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2007年9月10日 (月)

医療用遺伝子組換え作物の開発モデル

インターネット上の毎日新聞のサイトの9月7日の記事 (小島正美さん)「岐路に立つ組み換え作物:/下 有望品種に活路求め 反対根強く、開発進まぬ日本」にスギ花粉症緩和米が 「期待の星も」と言う小見出しで取り上げられていた。(以下抜粋)

 研究者たちの間で最も期待が大きかったのは、独立行政法人・農業生物資源研究所(茨城県つくば市)が00年から開発して、 やっと実現したスギ花粉症緩和米。スギ花粉と同じたんぱく質を作り出す遺伝子を稲に組み込んでいる。 「米を食べるだけで、 花粉症が改善する」と同研究所は開発を進めてきたが、今年、厚生労働省から「この稲は医薬品扱い」 との見解が出て、期待はしぼんだ。

 研究者たちは「一般の食品とは区別し、パック詰めでなんとか売り出したい」と話すが、医薬品扱いとなれば、 製薬会社の協力も必要となり、実用化までにはあと5~10年はかかると見られる。

「期待の星も、がっかりだよ!」という扱いなのか。だが、私は、医薬品扱いになったからと言って、 開発スタッフの一人としてはがっかりしてはいない。医薬品は実用化にあたり、ハードルが非常に高い。人の健康に影響するものなので、 多くの規制があって厳正に管理されているのは当然のことだ。一方、 規制のルールが明確になれば開発の道順が見えやすいので開発する側から見ると一種のメリットでさえある。すくなくとも、 食品とも医薬品とも決められないものの開発を続けるのと比べれば・・・であるが。

まず、些細な間違いを一つ指摘させていただくと、スギ花粉症緩和米に含まれているペプチドは、 「スギ花粉と同じたんぱく質」ではない。安全性を高めるために、 スギ花粉に含まれるアレルギーを起こすタンパク質のうち、 アレルギー反応を引き起こす引き金に当たる部分を取り除いたペプチドを作り出すように改変してある。

ちなみに、小島氏は遺伝子組換えでない通常の作物品種の開発にどのくらいの時間がかかっているかご存じないと思われるので、 以下に示しておこう。以下に示す図は、私かこれまで携わってきた作物育種の経験に従ったもので、 私が現在所属している組織や以前の所属がオーソライズしたものでない事をあらかじめお断りしておく。また、 育成の時間経過も多数の品種開発の統計に基づくものではないので、「だいたいこんな感じ」というごく大掴みなものだ。

交雑育種

これは、独立行政法人で行われているイネやムギの固定品種の育種の事例を取り上げたものだ。固定・ 選抜の年限が2-12年と幅があるのは、交配組合せや固定化技術によっては遺伝的に固定するのに時間がかかるものもあれば、 近縁の系統間の交配で固定にあまり時間がかからないものもあるため。 野菜やトウモロコシのようなF1品種の場合はまた違った戦略で育成事業が行われる。

交配と選抜で作られた品種候補が、実際にどのくらいの収量水準を発揮するかは、最終的には生産力検定試験を行うまで分からない。 気象条件が変われば生産性にも年次変動が生まれるためだ。だから生産力検定試験は、小面積で、 反復無しか2反復で多くのスクリーニングを並行して進める予備試験が1-2年程度、大面積で2-3反復程度の本試験が3年程度は行われ、 品質や収量が水準に達しない品種候補はそこで篩い落とされる。

イネやムギのような固定品種の場合は、遺伝的にあまり固定していない系統の生産力検定試験を行っても意味がないので、その前段として、 世代を進めながら姿形を均一にしていく、固定と言う作業に2-12年かかる。 遺伝的に遠い交配組合せの方が一般的には固定までの時間は長くなる。しかし、コシヒカリの親兄弟同士の交配のように、 遺伝的に近い組合せの交配では、その材料が持っていない耐病性やストレス耐性を導入することは、当然できない。 育種事業としては楽に世代を進められるが、逆に高い目標を掲げることはできない。 もちろん温室栽培などで世代を進める方法を採れば早く育成できる見込みはあるが、 温室の面積も無限ではないのでルーチンの事業としてはそこまでコストをかけることはできない。従って、 従来の品種には無い特徴を備えた新品種を育成するには10年くらいはかかる。

一方、参考までに遺伝子組換え作物の場合はどうかというと、こちらは要求される目標によって、所要時間は相当に違う。

たとえば、除草剤耐性や、耐虫性のダイズやトウモロコシの場合、 遺伝子組換えそのものはルーチンワークとして3年くらいでできたとしても、生産力検定試験にはやはり3年程度はかかる。 そして種苗法の手続きで品種登録も申請することになる。その間に、 カルタヘナ法や食品衛生法の規制に対応するための各種の安全性に関わるデータを取りそろえることになる。 組換え作物開発大手のモンサントでも10年くらいはかかっている。

これまで遺伝子組換えの方が早いと言ってきたのに、そんなに時間がかかるのはなぜか?

