないケースもあり得る。

一方、警察庁の法律違反の事例の発表では、現実のリスクとは別に違法行為として摘発されたものが全部入っている。従って、 以下の記事の見出しは記事の内容にそっているとは言い難い。

「食の安全」巡る摘発、昨年は最多52件
 全国の警察が昨年1年間に産地偽装や衛生上の問題など「食の安全」に関連して摘発した事件が、 統計を取り始めた2002年以降で最多の計52件に上ったことが、警察庁のまとめでわかった。
 このうち、北海道苫小牧市の食肉製造加工会社「ミートホープ」(破産)による食肉偽装など、原料や産地、 消費期限の偽装で21人が摘発されたほか、無許可営業などの食品衛生法違反でも69人が摘発された。

 一方、ヤミ金融の摘発件数も前年比161件増の484件で、2003年以来4年ぶりに増加に転じた。

 このうち233件で昨年1月の出資法改正で新設された「超高金利」が適用され、 確認されたヤミ金融による総被害額は約304億円に上った。

 同庁によると、約3割の事件で、暴力団関係者が摘発されるなど、依然として暴力団の資金源になっているという。

 特に「090金融」と呼ばれる他人名義などの携帯電話を利用した手口が目立ち、同庁は「巧妙化しており、取り締まりを強化する」 としている。
(2008年3月6日10時36分  読売新聞)

ま、ヤミ金も「食の安全」とは関係ないけどね。消費期限の偽装は、場合によっては食の安全上のリスクもある。

しかし、「このうち」(=52件のうち)「食肉偽装など、原料や産地、消費期限の偽装で21人が摘発されたほか、 無許可営業などの食品衛生法違反でも69人が摘発された。」とあるが、この文の食品衛生法違反にかかるのは「無許可営業などの」 という部分だけなんだろうか?

だとしたら、ひょっとして衛生上の問題について食品衛生法違反で摘発したケースは一つも無いのではないか?・・・ もし食品衛生法が、実際は「食の安全」の担保に役立っていないとしたら・・・

いかんいかん。そんな、あってはならない事を妄想してはいけない。民主党の皆さんも、食品安全庁構想もいいけど、 こういうトピックについてこそ「質問注意書」を出してほしいものだ。

ついでに、もう1件。毎日新聞より。

偽装牛ミンチ:元社長の「反省」どう判断 札幌地裁19日判決

 苫小牧市の食肉加工卸会社「ミートホープ」(自己破産手続き中)の偽装牛ミンチ事件で、 不正競争防止法違反(虚偽表示)と詐欺罪に問われた元社長、田中稔被告(69)。法廷では起訴事実を全面的に認めながら、 その言動は国民の「食の安全」を脅かした自覚に乏しく、裁判長が判決前に田中被告を諭す異例の場面もあった。検察側は懲役6年を求刑。 実刑も含めた厳しい判決が予想される。【芳賀竜也】

 「私の知識と経験を皆さんにお返ししたい。他の人がスーパーで(肉製品を)見ても(偽装は) 分からないけど、私には分かる」

 2月18日、札幌地裁で開かれた第2回公判。弁護人による被告人質問で、 今後の身の振り方を問われた田中被告は真剣な表情でこう答えた。検察官が「それは食品Gメンのようなものか」と確認すると「そうです」。 その自信にあふれた態度は、食肉の知識を悪用し、利益追求のため長年にわたって偽装を続けた行為への反省とはかけ離れていた。

 田中被告は何度か「反省」を口にしたが、それは消費者に対するものではなかった。

 「詐欺事件の被害者は(偽装牛ミンチを購入した)業者かもしれないが、本当の被害者は誰ですか」。 嶋原文雄裁判長が尋ねた。田中被告が「消費者ですか?」と答えると、裁判長は「そうですよ。(起訴状に)名前も出てこないんですよ。 みんなだまされて食べていたんだ。消費者のことがあなたの口から出てこない。その辺をよく考えてください」と一気にまくし立てた。 田中被告の不誠実な態度に業を煮やしたようだった。

