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2008年1月の記事

2008年1月31日 (木)

中国製ギョーザで殺虫剤中毒

このエントリーは予定外だが、大規模な回収騒動にまで発展している様相なので、備忘録として記録。

輸入ギョーザに殺虫剤が混入して食中毒が発生、 という事件。報道では「農薬」と書いてあるものが多いが、物質としては「殺虫剤の成分」であって、 農業上の使用でない場合は農薬とは言わない。こちらにも同様のご意見がある。

百歩譲って「農薬の成分」と書いても良いが、「農薬」と特定して報道しても良いのは、 殺虫剤の成分が農薬に由来することが分かった時点だろう。農薬は危険なもの、と言う認識が記者や編集者の意識に浸透しているということか。

今回の事件については、今後

  • 製品の製造段階での安全性の管理(生産者)
  • 製品の流通段階での安全性の管理(生産者、流通事業者、行政)

の2つの側面から問題にされるだろう。


まず、読売新聞

中国製冷凍ギョーザで食中毒、千葉と兵庫で3家族10人

 千葉、兵庫両県の3家族計10人が昨年12月28日から今月22日にかけ、市販されていた中国製の冷凍ギョーザを食べた後、 吐き気や下痢など食中毒の症状を訴え、女児(5)が一時、意識不明の重体になるなど9人が入院していたことが30日、分かった。

 両県警が調べたところ、ギョーザとパッケージの一部から有機リン系農薬「メタミドホス」が検出された。

 商品は、いずれも中国・河北省の工場で製造されており、パッケージには穴など外部から混入させたような形跡がないことなどから、 警察当局は、「製造段階で混入した可能性が高い」と見ているが、国内の流通過程についても詳しく調べている。輸入元で日本たばこ産業 (JT)の子会社「ジェイティフーズ」(JTF、東京都品川区)は同日、この工場で生産された23品目の商品の自主回収を始めた。

 JTFなどによると、問題の冷凍ギョーザは「CO・OP手作り餃子(ギョーザ)」と「中華deごちそう ひとくち餃子」。 東京都港区の商社「双日食料」が、中国の「河北省食品輸出入集団天洋食品工場」(天洋食品)に発注し、 天洋食品が加工から包装まで製造過程のすべてを行っている。

 双日食料は、中国で商品の品質や規格をチェックし、JTFが輸入、販売。 千葉県の2家族の食べた商品は同じ工場で昨年10月20日に製造された。同じ製造日の商品は、「手作り餃子」が6816袋、 「ひとくち餃子」が4104袋輸入されたことが確認されている。

 症状を訴えたのは、千葉県市川市の飲食店店員の女性(47)ら家族5人と、千葉市稲毛区の女性(36)と娘(3)、 兵庫県高砂市の男性(51)ら家族3人の計10人。

 市川市の一家は1月22日、同市の「ちばコープ コープ市川店」で購入した冷凍ギョーザを食べたところ、 吐き気や下痢などの症状を訴えた。女性と長女(18)、長男(10)、二男(8)が重症、二女(5)が一時、意識不明の重体となり、 5人とも病院に運ばれた。千葉市の母娘は昨年12月28日、冷凍ギョーザを食べて体調を崩し、母親が入院、娘が治療を受けた。 高砂市の男性ら3人も今月5日、入院した。

 神奈川県の2人、秋田県の1人も同じ商品を食べ食中毒症状を訴えており、県などが関連を調べている。

 厚生労働省は30日、天洋食品で製造された冷凍ギョーザは昨年1月以降、約1300トン輸入されていることを明らかにした。 約1230トンを輸入したJTFのほか、「日協食品」(東京都中央区)、「ワントレーディング」(大阪市中央区) も約70トンを輸入しており、両社に対し、このギョーザの販売を中止するよう要請した。

 同省幹部は、「原料の野菜などに残留していた農薬であれば、今回のような急性症状を起こすことは考えにくい」と述べた。

 今回のようなケースでは、だれかが故意に農薬を混入させた疑いが強い場合、警察は殺人未遂容疑で捜査するが、 誤って混入された疑いが強い場合には、業務上過失致傷容疑などでの捜査が検討される。
(2008年1月30日20時46分  読売新聞)

 

メタミドホスを「農薬」と断定。メタミドホスの検出量および毒性には触れてられていない。 中毒症状とメタミドホスの関係も触れられていない。故意の混入を示唆。

次、朝日新聞

中国製ギョーザで10人中毒症状 農薬検出 千葉・兵庫

2008年01月31日03時11分

 日本たばこ産業(JT)子会社の「ジェイティフーズ」(東京都品川区)が輸入した冷凍ギョーザを食べた千葉、 兵庫両県の3家族計10人が下痢や嘔吐(おうと)などの中毒症状を訴え、このうち、女児(5) ら3人が一時重体になっていたことが30日、わかった。いずれも中国の食品会社「天洋食品廠公司」の製造。 両県警がギョーザを鑑定したところ、メタミドホスなど有機リン系農薬の成分が検出されたため、ジェイティフーズは同公司製造の23品目、 約58万点の自主回収を始めた。

 厚生労働省は、同公司から冷凍ギョーザを輸入した実績がある業者に対し、都道府県を通じて輸入自粛と販売中止を要請。 事態を重く見た中国の国家品質監督検査検疫総局も「早急に事実解明したい」として調査に乗り出した。

 厚労省によると、同公司の食品は、ギョーザのほかにも、ビーフジャーキーや塩蔵ニンニク、トンカツ、肉まんなどがあり、 07年の輸入量は3535トンに達している。

 同公司から商品や原材料を輸入していたとして、ジェイティフーズ以外で自主回収を決めたのは、「加ト吉」(香川県観音寺市) 市販用「Sごっつ旨(うま)いチャーシュー6枚入りラーメン」「ごっつ旨いチャーシューメンとんこつ」など18種▽「味の素冷凍食品」 (東京都中央区)市販用「ピリ辛カルビ炒飯」など2種▽江崎グリコ(大阪市西淀川区)レトルト食品「DONBURI亭かつとじ丼」 など3種。こうした企業から製品を仕入れていた大手コンビニエンスストアでも販売中止が相次いでいる。

 両県警などによると、中毒症状が出たのは千葉県市川市の女性(47)ら家族5人と、千葉市稲毛区の女性(45)と女児(3) の母子、それに兵庫県高砂市の男性(51)ら親子3人。

 市川市の5人は今月22日、同市内の「ちばコープ コープ市川店」で購入した「CO・OP 手作り餃子(ギョーザ)40個」 を食べて吐き気や下痢の症状を訴えたという。女性と長女(18)、長男(10)、次男(8)が重症、次女(5) が意識不明の重体になった。5人とも快方に向かっているが、現在も入院している。

 千葉市の母子2人は昨年12月28日、同市花見川区の「コープ花見川店」で買った同じ商品を食べて吐き気などをもよおし、 入院や通院をしたという。

 高砂市の3人は今年1月5日、スーパーで購入した「ひとくち餃子」(20個入り、260グラム)を食べた後、同じ症状で入院。 次男(18)ら2人は重体になったという。

 警察当局によると、市川市と高砂市の被害者が食べたギョーザなどからはメタミドホスが検出された。千葉市のケースでは、 メタミドホスとは特定できていないものの有機リン系農薬の成分が検出された。冷凍ギョーザは、原材料がキャベツ、 ニラといった野菜と豚肉などで、中国内でパッケージされて輸入されているが、 市川市と高砂市のケースではパッケージからも成分が検出されており、中国の製造過程で混入した可能性があるという。