結局のところ、現在は、遺伝子組換え技術では作物の品種としての基本的な性能(収量性)を決めることはできないため、 従来の交雑育種で行う品種育成の一部として除草剤耐性や耐虫性を付与しているのが一因だ。また、仮に遺伝子組換えで収量性を向上するために、 草型を改変したり、穂や穀粒の数を増やす操作をしたとしても、栽培環境による表現型への影響を評価するための、 実証試験としての生産力検定試験をスキップして”製品”としての品種をリリースすることはできない。それは、自動車の開発で言えば、 実際の路上走行を行わずに試作車をいきなり販売するようなものだ。原理的にいかに優れて他製品であっても、 優位性を実証していない製品は失格だ。

遺伝子組換えの方が望みの形質を早く実現できるというのは、望みの形質を支配する遺伝子を直接導入できるのだから一面の真実はある。 しかし、物作りにはかならず検証の段階が必要だ。検証作業は実証的でなくてはならないので、それなりの時間がかかる。従って、 遺伝子組換えの方が早いこともあるし、そうでないこともある。

ここで、私たちが開発に携わっている医療用遺伝子組換え作物の開発モデルを示してみる。これもまた、 私がこの2年ほどの間携わってきた医療用遺伝子組換え米の開発のタイムコースを大雑把に再現したもので、 実際は未だ開発終了まで漕ぎ着けたものがないため、全体像としては私の想像の域を出ないものだとお断りしておく。

組換えの場合

大雑把に言えば、医薬品および作物としてのコンセプトと仕様を固める研究フェイズ、 設定した目標に沿った性能を持った遺伝子組換え植物を作成し、カルタヘナ法の規制をクリアする開発フェイズ、 作成された遺伝子組換え作物を医薬品原体として医薬品を開発する創薬フェイズの三つの段階に分かれる。我々のチームは小編成なので、 それぞれの段階ごとに作成した組換え植物を次のチームに引き渡して評価するという仕組みにはなっていない。同一のチームが、 少しずつメンバーが入れ代わるものの、開発フェイズまでは一貫して開発に携わるため、研究フェイズと開発フェイズの境界はやや曖昧だ。 できれば研究チームと開発チームは分業するのが望ましいのだが、残念ながらそれほどの人材が確保できていない。また、治験段階に入ると、 評価の主体は医療機関になるため、作物開発チームは医薬品材料の安定供給の面倒まで見る事になる。

この開発モデルの場合、後段の創薬フェイズの時間経過は一般の医薬品開発の場合と、そう大きくは変わらないと考えられる。従って、 創薬フェイズの経過については厚労省などのデータで確認しておいた方が良いだろう。

では、医薬品開発にはどのくらいの時間がかかるか?厚生労働省の「第1回有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」 平成18年10月30日開催の会議資料から見てみよう。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/s1030-8.html

このページの「資料3 医薬品の承認審査等の現状について」

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1030-8c.pdf

PDFファイルのp. 3を見ると、基礎研究(2-3年)、非臨床試験(3-5年)、治験(3-7年)、承認申請と審査(1-2年)、 となっており、最短で9年(2+3+3+1)、最長で17年 (3+5+7+2)かかるようだ。 この資料によれば製品化まで漕ぎ着ける歩留まりは化合物あたりで見ると、1/11,299 = 0.0088%、0.01%に満たない。 しかも、関連する規制は、GLP、治験薬GMP、GCP、GMP、GPSP、GVP、承認に関わる条件etc.・・・がある。

創薬は非常に難しいミッションである。しかし、医療用遺伝子組換え米の場合は、 種子に医薬品成分になるペプチドやタンパク質を蓄積させるが、その成分については、全く新規の物質を使うことはまず無い。基本的には、 遺伝子組換え作物ではない原材料で作ったペプチドやタンパク質を使って、 医療関係者がある程度有効性を確認したものを米に蓄積させる戦略をとる。

新規化合物が医薬品になる上記の確率は、 その最初の部分で有効性や安全性に問題があるなどで相当数が篩い落とされた状態を計算した結果だ。医療用遺伝子組換え米の場合は、 篩の上に残った物質から開発を始めるのでそれよりは歩留まりも良いし、 創薬フェイズでの開発に関わる年限も全くの新規化合物を医薬品にする場合よりは短くて済むと考えられる。 基礎研究の部分は専門家に任せることになるのだから。

それでも、息の長い研究になることは間違いない。最後まで走り通す事ができるか、力及ばず倒れるか、 真剣勝負の日々はまだ始まったばかりだ。足がけ8年がかりで、一般ほ場栽培まで来たが、まだ、たかだか8年目。 医薬品開発ということで仕切り直しにはなったものの、それで落胆したスタッフは唯の一人もいない。急がずたゆまず、着実にすすめるのみ。 焦ったところで早く規制をクリアできる訳ではないのだから。

# むしろ独法組織の方が寿命が短いかもしれないのが非常に気がかりだ。

なお、私はアクセスログも見ているので、affrc.go.jpあるいは、maff.go.jpというサイトからも、 このブログが見られている事は重々承知の上で書いています。職業上の秘密に当たることは、何一つ書いていません。 全て公開されている情報を丹念に見るとわかることばかり、と明言しておきます。

 

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コメント

>むしろ独法組織の方が寿命が短いかもしれないのが非常に気がかりだ。

「#」が行頭にある部分に反応するのもアレだが、本当に笑えない話しだよなぁ。

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