 3月5日の論告求刑公判。結審間際、田中被告に最終陳述の場が与えられた。「深く反省しています」。 嶋原裁判長はまたも不審に思ったのか「求刑は6年だが、どう思うか」と聞いた。田中被告の答えは「私には分かりません」。 投げやりな答えが、51人の傍聴人で満席となっていた法廷に響いた。

 「服役する覚悟はできていますね」と検察官に問われ「はい」と答えた田中被告。弁護側の最終弁論には 「執行猶予付きの判決を求める」という言葉はなかった。判決は19日午前10時半。

 起訴事実 06年5月30日から07年6月19日の計327回、冷凍食品会社「北海道加ト吉」(赤平市) など取引先17社に豚肉などを混ぜた偽装牛ミンチ約140トンを「牛100%」と虚偽表示して出荷した=不正競争防止法違反の罪。 06年6月3日から07年5月3日の計14回、 取引先3社に偽装牛ミンチ約100トンを出荷し計約3900万円を代金としてだまし取った=詐欺罪。

2008年3月10日

検察だけズレているのかと思ったら、裁判所もズレていた。この裁判のどこに「食の安全」 についての議論があるというのか。裁判長は「みんなだまされて食べていたんだ。消費者のことがあなたの口から出てこない。 その辺をよく考えてください」と言うが、これ自体は「食の安全」の問題ではない。もし、 牛ミンチと思って豚ミンチを口にしてしまったモスレムの方が居れば、気の毒という他ないが。

なお、以前のエントリーに引き続き言っておくが、私はミートホープもその元社長も弁護する気はさらさらない。

この裁判を通じて言えることは、もし今回の事案で「食の安全」を脅かす事態があったのであれば、 それを罪に問えない法律の不備ではないだろうか。むしろ、 裁判所からその点についてのコメントがないのであれば、法の番人としては機能不全である。逆に「食の安全」 を脅かす違法な事態がなかったのであれば、法律上は「食の安全」が争点になっていないのだから、検察も裁判所もこの裁判で「食の安全」 を問う資格はないはずだ。

もし、被告人側が同じようにズレた発言をしたら、検察側からは「異議あり! 被告人側の発言は本件訴訟とは関係ありません。」、裁判所からは「異議を認めます。」・・・ なんて具合に冷たくあしらわれるのではないだろうか。

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2008年3月 8日 (土)

ニッサン・デュアリス”増量中”!?

私の”プリメーラ カミノ ワゴン 1.8G”も9年半目に突入した。そろそろ買い換え時かと思い、 デュアリスの試乗車を置いている最寄のディーラへ行って試乗してきました。

気に入った点:

静かです。とてもSUVとは思えません。シートもすわり心地が良いです。ステアリングもプリメーラとは比較にならないくらい軽いです。 しかも、とってもニュートラルです。FFにありがちな切れすぎということはありません。今、 乗ってるプリメーラのCVTよりもすんなりスムーズに加速します。静かで、そしてスムーズに加速するので気を緩めるとスピードが出すぎます。 後方視界が悪いという人も居ますが、今乗ってるワゴンもセダンと比べると相当に悪いので、それと比べればどうと言うことはありません。 むしろ、サイドミラーが大きいので、かえって安心感があるくらいです。

気になった点:

ラゲッジスペースは、今のよりも若干狭いですが、 これまでも荷物を目一杯積んだことは2回しかありませんでしたので実用的には問題ないでしょう。

トータルではかなり、気に入りました。

セールスのお兄さん曰く「今、テレビコマーシャルでも、ニッサン・デュアリス”増量中”って言ってるように、 とても人気な車種なんですよ。」

・・・それって、”ニッサン・デュアリス増殖中”の間違い・・・だよね。1台買うと、 おまけにもう1台付いてくるっていう意味じゃないよね。あるいは、カタログスペックよりも、実は大きいとか重いって意味でもないよね。 と突っ込みたくなってしまいましたが、大人なので我慢しました(とブログには書いておこう)。

ちなみに、今のプリメーラと同じ福岡の工場で作ってるのかと思ったら、まだイギリスから製品輸入しているとのこと。

年度末なので、今が買い時かな。

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2008年3月 7日 (金)

シジミ貝は紙を食べるか?

