中国製ギョーザで殺虫剤中毒
このエントリーは予定外だが、大規模な回収騒動にまで発展している様相なので、備忘録として記録。
輸入ギョーザに殺虫剤が混入して食中毒が発生、 という事件。報道では「農薬」と書いてあるものが多いが、物質としては「殺虫剤の成分」であって、 農業上の使用でない場合は農薬とは言わない。こちらにも同様のご意見がある。
百歩譲って「農薬の成分」と書いても良いが、「農薬」と特定して報道しても良いのは、 殺虫剤の成分が農薬に由来することが分かった時点だろう。農薬は危険なもの、と言う認識が記者や編集者の意識に浸透しているということか。
今回の事件については、今後
- 製品の製造段階での安全性の管理(生産者)
- 製品の流通段階での安全性の管理(生産者、流通事業者、行政)
の2つの側面から問題にされるだろう。
まず、読売新聞
中国製冷凍ギョーザで食中毒、千葉と兵庫で3家族10人
千葉、兵庫両県の3家族計10人が昨年12月28日から今月22日にかけ、市販されていた中国製の冷凍ギョーザを食べた後、 吐き気や下痢など食中毒の症状を訴え、女児(5)が一時、意識不明の重体になるなど9人が入院していたことが30日、分かった。
両県警が調べたところ、ギョーザとパッケージの一部から有機リン系農薬「メタミドホス」が検出された。
商品は、いずれも中国・河北省の工場で製造されており、パッケージには穴など外部から混入させたような形跡がないことなどから、 警察当局は、「製造段階で混入した可能性が高い」と見ているが、国内の流通過程についても詳しく調べている。輸入元で日本たばこ産業 (JT)の子会社「ジェイティフーズ」(JTF、東京都品川区)は同日、この工場で生産された23品目の商品の自主回収を始めた。
JTFなどによると、問題の冷凍ギョーザは「CO・OP手作り餃子(ギョーザ)」と「中華deごちそう ひとくち餃子」。 東京都港区の商社「双日食料」が、中国の「河北省食品輸出入集団天洋食品工場」(天洋食品)に発注し、 天洋食品が加工から包装まで製造過程のすべてを行っている。
双日食料は、中国で商品の品質や規格をチェックし、JTFが輸入、販売。 千葉県の2家族の食べた商品は同じ工場で昨年10月20日に製造された。同じ製造日の商品は、「手作り餃子」が6816袋、 「ひとくち餃子」が4104袋輸入されたことが確認されている。
症状を訴えたのは、千葉県市川市の飲食店店員の女性(47)ら家族5人と、千葉市稲毛区の女性(36)と娘(3)、 兵庫県高砂市の男性(51)ら家族3人の計10人。
市川市の一家は1月22日、同市の「ちばコープ コープ市川店」で購入した冷凍ギョーザを食べたところ、 吐き気や下痢などの症状を訴えた。女性と長女(18)、長男(10)、二男(8)が重症、二女(5)が一時、意識不明の重体となり、 5人とも病院に運ばれた。千葉市の母娘は昨年12月28日、冷凍ギョーザを食べて体調を崩し、母親が入院、娘が治療を受けた。 高砂市の男性ら3人も今月5日、入院した。
神奈川県の2人、秋田県の1人も同じ商品を食べ食中毒症状を訴えており、県などが関連を調べている。
厚生労働省は30日、天洋食品で製造された冷凍ギョーザは昨年1月以降、約1300トン輸入されていることを明らかにした。 約1230トンを輸入したJTFのほか、「日協食品」(東京都中央区)、「ワントレーディング」(大阪市中央区) も約70トンを輸入しており、両社に対し、このギョーザの販売を中止するよう要請した。
同省幹部は、「原料の野菜などに残留していた農薬であれば、今回のような急性症状を起こすことは考えにくい」と述べた。
今回のようなケースでは、だれかが故意に農薬を混入させた疑いが強い場合、警察は殺人未遂容疑で捜査するが、 誤って混入された疑いが強い場合には、業務上過失致傷容疑などでの捜査が検討される。
(2008年1月30日20時46分 読売新聞)
メタミドホスを「農薬」と断定。メタミドホスの検出量および毒性には触れてられていない。 中毒症状とメタミドホスの関係も触れられていない。故意の混入を示唆。
次、朝日新聞
中国製ギョーザで10人中毒症状 農薬検出 千葉・兵庫
2008年01月31日03時11分