 厚労省などによると、同公司製造の冷凍ギョーザは、昨年1月から今年1月28日までに約1300トン輸入され、 約1230トンをジェイティフーズが、残り約70トンを日協食品(東京都中央区)とワントレーディング(大阪市)の2社が扱ったという。

    ◇

 〈メタミドホス〉 主に殺虫のために使用される有機リン系の農薬の一つ。日本では農薬として登録されていない。 中国では使用されていたが、厚労省によると、今月に入って製造と使用が禁止された。中毒症状としては、神経が異常に興奮状態となり、 吐き気や発汗、瞳孔の縮小などが現れる。ひどい時には呼吸障害から昏睡(こんすい)となり、死亡に至る。内閣府食品安全委員会によると、 一度に口から与えて半数が死ぬ「半数致死量」は、ラットの場合、体重1キロ当たり16ミリグラムで、 急性毒性は毒物劇物取締法の毒物に相当する。

見出しではメタミドホスを「農薬」と断定。本文では農薬の成分と書いている。 同じくメタミドホスの検出量には触れてられていない。中毒症状とメタミドホスの関係も触れられていない。メタミドホスの毒性(半数致死量) には言及。混入の経緯には全く触れず。

次、毎日新聞

中国産ギョーザ:中毒原因のメタミドホス、現地でも問題に

 中国産冷凍ギョーザによる中毒の原因になった有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、 以前から中国産青果物からたびたび検出され、中国現地でも基準違反が相次ぎ、問題になっていた。にもかかわらず、 中国産の加工食品で農薬検査をする企業はほとんどなかった。

 日本では02年から、中国産カリフラワーやレイシ、そばなどから基準値を超える量が何度も検出され、 2年前、厚生労働省は中国産そばについて全量検査が必要な検査命令を出すなどメタミドホスは要注意の農薬だった。

 しかし、そうした中国の事情を考慮した検査体制を取る企業は少ない。岩井睦雄JT取締役は 「中国産の冷凍野菜では農薬を検査していたが、加工品では異臭や細菌検査しかしていなかった」と体制の不備を認めた。

 一方、日本生活協同組合連合会では年に1度、商品サンプルの農薬を調べているが、限られた商品が対象で、 今回問題となったギョーザでは実施していなかった。飯村彰・同連合会常務理事は「千葉県の3件目の食中毒で警察からの通報を受け、 初めて農薬のことを知った。1件目から農薬に注目すべきだった」と反省点を挙げた。

 食料自給率が40%を切る輸入大国、日本。食卓は中国産の加工食品に対する依存度が高い。今後、 コストとの兼ね合いでどこまで農薬検査を拡充できるか、重い課題が突きつけられた。

【小島正美】

毎日新聞 2008年1月31日 0時53分

中国産ギョーザ:どこで殺虫剤混入? 中国での包装段階か

 中国産ギョーザによる中毒事件で、有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、どこで混入したのか。 10人の被害者が出た千葉、兵庫両県警の調べでは、問題のギョーザの包装紙には穴などはなかった。 商品の外側から注射針などを使って混入した可能性は低く、中国での生産段階で入ったと考えるのが自然だ。

 推定できるのは、▽原料である野菜などにもともと残留農薬として付着していた▽工場での製造過程で入った- -の2ケースだ。農林水産省によると、メタミドホスは、加熱調理することで分解され毒性も弱くなる。 ギョーザは冷凍前に加熱処理されており、残留農薬の可能性は低いとみられる。

 工場での製造過程での混入の可能性が高いが、厚生労働省の担当者は 「限られた商品で被害が出ていることを考えると、個々の商品になる直前に混入したのではないか」とみる。両県警の捜査では、 メタミドホスは商品のパッケージから検出されている。この担当者は「包装段階が最もあり得る」と話している。

毎日新聞 2008年1月31日 2時25分 (最終更新時間 1月31日 2時42分)

殺虫剤と記載。農薬は何でも危険、という印象の記事ではない。小刻みに、トピック別に書いている。 今ひとつまとまりに欠けるが、事実関係が刻々と明らかになる過程では有効かも知れない。混入経路についての記事は重要なポイント。

なお、昨日(1/30)午後9時頃のNHKニュースでは、中国野菜の残留農薬問題と一緒に報道していた。 実際に野菜の残留農薬による食中毒の事例の一つも紹介しないで、 中国の都市部の消費者も不安を抱いている事のみ伝える極めて頭の悪い対応である。伝えているのは、「不安を抱いている人がいる」 と言う事実のみで、食中毒を引き起こすレベルの殺虫剤が含まれた野菜が流通しているという事例ではない。 今回の事例に直接関連した情報は一つもない。

とどめは時事通信。

2008/01/31-00:20
中国では死亡例も=「メタミドホス」中毒
 
 【北京30日時事】
千葉県などで発生した中毒問題で検出された有機リン系物質「メタミドホス」 は中国では最近まで、 殺虫剤などの農薬として稲作などに広く使用され、 2004年には四川省で中毒による死亡事故も起きていたことが30日、 分かった。
 当時の新華社電などによると、同年3月と4月に同省で2件の中毒事故が発生し農民2人が死亡。いずれも、 「メタミドホス」 殺虫剤を調味料と間違えて食品に入れて口にしたためという。新華社は 「メタミドホス農薬は広く使用されており、 四川省衛生庁は注意するよう警告した」と伝えた。
 

メタミドホスによる中毒には違いないが、 コントロール下の残留農薬と一緒に扱う問題ではない。摂取して死ぬような毒性のある化合物は各種産業では広く使われている。 この事例はメタミドホスの危険性の問題ではなく、調味料と毒物を間違えるような取扱をする人がいた点に問題がある。・・・ 淘汰されたようだが。

 


 

殺虫剤メタミドホスが今回の食中毒の原因であると仮定すると、今回中毒を起こした方の摂取した量は、無毒性量 (NOAEL) を超えている可能性がきわめて高い。 1日許容量(ADI)とNOAELの関係はNOAELに安全係数をかけて10-100倍厳しくしたものがADIとなる。

FAOのホームページによる残留農薬基準ではメタミドホスの1日許容量(ADI)は0.01mg/kg/day。 ラットの急性毒性のNOAELは0.1mg/kg(published as not to cause any toxicological effectとある)。

そうすると、ヒトで体重50kgならNOAELは5-50mg相当か (ADIの100倍として推定。 慢性毒性ベースで考えている1日許容量からNOAELを推定するのは邪道ですが)。

摂食したギョーザの数が5-10個だとすると、 重量にして70g-140gの範囲。 食べた方の体重が50kgだとすると、NOAELぎりぎりの量で中毒したと仮定して (実際はもっと摂っているだろうが)、 食べた際にギョーザに残留していたメタミドホスの濃度は至極大雑把に言って35-700ppm以上と考えられる。 加熱調理の際に何割か分解しているだろうから、元々はもっと多く混入していたことになる。

この量は非常に低く見積もっているが、 それでも残留農薬の一律基準である0.01ppmの3,500倍から70,000倍にあたり、 農産物に残留する農薬の量としてはいかにも多すぎる。まして、ギョーザに入れる野菜は、 白菜やキャベツが主でニラは少量だ。白菜やキャベツは結球野菜なので、農薬は表面にしか付かない。メタミドホスは移行型殺虫剤だが、 タバコの実験では植物体内部のメタミドホス濃度は最大でも5ppm程度にしかならない。結球野菜は一皮むけば、 あとは表面に付いた農薬を含んでいない水が重量のほとんどだからタバコよりも濃度は低くなるだろう(残留基準値:はくさいは2ppm キャベツは1ppm) 。だから、加工時点で高濃度の殺虫剤が野菜内部に残っていたというのは非常に考えにくいし、 それを加工したギョーザに残留農薬として35-700ppm以上含まれていたことも、まず無いだろう。