水生生物にもセルロース資化性があるんですね。初めて知りました。まずは、京大のプレスリリースをご覧下さい。 ストーリーもきれいだし、僭越を承知で言わせていただければ、Good Job!

水生生物のセルロース資化性については、古くはフナクイムシが共生原虫の助けを借りて木を食べる事が知られていましたが、 シジミ貝は自分でセルロース分解酵素を作って、紙の主成分であるセルロースを消化するのですね。他にも、 セルロース分解性の海産生物が干潟には数多く生息しているらしいので、そのうち低温・ 高塩濃度でも効率的にセルロースを分解する酵素が海産生物から単離される日が来るかもしれません。

陸地から大量の植物性有機物が供給される大河の河口やマングローブの干潟にはもっと凄いセルロース資化性を持った生き物が居るかも知れません。 セルラーゼ遺伝子をターゲットにした環境メタゲノム研究も面白そうです。

また、 流木でも間伐材でも建築廃材でも利用できる非デンプン系バイオマスというのも化石燃料の代替エネルギーの選択肢としてはアリかもしれません。

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2008年3月 6日 (木)

"ミートホープ事件"論告求刑公判 検察の主張はまともか?

読売新聞より。予め断って置くが、私はミートホープの弁護をする気はさらさらない。しかし、検察の姿勢には疑問を感じる。

食肉偽装 元社長に懲役6年求刑 地検「食の安全捨てた行為」

 北海道苫小牧市の食肉製造加工会社「ミートホープ」(破産)の食肉偽装事件で、豚、 鶏肉などを不正に混入した牛ひき肉を食品加工会社に出荷していたとして、詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示) の罪に問われた同社元社長の田中稔被告(69)の論告求刑公判が5日、札幌地裁(嶋原文雄裁判長)であった。検察側は 「動機は利益を上げるためで、身勝手で自己中心的な犯行。『食の安全』を捨てた恥も外聞もない行為で、消費者に多大な不安を与えたのに、 反省の態度が十分ではない」などとして懲役6年を求刑した。公判は今年1月の初公判から3回の審理で、スピード結審した。 判決は19日に言い渡される。

 一方、弁護側は最終弁論で「会社が破産するなど事実上の制裁を受けている」と情状酌量を求めた。田中被告は最終意見陳述で 「本当に申し訳ない。深く反省している」と謝罪した。

 論告などによると、田中被告は昨年6月までの約1年間、北海道加ト吉など十数社に豚や羊などを混ぜた牛ひき肉計約138トンを 「牛100%」と偽り出荷。うち3社に出荷した約100トン分の約3900万円について詐欺罪に問われた。
(2008年3月6日  読売新聞)

冷凍肉の解凍に雨水を使ったと報道されたことが事実であれば、衛生管理上の問題はあった可能性はある。しかし、 検察側は”食品衛生法違反”には問うていない。不衛生であったことを物的証拠を以て立証できていないためだろうか。

上記の記事によれば、問われている罪名は「詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪」である。要するに、 利益を得る目的で表示をごまかして客を欺いた、ということが犯罪にあたるということ。これは、 最終的には消費者の選択の自由を裏切る行為につながったが、事件の当時、 事業者間の取引にはJAS法の表示義務は適用されないことになっていたため、検察はJAS法違反を問うことができなかった。また、 消費者に直接販売する製品ではなかったので、不正表示を景品表示法違反にも問えなかったのだろう。