日本たばこ産業(JT)子会社の「ジェイティフーズ」(東京都品川区)が輸入した冷凍ギョーザを食べた千葉、 兵庫両県の3家族計10人が下痢や嘔吐(おうと)などの中毒症状を訴え、このうち、女児(5) ら3人が一時重体になっていたことが30日、わかった。いずれも中国の食品会社「天洋食品廠公司」の製造。 両県警がギョーザを鑑定したところ、メタミドホスなど有機リン系農薬の成分が検出されたため、ジェイティフーズは同公司製造の23品目、 約58万点の自主回収を始めた。
厚生労働省は、同公司から冷凍ギョーザを輸入した実績がある業者に対し、都道府県を通じて輸入自粛と販売中止を要請。 事態を重く見た中国の国家品質監督検査検疫総局も「早急に事実解明したい」として調査に乗り出した。
厚労省によると、同公司の食品は、ギョーザのほかにも、ビーフジャーキーや塩蔵ニンニク、トンカツ、肉まんなどがあり、 07年の輸入量は3535トンに達している。
同公司から商品や原材料を輸入していたとして、ジェイティフーズ以外で自主回収を決めたのは、「加ト吉」(香川県観音寺市) 市販用「Sごっつ旨(うま)いチャーシュー6枚入りラーメン」「ごっつ旨いチャーシューメンとんこつ」など18種▽「味の素冷凍食品」 (東京都中央区)市販用「ピリ辛カルビ炒飯」など2種▽江崎グリコ(大阪市西淀川区)レトルト食品「DONBURI亭かつとじ丼」 など3種。こうした企業から製品を仕入れていた大手コンビニエンスストアでも販売中止が相次いでいる。
両県警などによると、中毒症状が出たのは千葉県市川市の女性(47)ら家族5人と、千葉市稲毛区の女性(45)と女児(3) の母子、それに兵庫県高砂市の男性(51)ら親子3人。
市川市の5人は今月22日、同市内の「ちばコープ コープ市川店」で購入した「CO・OP 手作り餃子(ギョーザ)40個」 を食べて吐き気や下痢の症状を訴えたという。女性と長女(18)、長男(10)、次男(8)が重症、次女(5) が意識不明の重体になった。5人とも快方に向かっているが、現在も入院している。
千葉市の母子2人は昨年12月28日、同市花見川区の「コープ花見川店」で買った同じ商品を食べて吐き気などをもよおし、 入院や通院をしたという。
高砂市の3人は今年1月5日、スーパーで購入した「ひとくち餃子」(20個入り、260グラム)を食べた後、同じ症状で入院。 次男(18)ら2人は重体になったという。
警察当局によると、市川市と高砂市の被害者が食べたギョーザなどからはメタミドホスが検出された。千葉市のケースでは、 メタミドホスとは特定できていないものの有機リン系農薬の成分が検出された。冷凍ギョーザは、原材料がキャベツ、 ニラといった野菜と豚肉などで、中国内でパッケージされて輸入されているが、 市川市と高砂市のケースではパッケージからも成分が検出されており、中国の製造過程で混入した可能性があるという。
厚労省などによると、同公司製造の冷凍ギョーザは、昨年1月から今年1月28日までに約1300トン輸入され、 約1230トンをジェイティフーズが、残り約70トンを日協食品(東京都中央区)とワントレーディング(大阪市)の2社が扱ったという。
◇
〈メタミドホス〉 主に殺虫のために使用される有機リン系の農薬の一つ。日本では農薬として登録されていない。 中国では使用されていたが、厚労省によると、今月に入って製造と使用が禁止された。中毒症状としては、神経が異常に興奮状態となり、 吐き気や発汗、瞳孔の縮小などが現れる。ひどい時には呼吸障害から昏睡(こんすい)となり、死亡に至る。内閣府食品安全委員会によると、 一度に口から与えて半数が死ぬ「半数致死量」は、ラットの場合、体重1キロ当たり16ミリグラムで、 急性毒性は毒物劇物取締法の毒物に相当する。
見出しではメタミドホスを「農薬」と断定。本文では農薬の成分と書いている。 同じくメタミドホスの検出量には触れてられていない。中毒症状とメタミドホスの関係も触れられていない。メタミドホスの毒性(半数致死量) には言及。混入の経緯には全く触れず。
次、毎日新聞
中国産ギョーザ:中毒原因のメタミドホス、現地でも問題に
中国産冷凍ギョーザによる中毒の原因になった有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、 以前から中国産青果物からたびたび検出され、中国現地でも基準違反が相次ぎ、問題になっていた。にもかかわらず、 中国産の加工食品で農薬検査をする企業はほとんどなかった。
