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2006年5月7日 - 2006年5月13日の記事

2006年5月12日 (金)

読了。藤原正彦 著「国家の品格」

 本日は大阪出張。往復、8時間ほど電車に乗ることになるので結構時間はある。ではあるが、如何なLet's nore CF-Y4でも移動中にフルに使い続けると、肝心の仕事の間にバッテリーが切れないとも限らないので要注意だ。

 さて、読後感想だが、フィクションとしては、いろいろな意味で面白い。著者の主張には概ね賛成できる。普通の本だと、 私は著者の主張を成す論理構成について考えるところだが、この本の場合は著者は最初から、日本人が行なう判断の基準として重要なのは「情緒」 と「形」であって、論理はさほど重要ではないと主張しているので、論理構成について論評すること自体が、見当はずれになるかもしれない。 しかし、あえて言うならば、「論理的に正しいだけの判断は、人間の行なう判断として必ずしも妥当ではないこともある」 という点には賛成できるが、だからといって著者が「論理に基準を置く判断は、常に妥当ではない」という議論を展開するのであれば、 その議論の展開に私は反対する。

 「論理的に整合性が取れている」だけでは大局的に誤った判断を下すことがある、という考察は正しいと思う。ではあるが、 その点を強調しようとするあまり、「論理」という思考の道具の有効性をこき下ろすやり口はやはり間違っている。判断を下すための道具として、 「論理」が如何に劣悪な道具かを「筋道立てて」説明してみせるという一種のギャグとしては良くできてはいるが。

 要約するとこの本は、日本人が品格のある国家を築くための行動規範は「キリスト教的道徳」(特にピューリタン的道徳)ではなく 「武士道」であり、規範に沿って行動するための判断の道具は「論理」ではなく、「情緒」と「形」であるという主張を展開している。「情緒」 とは四季の変化のある繊細な自然にはぐくまれた”もののあはれを解する感性”を、「形」とは歴史と伝統によって時間を掛けて磨かれてきた” 洗練された行動様式”を意味する。

 だが、これらの、人としての行動規範、行動様式が直接作り上げるものは、たとえば「品格ある日本人」であって、「品格ある国家」 ではないだろう。本書の表題たる「国家の品格」は、単に個々人の行動規範の集積と「祖国愛」とによって自然と醸成されるものであろうか? また、内田樹氏の論評にもあるように「品格」があるかどうかは、本人が判断ではなく他者の目が決めることだ。たとえば、「背筋を伸ばす」 ことはできても、「良い姿勢」をとることができるとは限らない、というのと似ているかもしれない。背筋が伸びた姿勢を「良い」 と判断するかどうかは、見る側の主観にかかっている。特に、 多様性を認める度量の無いグローバリズムという一神教的価値判断しかもたない輩を相手にせざるを得ない場合、 幾ら背筋を伸ばして見せたとて何のメッセージも伝わらないかもしれない。

 この本の提案する「斯くありたい日本人像」には私は概ね賛成する。だが、次の点には賛同できない。「形」 に基準を置く判断は世代を超えた経験を通じて磨かれてきただけあって、多くの場合間違いが少ないことは認める。しかし、その反面、 変えないことを良しとする硬直性は、時代の変化に対応しにくいという弱点を持つ。 鎖国政策の下でゼロ成長が260年続いた江戸時代であれば日常の判断の基準としての「形」は非常に有効な道具であったに違いないが、 国際情勢も国内の制度も頻繁に変化し続ける現代において、「形」の方が「論理」よりも有効な道具であるとは私には思えない。少なくとも、 一般国民は別としても、政治指導者には、「形」に従ってこの国の行く末を決めることはして欲しくないものだ。

 再び表題に戻るが、「くに」、「国」、「国家」という言葉は何を指すか、この本を読んで再度考えさせられた。 領土+国民+政府=国家であるならば、国=風土+文化+民族であろう。国家という言葉には、 社会制度をも含む意味が込められているように思うが、この本では国家を動かす制度についての考察はあまり無いように思う。その点で、 この表題はあまり適切ではないだろう。

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