一方、食品衛生法についてなぜ罪を問うていないかはわからないが、衛生管理上問題があったかどうか、 業務方法を従業員等から聞き取ることで調査できるものの、 細菌汚染など衛生上の問題があったかどうかは物的証拠を押されられなかったため罪に問えなかったということだろうか。

原材料を偽ることは、アレルギーを起こしやすいなど健康被害に結びつきやすいものを除いては、 食品衛生上のリスクはないだろう。だから、おそらく、 アレルギーを起こしやすい食材を除いて原材料のすり替えは食品衛生法違反には当たらない。繰り返すが、私は、 ミートホープの肩を持つ気はさらさらない。しかし、検察の論告が「詐欺と不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪」 のみであるならば、「『食の安全』を捨てた」 という検察の指摘は的外れだ。NHKのニュースでも「食の安全」という言葉を使っていたので、おそらく検察側がそう言ったのだろうが、 「食の安全」を争点にするのであれば、食品衛生法違反の疑いについても検察側は裁判の場で事実関係を明らかにするべきだ。

そこに何ら違和感を覚えないで「食の安全」と言っているのであれば、我が国の「食の安全」 を法律によってどのように担保するのかという問題についての検察の観点がずれている。もし、今回の事件でも、 実際に食品衛生上の危険性があったにもかかわらず食品衛生法違反で立件できないのであれば、 食品衛生法の罰則など画餅だと言って居るのに等しい。逆に、食品衛生上の危険性があったことを具体的に示せないのであれば、 検察は裁判の場で食の安全を脅かしたと言ってはいけない。それでは十分な証拠もなく難癖を付けているように見える。 発言に公正さを欠いている点では、まるでどこかの新聞社のようだ。

しっかりしておくれ。

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2008年3月 5日 (水)

稚内の隠れた逸品-宗谷の黒牛カレー-

黒牛カレー1

頂き物の”宗谷の黒牛カレー”。内容量200gのレトルトカレーなんですが、そのうち60-70グラムは肉なんじゃないかと言うくらい、大量の かたまり肉が入っている。コストを考えてしまう大手メーカーには絶対に作れない代物だ。肉が多いと言うだけでなく、かなり美味い。 あまり辛くはないが、炒めた玉葱とフルーツのさりげない甘みが効いている欧風のカレーだ。値段は・・・頂き物なのでよくわからないが、 多分600-700円くらいではないだろうか。大手メーカーのレトルトカレーよりも高いが、 それでも各地のご当地カレーと互角に渡り合えるだけの品質と価格だと思う。

メーカーのホームページはこちら。ホームページでは、 たこカレー、ホタテカレー、黒牛カレーの3品で1,890円なり。しかし、黒牛カレーの単品はラインナップされていない。 電話注文もできるので、興味のある方はどうぞ。あるいは、宗谷岬にある直営店の”アルメリア” まで買い付けに行くのも良いかもしれない。それ以外に、どこで売っているのか皆目見当がつかない。

ちなみに、私は宗谷岬の丘の上にあるこの店に行ったことがある。観光のオフシーズンで、そりゃもう寂しい限り。客は私と妻と、 私の父のみという。いつまで営業を継続できるかわからない状態ですので、行くのであればお早めに!(・・・って、 稚内までレトルトカレーを買いに行く人もいないだろうが。)

インターネットで”宗谷の黒牛カレー”を検索しても食べた人のブログくらいしかヒットしない。 しかも、「地元にいながらこういう知らないものが稚内にはやたらと多い」と書かれている。・・・地元稚内でも、 知ってる人はあまりいないのか?もう、「幻のカレー」と呼んでも良いかもしれない。 ご当地カレーはもう食べ尽くしたと思っている方にもお勧めの一品です(味でも、レアものという点でも)。

 

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2008年3月 4日 (火)