日本では02年から、中国産カリフラワーやレイシ、そばなどから基準値を超える量が何度も検出され、 2年前、厚生労働省は中国産そばについて全量検査が必要な検査命令を出すなどメタミドホスは要注意の農薬だった。
しかし、そうした中国の事情を考慮した検査体制を取る企業は少ない。岩井睦雄JT取締役は 「中国産の冷凍野菜では農薬を検査していたが、加工品では異臭や細菌検査しかしていなかった」と体制の不備を認めた。
一方、日本生活協同組合連合会では年に1度、商品サンプルの農薬を調べているが、限られた商品が対象で、 今回問題となったギョーザでは実施していなかった。飯村彰・同連合会常務理事は「千葉県の3件目の食中毒で警察からの通報を受け、 初めて農薬のことを知った。1件目から農薬に注目すべきだった」と反省点を挙げた。
食料自給率が40%を切る輸入大国、日本。食卓は中国産の加工食品に対する依存度が高い。今後、 コストとの兼ね合いでどこまで農薬検査を拡充できるか、重い課題が突きつけられた。
【小島正美】
毎日新聞 2008年1月31日 0時53分
中国産ギョーザ:どこで殺虫剤混入? 中国での包装段階か
中国産ギョーザによる中毒事件で、有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、どこで混入したのか。 10人の被害者が出た千葉、兵庫両県警の調べでは、問題のギョーザの包装紙には穴などはなかった。 商品の外側から注射針などを使って混入した可能性は低く、中国での生産段階で入ったと考えるのが自然だ。
推定できるのは、▽原料である野菜などにもともと残留農薬として付着していた▽工場での製造過程で入った- -の2ケースだ。農林水産省によると、メタミドホスは、加熱調理することで分解され毒性も弱くなる。 ギョーザは冷凍前に加熱処理されており、残留農薬の可能性は低いとみられる。
工場での製造過程での混入の可能性が高いが、厚生労働省の担当者は 「限られた商品で被害が出ていることを考えると、個々の商品になる直前に混入したのではないか」とみる。両県警の捜査では、 メタミドホスは商品のパッケージから検出されている。この担当者は「包装段階が最もあり得る」と話している。
毎日新聞 2008年1月31日 2時25分 (最終更新時間 1月31日 2時42分)
殺虫剤と記載。農薬は何でも危険、という印象の記事ではない。小刻みに、トピック別に書いている。 今ひとつまとまりに欠けるが、事実関係が刻々と明らかになる過程では有効かも知れない。混入経路についての記事は重要なポイント。
なお、昨日(1/30)午後9時頃のNHKニュースでは、中国野菜の残留農薬問題と一緒に報道していた。 実際に野菜の残留農薬による食中毒の事例の一つも紹介しないで、 中国の都市部の消費者も不安を抱いている事のみ伝える極めて頭の悪い対応である。伝えているのは、「不安を抱いている人がいる」 と言う事実のみで、食中毒を引き起こすレベルの殺虫剤が含まれた野菜が流通しているという事例ではない。 今回の事例に直接関連した情報は一つもない。
とどめは時事通信。
2008/01/31-00:20
中国では死亡例も=「メタミドホス」中毒
【北京30日時事】
千葉県などで発生した中毒問題で検出された有機リン系物質「メタミドホス」 は中国では最近まで、 殺虫剤などの農薬として稲作などに広く使用され、 2004年には四川省で中毒による死亡事故も起きていたことが30日、 分かった。
当時の新華社電などによると、同年3月と4月に同省で2件の中毒事故が発生し農民2人が死亡。いずれも、 「メタミドホス」 殺虫剤を調味料と間違えて食品に入れて口にしたためという。新華社は 「メタミドホス農薬は広く使用されており、 四川省衛生庁は注意するよう警告した」と伝えた。
メタミドホスによる中毒には違いないが、 コントロール下の残留農薬と一緒に扱う問題ではない。摂取して死ぬような毒性のある化合物は各種産業では広く使われている。 この事例はメタミドホスの危険性の問題ではなく、調味料と毒物を間違えるような取扱をする人がいた点に問題がある。・・・ 淘汰されたようだが。