だとすると、 野菜に付着した残留農薬に対する原材料レベルでのリスクマネージメントでは、 被害を防ぐことはできない事になる。

一方、現実的なコストの範囲では、故意の毒物混入を検査で防ぐ方法は、 今のところ存在しないと考えて良い。 農薬の一斉分析で同定できるのは、化学構造の明らかなもののみ。 毒物だって化学物質としては多様な実体をもつのだから、 何でも検出できると言うわけではない。また、 食品のような天然物は非常に多くの化学物質からできているので (一般の方はこの点について誤解が多い。我々が口にする全ての食品は、 100%化学物質でできている。)、 何かが検出できたとしてもそれが毒物だと同定できるわけではない。つまり、 検査技術でどうにかなるものではない。

また、抜き取り検査で分かるのは生産ロット単位での推定なので、 包装時点でたまたま数個のパッケージに毒物を混入する手口の場合には、 毒物が特定できる性質のものであったとしても検査をすり抜ける事になる。 故意の毒物の混入であれば、これは犯罪だ。 生産者や行政のリスクマネージメントで防止できる問題ではない。製造物のレベルで毒物混入の検査を行っている食品会社は無いだろう。 原材料に毒性が無く(農薬の検査はするだろうが、毒物の検査はしない)、正常な加工プロセスでは毒物は発生しないので、 できてくる食品にも当然毒性はないと推定されるので、検査する必要が無いからだ。

もっとも、 最初の食中毒の報告から製品回収までに1ヶ月間もかかった事実が一方にあり、 この点について被害の拡大を防ぐためのリスクマネージメントは対応が不十分であった可能性は否定できない。 製品が食中毒の原因になったかどうか事実を確かめるか、もしそうであった場合の結果の重大さに鑑みて、 早急に対応するべきであっただろう。これは、企業の危機管理の問題だと思うが。

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2008年1月30日 (水)

Synthetic Mycoplasma genitalium JCVI-1.0の"すかし"

大げさな記事が出たものだなぁ。

先日、細菌ゲノムの全合成というエントリーにDr. C. Venterらの研究所の仕事について書いたが、Wired Visionにその合成ゲノム中の”透かし”についての記事が出ていた。Dr. Venterの情報の又聞きを次のように書いてある。

同研究所の所長J. Craig Venter氏はこの「透かし」について、次のように説明したと『New York Times』紙のAndy Pollack記者は伝えている

「Venter氏によると、これらの透かしには暗号化されたメッセージが含まれているという。 探偵になってメッセージを解読するには、透かしの暗号化されたアミノ酸配列を特定しなければならない」

そして、Wired Visionは、

Wired Scienceの電話依頼に応じて、NCBIのDavid Wheeler氏とTao Tao氏が、 Venter氏の研究所から提出された遺伝子配列を調べてくれ、一見何の変哲もないように見える配列に隠された透かしを見つけた。 そしてわれわれはそれを解読した。

史上初の細菌の合成ゲノムに埋め込まれることで歴史に残ることになった、5つのメッセージの解読結果をここに初公開する。

と誇らしげに書いている。

ちなみに、Synthetic Mycoplasma genitalium JCVI-1.0の塩基配列は1/24付でNCBIのデータベースで公開されている。 このデータは最初から誰でも見ることができる。塩基配列情報にはどんな遺伝子がコードされているかを要約したFeature tableが付いている。そこを見ると、ご丁寧にも、


  
84823..84879
/note="watermark; Translation in frame 1: CRAIGVENTER"

  
169040..169108
/note="watermark; Translation in frame 1: VENTERINSTITVTE"

等(あと3つあるが、)とわざわざ”watermark”(透かし)と書いた注釈が入っている。ページ内検索で” watermark” をキーワードにして探せば誰にでも見つけられる。

Wired Visionの記事は、この作業を大仰に「解読」と言っており、しかも1/28に公表した記事 (日本語版は1/29)では「ワイアードが初公開:合成ゲノムに隠された暗号を解読」という見出しを打っている。

私は、ゲノム情報そのものは1/24に公開されていたものだからWiredが初めて公表するものではないし、 Feature tableにわざわざ 「透かしです」と書いてあるものを見つけて読むのも「解読」とは言わないと思うのだが (暗号化もされてないことだし)、 世間ではどうなんだろうか。

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2008年1月29日 (火)

redFの謎

今日は面倒くさい謎解きの宿題を頂いたので、そのプロセスを記録しておく。

pIndigoBAC-5というBACベクターには、redFというORFがある。 このredFがどこから来たか、が今日の宿題。

BAC(Bacterial Artificial Chromosome)は、大腸菌のF-plasmid(約100kbpほどの巨大プラスミド) の複製機構を利用して、外来の巨大DNAをクローニングするためのベクターだ。

PubMedで安直にF-plasmid, redFというキーワードで検索しても、何も出てこない。

仕方がないので、Google Scholarで調べたけど、これもダメ。そこで、キーワードをF-factor, redFで検索すると、pIndigoBAC-5の取説がヒットした。

それによると、pBeloBAC11由来と書いてある。 redFの部分はpBeloBAC11由来かも知れないので、pBeloBAC11のmapを探す。 mapにはredFは出ていない。が、 よく見るとCmRの上流の1831にBstZ17Iの制限サイトがある。滅多に見かけないマイナーな制限サイトだ・・・ と思って、pIndigoBAC-5のmapを見るとやはりBstZ17Iサイトがある。おそらく、 pIndigoBAC-5のredFは、pBeloBAC11由来だ。

次に、オリジナルのF-plasmidにredFが無いと、 pBeloBAC11までさかのぼれてもご先祖様が分からない。そこで、pIndigoBAC-5の塩基配列のORFを検索BstZ17Iサイトを含む領域にあるORF(115AA)をblastPにかけて、 F-plasmidにヒットするかどうか調べた。

NCBIのAP001918には、 46866..47672のポジションにgene="resD", note="99 pct identical to sp:REDF_ECOLI[ResD of plasmid F]というORFがあることがわかった。 やっとredFという表記が出てきた。本体はresolvaseだった。

次に、AP001918のgene="resD"の部分配列(459-807=349bp)と、pIndigoBAC-5のORF “redF”(1642-1990=349bp)とアラインメントした。

すると100%マッチした。

従って、ベクターの起源から考えても、この部分はF-plasmidと考えて差し支えないだろう。

確認のためにpBeloBAC11のBstZ17I サイトを含む領域(1642-1989) にあたる115AAのORFをpIndigoBAC-5のBstZ17I サイト近辺のORFとアラインメントした。

すると100%マッチした。

従って、このredFはF-plasmid→(未確認のご先祖様) →pBeloBac11→pIndigoBAC-5という来歴があるのだろうと推定した。ただし、 F-plasmidのresolvaseは807bp, 268AAあるので、なぜ中途半端な入れ方をしたのかは現時点では不明。

ベクターを構築する際の継ぎ目にあたってるかどうかまで調べれば分かるのかも知れないが来歴が推定できたのでこれ以上調べても意味がないのと、 面倒なので止めておく。

しかし、ご先祖様であるpBeloBac11でORFと見なしていないものを、 わざわざpIndigoBAC-5ではORFとして扱い、 しかも部分配列であるにもかかわらずredFと名前まで書いてあるのは理由が分からない。 どなたかご存じでしたら教えて下さい。

