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2007年11月 5日 (月)

「GMレタスは糖尿病患者を救うか? -インスリンのマウス経口投与実験」と言う記事

11/5の日経バイオテクノロジーのネタから。

ライターは宗谷 敏さん。題材は、University of Central FloridaのDr. Henry Danielの研究。

彼らの仕事は、医療用(あるいは健康機能性)を指向した遺伝子組換え作物の開発と言う意味で、 私たちのチームと分野を同じくしているので関心はある。

さて、11/2にアメリカで夕方のニュースでテレビ放送されたことで、 この仕事が注目されることになったらしい。が、もともと大学のプレスリーリースは6/30なので、 忘れた頃に掘り出してニュースにしてみたら世間の反響が大きくてビックリ、というところだろうか。Plant Biotechnology Jounalの論文の発表はこちら。 これも5/9にオンラインで公表されている。

ニュースのあらましは次の通り。

インスリン依存性1型糖尿病のマウスの経口投与治療実験にGMレタスで成功。 糖尿病マウスにヒトインスリンを蓄積する組換えレタスを与えたところ自己免疫障害が治癒し、 マウスは正常にインスリンを分泌するようになった。

教授はこのGMレタスには糖尿病予防効果はなく、より安価な治療に役立つのみだと言っている。研究結果はPlant Biotechnology誌に掲載されただけで、医学系ジャーナルには発表されていない。

医療関係者のうち糖尿病の専門医はこの事態を次のように見ている。 米国ピッツバーグ小児病院で糖尿病研究を30年間続けてきたMassimo Trucco博士が記事中で、 Daniel教授の研究のいく分か、糖尿病患者に対する治療効果は信じられるものだと回答している。

しかし、Trucco博士や多くの医学者はDaniel教授が採用したカプセルによる経口投与法を疑問視している。 どのような形のインスリンであっても、消化されてしまうため胃から血液へは移動できないのではないかという問題である。

Daniel教授は、今年8月、フリーズドライしたGMタバコをマウスに経口投与する実験に成功しており、 植物細胞壁がインスリンを守り、胃を通過して無事に腸管にまで届くと説明している。インスリンは腸から吸収されるというのだ。 医薬品としては、当然ながらこの確率・信頼性が先ず問われるところだろう。

さて、幾分ちぐはぐな所のある記事だ。私は、アメリカのテレビ放送の構成によって引き起こされた問題だと思っている。 おかしな点は以下の通り。

  1. 「このGMレタスには糖尿病予防効果はなく、より安価な治療に役立つのみだと言っている。」
  2. 「Daniel教授が採用したカプセルによる経口投与法を疑問視している。どのような形のインスリンであっても、 消化されてしまうため胃から血液へは移動できないのではないかという問題」
  3. 「インスリンは腸から吸収されるというのだ。」

ニュース冒頭で、”1型糖尿病であって、自己免疫障害だ”としていているのだから、このニュースの編集者は、 この1型糖尿病は自己免疫疾患の一種であることと、治療のメカニズムが免疫寛容によるものである事を理解しているのではないかと推定される。

一方で、おかしな点その1.、教授は「このGMレタスには糖尿病予防効果はなく、より安価な治療に役立つのみだと言っている」。 しかし、このレタスに自己免疫疾患の治療薬としての作用があるのであれば、インスリンに対する特異的T細胞を抑制するので、 おそらく予防効果もあるはずだが?

次、おかしな点その2.。そもそも、どんなペプチドも胃から血液には移動しないはずだ。オリジナルの論文を読めば明らかなように、 免疫寛容を意図したインスリンの投与では、注射薬のように完全な状態のインスリンが血液に入る必要はない。 腸管で樹状細胞に取り込まれれば良いのだし、仮に分解しない状態で樹状細胞に取り込まれても、免疫寛容を引き起こす為には、 細胞内で分解されなくてはならないので、活性にあるインスリンとしては機能しない。

しかも、オリジナルの論文を読めば明らかなように、レタスの細胞内に蓄積されるのは、インスリンそのものではなく、 その前駆物質であるプロインスリンだ。これは分泌細胞内で分解を受けて活性型になる以前の物質で、注射してもインスリンとしては作用しない。 コメントした糖尿病の専門医は十分な情報を与えられずにコメントをとられたのだろう。気の毒に。

そして、その3.たしかに腸から吸収されるのだが、その2.でも書いたように、その物質はインスリンではない。この書きぶりは、 注射薬のインスリン同様、インスリンを腸から吸収させることを期待しているようだ。しかし、ちょっと考えればわかると思うが、 インスリンは投与量を間違えると、ショック症状を起こし、悪くすると死に至る。ドーズの調節が非常に重要だ。 植物体内で作らせたタンパク質は細胞壁で保護されるとはいえ、なりゆきで消化液に適当に分解されながら腸管から吸収される。従って、 腸管からの吸収量の厳密なコントロールは不可能だ。このデリバリーシステムは、 量のコントロールのシビアな注射薬と同じメカニズムで作用させるインスリンの投与には向いていない。

おかしな報道をされたが、研究の内容の方は若干、"んー、どうかな"と言う点はあるものの(マウスに免疫寛容を起こさせるのに、 使ったのはヒトのプロインスリンだよね。大丈夫かい?)、概ねまっとうだ。

ただ、私たちのグループでは、元々タンパク質を貯蔵する組織である種子に外来のタンパク質を貯蔵させているが、彼らは、 レタスという葉物を材料にしている。葉物で細胞あたりのタンパク質の蓄積量を高くするには、液胞で分解されないように、 それなりのトリックが必要だ。そのための葉緑体形質転換なのだが、パーティクルガンを使った遺伝子導入は、 ベクターのバックボーンも入ってしまうだろうから、できるだけ余計なものは含まないという医薬品の考え方にはそぐわない。また、葉物の場合、 個体内での個葉の成熟の度合いが様々なので、タンパク質の蓄積量のコントロールも難しいだろう。いずれ、 彼らも医薬品としての品質管理の問題に直面する事になるだろうが、レタスを選んだことで、潜在的なリスクを抱えてしまっている。 本当に大変なのはこれからですよ・・・CTB(コレラ毒素Bサブユニット)も使っちゃってるし。いずれ、 彼らはUSDAやFDAと戦うことになるかもしれない。

 

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