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2005年6月24日 (金)

ナチュラルオカレンスとセルフクローニングを巡る議論

カルタヘナ法施行以前からナチュラル・オカレンス(natural occurrence)とセルフ・クローニング(self cloning)は遺伝子組換え技術の例外として扱われてきた。

たとえば、組換えDNA実験指針(平成14年1月31日文部科学省告示第5号)では、

2 「組換えDNA 実験」とは、次のいずれかに該当する実験をいう (自然界に存在する生細胞と同等の遺伝子構成を有する生細胞を作製する実験及びこれを用いる実験を除く。)。

とされており”細胞”については、ナチュラル・オカレンスを除外している (ただし、ウイルスは当時生物として考慮されていなかったのでこの限りではない)。

生物多様性条約(CBD) カルタヘナ議定書においてはナチュラルオカレンスとセルフクローニングの産物を遺伝子組換え生物から除外する明示的な規定はない。しかし、 「科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会 試験研究における組換え生物の取扱いに関する小委員会(第3回)(平成14年3月13日)」 では以下の文言を巡る解釈について 議論が行われている。(結論は事務局見解に対抗するものではなく、従来からの考え方に従うとされている。)

(i) "Modern biotechnology" means the application of:

a. In vitro nucleic acid techniques, including recombinant deoxyribonucleic acid (DNA) and direct injection of nucleic acid into cells or organelles, or

b. Fusion of cells beyond the taxonomic family,

that overcome natural physiological reproductive or recombination barriers and that are not techniques used in traditional breeding and selection;

これは"that overcome natural physiological reproductive or recombination barriers "がb.のみにかかるのか、a.b.ともにかかるのか、という解釈の問題である。 この文ではthatの前で改行されているので、a.b.ともにthat以下によって説明されているので、a.もまた 「自然の生殖や組換えの障壁を克服する、in vitroの技術」によって修飾され、議定書の対象であることがわかる。

つまり、自然に起こること(natural occurence)はカルタヘナ議定書では扱わないことになる。 事務局によれば、これが従来からの考え方に一致する見解であるようだ。

一方、カルタヘナ法本体ではナチュラル・オカレンスとセルフ・クローニングの除外を規定しておらず、 法施行規則において次のように定義して除外している。

第二条 法 第二条第二項第一号の主務省令で定める技術は、細胞、ウイルス又はウイロイドに核酸を移入して当該核酸を移転させ、 又は複製させることを目的として細胞外において核酸を加工する技術であって、次に掲げるもの以外のものとする。
 一 細胞に移入する核酸として、次に掲げるもののみを用いて加工する技術
イ 当該細胞が由来する生物と同一の分類学上の種に属する生物の核酸
ロ 自然条件において当該細胞が由来する生物の属する分類学上の種との間で核酸を交換する種に属する生物の核酸
 二 ウイルス又はウイロイドに移入する核酸として、 自然条件において当該ウイルス又はウイロイドとの間で核酸を交換するウイルス又はウイロイドの核酸のみを用いて加工する技術

このうち、ナチュラルオカレンスにあたるものは、第二条第一号ロと同ニ、 セルフクローニングにあたるものは第二条第一号イと同二が該当すると考えられる。ただし、この解釈は従来の実験指針が適用の対象を” 細胞”に限定していたのと比較すると、新たにウイルスにも明示的にナチュラル・オカレンスとセルフ・ クローニングの概念を適用している点で概念の拡張があるといえる。

ただし、バクテリアとウイルスでは変異の生起機構も頻度も、 後述する遺伝子の水平伝播の機構も異なるのでこれを一緒にするのは大きな危険を伴う。

なお、文部科学省においては、研究二種省令制定の際のQ&Aで次のように述べている。

 ナチュラルオカレンスについては、施行規則第2条の規定により除外さ
れています。ナチュラルオカレンスの具体例については、指針運用の経
験を踏まえつつ、必要に応じ、ホームページ等により明らかにする考えです。

とはいえ、文部科学省は今日にいたるまで考えを明らかにしていない。また、施行規則は6省共管なので、 その部分の解釈について文部科学省単独で解釈を述べることもできない。できたとして、研究開発分野における遺伝子組換え生物の考え方として、 「何が除外されるか」という施行規則に沿った議論ではなく「何が遺伝子組換え生物に含まれるか」 という視点で整理することならば可能かもしれない。

生物種間の核酸の交換には、交配のように生物の通常のライフサイクルの期間に行われるものから、 微生物のゲノムシーケンスで痕跡として発見される程度の数百万年に一度程度のイベントまで、様々なものがある。これを一くくりにして、 「自然条件において当該細胞が由来する生物の属する分類学上の種との間で核酸を交換する」のでナチュラルオカレンスであるというのは、 いささか乱暴な議論である様に思う。

そもそも、カルタヘナ議定書の目的は、

現代のバイオテクノロジーにより改変された生物であって生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響 (人の健康に対する危険も考慮したもの)を及ぼす可能性のあるものの安全な移送、 取扱い及び利用の分野において十分な水準の保護を確保することに寄与することを目的とする。

であり、カルタヘナ法はその担保法であることから、「現代のバイオテクノロジーにより改変された生物」であって 「悪影響(人の健康に対する危険も考慮したもの)を及ぼす可能性のあるもの」については、 原則的に規制の対象であると考えるのが妥当であろう。規制とは言え、カルタヘナ法には罰則はあるものの、 これに基づく二種省令はリスクマネージメントの手順を定めた法令であって完全に実施を「禁止」 されている行為は著しく不適切な使用を除いてほとんどない。

従って、病原体等に由来する遺伝子組換え生物の使用を対象とする研究二種省令においては、 あらゆる遺伝子組換え生物の使用が原則として規制の対象であり、カルタヘナ議定書で言う「自然界における交配や組換えの障壁」 が全くない場合を一部例外として考えるのが妥当ではないだろうか。リスクがあるところには適切なリスクマネージメントが必要である。

バクテリアにおける遺伝子の水平伝播(Horizontal gene transfer) の問題については、近年多種類のバクテリアのゲノム解析が進むにつれて、非常に多くの種間での水平移動が確認されており、 この方面の知見の集積は今後ますます増えていくと考えられる。もしかするとバクテリアの分類体系を見直さざるを得ないかもしれない。 その一方で、これは私自身まだ十分に確認していないのだが、 バクテリアの共存培養によって遺伝子を水平移動させたという研究は寡聞にして知らない。 ナチュラルオカレンスとして規制対象から除外可能な宿主・核酸供与体の組合せがあるならば、 それは実験室レベルで人為的に水平移動させることのできる組合せと考えるべきではないだろうか?

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