論文によってはredFを” essentilal components of the single-copy F-factor replicon” の一つとまで書いていますが、 その論文に書いてある仮想的BACの起源の一つであるEpicentreのpCC1BACも起源はpBeloBAC11なので、 その先祖の一世代前のベクターであるpBAC108LまでさかのぼらないとredFの起源は分からない。 ・・・そっから先の調査は趣味の領域だ。

趣味に走って一つだけさかのぼってみると、この論文ではBACの構成はFig.1に至極あっさり書いてあって” The plasmid is based on a mini-F plasmid, pMBO131”とある (また新しいご先祖様の登場だ)。しかし、redFの説明は見あたらない。 ちなみにベクターの図(Fig.1)ではCmRの下、2時の位置(redFのあたり)に継ぎ目があるが、 バックボーンのpMBO131に由来する部分なのでこの論文では分からない。少なくとももう一つ1989年の引用文献をあたらないと・・・ と言う具合に際限がないのでここらで止めておく。腹も減ったし。

いずれにしても、核酸供与体は大腸菌ということにしておこう。F-plasmid由来というのは見当が付いたことだし。実際には、 自然界ではあちこち動き回っているかも知れませんが。

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2008年1月28日 (月)

細菌ゲノムの全合成

あまり一般向けのお話ではありません。

Dr. C. Venterらの研究所の仕事。プレスリリースはこちら。 論文はこちら

Mycoplasma genitalium(G37株)というバクテリアのゲノム(582,970 bp)を、 合成DNAを組み合わせて5-7kbのDNA断片110個の再構築で作ってしまった、という研究 (NCBIにVenterらが登録したシーケンスは580,076 bp)。

中間段階では72kb、144kbのサブゲノムを構築してBACクローンとして大腸菌で増幅、 最後のアセンブルはYACに入れて酵母の細胞内の相同組換えを利用して作成、と言う作成手順。しかし、 最初の5-7kbの断片の構築には100-150merくらいの合成DNAを100-140個組み立てる作業があり、 そこを組織的に行うノウハウが、実はこの研究のキモかもしれない。

ちなみに100-150merの合成DNAの価格は\100/base x 150 + \30,000(精製料金) =\45,000くらい。二本鎖なので、この2倍で\90,000で150bp。7kbpだと約46.7倍で\4,200,000。 これを110個並べるとなると、最低限の原材料費だけで4億6千2百万円要る。合成DNAも大口のディスカウントがあるのかも知れないが、 50% OFFと言われても、そう得をした気分にはならないだろう。

合成したMycoplasma genitaliumのゲノムサイズは583kbなので天然痘ウイルス (Variola virus)の約185kbpやワクシニアウイルスの約195kbpの3倍程度だ。すでに理論的にはこれらの大きなサイズのウイルスゲノムの合成は可能であったが、今や技術的にも可能になった。あとは、 ヒト培養細胞内にワクシニアウイルスMVA株と合成天然痘ウイルスゲノムを共感染させると、 案外簡単に天然痘ウイルス粒子の再構成ができてしまうかもしれない(こちらのオリゴDNA代は、グッとお得でたったの1.6億円)。

DNA合成装置を規制しないとバイオテロの危険が・・・という論調の報道もあったが、繰り返しになるが、 合成DNAが入手しやすいことや、組換え技術の普及がバイオテロの引き金になる訳ではない。遺伝子組換え技術を利用して (あるいはしなくても)、強力な病原体を開発する手段は、かなり前からあったのだから。問題は、 コストをかけて違法行為をやるかどうかという判断を誰がするか(つまり、研究熱心で勤勉なテロリストや協力者が居るかどうか)、 ということなのだから。こういうスケールの仕事の追試験は予算の制約から実質的には非常に難しい。また、 作ったものが目的通りに機能するかは、実証試験をしてみるまでは分からないのでテロリズム用のツールとしては不確実性が高い。

既にアメリカの規制当局でも”Proposed Framework for the Oversight of Dual Use Life Sciences Research: Strategies for Minimizing the Potential Misuse of Research Information”と題して潜在的なバイオ技術の悪用に関する議論されている様です。 いずれ、日本の研究者コミュニティーにも何らかの波及があることだろう。

このチームは、昨年、二種類の近縁の細菌同誌の間でゲノムDNAの入れ替えに成功している。 次のターゲットは恐らく、人工合成した細菌ゲノムを異種の細菌の細胞に移植することか。

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2008年1月25日 (金)

安全キャビネット-ネット検索でやってくる訪問者のために-

blogのアクセスログには検索サイトで調べた際のキーワードが記録されている。Googleで”安全キャビネット” を検索するとなぜかこのblogが上位に来るので、それに釣られてやってくる方が結構います。

ですが、私はバイオセーフティーの専門家ではありませんので、 残念ながらこのblogでは安全キャビネットに関するまとまった情報はありません。ですので、 期待して来て下さった方には申し訳ありませんが、他のサイトを見ていただいた方が有益でしょう。

その代わりと言っては何ですが、鳥取大学医学部ウイルス学教室の日野茂男先生が安全キャビネットのJIS規格策定のとりまとめをされているようです (私は面識もなく、ご本人から伺ったことはありません)ので、関連した情報へのリンクを適用いたします。安全キャビネット(というか、 正確には「バイオハザード対策用キャビネット」と呼ぶべきでしょう)については、性能と設置基準、 維持管理に関するJIS規格が定められています。

「バイオハザード対策用キャビネット」についての総説はこちら。 2006年の比較的新しい総説でウイルス学研究者向けに書かれています。何かのお役に立つかも知れません。

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2008年1月23日 (水)

遺伝子組換え大豆の安全性の論議でNature biotechnologyが”炎上”?

uneyamaさんの食品安全情報blog経由。

ロシアのDr. I. ErmakovaがRR大豆をラットに給餌したら子孫の生存率率が低下した、という実験結果について、 昨年9月のNature biotechnologyのFeature欄で特集し、 それに対する専門家の疑念が投げかけられた(Nature biotechnology 25, 981 - 987 (2007))。

科学的事実を争う部分はQとAがかみ合わないすれ違い論議で、事実関係はちっとも明らかになっていない様に思う。

その後、編集部の記事の掲載姿勢に対する議論や専門家の疑念・指摘に対する反論などがおこり、昨年12月の同誌のOpinion and Commentでは紙上討論の様相を見せている(Nature biotechnology 25, 1351-1360 (2007))。その際の編集側の見解はこちら。 事実関係を示すメールのやりとりは、こちら

一言で言えば、編集姿勢に関する議論のみで、科学的な議論の体を為していない。

結局、Featureと言う欄は論争のある研究分野の研究者を招待して、紙上討論して議論を興すのが狙いなのだろうが、 その後のOpinion and Commentの討論は、議論の方向が編集姿勢に対する批判の色が強く、 科学的な内容に関する議論にはなっていない。事実関係を示すメールのやりとりから、私の見るところ一連の議論の混乱ぶりはNature biotechnologyの編集者であるAndrew Marshall 氏の責任に負うところが大きいように思う。 もっとも本人は議論を起こすことが目的であったと言っているのだが、興したかった議論はそんなものではなかったはずだ。 少なくとも今回誌上で展開されている”revisiting a controversial format”というような性質のものでは。 相手がいつも論文を投稿してくるような、通常の科学研究を生業としている行儀の良い科学者ばかりではないのだから、 それなりの用心があってしかるべきだろう。