産業技術総合研究所の特許生物寄託センターの病原微生物管理:調査委員会調査報告書公表

産総研の微生物管理については、昨年10月17日、マスコミ各紙に激しく叩かれたこともあり、 以て他山の石とすべし、という意味でフォローする。

調査委員会の調査報告書は このPDFファイル。

調査結果に基づいて産総研が執る対応策はこちら

 産総研としては、委員会からのご指摘と提言を重く受け止め、再発防止策、関係者の処分、等を検討し、 必要な対策を着実に進めてまいりますとともに、問題をご指摘いただいた方に誠実な対応を行ってまいります。また、 寄託センターの運営改善にあたっては、特許生物寄託制度との関連も含め特許庁とご相談し、適切に対処してまいります。

とあるが、今後の対応策を何時までに決め、決定した時点で改めて経産省・特許庁に報告するか、 報道陣等に公表するか、つくば市に連絡するか、地域住民に知らせるかは特に書かれていない。 特許庁と相談の部分もあるので勝手に決められないのかも知れない。

これまでの報道各社の書きぶりはこちら

「レベル3」の病原体の受入・保管について:

”人に感染した場合に重い病気を起こす恐れのある「レベル3」に分類されるブルセラ菌2株と鼻疽(びそ) 菌1株を含め、約20株の病原体を内規違反で保管・培養などしていたという。”、”外部機関の調査で、病原性の低い「レベル1」 の別のものだったことが確認されたとしている。”(読売新聞)

”朝日新聞が入手した内部文書によると、 01年の時点で、人に症状が出る危険性のある「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、84年、88年、 90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」の病原体で、人が感染すると発熱などを起こし、 最悪の場合は死に至ることもあるブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株だった。”、”一村理事は 「2年前に菌の一部を研究機関に預けていた。その菌を調査した結果、今年7月に3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」 と説明している。”(朝日新聞)

さて、実際に「レベル3」(仮にCDCの決めたBSL3だとしよう)の微生物の取扱があったのかどうか? 報道された時点では、新聞社には分かっていなかったはずだ。ニュースソースは、産総研の公表、朝日新聞の入手した内部文書、 一村理事からの聞き取りのどれかだが、実際に取り扱われた菌が何かは科学的な同定作業を行うまでは分からないものだからだ。従って、 記事の中では、結局、”確認されたとしている”、あるいは”・・・3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」と説明している” 、 という伝聞調の書き方しかできないことになる。

一方、朝日新聞の記事にはこうある。「内部文書によると、01年の時点で、人に症状が出る危険性のある 「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、84年、88年、90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」 の病原体で、人が感染すると発熱などを起こし、最悪の場合は死に至ることもあるブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株だった。」

文書から確認できる事実関係と、一般的な知識とがまぜこぜになってしまっている。 優秀な朝日新聞の社員のことだから、おそらくうかつにも混同してしまったと言うことは無いだろう。書き手の悪意を感じる。

ちなみに実際に文書から確認できたことと、一般的な知識を分けると、こういう書き方になる。

入手した内部文書によると、01年の時点で、「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、 84年、88年、90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」の病原体(ブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株) であった。

一村理事は「2年前に菌の一部を研究機関に預けていた。その菌を調査した結果、 今年7月に3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」と説明している。

なお、「レベル2」以上の病原体は人が感染すると何らかの症状が出る可能性があるとされており、「レベル3」 の病原体のうちブルセラ菌と鼻疽菌は発熱などを起こし、死に至ることもあるとされている。

産総研の文書に記録されていたこと、理事から聞き取ったこと、一般的な知識を順にならべると、 記事とはかなり違った印象になる。これ以外のニュースソースを調べると、実際のリスクは感染すると発病するおそれのある「レベル2」 の菌株293株の受入が内規違反(内部統制の破綻)であり、なおかつ、それらを十分な病原体取扱経験の無い職員に扱わせていたこと (感染リスク)である事が分かる。