殺虫剤メタミドホスが今回の食中毒の原因であると仮定すると、今回中毒を起こした方の摂取した量は、無毒性量 (NOAEL) を超えている可能性がきわめて高い。 1日許容量(ADI)とNOAELの関係はNOAELに安全係数をかけて10-100倍厳しくしたものがADIとなる。
FAOのホームページによる残留農薬基準ではメタミドホスの1日許容量(ADI)は0.01mg/kg/day。 ラットの急性毒性のNOAELは0.1mg/kg(published as not to cause any toxicological effectとある)。
そうすると、ヒトで体重50kgならNOAELは5-50mg相当か (ADIの100倍として推定。 慢性毒性ベースで考えている1日許容量からNOAELを推定するのは邪道ですが)。
摂食したギョーザの数が5-10個だとすると、 重量にして70g-140gの範囲。 食べた方の体重が50kgだとすると、NOAELぎりぎりの量で中毒したと仮定して (実際はもっと摂っているだろうが)、 食べた際にギョーザに残留していたメタミドホスの濃度は至極大雑把に言って35-700ppm以上と考えられる。 加熱調理の際に何割か分解しているだろうから、元々はもっと多く混入していたことになる。
この量は非常に低く見積もっているが、 それでも残留農薬の一律基準である0.01ppmの3,500倍から70,000倍にあたり、 農産物に残留する農薬の量としてはいかにも多すぎる。まして、ギョーザに入れる野菜は、 白菜やキャベツが主でニラは少量だ。白菜やキャベツは結球野菜なので、農薬は表面にしか付かない。メタミドホスは移行型殺虫剤だが、 タバコの実験では植物体内部のメタミドホス濃度は最大でも5ppm程度にしかならない。結球野菜は一皮むけば、 あとは表面に付いた農薬を含んでいない水が重量のほとんどだからタバコよりも濃度は低くなるだろう(残留基準値:はくさいは2ppm、 キャベツは1ppm) 。だから、加工時点で高濃度の殺虫剤が野菜内部に残っていたというのは非常に考えにくいし、 それを加工したギョーザに残留農薬として35-700ppm以上含まれていたことも、まず無いだろう。
だとすると、 野菜に付着した残留農薬に対する原材料レベルでのリスクマネージメントでは、 被害を防ぐことはできない事になる。
一方、現実的なコストの範囲では、故意の毒物混入を検査で防ぐ方法は、 今のところ存在しないと考えて良い。 農薬の一斉分析で同定できるのは、化学構造の明らかなもののみ。 毒物だって化学物質としては多様な実体をもつのだから、 何でも検出できると言うわけではない。また、 食品のような天然物は非常に多くの化学物質からできているので (一般の方はこの点について誤解が多い。我々が口にする全ての食品は、 100%化学物質でできている。)、 何かが検出できたとしてもそれが毒物だと同定できるわけではない。つまり、 検査技術でどうにかなるものではない。
また、抜き取り検査で分かるのは生産ロット単位での推定なので、 包装時点でたまたま数個のパッケージに毒物を混入する手口の場合には、 毒物が特定できる性質のものであったとしても検査をすり抜ける事になる。 故意の毒物の混入であれば、これは犯罪だ。 生産者や行政のリスクマネージメントで防止できる問題ではない。製造物のレベルで毒物混入の検査を行っている食品会社は無いだろう。 原材料に毒性が無く(農薬の検査はするだろうが、毒物の検査はしない)、正常な加工プロセスでは毒物は発生しないので、 できてくる食品にも当然毒性はないと推定されるので、検査する必要が無いからだ。
もっとも、 最初の食中毒の報告から製品回収までに1ヶ月間もかかった事実が一方にあり、 この点について被害の拡大を防ぐためのリスクマネージメントは対応が不十分であった可能性は否定できない。 製品が食中毒の原因になったかどうか事実を確かめるか、もしそうであった場合の結果の重大さに鑑みて、 早急に対応するべきであっただろう。これは、企業の危機管理の問題だと思うが。
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