Opinion and Commentで反論している方々は、Brian John(GM-Free Cymru)、 Mae-Wan Ho & Peter T Saunders(Institute of Science in Society)、Joe Cummins(Department of Biology, University of Western Ontario)。所属で人を色分けするのは議論としては妥当ではない。しかし、今回のOpinion and Commentについては科学的な議論をそっちのけで編集姿勢に噛みついている方々の所属や日頃の主張には一定の傾向があるように思う (ためしにこれらの方々の名前でGoogleを検索してみると良いだろう)。

もともと根拠薄弱な市民運動ベースの議論を科学上の問題としてテーマ設定したところが失敗の(あえて失敗というが)原因だと思う。 Nature biotechnologyの権威失墜にならないことを祈るのみだ。

ちなみに、事実関係を示すメールのやりとりは” ある意味”一読の価値はある。Andrew Marshall 氏からDr. Ermakovaに対し、 あなたの公表した実験結果に対して批判したいという方からアプローチされているが、それに対して公平のため、 あなたに実験結果を自分の言葉で表す機会を与えたい(the journal would, however, prefer to provide you with an opportunity to present your own findings and conclusions in your own words, rather than a critique from one side.)と申し出た。それに対して、Dr. Ermakovaは”My suggestion: I'll present you my paper, which you review and publicate in your journal. After that you open discussion of my paper and I'll answer questions.” と言っている。

一般的に、科学論文はすでに公表済みの実験結果の使い回しを認めない。多重投稿あるいは業績稼ぎになるので。Nature publishingの編集方針でも公表済みのデータの再掲はしないと言っている。それを載せろと要求するこの姿勢は一体何なのか・・・。 このくらい厚かましくないといけないのかなぁ、研究者たるもの。私は嫌だけど。

その後のメールのやりとりをみても、どうも編集者の言うことがきちんと伝わっていないようだ。・・・故意に曲解しているのか。

日本のマスコミも市民運動も今のところ、この議論の動向には無関心。一応の決着が付くまでこのまま無関心であってほしいものだ(・・・ 農水省も)。科学的事実については2006年頃から何ら進展はないのでコメントを求められても応えようがないし。

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2008年1月22日 (火)

エボラウイルスを飼い慣らす

東大医科研の河岡先生達のチームの仕事。

エボラ出血熱の原因ウイルス、東大チームが無害化に成功

 致死率が90%にも達するエボラ出血熱の原因であるエボラウイルスを遺伝子操作し、 特殊な細胞の中でしか増えない安全なウイルスに改造することに、河岡義裕・東大医科学研究所教授らの研究チームが世界で初めて成功した。
 エボラウイルスは、外部と隔離された実験室で極めて厳重な管理のもとで取り扱わなければならず、 これが治療薬開発などの研究が進まない主因になっていた。この改造ウイルスを使えば、通常の実験室でも研究が可能となり、 今までなかったワクチンの開発などが大きく進む可能性がある。近く米科学アカデミー紀要電子版に発表する。

 研究チームは、エボラウイルスの増殖にかかわるたんぱく質「VP30」に着目。カナダにある特別な実験室で、 このたんぱく質を作る遺伝子を取り除いた改造ウイルスを作製した。次に、この改造ウイルスを通常の細胞に感染させたが、 1週間たってもまったく増えず、反対に、VP30を作り出す特殊な細胞の中では増殖した。

 河岡教授は「改造ウイルスは、増殖にかかわるたんぱく質が作れないこと以外は、実際のエボラウイルスと同じ性質を持っている。 このウイルスを使えば、安全に治療や予防の研究が行えるだろう」と話している。
(2008年1月22日10時34分  読売新聞)

「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)の二種告示では、 エボラウイルスは実験分類クラス4の扱い(天然痘ウイルスなんかと同じ扱い)。今回の実験では、 VP30の欠損株ということなので増殖力欠損株だが、二種告示に特別に実験分類を引き下げる項目(ワクチン株や、 レトロウイルスと同様のケース)がないので、実験分類クラス4のまま。単純な欠損型ウイルス使用する場合も、 ナチュラルオカレンス扱いできない場合は(多分無理だろう)、二種省令別表第一第一号ロ(宿主又は供与核酸が実験分類クラス4) が適用されるため、大臣確認実験になる。

HEK293細胞&アデノウイルスのケースと同様、自立増殖できないことが科学的に証明されたとなれば、 二種省令別表第一第一号へ(自立増殖性のウイルス)は適用されない可能性はある。

一方、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症予防法)では、 エボラ出血熱は1類感染症で、エボラウイルスは第一種病原体等。従って、原則所持、輸入、譲渡は禁止(例外措置あり)で、 最も厳しく規制されている。罹病した場合の致死率が非常に高く、二次感染性も高いので野生株は非常に危険だから当然の措置か。

ただし、 RNAそのものやエボラウイルスゲノムをコードしたDNA断片を持つベクターを規制する法律は多分ないので、 国際間の核酸の移動はフリーパスだろう。また、マイナス鎖RNAウイルスなので、 多分いくつかのタンパク質あるいはプラス鎖RNAを補ってやらないと、 細胞にベクターを導入しただけではそう簡単にウイルス粒子はできないとは思うが。

・・・ということで、実験上の安全は確保されたとは思う一方、国内で実験しようとすると文部科学大臣、 厚生労働大臣(手続き上は環境大臣も)の許可を取らないといけないので、敷居は高そうです。

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2008年1月21日 (月)

クローン家畜「その際には、あわせて表示についても議論を進めるべきだ。」という毎日新聞の社説

社説は新聞記事とは違い、新聞社のオリジナリティーが尊重されるべきであると思うので、引用は最小限にとどめる。本日、 俎上にあげる毎日新聞の社説はこちら。 以下、引用。

 たとえ、さまざまな点で通常の動物と同じでも、新しい技術である以上、消費者の選択権は重視すべきだろう。そのためには、 表示が必要だ。

(省略)

 さらに、食品としての安全性は内閣府の食品安全委員会が評価する必要がある。その際には、 あわせて表示についても議論を進めるべきだ。

この社説で言うところの、”あわせて表示についても議論を進める”主体は誰? 食品安全委員会でしょうか?

食品安全委員会で議論するのは、食品衛生法に関わるリスク評価。つまり、 科学的な観点から、安全かどうかを判断し、その結果を答申するのが仕事。食品表示の法的基盤であるJAS法とは関係ない。 ということで、私はずいぶん大雑把な社説だなー、と思った次第。

食品の表示の問題は、そもそも”リスク”とは無関係だ。 遺伝子組換え作物の場合も、消費者の選択の自由を保障する観点から表示の義務付けられて居る。 食品安全委員会のリスク評価の結果問題ない遺伝子組換え作物のみが流通し、危険性を伴う製品が食品として流通することはない・・・ はずだ。

また、リスク評価の結果安全性に問題ないものでも、 消費者の選択の自由を保障するために表示するという構図は遺伝子組換え作物もクローン家畜も変わらない。 JAS法の枠組みでカバーできるだろう。だが、技術論では雲泥の差がある。個体識別されていない家畜は、クローン家畜(あるいは後代、 以下”等”と言う)であるか無いかを流通段階で識別する方法は無い。個体識別されて、遺伝子で親子関係や家系がたどれる場合には、 クローン家畜等かどうかの見当をつけることはできるだろう(それでも、同定はできない)。

家畜の個体識別が行なわれていないアメリカからクローン家畜等が輸入される事態になると、何が起こるだろうか? 技術的にクローン家畜等を識別する確実な方法が無いとなると、あとは分別流通しか区別の方法は無い。となると、 大方のアメリカ産の輸入牛肉については、遺伝子組換え作物の場合と同様”無分別牛肉”と表示されることになるのだろうか。逆に、 クローン技術を使用していないことが明らかな国産和牛では”クローン技術を使用していません” という任意の不使用表示ができることになるかもしれない。でも、技術的にも区別できないし、 区別するべき合理的な理由も無いものを無理やりコストをかけてまで区別できるようにするのには、どんな意味があるというのだろう?