私の印象としては、内部統制の甘いのんきな研究所がたちの悪い報道の餌食になったというように見える。

今回公表された調査報告書では、問題となった受入時点では「レベル3」(BSL3) とされた菌株の同定についても記事より遙かに詳細に書かれている。同定は帯広畜産大学の専門家(報告書に氏名はないが、 調べればすぐに見当はつくだろう。BSL3の細菌を扱える研究室はそう多くないだろうから。)が16S rRNA遺伝子のユニバーサルプライマーでPCRをしてシーケンスするという標準的な方法で行われている。簡便で信頼の置ける方法だが、 それでもデータベースにない配列が出てくると決め手にならない場合もある。私も土壌細菌の16S rRNA遺伝子の配列決定を手伝ったことがある(というか、3週間ほどでクローニングからシーケンスまでみっちり教えたことがある)が、 属まで見当がついても、種まではわからないものが滅法多い。

幸いBSL3の細菌であればよく調べられているはずなので、今回実験的に得られた16S rRNAの塩基配列がそれらに該当しなかったと言うことであれば少なくともBSL3でないという事だけはできる。 科学的な事実関係から言えば、少なくともレベル3ではない、ということと、もし病原体であればレベル2の細菌の塩基配列に該当する (これも大抵はよく調べられている)ので、消去法でレベル1という推定をしているのだろう。従って、 これらの3菌株による感染リスクは無いか、仮にあったとしても既知の重大な疾病に至る可能性は低いといえる。

さて、今回公表された調査委員会の調査報告書には、他の事案と合わせて、 今回の事案の問題点が5つに纏められている。79ページもあるけれども、結局は内部統制が上手く働いておらず、その要因は

  1. 一体感を欠いた組織風土があること
  2. 統治機構がうまく機能していないこと
  3. 組織としてのリスク評価能力に限界があること
  4. マイナス情報を開示するという基本姿勢が不十分であること
  5. リスク管理規程に記載された「秘密保持義務」が組織の閉鎖性につながりかねないこと

と纏められている。

詳細は報告書を読んでいただくとして、寄合所帯の独法では「一体感を欠いた組織風土があること」とか、 「統治機構がうまく機能していないこと」というのは往々にしてある。私の所属している独法でも、とかく「昆虫のヒトひとは○○だから」とか 「動物の××て本当にできるの?」など、所属で色分けする発言を聞くことが多い。私は、植物系の研究センターに居るのだが、 他の領域の方々から見ると「植物の奴は・・・」となるかも知れない。

統治機構については、職務権限がはっきりしていない事が問題とされている。産総研では、独立行政法人通則法、 個別の独立行政法人の設置法、独法の定める業務方法書等が定められているが、いずれもかなり大雑把なもので義務、権限の範囲、 行う業務などが事細かに決められている訳ではない。また、産総研の「幹部会」では、どの幹部がどの業務の執行に関し、 どのような権限と責任を持つかが不明瞭と指摘されており、”特に「幹部会で話し合われたことに関し、いったい誰が責任を持って実行し、 いつまでに完了させるのか」等があいまいになる”と言う点が強調されている。

耳の痛い話である。ガバナンスとリスク管理の体制整備と運用は、他人事ではない。 3年後には私達の独法も大きな組織改編を迎えようとしているのだから。

この報告書を受けて、産総研はいつまでに何をどうするのかを注視しよう。

# 一部の施策(受入菌株の同定根拠を供託する方に示してもらう、とか供託の際の申込みフォームの様式を改良するとか) については既に実施済み。あとはBSL2の菌株の取扱い方法など、組織改革ではなく手直しで済む部分から着手するんだろうな。

なお、特許寄託センター自体は、製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRCでも数年前から動いており、こちらではBSL2 (NBRCではL-2と呼んでいる)の配布も行っている。ひょっとしたら、そのうち一本化されるのではないかという気はしているのだが。

 

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