金さえ出せば、消費者にはどんなわがままも許されると言うのだろうか。・・・ 失礼、不穏当な発言だとは思うが、書いててだんだん腹が立ってきた。

# 私は、高品質な牛肉が”クローン牛”というブランドで普及してくれたら、 かなりうれしい。もっとも、肥育のコストが大半だろうから、たいして安くはならないと思うが。

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2008年1月17日 (木)

クローン牛肉が既に売られていた?と言う記事

中日新聞より。 

クローン肉、既に流通か 米紙が報道

2008年1月17日 01時12分

 【ワシントン16日共同】16日付米紙ワシントン・ポストは、   クローン動物の子孫から生産された肉類が既に米国内の市場に出回っている可能性があると報じた。

 クローン動物やその子孫から生産した肉類や乳製品について、米食品医薬品局(FDA)は業者に対して販売自粛を要請してきたが、FDAが15日に一部の食品について安全宣言を出した以降も、農務省は「引き続き自粛を要請する」としていた。

 同紙の取材に対し、カンザス州の畜産業者は実名で、受賞歴のある牛からつくったクローン牛の精液を過去数年の間、米国内の食肉業者に販売してきたと答えた。この畜産業者は「クローン技術が実用化されていないとか、市場に出回っていないというのはおとぎ話だ」と話した。

 また、クローン牛をつくる米国のバイオ企業の幹部は、クローン牛の子孫の何頭が食料として供給されたか追跡することはできないと述べたという。

 日本の肉牛は全頭IDで個体管理されているので、 親の遺伝子型を管理できればクローンの後代かどうかもある程度分かる可能性がある(ただし、凍結配偶子を利用した場合とクローンの後代の場合とでは区別できない場合もある)。しかし、アメリカの場合はそもそも一頭ごとの個体管理も識別もされていないので追跡することはまず無理。

 とはいえ、健康被害が出るはずもなく・・・アメリカの牛肉なので品質管理はそんなものでしょう。 たいして不思議ではありません。処罰の根拠になる法令もなしで、USDAも生産者に”自粛”を求める以上の対策が執れない状況ではいつまでも止められる訳もなし。技術的に可能なものはいずれ実現することになる。

 なお、食肉と言う製品としての”クローン”の表示は、そもそも生産プロセスがきちんと管理できていないと信頼できるものにはならない(科学的に区別する方法は無い)ので、遺伝子組換え作物と同様、”クローン・フリー”の表示の方がコストをかけて生産過程から管理して差別化をはかることになるのだろうな。

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2008年1月16日 (水)

FDA,クローン家畜および後代のリスク評価、リスク管理計画および製造業へのガイドラインに関する文書を公表

1/7のエントリーの続報。FDAがクローン家畜とその後代についてのRisk assesment, Risk management plan,  Guidance for industryの3つの文書を公表した。

FDAの公表した文書の本編は以下のURL。(まだよく読んでいない。)

 http://www.fda.gov/cvm/cloning.htm

January 15, 2008, FDA Newsより http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2008/NEW01776.html

After years of detailed study and analysis, the Food and Drug Administration has concluded that meat and milk from clones of cattle, swine, and goats, and the offspring of clones from any species traditionally consumed as food, are as safe to eat as food from conventionally bred animals. There was insufficient information for the agency to reach a conclusion on the safety of food from clones of other animal species, such as sheep.

”ウシ、ブタ、ヤギにの肉と乳については、その後代も含めて従来の方法で繁殖させた家畜と同等の食品安全性であると結論。ただし、 最初に体細胞クローンが作成された羊については、情報の不足を理由に結論を保留。”

クローン家畜後代のリスク評価の結果については、 通常の生殖過程を経ることでエピジェネティックな効果は解消されると考えられており、マウスモデルでも確認された。また、 ウシとブタのクローン家畜後代の詳細な観察でも発生や生育に異常が認められなかった。 また,ブタについては肉質についてもクロン家畜後代とそうでないものの間に本質的な違いは見られなかった、 等々の実証的なデータで違いはないことを確認。生物学的な仮定と、それらの実験的な事実を踏まえてクローン家畜後代の食品利用に関しては、 クローンでない通常の繁殖で生産された家畜の場合と同等のリスクであると結論している。

一方、安全性についての結論を受けて、表示の取扱についても以下のように言及している。

The agency is not requiring labeling or any other additional measures for food from cattle, swine, and goat clones, or their offspring because food derived from these sources is no different from food derived from conventionally bred animals. Should a producer express a desire for voluntary labeling (e.g., "this product is clone-free"), it will be considered on a case-by-case basis to ensure compliance with statutory requirements that labeling be truthful and not misleading.

”従来の家畜と同じなので、表示や対策は要求しない。たとえば、”この製品は、クローン・フリーです” と言う事業者による任意表示は、 公正で誤解させない表示を要請する法定基準へのコンプライアンスを担保するようケースバイケースで考慮されることになるだろう。”

・・・とあるが、遺伝子組換え作物のケースから類推すると、科学的には安全性において同等であっても市民の” いわゆる安心”のために表示を求める運動がある- 私はこのような運動を、不公正な、”科学技術に対するいわれのない差別” であると考えているが- ことから、クローン動物製品に対する表示を求める圧力団体の活動が活発化するのではないかと憂慮している。 それはもはや、”リスク管理”の問題ではないのだが。

もっとも、遺伝子組換え作物の場合は開発元が「多国籍企業」、「公害産業」、「農薬製造業者」 等のレッテルを貼られているのに対して、クローン家畜の場合は開発元がベンチャー企業である場合が多く、 農家からの受託でクローン家畜を生産すると言う構図になるだろう。この場合、 圧力団体が開発元に対する反対運動をすると市民の目からは中小事業者いじめに映るであろうから、彼らの矛先が政府に向かう公算は高い。

なお、http://www.fda.gov/cvm/CloningRA_RiskMngt.htmにあるRisc management planと言う文書の”RISK MANAGEMENT PLAN”の項目において、 クローン家畜後代の食品としてのリスク管理については次のように述べている。 この部分が食肉輸入国としての日本の立場に最も関連するのではないだろうか。

Risks from Food Derived from Clone Progeny

No food consumption risks were identified for clone progeny. Therefore, in our Guidance for Industry, we state that food products from the sexually-reproduced offspring of clones are suitable to enter the food and feed supply under the same controls as applied to any animal that is the product of sexual reproduction. We anticipate that most of the food products from this technology will be derived from clone progeny.

要は、クローン家畜後代について食品として消費した際のリスクは見られない。従って、 リスク管理においても通常の方法で繁殖させた家畜と同等のコントロールでよい、としている。

・・・となると、いずれはクローン家畜の後代(何代目かは分からないが) が市場で流通する可能性は結構高いと考えて良いだろう。アメリカでクローンウシやブタがポピュラーに生産されるようになると、 それを種畜とした後代の畜肉が日本にも輸入されることになる。その前に、日本の食品安全委員会もリスク評価を求められる可能性が高い。

しかし、考えてみると遺伝子組換えと違ってDNAで識別する方法も殆どない(親子識別ができれば、 クローン家畜の親との親子関係くらいは推定できるだろうが、 クローン家畜の元になった親動物の凍結精子を使って繁殖したのだと言われると反論もそこまで)ので、 個体識別されずに輸入された畜肉についてはリスク管理のしようがない。もともと、遺伝子組換え技術とは違って、 クローン技術は自然の動物と寸分違わないことを目指しているのだから、無理矢理違いを見つける方が大変。

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2008年1月 7日 (月)

クローン動物由来の肉、乳製品に関するFDAのリスク評価についての報道

ニュースソース不詳ですが、以下の報道があり。

【1月5日 AFP】米紙ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)は4日、米食品医薬品局(US Food and Drug AdministrationFDA)が来週にもクローン動物やその子孫から製造した乳製品や精肉について安全宣言を行う見通しだと報じた。情報源は明らかにしていない。
 
   FDA報道官はAFPの取材に対し、リスク評価に関する最終報告書をまとめている最中で公表時期は不明と述べた。
 
   FDAは2006年12月、クローン技術によってつくられた牛やブタ、ヤギなどの家畜の肉やミルクについて、従来の製品と異なる点はないと発表している。また、クローン技術について、畜産業界がすでに導入済みの人工授精や体外受精、胚移植などの交配技術より優れているとの見解を示している。
 
   同紙は、仮にFDAがクローン動物を用いた食品の安全性を確認したと宣言した場合でも、これらの製品が市場に並ぶまでには3-5年を要するだろうとしている。(c)AFP

同様の記事がワシントンポストにも出ていたとの複数の報道があるので、政府当局者からのリークがありそうな線。 ただ、記事を読んでも受精卵クローンか体細胞クローンか、私にはさっぱりわからない。体細胞クローンについては、2003年時点でロイター通信が安全性評価の報告書の要約を入手したと伝えられたが、その後さっぱり音沙汰なし。

さて、リスク評価の結果については、おそらく科学的な見地から懸念材料は見あたらないとする結論になるものと思われるが、FDAがどのような観点からクローン動物由来の食品の安全性(健康影響)評価を行ったのかについては非常に興味がある。

ちなみに、高級霜降り牛肉は、中性脂肪およびコレステロールを大量に含むため、毎日1kg以上摂取すると脳梗塞あるいは心筋梗塞などの循環器系疾患のリスクを高めることが科学的根拠から推定されている。・・・冗談です。どうせ、そんなに大量に高級牛肉を食べられっこないので負け惜しみです。でも、 それだけ食べ続けたら体に悪いことには違いない。

また、クローン動物の誕生から久しい今日この頃になって、今更のように評価結果が出てくるというのは、どうしたものだろうか。いつから評価が始まったのか、長く店ざらしになっていたのか? と言う興味もある。

一方、日本の消費者の懸念としては、おそらく”クローン動物の肉を知らずに食べてしまったらどうしよう” というものがあるのだろう。しかし、アメリカにおいてクローン動物自体の生産コストが飛躍的に安くなるか、あるいは、 クローン技術で生産された家畜の食肉の付加価値が飛躍的に高くなる、ということがおこらない限り従来の方法で生産された食肉に対して、 価格面でのメリットがありませんので現実に流通する可能性はきわめて低いと考えられる。 従来の体細胞クローン技術では繁殖可能な親牛にまで生育する歩留まりが悪くて、 クローン牛そのものを肉牛にしていたのではとても採算がとれるとは思えない。

なので、低価格を武器にしているアメリカ産牛肉であれば、 わざわざ高価なクローン牛をつぶして肉にするなんてもったいないことはしないはず。あるとすれば、高級な和牛あるいは韓牛(韓国の牛) のクローンを種牛として生産し、その子孫を高品質なF1として出荷すると言う、 クローンそのものではなくその後代を増殖する方法を採るだろう。この方法であれば、 遺伝的には和牛に近い肉牛を低コストで生産できる可能性がある。とはいえ、アメリカで主流となっているような粗放な肥育方法では、 和牛に近い肉質に仕上がるとは思えない。

そう、もしもあなたがアメリカ産超高級牛肉(そんなものがあったとして、ですが)を食べている方であれば、 数年後にはクローン牛を食べる僥倖にありつけるかもしれません。

ともあれ、牛のクローン技術については日本はかなり研究が進んでおり、 数年前に居た職場では試験終了後の受精卵クローン和牛の肉が払い下げられて居た。私の記憶では、 高級和牛の市価とあまり変わらなかったのでとても手が出なかったものの、至れり尽くせりの肥育をされた高級牛肉、 クローンだろうが何だろうが食べておけば良かった・・・。

ところで、ミカン、リンゴ、ナシといった果樹はクローン植物だということはご存じですか? 私は高級クローン和牛には手が出ないので、クローン・ミカンでも食べるとしよう。その方が、中性脂肪たっぷりの牛肉よりも体に良さそうだし。

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2008年1月 4日 (金)

”eBayでDNA合成装置が買える? 「オープンソース遺伝子工学」の時代”という妙な記事

まずは07年12月19日付けWired Visionの記事を読んでいただきたい。

表題通り”eBayでDNA合成装置が買える”と言う記事で、

「この種の装置は、ブタノール[燃料などに使えるアルコール]を生産する大腸菌の菌株の構築など、有用なことに使えるが、 当然のことながら、それだけでなくもっと悪質な目的にも利用できる。そのため合成生物学の研究者たちは、 DNA合成装置が悪意をもって使用されることを懸念している。」

という危惧をあらわしている。

さて、日本でDNA合成装置を安く買いたければ、中古の分析機器屋さんへ行けばよい。個人だからと言って買えない理由はない。 特にDNA合成装置を規制する法律もないことだし。

しかし、今時、分子生物学方面の仕事を専業にしている研究者は、自分でDNA合成装置を使ってDNAの合成をしたりはしない。 合成DNAを買いたければDNA合成を受託している会社は国内外にいくらもあるので、 そこにメールで塩基配列を送ると、中2日くらいで合成DNAが送られてくる。価格は、合成する量とDNA鎖の長さにもよるが、 1塩基あたり20円程度だ(もっと安い会社もあるだろう)。支払いはクレジットカードでできる会社もあったと思う。この10年ほどは、 そう言う状況にある。

実は、DNA合成装置を買ってしまうと、その維持管理に手間と時間がかかるだけでなく、 DNA合成を委託した場合には当然のサービスである品質チェックや定量も自分でやらなくてはならない。 合成DNAの数が多いとこれは大変な労力になる。また、使い切らないうちにダメになってしまう試薬の始末や、 合成後のアンモニア分解など面倒を山ほど背負い込む事になる。だから、よくよくの理由がなければ、 普通はDNA合成装置を買おうとは思わないのだ。

つまり、 合成DNAを入手したければ10年も前から相応の金額を支払えば誰でも入手できる世の中だということは分子生物学系の研究者なら誰でも知っている。 だから、今更DNA合成装置がインターネットのオークションに出たからといって「DNA合成装置が悪意をもって使用されることを」 だけを懸念する研究者が居るとは思えないのだ。これは、一種のたちの悪い冗談で私がついて行けていないだけなのだろうか?

なお、この記事を書いたAlexis Madrigal氏は、訂正記事で蛍光光度計(luminometer) とDNA合成装置の区別がつかなかった事を告白している。しかも酷いことに、Wired Vision日本語版の翻訳では、 luminometerを”照度計”と翻訳している。orz

一方、Wired Visionのこの記事では、Reason誌の記事を引用している。こちらの方は、 DNAウイルスとRNAウイルスの区別がついていないようなところはあるが、もうすこしましだ。

そう。こちらの記事の通り、DNAデータベース上の病原微生物のゲノム情報と通販の合成DNA、高価な試薬、 実験設備そして核酸操作や動物細胞培養の技術があれば、病原性ウイルスの再構築は不可能では無くなってきている。 それには相応のコストはかかるが、技術的な障壁は無くなりつつあると言う点では、バイオテロの潜在的なリスクが無いとは言えない状況だ。

しかし、”DNA合成装置がバイオテロの引き金になるかも”という短絡的な発想はいただけない。問題は、 DNA合成装置が入手しやすい事にあるのではなく、合成DNAと病原性微生物の再構築ができる技術が広く普及している事にあるのだから。 そして、強力な爆薬や核爆弾を作るのとは違って、病原性微生物の再構築は、法律の規制対象ではない普通に市販されている試薬や細胞を使って、 普通の大学や研究所の実験室でできる(一部のケースをのぞいて法律の規制は受ける)・・・もっとも、 自分が感染しないようにきちんと管理できる専門家か、よっぽどの命知らずに限られてはいるが。

# なお、いかなる国の法律も、テロリストが法を守る事を前提として書かれてはいない。

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2008年1月 3日 (木)

のようなもの、とは何か

昨年末、コシヒカリのようなものというエントリーを書いてからふと思った。

”○○のようなもの”と言うときの、”のようなもの”の指し示す内容には、少なくとも二つの意味合いがある。

その1。

清水義範や、立川志の輔の言う”バールのようなもの”のように使われる”のようなもの”は、 指し示す対象がはっきりとはわからないが、バールであることも排除しない、と言う場合に使われる。

例:凶器は包丁のようなものだな。

その2。

たとえば、疑似科学を指して、”科学のようなもの”と言う場合の”のようなもの”は、指し示す対象が”科学ではない” と言うことを言外に伝えたい、と言う場合に使われる。

例:結婚は鳥かごのようなものだ。外にいる鳥たちは中に入ろうとし、中の鳥たちは出ようともがく。(モンテーニュ)

つまり、”のようなもの”と言う言葉はきわめて文脈依存的で、書き手と読み手の間に、前提となる了解事項が共有されていないと、 表現する内容が伝わらないやっかいな言葉だ。

”コシヒカリのようなもの”は、生産資材としてはあきらかにコシヒカリではないが、 商品としてはコシヒカリであることも排除しないのだな。

私?まぁ、研究者のようなものです(爆)

 

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2008年1月 2日 (水)

未来を読みたければ、空気を読むな

以下、放言。

# 知り合いが読んでるかと思うと気恥ずかしいものがあるが、でも書かずにいられない。

放言その1:「KY」なひと。

昨年の流行語大賞の一つが「KY」。「空気が読めない」の略らしい。

「空気を読む」というのは、結局の所、人の顔色(表情)を窺うということだろう。 人の顔色ばかり窺っている他人指向の人間に独立心や主体性を求めても仕方がない。日本人は古くから、 人の顔色ばかり窺っている者を卑しんできたのではなかったか。

しかし、人の表情を読みとる能力が極度に低いと、コミュニケーション不全をおこす。それが病的な水準に達すると、 アスペルガー症候群という病名までつく。

どこまで、その場にいる人々の感情に斟酌するか、要はバランスの問題なのだが、 昨今は自分が無視されたとか軽んじられたと感じると我慢ならない人が増えたせいか、他人に「空気を読む」 ことを強要する風潮が強まっているように思う。それが「空気が読めない」事を、人の欠点として指摘する事態の背景にあるのではないかと。

私は、あまりに空気を読む事に長けている人を見ると、魚群を形作る魚を思い起こす。イワシやアジのように、塊を作って泳ぐ魚は、 互いに衝突しないように実に巧みに均衡を保ちながら、”塊”として行動する。塊の中にいる魚には周りの魚しか見えず、 魚群全体がどこへ向かって泳いでいるのか、さっぱりわからないまま周囲との相対的な位置関係を保ちながら、 中庸な多数派であることに安住している。

魚群が泳いで向かって行く、その先を知りたければ、塊の先頭に出るしかない。そのためには、魚群の中にいる魚は、 前にいる魚を押し分けて前に出なければならない。ひょっとすると衝突もあるかもしれないが、 見通しの良い場所に出て自分達の向かう先にあるものを知りたければ、衝突を恐れずに前に進むしかない。

未来を知りたければ、空気なんか読んでる場合ではないのだ。

私もそうなのだが、研究者というのは多数派に安住していては商売にならない。どのように人と違う事をしているのかが言えなければ、 自分の研究の意義を説明できないし、論文も書けない。一方、その研究が向かう先にどのような未来があるのか、 誰よりも早く予測できる立場にある。職業上、魚群の先頭を泳がなければならない宿命にあると言えるかもしれない。

そのせいか、職場にはコミュニケーションの下手な人が多い(もう、 多いという水準ではない気もするが・・・)。世間で言う「KY」な人々があふれている。多分、 流行語大賞なぞ知らない”KYってなに?”という研究者が多いことだろう。それは会議に出てみるとよくわかる。多くの場合、 結論という一方向に向かう魚群の体をなしていないのだ。

しかし、魚群の先頭を泳がなければならない宿命にある研究者は、「KY」であることに胸を張って良い。それは、 先頭を泳ぐ者の特権でもあるのだから。

 

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放言その2:「農業環境生物資源・種苗研究所」

昨年末、独法の整理合理化については時機を逸して書き損なった。年末の官房長官と農水大臣との折衝で、農業生物資源研究所(生物研) +農業環境技術研究所(農環研)+種苗管理センターの統合が決まった。

農水大臣曰く、「先端的な研究と現場の連携を深めることで、相乗効果が期待できる」・・・だそうだ。

閣議決定後に農水省から説明に来ていたが「政治的に急遽決まったことなので、今後どのような組織になるか今の時点では説明できない」 という旨の説明をして帰って行った。ふざけてそう言うのであれば、怒りようもある。しかし、大まじめにそう言われてしまった日には、 もう返す言葉もない。

大臣の発言から察すに、「生物資源研究所」も「農業環境技術研究所」も先端研究という意味では一緒、というご認識と見受けられる。 これは、かなりショッキングだった。「すばる望遠鏡」も「H-IIAロケット」も宇宙に関係していると言う意味では一緒、 という発言を聞いたくらいに・・・。先端研究といっても、生物研の研究は「ゲノムから種の多様性+遺伝子組換え技術」という、 どちらかというとミクロな領域の仕事だし、農環研の研究はまさに「環境」という、宇宙という括り以下では、 ほぼ最大級のマクロな領域の仕事だ。これをホチキスするのか混ぜるのかは知らないが、 どのようにシナジー効果を出してマネージメントしていくのか?そこを考えるのが理事長や理事の仕事だが、こういう時は、 そういう問題を考えずに済む下っ端で良かったと心底思う。

さいわい、大臣におかれては「種苗管理センター」の業務が「現場」に密に関連したものであることは認識されていたご様子。しかし、 イネ・ゲノム研究の成果が品種識別に活かせるかというと、品種識別の対象になっている植物は種のレベル以上の多様性があるので、 そう簡単にはいかない。だいたい、品種という言葉で表される幅広い概念には、生物学的な実態が伴っていない。困ったことに、 その実態がほとんど理解されていない。

イネ・ゲノム研究の成果を品種識別に生かそうという考え方は、 ヒトもナメクジウオも同じ動物だからナメクジウオの地域分化の研究にヒトゲノム研究の成果を使いましょう、 というくらにナンセンスだ。

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